#26 修学旅行の夜のすばらしい思い出【連続小説 ロベルト先生!】

連載
ある六年生学級の1年を描く連続小説「ロベルト先生 すべてはつながっています!」

文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官

浅見哲也

今回は修学旅行の夜の出来事です。子どもたちと心が通じ合う楽しいひと時を過ごしたロベルト先生。保護者への気遣いも忘れません。

第26話 告白タイム

私は、すべてのクラスの部屋を見回り、他の先生たちが集まる部屋に戻った。

それから数10分後、いくつかの部屋で子どもたちの声が聞こえ出した。

「見て来ます」

私は部屋を出ると、子どもたちの部屋に向かった。

「先生が来たぞ!」

三組の男の子の部屋から微かな声が聞こえ、慌てて部屋の電気を消し、寝たふりをしたのが見え見えだった。私は、気づいていないふりをしてドアを開け、その部屋に入った。

襖をバッと開けたが、部屋は真っ暗で静まり返っている。私は、襖を閉めると、部屋のドアを静かに開け、外に出ないで静かにドアを閉めた。

すると、襖の向こう側で…

「行ったぞ」

「ばれなかったぞ」

という声が聞こえ、布団から起き出した。

その時である。私は、襖をパッと開け、部屋の電気を付けた。

「残念でした!」

と、大きな声で叫ぶと、その声に子どもたちはビックリして仰け反った。

「うわっ! びっくりした~。心臓が止まるかと思った。先生ずるいよ」

「いつまでも起きていた罰だ」

「そんなこと言ったって、寝られないんだもん」

「目をつむっていれば、そのうち寝られるよ。わかった、羊が1匹、羊が2匹…って数えているうちに寝られるよ」

「そんなの無理だよ」

「そうか、じゃあ…、全員起きろ。布団の上に座れ」

みんな、何か面白いことが始まるのではないかと期待して、素直に言うことを聞いた。こういう時の子どもは実に素直である。

「そんなに眠くないか。よし、じゃあこれからは…告白タイム! 一人一人好きな子を言ってもらう。こういう時には恋話でひそひそと盛り上がるのが一番だよ」

(ここからは、本当に小さな声で)

「じゃあ、ジャンケンで負けた人から言うぞ」

子どもたちの「そんなのやだよ」という言葉を聞き入れず、どんどん進めていく。

「ださなきゃ負けだよ。最初はグー、ジャンケン、ポン、あいこでしょ!」

「うわ~負けた」

負けたのは健太だ。

「おれ、好きな子なんていないよ」

必ず出てくる言い訳。

「いないわけがないだろ。女の子を見て何も感じないなんて、男として病気かもしれないぞ。言っちゃえ、言っちゃえ。楽になるぞ~」

ここまで来ると、私は教師という職業を完全に忘れている。まさに、ロベルト先生の登場である。

「え~、絶対に誰にも言わない?」

「約束する。男と男の約束だ。みんなも絶対に内緒にすることを誓うよな」

子どもたちは、自分も告白するはめになることを感づいて、返事が鈍い。

「よし、言ってみよう!」

「島田奈々さん」

回りの子どもたちは、「本当に言っちゃったよ」という驚きとともに、顔が真っ赤にほてっているのを感じていた。

「そうか、健太、がんばれよ」

さあ、次は亮太。

「誰だよ。亮太は…」

すでに告白した健太は、妙に強気になった。

「おれは…、菅原真希さんだよ」

二人が告白すると、他の子も言わざるを得ない状況になり、結局、全員が暴露する羽目になった。夜だと言うのに子どもたちは興奮状態にあり、いつの間にか声も高まっていた。

その時である。部屋のドアを叩く音が聞こえ、

「まだ、起きてるのか!」

という声がした。学年主任の腰塚先生である。

私は慌てて押し入れの中に隠れた。襖は開けられ、腰塚先生が入ってきた。

押入れの中に隠れるロベルト先生

「やばい…」 押し入れの中の私は、体中から脂汗が出るのを感じた。

「いつまで起きているんだ! もうすぐ11時だぞ。明日、具合が悪くならないように、早く寝なさい!」

「はい」

子どもたちは返事をして、それぞれの布団の中に戻って行った。それを見届けた腰塚先生は、部屋を出て行った。

私はそっと押し入れの扉を開け、布団の中にいる子どもたちに「ごめん、ごめん」と謝った。

すると、

「俺たち偉いでしょ。先生がここにいること言わなかったからね」

「いやあ、助かったよ。本当にありがとう」

「今日の夜のことは内緒だからね」

「了解、了解。じゃあ、今度こそ、お休みなさい」

そう言って、私は廊下を見渡しながら、こっそりと子どもたちの部屋を出た。改めて子どもたちと心が通じ合えた修学旅行の夜のすばらしい思い出となった。

しかし、後日振り返って、消灯時刻を大目に見たまではよかったかもしれないが、学年主任の登場まで行き、しかも身を隠すとは脱線であると思った。

こういうことが重なれば、子どもたちの親しみは増しても、教師の威厳は薄れ、素直に指導を受け入れなくなるだろうと、心の隅がチクリと痛んだ。

2日目の彫刻の森美術館では、野外に置かれた彫刻の題名の当てっこをして楽しんだ。そして、暇を見ては、子どもたちの様子をビデオカメラに納めた。これは、今度行われる授業参観後の懇談会で、保護者の方々にも披露したいと思ったからだ。

帰りのバスの中では、疲れたらしく、半分以上の子がうとうとと眠っていた。

バスがまもなく学校に到着しようとしていた。

「そろそろ、学校に到着しますよ。みんな起きなさい」

何とか子どもたちを起こして、修学旅行を締めくくる。

「修学旅行は楽しかったですか。皆さんがきまりを守りながら行動できたので、大きな事故やけがもなく、たくさんの思い出を作ることができました。

また、これは、行き帰り安全運転で私たちを連れて行ってくださったバスの運転手さんやガイドさんのおかげでもあります。皆さんでお礼の言葉を言いましょう」

「ありがとうございます!」

「まもなく学校に到着しますが、きっとお迎えに来てくれているお家の方々がいると思います。眠そうな顔ではなく、元気な顔を見せてくださいね。ここで、今日の宿題です」

「えーっ、今日は疲れているから宿題なしにしてよ!」

「だめだめ、今日が誕生日の人は、残念ながらいません」

「先生、今日はぼくの妹の誕生日です!」

「それはおめでとう。ちゃんとお土産買ってきたかな? でも、宿題でそんな約束はしていませんよ。今日の宿題は、どんなに疲れていても、さっさと寝てしまわないで、お家の人にお土産話を15分以上することです。わかりましたか?」

「は~い」

2日間にわたる修学旅行は幕を閉じた。

次回へ続く


執筆/浅見哲也(文科省教科調査官)、画/小野理奈


浅見哲也先生

浅見哲也●あさみ・てつや 文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官。1967年埼玉県生まれ。1990年より教諭、指導主事、教頭、校長、園長を務め、2017年より現職。どの立場でも道徳の授業をやり続け、今なお子供との対話を楽しむ道徳授業を追求中。

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