保護者の意識と学校の理念を一致させる【あたらしい学校を創造する #16】

先進的なICT実践と自由進度学習で注目を集めた元・小金井市立前原小学校教諭の蓑手章吾(みのて・しょうご)先生による連載です。公立学校の教員を辞して、理想の小学校を自らの手でつくるべく取り組んでいる蓑手先生に、現在進行形での学校づくりの事例を伝えていただきます。 今回は、学校にとっての最大のステークホルダーである保護者との関係性についてのお話しです。

目次
どうしたら自由進度学習が実践できるか
前回、自由進度学習についての話の中で、次のようにお伝えしました。僕の公立小での教員生活の経験から、子供たちは正解を求めて、「間違えるのは悪いこと」だと受け止める傾向があること。そしてそれは、座学中心の一斉授業がもたらす影響ではないかということです。そうすると、「では、一般の学校でも自由進度学習をやればいいではないか」と感じられる方もいらっしゃるのではないかと思います。
僕がこのようなことをいろいろなところで話すと、公立校、私立校問わず、多くの教員の方が共感してくれます。子供の成長を願わない教師はいませんからね。では、公立学校で自由進度学習へと歩みを進めるには、何が必要になるのでしょうか。今回はその話をしたいと思います。
僕が公立小にいた頃に自由進度学習を採用すると決めたことは、「教員は横並びで同じ単元を同じように進めなければならないという慣習を捨てる」という決断でもありました。今までやってきたことを捨てるわけですから、やらなければよかったと後悔するかもしれないし、自分だけ勝手なことをするなと批判を受けるかもしれない。僕の場合には、勤務校の管理職や同僚からの批判はなかったですけれども、他の学校の教員から批判を受けました。総論賛成、各論反対というか、理念ベースでは自由進度学習に賛成していても、実際にやろうとなると、技術というよりもむしろ、環境や文化面から、簡単な事ではありません。
それでは、なぜ、そういったリスクがありながら、僕が公立小学校で自由進度学習を行うことができたかというと、それは保護者が支持してくれたからです。他の先生方がなぜ自由進度学習をやらないかというと、保護者に責められることが頭をよぎるからです。
わかりやすい例がオンライン授業です。自分はやろうと思っていないオンライン授業を隣のクラスがしていると、「なぜうちのクラスではやらないのですか」と保護者に責められるから、自分のクラスでもやらざるをえない。校長にしても、運動会を縮小したりすると、「なぜ例年通りにやらない」と保護者に突き上げられるから、運動会を変えられないのです。学校も教育委員会も、いちばん意識しているのは、保護者のニーズなんです。
反対に、保護者が自由進度学習をやってくれと要求すれば、やれるかもしれません。PTAの総意でそう言われたら、やらない理由はなくなります。PTAの総意を突き返せる学校はほとんどないでしょうからね。
