#12 ちょっとした手応え【連続小説 ロベルト先生!】

連載
ある六年生学級の1年を描く連続小説「ロベルト先生 すべてはつながっています!」

前文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官/十文字学園女子大学教育人文学部児童教育学科 教授

浅見哲也

今回は、前回より続く不登校気味の転校生のお話です。朝起きられず登校してこない大山くんの家に足繁く通うようになったロベルト先生ですが…。

第12話 転校生2

大山君の家の玄関ドア

すると、「はい、ちょっとお待ちください」と返事があった。

そして、ドアの鍵がカチャと開けられ、扉がゆっくりと開いた。出てきたのは大山くんのお母さんだった。

「朝早くからすみません。大山くんの担任の朝見です。先日は学校に来ていただきありがとうございました」

「いえ、こちらこそすみません」

お母さんも今起きたということが一目でわかった。

「毎日お仕事がお忙しそうですね。お疲れ様です」

「はあ…」

「いつも何時頃ご帰宅されるんですか?」

「4時過ぎでしょうか」

「うわー、それじゃあ朝起きられないのも無理はないですね。ところで、大山くんはまだ寝ていますか?」

「ちょっと起こしてきます」

お母さんは部屋の奥へと入って行った。

「太一、起きなさい。先生が来てるよ」

それからまた5分くらい経ってから、お母さんが出てきた。そして間もなく、大山くんが、腫れぼったいまぶたを懸命に開けて私に顔を見せた。寝癖で髪の毛が爆発していた。

「おはよう、大山くん。体の具合はどうかな?」

「…大丈夫です」

「昨日は何時頃寝た?」

「…わかんない」

「そっか。でも、何とか起きられてよかった。ねえ、大山くん。せっかく起きたのに悪いんだけど、もうすぐ8時になってしまうので、今すぐ先生は学校に行かなければならないんだ。だから、2時間目の授業が終わったらまた来るから、その時までに学校へ行く準備をしておいてくれるかな? それで、学校へ行くかどうかはその時に考えよう。お母さん、朝からお騒がせしてすみませんでした」

そう告げると、私は急いで学校に向かった。昨日と今日で、家族三人に会うことができ、ちょっとした手応えを感じた。

2時間目の授業が終了。

「みんな、長縄跳びの練習につき合えなくてごめん。とにかく今は、大山くんが学校に来られるようにしたいんだ。だから、来たら優しく迎えてね」

私は自転車を飛ばして、また大山くんの家に向かった。

「こんにちは、朝見です。大山さんはいらっしゃいますか?」

また反応がない。もしかして、またみんなで寝ちゃったかな? そんな心配をしていると、ドアが開いた。お母さんだった。

「先生、すみません。太一がお腹が痛いって言うんです。だから、治ったら私が連れて行きますから、もう少し休ませてください」

「わっ、わかりました。お大事にしてくださいね。何かあったらいつでも学校に連絡してくださいね」

私はアパートを後にして、自転車で学校へ引き返そうとした。その時だった。近所に住んでいるらしい年配の女性が話しかけてきた。

「学校の先生かね。毎日大変ですね」

「はあ…」

「先生も子どものお迎えまでしなくちゃいけないなんて、時代も変わったねえ」

「いえいえ、ご心配いただいてありがとうございます」

私は丁寧にお辞儀をすると急いで学校に向かった。

何とか3時間目の授業に間に合った。しかし、結局その日は大山くんが登校することはなかった。

次回へ続く


執筆/浅見哲也(文科省教科調査官)、画/小野理奈


浅見哲也先生

浅見哲也●あさみ・てつや 文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官。1967年埼玉県生まれ。1990年より教諭、指導主事、教頭、校長、園長を務め、2017年より現職。どの立場でも道徳の授業をやり続け、今なお子供との対話を楽しむ道徳授業を追求中。

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