#2 学級目標を見て気がつくことはありませんか?【連続小説 ロベルト先生!】

連載
ある六年生学級の1年を描く連続小説「ロベルト先生 すべてはつながっています!」

文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官

浅見哲也

今回は学級開きのお話です。自己紹介に始まり、係や当番活動、学級委員、学級目標などを決めていきます。 子どもたちの考えを尊重しながら、学級担任としての思いも込めた学級目標とは。

第2話  学級開き

登校してくる子供

興奮も覚めやらぬまま次の日の朝を迎える。私は子どもたちが登校してくる1時間前には学校に到着していた。

職員室で今日1日の予定を確認すると教室へ向かった。春休み中の誰もいない教室とは違って、昨日からの子どもたちの空気が流れている。

朝一番に外の新鮮な空気を廊下や教室に入れるのが私の役目だ。そして大きく深呼吸。今日も給食当番や清掃当番、係活動など決めることがたくさんある。

でも、昨日できなかった子どもたちの自己紹介をやるのが一番だ。きっと大きな声で発表できる子もいれば、そうでない子もいるだろう。その様子によって子どもたちの性格が少しはつかめる。三組にはどんな子どもたちがいるのか楽しみだ。

子どもたちが教室に入って来た。実は私もドキドキしているので心を落ち着かせるために机に座り平静さを装う。

「おはよう。一番に登校してきたのは、北村亮太くんだね」

北村くんは、自分の名前を覚えてくれていることに満面の笑みである。私は内心(当たってよかった…)と胸をなで下ろす。

次々に子どもたちが登校してくると、自然に私の周りに集まってきた。そんな中でうれしい話を聞くことができた。

「先生、うちのお母さんが、今度の先生はおもしろそうだねって言ってたよ」

「本当、ありがとう。でも何を見てそう思ったの? まだ、会ったこともないし…、わかった。昨日学級通信に描いた似顔絵でしょ。面白すぎる顔だったんじゃない?」

「当たり!」

「ぼくのお母さんは、先生の年齢を聞いてたよ」

「それで、何歳って答えたの?」

「とりあえず、30歳にしておいた」

「なるほど。でもそれは不正解だ。先生は20歳だからね」

「えーっ! うそだー。だって先生は大学を卒業して、それからもう何年も先生をやっているんでしょ。そんなのあり得ないよ」

「そう思うでしょ。ところが違うんだなあ。先生は天才だから、小学校は1年で卒業し、中学校も高校も1年。こういうのを飛び級って言うんだ。だから、今年ようやく20歳になりました。1月には成人式だーっ!」

私が真顔で言うと、子どもたちは呆れていた。とにかく私は、昨晩、子どもたちが家で話題にしてくれたことが本当に嬉しかった。

生徒が描いた先生の似顔絵

1時間目の授業が始まった。子どもたちに教室掲示用の自己紹介カードを配り、それを完成させながら、一人ずつ前に出て自己紹介をしてもらうことにした。

「じゃあ、名前の順でやってもらうことにします」

というと、1番の青田浩くんが、

「えーっ、僕から…」

と言った。実はこの言葉を私を予想していた。

名字が「あ」の子にとっては、何かにつけて一番最初にやらされることが多い。それは私もそうであった。「朝見(あさみ)」もよく出席番号が1番になり最初にやることが多かった。でも、そのおかげで度胸がついたのも確かだ。

要するに私はこの名字によって鍛えられ育てられたという思いがある。今ではとても感謝している。そんな話を青田くんにしてあげると、何だか騙されたようであり、半分納得して自己紹介を始めた。

「ぼくの名前は青田浩です。好きな教科は図工と体育です。好きなテレビ番組は、名探偵コナンです。よろしくお願いします」

聞いていた子どもたちからは自然に拍手が沸いた。

「私の名前は岩井茜です。好きな教科は国語と音楽です。好きなテレビ番組は、ミュージックステーションです」

青田くんが考えた紹介の項目が早くも定着した。すかさず私は、青田くんと同じじゃなくてもいいよ。例えば、好きな歌手とか、このクラスで好きな男の子とか…。

「キャー!」と女の子の声がクラスに充満する。

こうして、クラス全員の自己紹介を終えて1時間目が終了した。クラスの子どもたち一人ひとりの様子を確認することができた。私は手帳の児童名簿の横にそれぞれの印象を書き入れた。

2時間目は、清掃当番を決めた。三組が担当する掃除場所とそれぞれの人数を書き出した。

そして、第1希望の場所にあらかじめ用意しておいた子どもたちの名前入りマグネットを貼らせた。

どうしても、子どもたちは楽な方に流れていく。1番人気のない場所はやはりトイレ。

しかし、このトイレ掃除についてはすばらしい実践の持ち主がたくさんいる。カー用品販売会社イエローハットの鍵山秀三郎氏は会社の経営方針の中心にトイレ掃除を位置づけ、自らも毎日実践されている。

また、植村花菜さんの「トイレの神様」の歌でもいい。トイレ掃除には他の掃除場所と比べて何か隠された秘密があることを伝え、子どもたちのやる気を促した。

そう言えば自分も、「自分のポケットにゴミを入れられる人はハンサムな子、美人な子になるんだよ」という言葉を聞いたことがあった。「ハンサム」なんて今では完全な死語であるが…。

どうしても一つの場所に、決められた人数以上が集まってしまう。その時はどうするか。

まず他の掃除場所を見て、まだ人数の満たないところへ移動する希望があれば移動してもらう。それでもまだ一つの場所に集中していたら…それは一番公平な方法で決める。

つまり「ジャンケン」である。ジャンケンなんて無責任だと思うかもしれないが当番活動であれば話は別。このクラスの当番活動の決め方を知らせ、後は最後までこのルールをしっかり守る、これが大切なことだ。

子どもたちは運命には文句を言わない。但し、少しでも不公平なことがあればたちまち問題が発生する。

最終的に何度も何度もジャンケンに負けて仕方なく希望していない掃除場所に決まった子は必ずメモにとっておく。そして、次に決めるときには第1優先で決めてあげることにする。

こうした担任の配慮に対して、意外に子どもは敏感に察し、納得するものである。

こうして、清掃当番や給食当番が決まった。次は係活動である。これは当番活動のようにはすんなり決まるものではない。

それは、当番活動が与えられた役割をしっかりと果たすという、どちらかというと受け身的な活動に対して、係活動は子どもたちがクラスを過ごしやすくするために必要なものを考える主体的な活動だからである。

そこで、3日後の学級活動の時間で係活動を決めることを知らせ、一人ひとりがどんな係が必要かを考えてくることにした。

3日後、学級会では、「レクリェーション係」「学級新聞係」など子どもたちからのアイディアが出され、さらに、どうしてもなくてはクラスが運営できないような係、例えばプリント類を配付するような係は「スマイル宅配便」、保健に関わる仕事をする係は「ハイパーレスキュー隊」など、子どもたちの発想で名前を付けて楽しい係が決まった。

それぞれの係の活動内容や人数は子どもたちに任せ、すべて第1希望で決めた。実際には活動してから人数や活動内容の不具合に気づくことがたくさんあり、その都度活動を見直していく。それが係活動のよさである。

最後に学級委員を決めることになった。三組には前年度末にすでに児童会長に決まっている女の子がいた。始業式の日にジェスチャーで男子と女子の背比べを取りもってくれた花崎真理さんだった。そこで、花崎さんを除いて決めることにした。

ここで私から、学級委員としてふさわしい人の話を切り出した。

「学級委員とは、簡単に言えばクラスをまとめてくれる人です。まとめるには周りの人からの信頼が必要です。信頼はどのように得ることができると思いますか?」

「友達に優しくする」

「そうですね。相手の気持ちがわかるって大切なことです。勉強やスポーツができる人はどうですか?」

「それは関係ないです」

「でも、勉強や運動など、できることを教えてあげれば、それは信頼につながります」

「面白い人がいいと思います」

「確かに毎日の生活が明るく楽しくなったらいいですね」

「でも、ただ面白いことを言って騒いでいるだけでは授業に集中できなくなります。それだけでは困ると思います」

「公平な人」

「よいことに気がついたね。もし、給食の配膳で気に入った人にだけ大盛りにしたら、大問題ですね」

「先生、他にもっとよい例えがないんですか?」

「あっ、ごめんごめん」

「私は真面目な人がいいと思います」

「真面目とはどういうことですか?」

「きまりを守るとか、やるべきことをしっかりやるとか、そういう人です」

「確かにみんなで決めたことをしっかりやり続けることは大切なことですね。
ところで皆さんは真面目な人をどう思いますか。暗いとか面白くないとか、そういう印象をもっている人はいませんか」

手は挙げさせないが、頷いている子どもが半分くらいいることがわかった。

「学級委員は人気のある人。つまり、頭がよくてスポーツができて面白い人。こんなイメージがあると思います。真面目な人とは反対のイメージなのかもしれません。でも、本当に信頼が得られるのは真面目さかもしれませんね。当たり前のことを当たり前のようにやるって簡単そうに見えるけど結構できないものですよ。だから、当たり前のことを、誰にも負けないくらいに真面目にできる人は、それだけで信頼を勝ち取ることができると思います」

「そろそろ決めましょう。まずは立候補。誰かいませんか?」

先ほどまでの話で、学級委員にふさわしい人のハードルが上がってしまったせいか、誰も手を挙げる子はいない。

「何もはじめからできなくたっていいんだよ。努力をすることの方が大切だからね。それからみんなに約束。『学級委員のくせに』なんて言うのはやめようね。学級委員だってスーパーマンではなくみんなと同じ六年生の人間だし、失敗はつきものだから」

そこまで言うと、中村くんと田口くん、二人の男の子が手を挙げて立候補した。「女の子はどうかな?」と聞くと、遅れて一人が手を挙げた。

「それでは、女の子は一人なので、長谷川さんにお願いしたいと思いますが、皆さんどうですか?」

自然に拍手が巻き起こった。

「男子の学級委員はどうやって決めようか?」

挙手で決めるか、それとも投票にするか、迷うところであるが、挙手で決めることにした。

まず、二人には前に出てもらい、学級委員としての意気込みをみんなの前で語ってもらった。その後、二人には、みんなに背を向ける形で黒板の方を向いてもらい、みんなは机に伏せて、どちらかに手を挙げてもらうことにした。

「それでは、中村くんに任せたいと思う人、手を挙げてください」

数名の手が上がるが、そのまま少し時間をおく。

「はい、わかりました。手を下ろしてください」

「では、次に、田口くんに任せたいと思う人、手を挙げてください」

先ほどよりも多くの子が手を挙げる。

「はい、わかりました。手を下ろしてください」

「18対17で田口くんに決まりました」

実際とは違う”接戦”の結果を二人に伝える。中には薄目を開けて結果を見ている子もいる。でも、それでいい。実際とは違う票数の配慮に気づいてくれればそれでいいのだ。

もし、投票だったらこうはいかず、ありのままの結果が立候補した二人には突きつけられる。

「立候補したけれど、残念ながら落選してしまった中村くんにも、その勇気に大きな拍手を送りましょう。それから、中村くんに手を挙げた子も、学級委員に決まった田口くんに協力して、みんなでよいクラスをつくっていきましょう」

思い通りにならなかった子どもたちへのフォローも忘れない。

学級委員の最初の仕事は、六年三組の学級目標を決めることだ。とかく学級目標は、黒板の上あたりに掲げてあるお飾り的な言葉という印象がある。

しかし、目標は、様々な活動を通して目指していくゴールのようなものであり、目指すゴールがなければ、さまようばかりで、教師は子どもたちの成長を評価したり、見届けたりすることができない。

もちろん、子どもたち自身も、ただ生活したり、行事をこなしたりするだけで、身につけるべきものがわからない。

要するに、学級目標は、教師も子どもたちも意識することで、自分の生活や生き方を顧みることができる拠り所的な存在なのだ。

行きつくところは難しく言うと「人格の完成」であり、知・徳・体をバランスよく育んでいけるような学級目標が相応しい。

あらかじめ学級委員の二人には、クラスの子どもたちがどんな考えをもっているかを聞いて、まとめていくように指示をした。

そして、すべてを子どもたちに任せるわけではなく、子どもたちの考えを尊重しながら、学級担任としての思いも込めて、次のように決定した。

〈六年三組学級目標〉
3度繰り返し
真面目に学習できる子
くじけず最後まで
努力できる子
みんなを思いやり
感謝できる子

「みんな、この学級目標を見て、何か気がつくことはありませんか?」

「えーっ???」

「頭を使えよ!」

と眉間にしわをよせ、こめかみのところに人差し指を当てる。

「実はこれがヒントです」

子どもたちは必死に考える。すると、北村くんが、「わかったー!」と大きな声で叫び、手を勢いよく挙げた。

「はい、北村くん」

「最初が三組だ」

クラスの半分が理解でき、残りの半分が首を傾げナゾのままである。

「北村くん。もう少しわかるように言ってみて」

「えーっと、学級目標の最初の文字を縦に読むと、『さん・く・み』になります」

「大正解!」

こんなふうに、ちょっと言い換えさせるだけで、言う子も聞く子も分かりやすく伝えることを意識できるようになる。このような繰り返しが表現力を身につけることになるのだ。

「先生、『3度繰り返し』はちょっと無理があります!」

「まあ、そのくらい粘り強く、繰り返し学習してほしいということです」

こうして、係や当番活動、学級委員や学級目標が決定し、1学期の生活がスタートした。

次回へ続く


執筆/浅見哲也(文科省教科調査官)、画/小野理奈 


浅見哲也先生

浅見哲也●あさみ・てつや 文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官。1967年埼玉県生まれ。1990年より教諭、指導主事、教頭、校長、園長を務め、2017年より現職。どの立場でも道徳の授業をやり続け、今なお子供との対話を楽しむ道徳授業を追求中。

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