教師と子供の呼び名を変える【あたらしい学校を創造する #7】

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あたらしい学校を創造する〜元公立小学校教員・蓑手章吾の学校づくり
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HILLOCK初等部スクールディレクター

蓑手章吾

先進的なICT実践と自由進度学習で注目を集めた元・小金井市立前原小学校教諭の蓑手章吾(みのて・しょうご)先生による連載です。公立学校の教員を辞して、理想の小学校を自らの手でつくるべく取り組んでいる蓑手先生に、現在進行形での学校づくりの事例を伝えていただきます。今回は、「教師と児童」について独自の呼び名を使う理由についてお話しします。

自分たちのスクール憲法をつくる!【あたらしい学校を創造する 第5回】

教師の呼び名を変えてみる

今回は「教師と児童」について、ヒロック初等部で使っていきたい独自の呼び方を紹介します。僕らの考えを知ってもらうためにも、なぜそういう独特の用語を使うのかを説明したいと思います。

前回も少し紹介しましたが、僕たちはヒロック初等部で学ぶ子供たちのことを「コゥ・ラーナー」と称します。「Co-learner」で「共同学習者」を意味します。僕らが思いを込めた「ヒロック語」といっていいでしょう。

これは、最初からあったわけではありません。子供たちは、小学校では児童と呼ばれ、中学校では生徒と呼ばれます。でも、あるとき僕ら3人(蓑手、五木田、堺谷)で話していて、「児童とか生徒という呼び方をしたくないよね」という話になったんです。それに、なんとなく僕らは「子供」という言葉にも違和感を感じました。「ども」というのは、あまりいい言葉じゃない。大人が「大人ども」って言われたら、ちょっと嫌でしょう。

ではどうしようか。僕たちの念頭にあったのは「シェルパ」という言葉です。

すでにヒロックキンダースクール(幼稚部)では、先生のことは「シェルパ」と称しています。これは、ファウンダーである堺谷さんが言い出した呼称です。シェルパというのは、ヒマラヤ登山のガイドのこと。堺谷さんは山登りが大好きなので、そこから持ってきたんですね。ヒロック初等部でも、同じように先生ではなく「シェルパ」と呼ぶことに決めていました。

ちなみに公立小学校時代には、僕は子供たちに「ミノさん」と呼ばれることもあったのですが、子供が僕を「ミノさん」と呼ぶと、後に続く言葉が「相談」になるんです。でも「先生」と呼ばれた後には、「これをやってもいいですか」と許可をとったり、「これをしてください」と依頼したり、「ここを教えてください」と教えを乞うたりする言葉が続くことになります。このように、「先生」という言葉にも、やはり固定観念がつきまとっていて、何かを授けるとか、知識を教えるとか、方針を決めるとか、「そういう存在」というイメージがくっついてしまいます。

先日模擬クラスを行ったときのことです。幼稚園や保育園の子供たちとともに小学校低学年の子も入っていたんですが、その子たちが僕のことを「先生」と呼ぶわけです。そのときは「僕は先生じゃないよ」と言ったんですけれど、「先生」と呼ばれた瞬間に、場が固定される感じが生まれました。「先生=その場の方針を決定する人」というイメージがまとわりついてくることを感じました。

擬クラスを行ったときの様子

子供=「共同学習者」

例えば、山登りをするとき、「先生」ならばどうするでしょうか。おそらく一番安全な道を最短距離で頂上まで全員一緒に登らせて、「ほら、景色を見てごらん。きれいでしょう」というようにすると思います。でも「シェルパ」だったら、登りたい人の要望に沿って道を決めるはずです。最短距離で頂上に登りたいとすれば、「こういう路もあるよ」と提示するし、景色を楽しみながら登りたいならば、「この道から行こう」と違う道を紹介するでしょう。頂上に行くことが目的でなく、記念として登るなら、別に「見晴らしのいいところでご飯を食べて帰ってきましょう」でもいい。

僕たちヒロック初等部の教員が担うのは、学習に関する知識や学習の醍醐味を十分に知りつつ、必要に応じて子供たちに提供するという役割です。僕らは頂上の景色を知っています。「頑張って頂上に行くと、こんな景色が見られるんだけれど、どうする?」と子供たちに提案することができるということです。どれを選ぶかは子供が決める。教員は子供に寄り添う。子供が「楽だからいい」「面倒くさいから行かない」というときには、一生懸命に励ます。それを明確にするために、先生という呼称をやめて「シェルパ」にしたんです。

そうすると、シェルパと対になる言葉がほしくなったのです。そこで、ラーナー=学ぶ人だから、そこに「Co(共同)」をつけて、子供たちのことを「コゥ・ラーナー」と呼ぶことにしました。ただし「子供=コゥ・ラーナー」という単純な呼び名ではありません。僕らシェルパも、子供たちから影響を受けて、互いに学び続けるコゥ・ラーナーです。広い意味では、保護者や地域でかかわってくれる人もコゥ・ラーナーです。究極、人類は皆、コゥ・ラーナーかもしれない。

シェルパとコゥ・ラーナーはセットです。共同学習者として子供を捉えるという意識が、コゥ・ラーナーという呼称には詰まっています。これも、ヒロック宣言をつくる過程で生まれて、決められていったものです。

次回は、模擬クラスの話をします。〈続く〉

蓑手章吾

蓑手章吾●みのて・しょうご 2022年4月に世田谷に開校するオルタナティブスクール「HILLOCK初等部」のスクール・ディレクター(校長)。元公立小学校教員で、教員歴は14年。専門教科は国語で、教師道場修了。特別活動や生活科・総合的な学習の時間についても専門的に学ぶ。特別支援学校でのインクルーシブ教育や、発達の系統性、乳幼児心理学に関心をもち、教鞭を持つ傍ら大学院にも通い、人間発達プログラムで修士修了。特別支援2種免許を所有。プログラミング教育で全国的に有名な東京都小金井市立前原小学校では、研究主任やICT主任を歴任。著書に『子どもが自ら学び出す! 自由進度学習のはじめかた』(学陽書房)、共著に『知的障害特別支援学校のICTを活用した授業づくり』(ジアース教育新社)、『before&afterでわかる! 研究主任の仕事アップデート』(明治図書出版)など。

連載「あたらしい学校を創造する〜元公立小学校教員の挑戦」のほかの回もチェック⇒
第1回「あたらしい学校を創造する」
第2回「ちょうどいい3人の幸運な出会い」
第3回「なぜオルタナティブスクールなのか」
第4回「多数決に代わる『どうしても制度』とは」
第5回「自分たちのスクール憲法をつくる!」
第6回「スクール憲法の条文づくり」

取材・構成/高瀬康志 写真提供/HILLOCK

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