プロ教師は『声の大きさ』で「場の空気」と「範囲」を自在にする

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教師が使いこなすべき”6つの声”①

教師は『話す仕事』、意図的に声を使い分けるのがプロの教師です。――と語るのは、小学校教諭・熱海康太先生。各界の「話のプロ」の技術を授業や学級経営に活かす「教師が使いこなすべき6つの声」とは? その教育的効果と効果的な使い方について教えていただきました。話を聞かない(聞けない)子供たちにも伝わる「声」を手に入れる極意を、「教師が使いこなすべき”6つの声”」全3回の連載でお届けします。

執筆/私立小学校教諭・熱海康太

教師が使いこなすべき6つの声(熱海康太先生連載)

「大きな声」と「小さな声」

教師は「話す仕事」です。

当然、アクティブ・ラーニング等を意識する時に、授業は講義的な一方通行にならないように意識する必要があります。生活指導は、自分が話すより、子供を受容することがまず大切です。しかし、そのような場合でも全く教師が話さなくていいという状況は、ほとんどないと言えるでしょう。

話すからには「どんな声に乗せるか」が重要になってきます。

教師の基本となる「大きな声」、また、その逆でアクセントとなり得る「小さな声」にはどのような教育的効果や留意すべきことがあるのでしょうか。

話す仕事のプロとして、これらの声を何となくではなく、意図を持って効果的に使い、子供たちの成長を促していきたいものです。

「大きな声」の効果

大きな声には、良くも悪くも場を変える力があります。

明るく、楽しい雰囲気にしたい場合には、お笑いタレントの出川哲朗さんが言うように「とりあえず、大きな声を出してみる」は、低学年の指導ではあながち間違ってはいません。

低学年では、大きく楽し気な声で、まず教師がクラスの良い雰囲気のお手本を見せていきたいものです。

先生が楽しそうにしていれば、その感じに乗ってくる子は必ずいます。少しずつ周辺の子を巻き込んで(教師が自然に、仲介し、促して)その人数を増やしていくことで、活発な動きが出てきたり、柔軟な意見が挙がったりする空気になります。

一方、高学年では、あまりに子供たちとテンションが違い過ぎるのも考えものです。ただ大きいというより、はっきりとした声で、より良い大人としての姿を見せていくことが重要です。

すぐに子供たちが変わることはないかもしれませんが、教師との信頼関係が出てきたときに、その姿が自分の目指すべきものであることに気がつく児童が出てきます。

また、危険な場面で制止したり、発表会の本番前すぐに子供に勇気を与えたり、という急がなければならない場面で、大きな声は短期的に有効です。威圧や強さといったイメージで子供に対して強い刺激を与えます。

「強さ」の扱い方には注意が必要

「認め×強さ」「賞賛×強さ」

ただし、このように大きな声を出して場をコントロールすることが教師の「悪い癖」になってしまわないように気をつけなければなりません。

子供を強制的に動かすということは、その数だけ、主体性を奪うことに他なりません。早く変えたものは、早く元に戻ってしまうことを肝に銘じたいものです。

ただ、逆にその「強さ」というものは、「認め×強さ」「称賛×強さ」のように使うことが可能です。大きな声のパワーに乗せることで、ポジティブな出来事を何倍にも見せることができます。

ですから、前向きなメッセージと組み合わせることで、その効果をより良く生かすことができるのです。

話が届く「範囲を広げる」効果も

さらには、大きな声には、「範囲を広げる」という効果があります。独り言や、二人だけの話でも、声が大きければ必然的に周囲の人に広がります。

このような効果を生かして、良い発想を持っているけれど押しが強くない子の意見を広げることに使いたいです。大きな声で、その子の意見をスピーカーのように全体に喧伝することは、全体にもその子本人にも価値の高さを伝えることにつながります。

また、上越教育大学教職大学院の西川純教授は、指導力を簡単に上げる方法として「大きな声」を挙げています。

教室には不規則な雑音などがありますが、それを越えてしっかり聞こえてくる声でなければ、子供たちは理解に集中することができません。

ただし、教室にしっかり響くような声は、あまり日常的に使うことはありませんので、教師になって間もない方は、お腹から声を出す訓練が必要です。そうでないと、冬場など空気が乾燥する時期に、喉をつぶしてしまい、数日間、全く声が出なくなるということがあります(毎年、そのような先生方を見てきています)。

そう考えると、ここでいう「大きな声」は、「大きな声を基本で出している中で、そこをベースにした、さらに大きな声」ということになるので、ボリューム的にはかなりのものになるでしょう。その分、メリットとデメリットがはっきりしてくるので、使用場面を精選していく必要があります。

「小さな声」の効果

小さな声のイメージとは、どのようなものでしょうか。

実際に子供たちに帰りの会で「小さな声って、どんなイメージ?」と聞いてみたところ(聞いた意図については後述します)、「おとなしい」「元気のない印象」「暗い」「聞こえづらい」と、一見するとネガティブなものが挙げられました。ただ、これは大人に聞いても、そこまで大差のない答えが返ってくるのではないでしょうか。

そんな中で、一人の子が「気になる」と言いました。「どうして気になるの?」と問うと、「いつも元気なのに、どうしたのかな?と、気になるかもしれない」と言ってくれました。

その子の発言から、物事の表面だけでなく、裏側や内面を見ることの大切さに話は移っていきました(子供たちに、「小さな声のイメージ」を聞いた意図は、この「物事の本質について」考えさせたかったからです)。

注意を引き、流れを変える「変化球」

さて、まさに子供が言ったように「気になる」ということが、小さな声を駆使する上で大きな意味になります。

特に、クラス全体に聞こえるように大きな声で話すことが多い教師が、小さな声で話すことがあれば、それだけで日常の流れとは違うものを生み出すことができます。

例えば、「キーワードは○○」の○○の部分を少し小さな声で言ったらどうでしょうか。

教室の集中力が維持されている状態なら「え? なんて言ったの?」「声が小さいです」「ちょっと、周りがうるさくて聞こえなかった!」「もう一度、言ってください」など、分かりやすく、次の言葉に注目できるような場が整います。

もし、集中力が少ない状態のクラスでも、頑張っている子は必ずいるので「今、私はあえて、少し小さな声で伝えたのだけど、聞こえた人はいるかな」と問います。その中で、きちんと答えられる子を大いに認めます。

また、重要なのは「聴きたかったけど、先生の声が小さ過ぎるんだよ!」という子についてです。この子にも、「聴こうとしてくれたんだね。今この集中力を保つのが難しい時間に、まずその気持ちは大切なことだよね。○○さんに拍手!」などとしっかりと価値づけることが重要です。

そして、「じゃあ、もう一度、今の声で言うよ。気持ちの準備はいいですか」と投げかけると、多くの子は集中力や意欲を取り戻します。当然、次に発する言葉の印象も強いものになるでしょう。

このように、小さな声をバリエーションで持つことは、例えるなら野球のピッチャーが変化球を習得するようなものです。

素晴らしいストレートを持つ投手でも、そればかりを投げていては、バッターに「慣れ」が出てきた時に打たれてしまいます。そこに変化球(小さな声)が入ることで、アクセントになり、ストレート(大きな声)がより生きてくるのです。

対話の「個別化」に効果的

小さな声には、慣れを打破する以外にも、「個別化」といった効果も期待できます。小さな声を使うことで「これはあなたにだけ伝えているんだよ」ということを表すことができます。

ポジティブな内容ならその親密度を高めることに寄与するでしょう。

ネガティブなことを全体の前で指摘することがあったとしても、その子にも、周りにも、「個人に対して言っていること。これは他人が口を出すことではない」を暗に伝えることができます。

分からない子には「私はその子に小声で伝えていたよね。その意味が分かる?」と問うこともあります。

<参考図書>西川純・著『新任1年目を生き抜く教師のサバイバル術、教えます』(学陽書房)

熱海康太(あつみこうた)
神奈川県私立小学校教諭。公立小学校を経験し、現在に至る。単著に「学級経営と授業で大切なことは、ふくろうのぬいぐるみが教えてくれた」(黎明書房)、「6つの声を意識した声かけ50」(東洋館出版)、「鬼速成長メソッド」(明治図書出版)などがある。プロスポーツチームで小説の連載を行うなど、パラレルキャリアを形成している。

イラスト/喜多村素子


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