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第56回「博報賞」博報賞・文部科学大臣賞 受賞「ことばとこころを育む」早坂和枝氏の活動レポート【PR】

「博報賞」は、児童教育の現場を活性化し支援することを目的として、公益財団法人博報堂教育財団が主催する賞です。全国の学校や団体、教育実践者が取り組む創造的な教育活動を表彰し、その価値ある実践を社会に広めることで、日本の教育全体の質の向上に貢献しています。 各受賞者には賞状と副賞が贈られ、とくに優れた取り組みには文部科学大臣賞も授与されます。

今回は、第56回「博報賞」博報賞・文部科学大臣賞(特別支援教育領域)を受賞した早坂和枝氏(大崎市立古川第五小学校講師)の取り組みをご紹介します。

提供/公益財団法人 博報堂教育財団

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宮城県大崎市立古川第五小学校講師・早坂和枝先生の「ことばとこころを育む」実践は、ことばに障がいのある児童が安心して話し、自信をもって社会と関わる力を育むことを目的とした取り組みです。

発音の改善に向けた専門的指導に加え、学習振り返りシートや連絡ファイルを活用して児童・保護者・学級担任が成長を共有する仕組みを整えることで、子どもたちは小さな変化を実感しながら意欲的に学びを積み重ねています。こうした実践は、ことばの課題だけでなく心理面や人間関係にも配慮した包括的支援として高く評価されました。

また、地域に根差したことばの教室の伝統を背景に、教員研修などを通じて指導力の向上にも寄与し、支援の輪を広げている点も特徴です。

第56回「博報賞」博報賞・文部科学大臣賞(特別支援教育領域)を受賞した本実践について、大阪信愛学院大学教授・渡部匡隆氏によるレポートをご覧ください。


「ことばとこころを育む」早坂和枝氏の実践レポート (報告者:渡部匡隆氏)

第56回「博報賞」博報賞・文部科学大臣賞 受賞(特別支援教育領域)
宮城県 早坂和枝氏(大崎市立古川第五小学校講師)
報告者:大阪信愛学院大学教授・渡部匡隆(わたなべ まさたか)

令和7年度博報賞、並びに文部科学大臣賞を受賞した早坂和枝氏は、宮城県大崎市立古川第五小学校言語障害通級指導教室(ことばの教室)において、ことばに障がいのある児童が発音する喜びを実感し、喜んで話すことができるように指導するとともに、宮城県北部教育事務所管内でことばの教室担当者とことばの教室の指導に関心のある教員を対象とした「言語通級指導力向上研修会」の講師を務めるなど、後進の育成に取り組んでいる。

早坂和枝氏(以下、早坂先生)は、宮城教育大学教育学部を卒業後、長年にわたって宮城県において小学校教員を務めてきた。その間、通常の学級担任とともに、平成4年度から5年間、そして、平成30年度から現在までことばの教室を担当してきた。

ことばの障がいとは

あなたは、話したときに笑われたり、戸惑った表情をされたりしたことがあるだろうか。繰り返しそのような経験をしてしまうと、ちょっとしたことを伝えることも友だちの前で発表をすることも怖くなり、友だちとかかわることも避けてしまう。どんなことにも自信がもてず、自分のことが嫌になり、チャレンジする意欲もなくなってしまう。

発語のために音をつくり出すことに困難さがある状態を構音障害という。家庭ではお話ができても、教室ではお話をすることができない状態を緘黙(かんもく)、語頭が出にくかったり途中で詰まったりする状態を吃音という。

古川第五小学校言語検査の結果を見ると、例えば、「キリギリス」を「ジディジディス」、「オニギリ」を「オジギリ」のように発音してしまう側音化、「ゴ イチ ガ ゴ」と九九を唱えるときに「ド イチ ダ ド」と発音してしまう置換がみられる構音障害の児童が、2018年度と比べ2025年度は約2.6%増加している。構音障害は胎生期に口蓋、または口唇の形成が不完全のために生じる器質性構音障害と、特に器質的には問題がみられないにもかかわらず誤った構音が固定してしまう発達性構音障害に大別される。発達性構音障害の背景には、食生活をはじめとした社会や生活環境の変化、コロナ禍でのマスク生活の影響等も挙げられているが、正確には分かっていない。

ことばの障がいの支援で大切にしたいこと

文部科学省の手引き(2021)※1によると、言語障害は「発音が不明瞭であったり、話し言葉のリズムがスムーズでなかったりするため、話し言葉によるコミュニケーションが円滑に進まない状態であること、また、そのため本人が引け目を感じるなど社会生活上不都合な状態であること」とされる。ことばの障がいは、本人の話し方に関心が向けられやすいが、本人が感じている引け目や社会生活に不都合がもたらされている状況に着目しなければならない。そのため、ことばの障がいの支援では、発音の不明瞭さや話しことばのリズムをスムーズにしていくことに加えて、コミュニケーションの不調や社会生活上の不都合といった状況をいかに軽減・解消していくか、本人が引け目を感じることなく生きる意欲を高め、主体的な社会参加をいかに促していくかが肝要となる。

※1 文部科学省(2021)障害のある子供の教育支援の手引き〜子供たち一人一人の教育的ニーズを踏まえた学びの充実に向けて〜(令和3年6月).文部科学省初等中等教育局特別支援教育課.

ことばの教室の取り組み

ことばの障がいの専門的な教育機関であることばの教室は、その指導・支援において多様な役割を担う。具体的には、ことばに障がいのある子どもたちが学びやすく生活しやすい環境を整えていくこと、ことばの障がいの軽減や改善に向けて専門的な指導を行うこと、そして、ことばに障がいのある児童に対する心理的支援と社会参加支援である。

耳とこころを傾ける環境をつくる

早坂先生は、ことばに障がいのある児童が学びやすく生活しやすい環境を整えていくため、次のような取り組みを行っている。通常の学級では、発音することばがはっきりしない児童に対して、「大きな声で」という指導が行われやすい。しかし、声の大きさと発音の明瞭さは異なり、大きな声を出すことが発音の明瞭さを高めることにはならない。また、構音に大切な咀嚼(そしゃく)筋や唇周囲筋は、コミュニケーションの円滑さにおいても大きな役割を果たす。そこで、通常の学級担任に、唇をよく動かすと明瞭な発音が促されることや、口角を少しあげると表情が明るくなりコミュニケーションが円滑になることを伝え、学級で指導することを助言している。

例えば、「バナナ」とことばの教室で正しく発音できたとしても、学級や家庭といった日常生活場面においてその力をうまく発揮できないことが多い。ことばの教室は、通常の学級のように保護者懇談会はない。そこで、教室便りを定期的に発行し、児童の学びの様子を紹介したり、連絡ファイルに綴られた保護者のコメントを紹介したりするなど紙上交流を行っている。それにより、保護者や学級担任が、自分の子どもだけではなかったことに気づいたり、互いの悩みを共有したり、子どもへの声かけの仕方を学んだりすることにつながっている。それらの取り組みが、ことばに障がいのある児童が学びやすく生活しやすい環境を整備していくことになり、保護者や学級担任が児童の発音に丁寧に耳とこころを傾け、話しやすい雰囲気を醸し出す支えとなっている。

児童の学びの様子を紹介する教室便り(クリックで拡大します)

ことばを意欲的に学ぶ

ことばの教室では、ことばの障がいの軽減や改善に向けて、音を正しく聴き取る力や模倣する力の育成、構音器官の運動調整力の向上、構音やことばの流暢性の改善といった専門的な指導が行われる。しかし、それらの変容は一朝一夕にはいかない。児童にとっては、幼児期から使い慣れてきた発音の方法を修正することに苦痛を伴うこともある。そのため、「正しく発音できたか、できなかったか」という観点だけでは、できないことの連続になってしまい意欲的に学ぶことになりにくい。

そこで早坂先生は、児童の自己評価と学習感想を累積していく方法を模索し、発音が少しずつ変容していく過程を細かく見取り、児童、保護者、学級担任と共有していく手立てを講じた。それが、学習振り返りシートである。早坂先生が最初にことばの教室を担当したときは、達成度を直線上に表していた。その後、通常の学級担任となったときに、タイル図やマス図を使うことで児童の理解が大きく向上した経験をもとに、五角形のレーダーチャートに改善を図った。その結果、児童にとっては五角形の大きさで学びの成果が実感できるようになり、保護者や学級担任にも分かりやすい評価となった。

スクラム教室連絡ファイルに綴じられた学習振り返りシート。連絡ファイルの裏表紙には、連絡ファイルが手渡される流れを示している(クリックで拡大します)
五角形のレーダーチャートで学びの成果を実感する

学習振り返りシートは「スクラム教室連絡ファイル」に綴じられ、スクラム教室→学級担任→保護者→学級担任→スクラム教室とつなげられる。ことばの教室での児童の学びの様子、児童の自己評価と学習感想を連絡ファイルにより保護者、そして、学級担任と共有する。児童の変容を多くの目で見取ることが、たとえ小さな変化であっても多くの目で認め、励ますことになり、児童のやる気と自信を喚起し粘り強く学ぶことを支えている。

児童の様子を丁寧に見とりながら指導する早坂先生
「シ」の入った単語を練習する様子

主体的な社会参加を支援する

ことばに障がいのある児童が感じている苦しみ、劣等感、自己肯定感の低下、そして、級友や担任との人間関係のあつれきは大きい。特に、自分が言っていることが相手に伝わらず、何度も聞き返されたり、真似されたり、笑われたりした経験のある児童にとって、自分からチャレンジするといった主体性や意欲が大きく損なわれてしまう。それらを少しずつ変容していくためには、ことばの障がいの軽減や改善に向けた取り組みとともに、自己理解をはじめとした丁寧な心理的支援と、社会参加や自己実現に向けた支援が不可欠になる。

ことばの教室の学習が終結したある児童から、放送委員会に参加したいと申し出があった。その児童は、発音の誤りのために話すことへの苦手意識をかかえていた。しかし、誤った舌使いがみられるものの自分で修正しながら、全校児童が耳を傾ける校内放送を担い続けている。早坂先生をはじめ、関係の先生方が連携しながらその活動を見守ることで、ことばの障がいのある児童の主体的な社会参加と挑戦する意欲を育んでいる。

地域と共にあることばの教室

早坂先生の教室には、濱崎健治先生のご著書「臨床音声学の理論と実際〜正しい構音と発音〜」(慶應義塾大学出版会)がさりげなく置かれていた。濱崎先生は、昭和28年に宮城県仙台市立通町小学校において、日本最初の「ことばの教室」※2を開設され、ことばに障がいのある多くの子どもたちの指導に当たられた。大崎市に合併される前の古川市では、拠点となる5つの小学校にことばの教室が設置されていた。全国的に、ことばの教室はいくつかの小学校に1か所、多くて2か所が設置される拠点方式となっている。5つの小学校に、ことばの教室が設置されていたことは極めて特色がある。大崎市に合併された現在も、毎年6月にすべての新1年生に言語検査が実施されるなど、濱崎先生から受け継がれてきた、ことばに困難のある子どもにできるだけ早く気づき、支援を行ってきた歴史が今も活かされている。早坂先生のことばとこころを育む教育実践は、すべての子どもたちの笑顔を大切にしてきた地域と共にあるとも言える。

※2 日本最初の「ことばの教室」https://kotobanokyoshitsu.jimdofree.com(2026.3.18最終アクセス)

教室に置かれた、濱崎健治先生のご著書
早坂和枝氏(右)と、報告者の渡部匡隆氏(左)

第57回「博報賞」の応募は現在受付中です。応募には推薦者資格を有する第三者(教育長、校長会会長、教育関連団体代表者など)による推薦が必要となっています。自薦はできませんのでご注意ください。

応募締め切り: 2026年6月25日(木)

応募方法: 博報堂教育財団のホームページ(下のボタンをクリック)から応募書類をダウンロードし、必要事項を記入のうえご応募ください。

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