教師が出る「タイミング」のアップデート|学んだ技術が教室で「うまくいく」ための2つの技【中野裕己の授業技術アップデート12】


『授業はタイミングが9割』『対話型国語授業のつくりかた』の著者で、国語科、対話指導、ICT活用の研究を精力的に進める中野裕己先生による連載です。国語科の授業にとどまらず、“明日から”できて“ずっと”役に立つ授業の技を、多岐にわたってお届けします。
第12回目のテーマは、《教師が出るタイミング》です。
執筆/新潟大学附属新潟小学校教諭・中野裕己
目次
方法が機能しない原因は、「タイミング」にあり
連載第12回目となりました。新潟大学附属新潟小学校の中野裕己(なかの・ゆうき)です。
今回は、拙著「授業はタイミングが9割」で取り上げている「タイミング」に関する授業技術を提案したいと思います。
「発問」「対話」「ICT」など、授業における有効な方法を紹介する教育書は、多数出版されています。それらの教育書を読んで、その方法をやってみても、どうもうまくいかない——そんな経験をおもちの方は少なくないはずです。
そんなとき、みなさんはどうしますか? 「自分の力が足りないのかな」と、原因が分からないまま、あきらめていませんか?
いかに優れた方法であったとしても、子どもにとって必要のないタイミングであるならば、有効に働くことはありません。そればかりか、たちまち教師のやりたいことに付き合うような、教師主導の授業に陥ることでしょう。タイミングが適切であるからこそ、書籍や研修会で知った方法はうまくいくのです。また、子どもたちは意欲的になるのです。
<参考・引用文献>
中野裕己(2024)「授業はタイミングが9割」明治図書出版社 『はじめに』より抜粋
適切なタイミングを見極めることができれば、教育書で知った魅力的な方法が、あなたの教室でも有効に働くはずです。そのタイミングを見極めるポイントを、「待つ」「見取る」という2つの授業技術に絞って述べていきます。
タイミングを見極めるために「待つ」
みなさんは、授業で「待つ」ことが十分にできていますか?
実はこの「待つ」ことは意外と難しいのです。よくありがちな例を紹介します。

ここでは、「ぐったりと目をつぶったまま…」という一文を提示した上で、「そのときのごんは、嬉しかったのでしょうか。それとも、悲しかったのでしょうか」と問うています。
「何かを提示した後、発問する」というのは、よくある指導であり、有効な指導でもあります。追究する対象を明示した上で発問することにより、子供はよりよく考えることができます。
一方で、一文を提示した後、間髪入れずに発問をしてしまうと、子供は「今、こっち(提示した一文)を考えているんだけど……」と、むしろ思考が遮られてしまうことがあります。子供にとっては、「『ぐったりと目を…』の文は、何場面だったっけな」「ごんは、どうしてぐったりしてたんだっけ?」などと、提示された一文を理解する時間が必要です。
したがって教師は、一文を提示した後にじっと待つのです。すると、教師が待っている間に、子供は提示された一文を徐々に理解していきます。もしかしたら、「この文、どこだっけ?」「最後の場面だよ」などと、声があがるかもしれません。そのような姿を経て、「そのときのごんは、嬉しかったのでしょうか。それとも、悲しかったのでしょうか」という発問が有効に働くことになるのです。
この提示と発問の授業場面は、あくまでも一例ですが、私たちは有効だとされる方法を授業に取り入れようとするときほど、待つことを忘れてしまいがちです。「この方法をやってみよう」と授業に臨んだときは、「このタイミングでいいかな」と、意識して「待つ」ことが大切です。
タイミングを見極めるために「見取る」
先に示した「待つ」あいだに、教師がすべきことが「見取る」ことです。ただ単に待つのではなく、子供の学習状況を見取り、適切なタイミングで用意していた方法を実行することが大切です。
この「見取る」ことは、「達人技」のように扱われがちで、「すごいよね。自分にはとてもできない」などと、習得できる技術としては語られることがなかったように思います。ここではあえて技術として、次のような2つの視点に整理します。
1.参加度を見取る

ここでは、教師の視界を水色で示しています。教師は、教室全体の子供を俯瞰して、次のような点を見ていきます。
- 子供の視線
- 子供の表情
- 子供の机の上
- 子供同士のつながり
そして、それらを根拠に、子供一人一人が学習に参加できているかを解釈するのです。例えば、視線が定まらない子供、表情が曇っている子供、机の上に教材が出ていない子供、誰ともつながりがない子供が、学習に参加できているか心配な子供と言えます。
学習に参加できていない子供が多い教室で、用意していた方法を実行したとしても、おそらく有効に機能することはないでしょう。
2.学びの質を見取る

ここでは、教師の視界を水色に加えて赤色で示しています。要するに、水色の視界と同時並行で、赤色の視界をもつということです。赤色の視界は個人に焦点付けて、次のような点を見ていきます。
- 手元にどのような内容を記述(入力)しているか。
- 子供同士でどのような内容を話しているか。
そして、それらを根拠に、その子供が何に関心をもって、何に気付き、何に問題意識を抱いているかを解釈するのです。例えば、子供が教科書のある叙述の線を引いていることを見れば、何を根拠に考えようとしているかが分かります。また、「〇〇(登場人物)はさ…」と近くの子供と会話していることを見取れば、どの人物に着目しているかが分かります。
このような、学びの質を見取った上で、用意していた方法を実行する適切なタイミングを判断するのです。
「待つ」「見取る」こそ、教師の役割
生成AIの急速な普及により、AIを活用した様々な技術が学校教育にも取り入れられつつあります。もしかしたら、教師の役割の一部をAIが担う日がやってくるかもしれません。しかしながら、「待つ」「見取る」はAIにはできない、生身の人間だからこそできる教師の役割だと考えています。子供の学びは、効率的な情報処理のみで解釈できるものではないからです。子供と学校生活を共にし、よりよく学ぶことを願う教師だからこそ、その子にとって最適な解釈ができるのだと考えています。
だからこそ我々は、「待つ」「見取る」技術を高め、タイミングにこだわって様々な方法を取り入れていくことが大切です。
……と、いうことで、ズバリ! 今回の国語授業アップデートは、

と、いうことになります。
明日の、そしてこれからの授業づくりの参考にしてくださいね。
次回の予定テーマは、《学級&授業開き——1年通して大切にしたいこと》です。
もうすぐ新年度。子供と素敵なスタートを切るために大切な授業技術をご紹介します。
どうぞ、お楽しみに……!

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【著者紹介】
中野裕己(なかのゆうき)
新潟大学附属新潟小学校教諭。1986年新潟県生まれ。新潟市公立小学校教諭を経て、現職。「授業は、子供と教材の相互作用」を合言葉に、子供の学びを「支える」授業づくりを大切にしている。新しい国語実践研究会会長。全国国語授業研究会監事。授業改善コミュニティ「授業てらす」プロ講師。教員サークル「国語授業“熱”の会」代表。
[著書]
『教科の学びを進化させる 小学校国語授業アップデート』(2021年)
『学びの質を高める! ICTで変える国語授業3 Google Workspace for Education編』(2022年、共編著)
『子供が学びを創り出す 対話型国語授業のつくりかた』(2022年)
『授業はタイミングが9割』(2024年)
『タイプ診断で見つける 小学校国語 授業技術大事典』(2024年)
X(旧Twitter):https://twitter.com/yuuuuki0430
新潟大学附属新潟小学校初等教育研究会HP:https://www.fuzoku-niigata.jp

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