旧態依然の「ガンバリズム」意識が抜けない職場【現場教師を悩ますもの】

連載
諸富祥彦の「現場教師を悩ますもの」

「教師を支える会」代表

諸富祥彦

「教師を支える会」を主宰する『現場教師の作戦参謀』こと諸富祥彦先生による人気連載です。教育現場の実状を説くとともに、現場教師の悩みやつらさを解決するヒントを、実例に即しつつ語っていただきます。

【今回の悩み】「ガンバリズム」意識から脱却できずにいるベテランをどう変えれば?

約20年前、諸富先生のお話を直にうかがい、感銘を受けたことを思い出します。その時のお話の中で、「これまでの『ガンバリズム』意識からの脱却」の内容が心に残っています。頑張っても結果オーライの時代ではなくなりつつある時代の変化に気づき、教育のあり方にも一考していこう!という内容だったかと思います。

時代は大きく変化しているのに、旧態依然として昔のやり方や意識から抜け出すことのできないベテラン教師は今でも少なくありませんし、若手教員への影響も無視できません。これでは、子どもの主体的な学びにもつながりにくいのではないでしょうか。
(公立小学校教諭・60代、再任用)

時代と相当なギャップがある学校の集団主義

その時に私が話した「ガンバリズム」は、言うなれば山口百恵世代の文化です。ちょうど私と同世代で「♪思いこんだら 試練の道を 行くが男のど根性」「♪辛くたって 悲しくったって コートの中では平気なの」という、かなり無理をしてもみんなで真面目に頑張っていれば何とかなるのだ、という文化です。

学校だけでなく日本の多くの企業もこれまでずっとそのガンバリズム文化でやってきました。そして、この文化は企業より学校のほうが強いのです。どうしてかというと、「学校とは、子供に多少の無理をさせてでも、規律に合わせて厳しく整えていく機関なのだ」という共通認識が学校側に根強くあるからです。

朝起きてから脳が覚醒するまでの時間を考えれば、本来、子供は10時半くらいに登校するぐらいが一番いいと思います。コロナで企業の在宅勤務が多くなり、時間管理が緩くなっていることを考えても、子供たちみんなが一斉に朝8時過ぎに集まって学校を始めようというのは、子どもの生体リズム的に無理がありますし、時代とも相当なギャップがあることなのです。

集団主義の教育をしなければならない理由は、世の中から見ると小さくなっています。この流れはこれからも続くと思います。現に、授業を受ける場所やカリキュラムや担任を自由に選べる、不登校の子供に対応した学校ができています。

20年、30年先を見据えるならば、これら学校全体の集団主義・規律主義からの脱却は大きなトレンドになるでしょう。あと30年もたてば、不登校という概念すらなくなるはずです。つまり「ガンバリズム」などと全く言えなくなるのが、これからの教育のしかるべき流れなのです。

第一線を退いているから持てる「客観的な目」

質問者の60代の先生は、第一線を退いて力が抜け、俯瞰して物事を見ることができるようになっているのでしょう。この先のトレンドに逆らって学校に残り続けているガンバリズム精神に疑問を感じておられます。

その認識は基本的に正しいです。今後30年単位で見れば、明らかにガンバリズムはなくなりますし、ど根性はいらなくなっていくでしょう。でも、その中でもまだ、あえて頑張らなければならない現場の先生方の気持ちに立つと、未来を見据えつつ、ゆっくりゆっくりと認識を変化していただくことしかないのかな、と思います。

いま企業は世界に追いつこうと、AIの導入を押しすすめ、大幅な人員削減をして事業の構造転換を図ろうとしています。すると、これまでの中間層がなくなり、仕事をするのは非常に優秀な一部の人と、現場での業務や労働をする人とに、分かれていってしまう可能性があります。

学校現場も同様です。もしかしたら、30年後には教員も今より少なくなるかもしれません。おそらくはオンライン授業が一層発達し、教え方の上手い1人の教員が複数のクラスや学校を担当するようになるでしょう。

そうなると、現場にいる教員の仕事は「ティーチング」から「ファシリテーションとケア」へと変化していくはずです。とくに今20代の若手の先生には、そういう30年後、ベテランになるころの未来の認識を、徐々に定着させていくしかないと思います。

厳しい指導は流行らなくなっていく

具体的に言うと「厳しい指導は流行らなくなっていく」のです。先生方の中には、厳しくしないと指導した気になれない先生がいます。でも、これからは、子供が自分で気付いて変わるのを手伝うのが教員なのだと、指導観を変えてもらわなければなりません。

例えば、不登校の子供に対して、ある先生が無理やり教室に入れようとする場面があったとしたら、「まあまあ、私が見ていますから」と、その子供を引き受けてはどうでしょうか。

「私も不登校の子供に何人もかかわってきましたが、自分から教室に戻りたい、と言わないと戻れないのですよね。なので、ちょっと私に任せてもらえませんか?」と、姿で見せましょう。

若い先生を職場のガンバリズム的雰囲気から守りたいときには、「ぼちぼちやっていきましょう」ということを、あえて声に出して言ってみるのもいいかもしれません。


諸富祥彦●もろとみよしひこ 1963年、福岡県生まれ。筑波大学人間学類、同大学院博士課程修了。千葉大学教育学部講師、助教授を経て、現在、明治大学文学部教授。教育学博士。臨床心理士、公認心理師、上級教育カウンセラーなどの資格を持つ。「教師を支える会」代表を務め、長らく教師の悩みを聞いてきた。主な著書に『いい教師の条件』(SB新書)、『教師の悩み』(ワニブックスPLUS新書)、『教師の資質』(朝日新書)、『図とイラストですぐわかる教師が使えるカウンセリングテクニック80』『教師の悩みとメンタルヘルス』教室に正義を!』(いずれも図書文化社)などがある。

諸富先生のワークショップや研修会情報については下記ホームページを参照してください。
https://morotomi.net/

取材・文/長尾康子

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