「情報モラル教育」とは?【知っておきたい教育用語】

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【みんなの教育用語】教育分野の用語をわかりやすく解説!【毎週月曜更新】
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今日のような情報社会を生きていくためには、情報社会に対応したモラルが必要です。そうしたモラルを身につけるための情報モラル教育には、情報社会の進展に対応した新しい要素も多く含まれていますが、その根底にあるのは伝統的なモラルや道徳であり、社会のよき担い手としてのあり方です。

執筆/麗澤大学准教授・中園長新

みんなの教育用語

なぜ「情報モラル教育」が必要か

情報社会の進展に伴い、子どもたちもスマートフォンやSNSを活用する時代になっています。こうした情報化の波は、子どもたちの世界を拡張し、さまざまな人やものごとに出会う機会を与えてくれます。このことにはメリットもありますが、犯罪被害等の危険性をはじめ、多くの問題もあります。

平成29・30年告示の学習指導要領において、学習の基盤となる資質・能力の一つとして「情報活用能力(情報モラルを含む。)」が挙げられました。情報モラルが、情報教育で育成する情報活用能力の中でも特に重視されていることがわかります。

小学校学習指導要領解説 総則編』には、情報モラルは「『情報社会で適正な活動を行うための基になる考え方と態度』であり、具体的には、他者への影響を考え、人権、知的財産権など自他の権利を尊重し情報社会での行動に責任をもつことや、犯罪被害を含む危険の回避など情報を正しく安全に利用できること、コンピュータなどの情報機器の使用による健康との関わりを理解することなど」とあります。

決して新しくない概念

情報モラルという言葉は、情報社会の進展とともに誕生しました。しかしその実体はまったく新しい概念ではなく、従来の道徳や倫理、モラル等と共通しています。従来のモラルを情報社会に対応するよう拡張したものが、情報モラルです。実際に、文部科学省の『教育の情報化に関する手引(追補版)』では、情報モラルを「情報モラル=日常モラル+情報技術の特性」と表現しています。

情報モラルの根底にあるのは、人権をはじめとする自他の権利の尊重、社会における行動への責任、善悪の判断といった基本的・伝統的な道徳観・倫理観です。これらの観点は、インターネットによって誰でも情報発信できる社会になり、SNS等の普及によって犯罪被害が増えている状況に対応していくためにも必要です。

情報化の進展によって社会が大きく変容しても、大切なのは人と人とのつながりであり、ともによりよい社会をつくっていこうという意識です。情報モラル教育では、この意識を育むことが重要です。

情報モラル教育実践の参考資料

情報モラル教育の実践に関しては、文部科学省や教育委員会、あるいは学術団体等がさまざまな資料を提供しています。文部科学省のウェブページ「情報モラル教育の充実」では、教員向け、児童生徒向けの資料が公開されており、学校教育で活用できます。

情報モラル教育を実践する際には、その内容や発達段階に応じた指導が必要です。この点を検討する際に参考となる資料として「情報モラル指導モデルカリキュラム」があります。これは情報モラル教育を体系的に分類するとともに、発達段階に応じて扱う内容をモデルカリキュラムとして整理したものです。しかし2007年に作成されたものなので、情報化のさらなる進展により発達段階との対応を見直す必要があるとの指摘があり、活用の際は注意が必要です。

「自ら考え正しく行動できる」ために

情報モラル教育でよく批判されるのが、「“べからず集”の教育に陥っている」という点です。確かに、子どもたちが犯罪被害にあわないようにすることは、情報モラル教育の非常に重要な目的のひとつです。しかし、危険だからといって禁止するだけでは、子どもたちは危険を知らないまま成長し、正しい活用ができなくなってしまいます。

情報モラル教育で意識すべきことは「何をしてはならないか」ではなく「何をするか」です。なんらかの禁止をすることは当然あり得ますが、ただ禁止するのではなく、なぜ禁止するのか、禁止された行動のかわりにどのような行動ができるのか、といった方向で考えることが求められます。

インターネットを中心とした情報社会では、年齢や国籍、身分等を問わず、誰もが独立した一人の人間として扱われます。子どもたちがトラブルに巻き込まれないためには、「子どもを危険から遠ざける」という考え方に加えて「子どもが一人の人間として、自ら考えて正しく行動できる」という視点を意識する必要があります。

近年では、「禁止」を主とした従来型の情報モラル教育から脱却し、情報化や国際化に対応した社会のよき担い手となるためのポジティブな学びとして「デジタル・シティズンシップ教育」にも注目が集まっており、動画教材等も公開されています。こうした新しい動向を踏まえながら、子どもたちが自ら考え、正しく判断して行動できるようになるために、時代に対応した情報モラル教育の実践が期待されています。

▼参考文献
文部科学省(ウェブサイト)「情報モラル教育の充実
文部科学省(ウェブサイト)「情報モラル指導モデルカリキュラム
国立教育政策研究所(ウェブサイト)「情報モラル教育実践ガイダンス
Common Sense Education(日本語字幕:豊福晋平)「デジタルシティズンシップ教材(日本語字幕版)
文部科学省『教育の情報化に関する手引(追補版)』2020年

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