卒業式本番で緊急対応!? リーダーシップ・フォロワーシップは育ったか?【5年3組学級経営物語24】

連載
学級経営のポイント満載の学級小説「4年3組~6年3組 学級経営物語」

通称「トライだ先生」こと、2年目教師・渡来勉先生の学級経営ストーリー。今回は、「次世代リーダー」にトライします。
卒業式が迫る3月、5・6年の合同練習は、散漫な6年生の態度が原因で、一向にはかどりません。教師たちに募る焦りやイライラ。この状況をどうやって乗り越えるか!?
支える側の5年は、フォロワーシップの姿勢であたります! フォロワーシップ体験が、次の最高学年への心構えを育み自覚を高めます。さあ、5年の総決算として「次世代リーダー」の育成にレッツトライだ!

文/大和大学教育学部准教授・濱川昌人
絵/伊原シゲカツ

学級経営物語タイトル

3月②「次世代リーダー」にレッツトライだ!

<登場人物>

トライだ先生(渡来勉/わたらいつとむ)
教職2年目の5年3組担任。 真面目で子ども好きの一直線なタイプ。どんなことでも「トライだ!」のかけ声で乗り越えようとするところから、「トライだ先生」とあだ名が付く。トラブルに見舞われることが多く、学級経営の悩みが尽きない。特技は「トライだ弁当」づくり。


しずか先生(高杉静/たかすぎしずか)
5年1組担任で、今年はじめて学年主任に抜擢された、教職10年目の中堅女性教諭。ベテラン教諭に引けを取らないリーダーシップぶりは、剣道五段の腕前に依るところも。産休明けで、子育てと仕事の両立に日々奮戦中。


オニセン(鬼塚学/おにづかまなぶ)
教職生活4年目の5年2組担任。祖父と父が有名校長で母も教師という教育一家出身。イケメンでなおかつ優秀な成績で教育大学を卒業したという、典型的な〝オレ様〞タイプの教師。しかし、昨年度、学級内のトラブルに十分対応できず、再び5年担任を任じられたという経緯をもつ。

卒業式合同練習、再開!

翌々日の放課後、1組教室で渡来先生たちに、合同練習の再開について説明をする高杉先生。

「再開にあたって、鬼塚先生に依頼がある。…大河内先生からな」

えっ、という顔の鬼塚先生に内容を伝えます。

「動画撮影の要請だ。呼びかけの様子を撮影する。それを、個別練習の自己チェックの資料にする」

「『見える化』か。5年も撮影してほしいな!」 ・・・ポイント1 

感心する渡来先生に、ニッコリ笑う高杉先生。

「望月先生が中心となり、呼びかけ等でグループ練習が始まった。今回は、学ぶべき点が多い」

その言葉に触発され、発言をする渡来先生。

「唐突ですが…、5年のフォロワーシップを生かせる活動を思いついたので、聞いてください」

興味深く聞く2人、瞬く間に時間が過ぎます。

翌日、雰囲気が変わってきた講堂。座席に行儀よく座る5年、眼前で始まった6年の呼びかけ練習。間違いや聞き取りにくい言葉もありますが、教師の叱責や子どもの雑談等は一切ありません。終了と同時に、大河内先生が個別指導の必要な子どもたちを呼びます。鬼塚先生が撮影した動画に見入るユウトやミノルたち。

「俺の言葉、…聞こえないぞ。これはダメだな」

「タイミング、合ってなかったよ、…ごめんな」

子どもたちの自己評価に、満足げな鬼塚先生。

「課題が分かれば、自主練習にかかる。ワイルドな連中も、仲間に入れてくれよな、アカリ!」

グループ別に練習するしっかり者のアカリがニッコリ笑い、手招きします。喜んでグループに加わるユウトたち。講堂に明るい声が響きます。大河内先生が、5年に指示を出しました。

「さあ、次は5年の呼びかけだ。頑張れよ!」

「任せてください!」

「盛り上げますから!」

そのフォロワーシップに、微笑む渡来先生。

ポイント1 【練習の「見える化」の工夫】
「ちゃんとしなさい」「メリハリをつけて」等の抽象的な助言では、具体的なイメージが子どもたちに伝わりにくいものです。説明に加えて教師が示範して見せる、上手な子どもがモデルになる等の『見える化』の工夫が効果的です。また、対象の子どもを撮影して映像を見せながら具体的に助言をする等の方法も理解を促すでしょう。

自主的活動にトライだ!

合同練習は順調に進み、今日は退場の練習。5年をチラリと見て、説明を始める大河内先生。

「卒業式のフィナーレだ。温かな思いを感じながら、胸を張って歩こう。今年は、5年が新しい取り組みを用意してくれた。では始めるぞ!」・・・ポイント2

高杉先生が頷くと、壁際の鍵盤ハーモニカやオルガン、木琴、太鼓等の楽器類の方に5年たちが静かに移動。後は、座席でリコーダーを取り出して待機。生演奏で、6年を送り出します。

「卒業生が退場します。拍手でお送りください」

大河内先生の合図で、6年生の前に立つ担任たち。いくら叱っても動かなかった子どもたちの変容が、先生たちの気持ちも動かしました。晴れやかな表情で、子どもたちを見つめます。

学級ごとの退場が始まりました。途切れなく演奏される、音楽の時間に習った懐かしい曲。拍手の中を歩みながら、涙ぐむ6年生もいます。その光景に、一年後の姿を空想する渡来先生。

『この子たちとの別れなど、…考えられないな』

鬼塚先生に、肩をポンと叩かれハッとします。

「涙を拭けよ。来年は………一緒…6年……」

全員の退場が終わり、一際高まる演奏と拍手。鬼塚先生の言葉は、殆んど聞こえませんでした。

ポイント2 【学校行事における自治的活動の助長】
卒業生の送り出しを在校生の心づくしの器楽演奏で行えば、BGMよりも温かな雰囲気が 生まれるでしょう。また、入学式では2年生が「お迎えの会」等を実施しますが、その際に「2年生が選んだ学校ニュース(学校紹介)」等を取り入れると、より親しみのある行事になります。厳粛な儀式的行事に自治的活動を融合させる工夫が、より豊かな学校行事を創り出します。

大河内先生の教え

流れるように時間が過ぎ…、卒業に向けての準備や練習は終盤を迎えていました。本番同様の予行も、滞りなく終了。明日の卒業式を前に、講堂は卒業式の式場に姿を変えていました。最終チェックをする大河内先生を手伝おうと、講堂のドアを開ける渡来先生。ひな壇、舞台には国旗や校旗、花瓶いっぱいの花。整然と並ぶ座席。その中に、座る大河内先生を見つけました。

「お疲れ様です。何か手伝うことはないですか」

「申し訳ないな。でも、大丈夫! 準備は万全、…作業終了だ」

寛いだ様子を見て、雑談を始める渡来先生。

「大変ですね。6年の指導も引き受けられて…」

「妥協してはダメだ。高杉先生の勇気ある行動で教えられたよ。…私は、教務主任として大きな失敗をしていたんだ。…6年の担任に、申し訳ないことをした」

不思議そうな渡来先生に、続きを語ります。

「私が、主体的参加を促す指導のあり方を徹底しておけば、こんな混乱は起きなかった。最初からもっと支えるべきだった。6年が抱える課題や困難な状況に対して…。学年の指導に干渉してはならないと、遠慮し過ぎた」

悔む気持ちを残し、立ち上がる大河内先生。

「子どもたちにはこう告げたんだよ。…ベストを尽くすだけでいい。上手くいかなくても、先生たちが全力で支える。だから素晴らしい時間を創るため、一丸となって頑張ろう、…とな」 ・・・ポイント3

「勉強になります。これからも教えてください」

「ああ、頼りない教務主任だが…、よろしくな!」

心に染みる言葉に、自然に頭が下がる渡来先生。大河内先生は、嬉しそうに笑いました。

ポイント3 【主体的活動を促す事前指導】
卒業式練習の最終日に、どんな励ましの言葉を子どもたちに送るべきか―ずっと指導してきた教師としては、あれもこれも言っておきたいですね。でも、最も大切な事だけに留めるべきです。私の場合は「主体的活動を促すこと」です。子どもたちを信頼し、「育ててもらった家の人たちや卒業式を支えてくれた人たちに感謝して、最高の卒業式をつくろう。多少の失敗や不手際は、教師がカバーする!」とシンプルに伝えました。主体的活動を促すポイントをシンプルに伝えることは、大切な事前指導だと思います。

いざ本番、予期せぬ事態が発生!

咲き始めた桜、満員の講堂。証書授与も終わり、卒業式は滞りなく進んでいます。礼服をまとった大河内先生が、紅白リボンのついたマイクの前に立ちました。そして、厳かに告げます。

「卒業生、…別れのことば!」

その言葉で、一斉に立ち上がる6年生。音を立てず、整然とひな壇に並んでいきます。

「みんなここで泣く。呼びかけは感動するぞ」

教職員席で、ボソッと呟く鬼塚先生。その右手に握られたハンカチを、渡来先生は横目でチェックしました。そして、各々の思いがこめられた別れの言葉が、滑らかに繋がり始めました。

「春、桜の蕾も膨らみ始めた春…」

「6か年の課程を終え、私たちは…」

女子たちが声を揃えて、言葉を発します。

「西華小学校から、巣立ちます!」

「未来へ向かって、旅立ちます!」

今度は、男子たちが声を揃えます。ひな壇の「呼びかけ」に、会場も安心して聞き入っています。全てが順調、と誰もが思っていました。

その時…、異変が起こりました。ひな壇上段端に立つアカリの体がグラリと揺れ、崩れるように倒れていきます。そして、ゆっくりと落下。

一斉に立ち上がる教職員。急いで駆け寄る大河内先生たち。…しかし、距離があり過ぎました。最悪の事態の予感に、誰もが凍りつきました。しかし、思いがけないことが起きました。

前段にいたミノルが、咄嗟にアカリの腕を掴みます。けれど支えきれず、2人とも落下。もうダメかと思った時、さらに前段のユウトが床にダイブ。落下する2人を、体当たりで受け止めました。ドンッ、と大きな音と振動がして、倒れ込む3人。血相を変えて駆け寄る先生たち…。

困難を主体的に乗り越える卒業生たち

駆けつけた先生方が、3人を抱き起します。アカリを抱え暫く様子をみていた保健の先生が、周囲の先生方に冷静な声で報告しました。

「貧血ですね。頭部は打っていません。ユウトの体がクッションになり…、不幸中の幸いです」・・・ポイント4

大河内先生が、ユウトたちに声を掛けます。

「ユウトもミノルも、怪我はないか!」

「ワイルドだから大丈夫。…呼びかけ練習で助けてもらったアカリを、助けられてよかったよ」

ゆっくり立ち上がるユウトとミノル。抱えられたアカリが、青白い顔で2人に頭を下げます。

「ありがとう…。忘れないわ、2人の優しさ」

頭をかく2人に、観客席から大きな拍手。

「3人が大丈夫なら、…続きを始めましょう」

暫くして、6年のナオやトシがみんなに呼びかけました。無言でひな壇に並び直す6年生。驚くほど整然とした動きで、次の指示を待ちます。元の場所に戻るアカリ、ユウト、ミノル。

「座ったままの参加でいいよ。ユカリは」

優しい声かけが、周囲から届きます。

「それでは、呼びかけを再開します!」

大河内先生のアナウンス。中断したことを感じさせない張りのある声が、講堂に響きました。

ポイント4 【卒業式の中での緊急対応】
卒業式では、立ち眩み等の体調不良、緊張のあまり段取りを間違える子ども等、様々な事態に陥ることがあります。指導者は、もしもの事態を想定しておかなくてはなりません。例えば「立ち眩みの場合は、その場にしゃがむ姿勢をとる」といった対応の仕方を教えておく必要があります。そして、全体指導として「どんな時でも、慌てず冷静に行動する。先生の指示を待つ」等を行っておくことが大切です。何よりも、子どもたちの体調の管理に配慮する等、常に緊急対応に備えるように心がけましょう。

感動のフィナーレ

呼びかけが合唱に移り、涙を溜めて歌う子どもたち。アクシデントを乗り越えたことで、6年生の心はさらに結束しました。

その後、記念品贈呈や保護者謝辞等が、粛々と進められ、遂に最後の時が訪れました。

「卒業生が退場します。拍手でお送りください」

司会の合図で、整然と動き出す6年。演奏位置につく5年。6年担任の合図で、退場と演奏が同時に行われました。心のこもった生演奏、そして温かな拍手、先生方や家の人たちの称賛に、途中で泣き出す6年たち。

準備のハンカチで両目を覆う鬼塚先生。渡来先生は、6年生が最後に示した主体的な行動に感動していました。

未来に向かって!

「一緒に写ろうよ!」

「オニセンも入ってよ!」

正門付近。カメラを構える一団が鬼塚先生に声を掛けます。近くの望月先生も手招きします。

渡来先生に背中を押されて、恥かしそうに近づいていく鬼塚先生。恒例の記念写真を微笑ましく見つめる渡来先生に、高杉先生が囁きます。

「6年担任たちが、大河内先生にお礼を言っていた。…良い勉強をさせてもらいました、とな」

渡来先生が、嬉しそうに顔を向けました。

「いろいろありましたが、いい卒業式になりました。主体的な行動のよさが5年生にも伝わり、次世代リーダーへの自覚も高められました。…私も、子どもたち自身が素晴らしい卒業をめざして頑張る、最高の学級を育てたいと思います」

ニヤリと笑うと、意味ありげに呟く高杉先生。

「次は我々の出番だ。…来年も一緒に頑張るか」

「もちろんトライです! でも校長先生が…」

「また意見具申をする。3人まとめて6年だ!」

満面笑顔で記念写真に納まる鬼塚先生。渡来先生と高杉先生も、最高の笑顔で微笑みました。

(5年3組学級経営物語 完)

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「5年3組学級経営物語」は今回で終了です。濱川先生の次回作にご期待ください!

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