心のこもった「6年生を送る会」にトライだ!【5年3組学級経営物語22】
通称「トライだ先生」こと、2年目教師・渡来勉先生の学級経営ストーリー。今回は、フォロワーシップです。
6年を送る会の準備を進める時期。しかし、6年の問題行動の数々に、下学年の子どもたちは、心をこめて六送会を計画しようという気持ちになれずにいます。相互理解と信頼回復に取り組む鬼塚先生たち。はたして、6年は最高学年としての信頼を取り戻すことができるでしょうか。そして、5年はフォロワーシップの精神をもって、6年を送る会を実施できるでしょうか……。
さあ、「フォロワーシップ」にレッツトライだ!
文/大和大学教育学部准教授・濱川昌人
絵/伊原シゲカツ
2月②「フォロワーシップ」にレッツトライだ!
目次
<登場人物>
トライだ先生(渡来勉/わたらいつとむ)
教職2年目の5年3組担任。 真面目で子ども好きの一直線なタイプ。どんなことでも「トライだ!」のかけ声で乗り越えようとするところから、「トライだ先生」とあだ名が付く。トラブルに見舞われることが多く、学級経営の悩みが尽きない。特技は「トライだ弁当」づくり。
しずか先生(高杉静/たかすぎしずか)
5年1組担任で、今年はじめて学年主任に抜擢された、教職10年目の中堅女性教諭。ベテラン教諭に引けを取らないリーダーシップぶりは、剣道五段の腕前に依るところも。産休明けで、子育てと仕事の両立に日々奮戦中。
オニセン(鬼塚学/おにづかまなぶ)
教職生活4年目の5年2組担任。祖父と父が有名校長で母も教師という教育一家出身。イケメンでなおかつ優秀な成績で教育大学を卒業したという、典型的な〝オレ様〞タイプの教師。しかし、昨年度、学級内のトラブルに十分対応できず、再び5年担任を任じられたという経緯をもつ。
学級活動(3)ア「もうすぐ最高学年」にトライだ
「では、『目指す最高学年とは』を発表しよう」・・・ポイント1
渡来先生の言葉で、意欲的に発言するヒロ。
「頼れるリーダーを目指します。他の学年を助け、委員会やクラブをリードしていきたいです」
目指す6年像を個々に描き、実現を目指す。先日、学年で計画した学級活動の実践です。
「困っている人の役に立ちたい、と考えます」
遠慮気味に話すサキに、拍手が起こります。
「相手の考えや思いを大事にする人がいいな」
タカの意外な発言に驚くみんな。注目を浴びたことに少し戸惑いながら、続きを話すタカ。
「昨日、6年が謝ってきた。元々は一緒に遊んでいたけれど、5年だけで遊ぶようになって…。だってすぐに揉めるから。でも寂しかったんだって…。そんな気持ちが分かる人になりたい」
「いい所に気づいたぞ。最高学年に相応しいな」
称賛する渡来先生。その後も発表が続き、一段落したところで次の段階に入りました。
「発表した目標を達成するため、何を頑張るか。とくに、5年の間に実行すべきことを考えよう」
難しい問いかけに思い悩む子どもたち。様子を見ていた渡来先生が、静かに口を開きました。
「様々な方法があるが、一例としてフォロワーシップという考え方を紹介したい。それは…」
子どもたちは、真剣に耳を傾け始めました。
ポイント1 【学級活動⑶ア】
「もうすぐ最高学年」は、「学級活動⑶ア 現在や将来に希望をもって生きる意欲や態度の形成」を目指す実践です。つまり、「どんな6年になりたいか」という目標を個々が設定するキャリア教育の一環です。自分で意思決定した目標により、「5年でなすべきこと」や「6年で目指す姿」等というキャリアステージを子ども自身で描いていくことができます。ただ、子ども任せにするのではなく、実践後も継続的な支援や指導は不可欠です。
立ち上がったナオ
「意思決定って大事だな。実践意欲が違うぞ!」
学級活動⑶に初めて取り組んだ鬼塚先生の呟きに、苦笑いの渡来先生。休憩時間の職員室に、遅れて戻ってきた高杉先生が話に加わります。
「1組も個々の目標達成に向けて、よく頑張っているぞ。ところで、送る会の準備はどうだ?」
言葉が詰る渡来先生、困った表情で答えます。
「努力はしていますが、6年の態度が問題で…」
落胆する鬼塚先生。会話は途切れました。
その日の昼休み―送る会のポスターを廊下の掲示板に貼っていたヒロやジュンたちを、ニヤニヤ笑いの6年たちがからかい始めたのです。
「ダッセー! これ描いたヤツ、図工は1か2だ」
「資源の無駄だ、オニセンが教えてくれただろ」
我慢が限界に達して、言い返そうとするヒロ。その時、突然後方で大声が響き渡りました。
「最高にダサくてキモいのは、あんたたち。6年のために頑張っている5年に、謝ってよね!」・・・ポイント2
元応援団長の6年のナオが、仁王立ちで睨んでいます。逆切れする6年たちに、別の声が響きます。
「ごめんなさいって言えよ。俺たち許さないぞ」
そう言って腕組みして見つめるのは、6年のユウト、コウジ、ミノルの3人でした。
謝って逃げる、からかっていた6年グループ。力強く宣言するナオ。
「しっかり受け取ったわ、5年の気持ち。至らない6年だけど、最後までよろしく頼むわよ!」
ポイント2 【集団の力】
生徒指導において、教師の指導よりも子ども同士が注意しあう方が影響力がある場合があります。「朱に交われば赤くなる」というように集団には、非常に大きな影響力があるのです。 教育的に正しい影響力であれば「よりよい集団の雰囲気」や「集団規範」の形成に役立ちますが、逆であれば「同調圧力」や「異分子の排除」等の人権侵害の温床になります。それゆえ、その影響力が正しく行使されているかをしっかり把握する必要が、教師にはあります。
フォロワーシップで盛り上げよう!
「何かあったのか? 急にやる気を出して…」
児童会室で活動するヒロやジュンたちに、質問する渡来先生。タカとの会話を語り出すヒロ。
「相手の思いや考えを知れば、ケンカは減る。支え合うこともできる。…6年を支えている俺ってカッコいいな、とタカが自慢していました」
急に無言になる渡来先生。ジュンが驚きます。
「あれっ…。泣いてるんだ、トライだ先生」
「ち、違う、違うぞ! 目にゴミが入ったんだ」
感動の涙を、慌ててゴシゴシ拭く渡来先生。
「オニセンと同じ…。涙脆いな、オジサンたち」
その頃…、鬼塚先生は子どもたちが帰った6年3組で、望月先生と語り合っていました。
「少し変わったと思うけど、このクラス。ユウトたちの表情も…、オレの単なる主観だけどな」
穏やかな視線の鬼塚先生に、微笑む望月先生。
「聞きましたよ、鬼塚先生。この前のポスターの件を、…掲示板の近くに居られたんですって」
ギョッとする鬼塚先生、話は続きます。
「5年をからかう6年たちを叱ろうとした。でも、一瞬早くナオたちが現れて…。ナオたちの啖呵を隠れて聞く鬼塚先生が、涙を流してたよって…、目撃した子どもから聞きましたよ」
そして沈黙する鬼塚先生に、頭を下げます。
「思い出に残る卒業に向けて、頑張れそうです。鬼塚先生、これからもよろしくお願いします」
心をこめた送る会にトライだ!
もうすぐ3月、送る会の準備も順調に進行中。満足そうな渡来先生に、ジュンが話しかけます。
「プログラムの中身は、去年とあまり変わらない。でも、5年を中心に心をこめて運営する。他学年にも、もっと呼び掛けていくつもりよ」
「卒業式は、5年しか参加できない。4年までは送る会がお別れの機会になる。それを伝えてほしい。心をこめて6年を送り出してほしいと…」・・・ポイント3
渡来先生の返事に、大きく頷くジュンたち。
『よりよい卒業に向け、5年として心をこめて支えていく。この経験が、きっと素晴らしい未来につながるんだ。次は、…6年にトライしたい!』
作業を続ける子どもたちに、渡来先生は心からの微笑みを返しました。
ポイント3 【卒業生を送る会の意義】
「卒業式に参加できない子どもたちには最後の集まりであること」や、「卒業式に向けた気持ちを盛り上げていく機会」であることを事前指導することで、送る会への気持ちを高められます。この1年間の「縦割り活動」の最後のまとめとして、お世話になった6年への感謝の気持ちや励ましの言葉が、心をこめて伝えられるようにどの学年も指導していきましょう。
(次回へ続く)
<<前の回へ ●