友人の教員離職と、キャリアデザインのはざまで…【5年3組学級経営物語19】

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学級経営のポイント満載の学級小説「4年3組~6年3組 学級経営物語」
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通称「トライだ先生」こと、2年目教師・渡来勉先生の学級経営ストーリー。憧れの大河内先生のように、素晴らしい指導力や教師力を身に付けたい。そう願ってひたすら努力を重ねることは尊い。しかし、どんなキャリアを形成するかをデザインしていく能力も必要です。さあ、よりよい教職人生の実現を目指して、「キャリアデザイン」にレッツトライだ!

文/大和大学教育学部准教授・濱川昌人
絵/伊原シゲカツ

学級経営物語タイトル

1月①「キャリアデザイン」にレッツトライだ!

<登場人物>

トライだ先生(渡来勉/わたらいつとむ)
教職2年目の5年3組担任。 真面目で子ども好きの一直線なタイプ。どんなことでも「トライだ!」のかけ声で乗り越えようとするところから、「トライだ先生」とあだ名が付く。トラブルに見舞われることが多く、学級経営の悩みが尽きない。特技は「トライだ弁当」づくり。


しずか先生(高杉静/たかすぎしずか)
5年1組担任で、今年はじめて学年主任に抜擢された、教職10年目の中堅女性教諭。ベテラン教諭に引けを取らないリーダーシップぶりは、剣道五段の腕前に依るところも。産休明けで、子育てと仕事の両立に日々奮戦中。


オニセン(鬼塚学/おにづかまなぶ)
教職生活4年目の5年2組担任。祖父と父が有名校長で母も教師という教育一家出身。イケメンでなおかつ優秀な成績で教育大学を卒業したという、典型的な〝オレ様〞タイプの教師。しかし、昨年度、学級内のトラブルに十分対応できず、再び5年担任を任じられたという経緯をもつ。

親友からの電話

『研修会は欠席だ。…教師を辞めるんだ、俺は』

大学時代の友人、伊原雄介先生からの突然の電話を思い出し。気持ちが乱れる渡来勉先生。

12月初旬、市教育センターで開催中の『2年次研修』の最中です。講話の内容に集中しようと努めます。 

「…本市の『教員のキャリアステージ』では、赴任後2年が新任の時期。現在をしっかり振り返り、次の目標を設定する必要があるのです」 …ポイント1

けれど、電話の内容を思い出して集中できません。

教職の素晴らしさを熱く語り、教師人生を共にスタートさせた大親友の悩みや辛さ…。寄り添えなかった自分の不甲斐なさ…。後悔や悲しさに翻弄されたまま、研修会は終わりました。 

立ち上がり研修室を出ようとした時、背中をポンと叩かれました。振り向くと、北条仁指導主事――11月の総合の授業『コメから世界を見つめよう』でお世話になった先生が、語りかけてきました。

「久しぶりだな。相談がある。時間は大丈夫か」

ポイント1 【教員のキャリアステージ】
各地域の教育委員会では、教員のキャリアに応じた到達目標や研修内容等を具体的に示しています。新任の時代から中堅、ベテランへとキャリアアップを図っていくために、各ステージで取り組むべき事柄をそこに明示しています。教員研修の際等に紹介されますが、一度じっくり目を通しておくことが大切です。

教職を支えるものとは

廊下の椅子に座り、説明を始める北条先生。

「さっき説明があったが来年1月の最後の新任研修会……実践報告会だが、これから発表メンバーを決める。私は、渡来先生を推薦しようと思う。これまでの歩みや課題を伝えてほしい」

「ち、ちょっと待ってください。…なぜ私が?」

表情が変わる渡来先生に、説明を続けます。

「君は、教職に夢を描き、子どもたちの成長を喜び、キャリアを積んできた。様々な問題を乗り越え、教師という仕事にプライドを持って…。その体験談や考えを、ぜひ聞かせてほしいんだ」

「いや、周りの先生方に支えられただけで…」

首を振る渡来先生に、真顔で応える北条先生。

「確かに…、教師は現場で育つというからな。だが心身を擦り減らし、ストレスに押し潰される仲間もいる。離職を考え、早期退職する新任も…。…ポイント2 多忙でストレスも多いが、夢やプライド、やりがいを持てるなら頑張れる。だから、熱い思いや心温まるエピソードを求めているんだ」 

寂しそうな伊原先生の顔を思い浮かべ、渡来先生は言葉に詰まりました。長い間考えて、一語一語かみしめるように北条先生に答えます。

「自信はありません。だけど、…トライします」

ポイント2 【新任教員の離職】
新任教諭が1年以内に依願退職する事例が増えています。文科省の調査(2018年度採用)では、全国の公立小中高校、特別支援学校の教諭のうち431人が1年以内に依願退職。前年度比73人増となっています。最も多い退職理由は、自己都合が299人、病気が111人(うち104人が精神疾患)。新任教諭への適切な支援は必要不可欠ですが、「心が折れる」「自信を失った」「プライドが持てない」等の相談事には、同僚からの日常的なアドバイスが非常に効果的です。 (参考資料…西日本新聞

夢を見失う教師、再発見した教師

「素晴らしい。冬休みの宿題として準備に励め」

微笑んで答える高杉静先生に、うなづく渡来先生。

「正式な決定はまだですが、頑張るつもりです」


翌日の放課後、職員室で二人の話を聞いていた鬼塚学先生が、しみじみと語り始めました。

「その友達はオレと同じだ。…前任校を2年で飛び出した時は退職も考えた。教育一家で、家族にも散々責められた。だから辛い気持ちはよく分かる。でも、オレはこの学年で教師を続ける意欲を取り戻せた。…本当に感謝している」

「今の気持ちを忘れず精進しろ。…録音したぞ」

明るい表情の鬼塚先生と、優しい視線の高杉先生。チームの一員として幸せを感じる自分。伊原先生と話し合おう…、と渡来先生は心に決めました。

退職の理由は…

休日の午後、人影が疎らな教育大学の中庭。ベンチに仲良く腰掛ける渡来先生と伊原先生。 

「ここで、講義ノートをよく見せてもらったな」

懐かしそうな渡来先生に、苦笑する伊原先生。

「お陰で教師になれたよ。…本当にありがとう」

深々と頭を下げる渡来先生。暫くして姿勢を正すと、口数が少ない伊原先生に問いかけます。

「あんなに頑張っていたのに、なぜ辞めるんだ」

落葉樹を見つめ、低い声で答える伊原先生。

「思い知ったよ、自分の非力さを。精一杯頑張ったけど、子どもたちを十分に救えなかった。俺の理想は、保護者や同僚に通じなかった。そのうちに、頑張る意欲もなくなってきた。だから自分を鍛え直し、課題解決できる力を身に付けたい。…大学院で学び直そうと考えたんだ」

職場の愚痴や批判を予想していた渡来先生は、意外な答えに戸惑いつつも退職を押し止めます。

「転勤や休職の制度もある。うちの学年では…」…ポイント3

鬼塚先生の例を出して、説得を続けます。けれど、伊原先生の気持ちは変わりませんでした。

ポイント3 【教員の転勤や休職】
現任校で勤務を続けない方が教育効果を高めると管理職が判断した場合、通常より早く転勤できます。転勤理由は、学級崩壊、他の教職員や保護者等との不適応、また家庭事情等がありますが、具体的事実をもとに管理職が人事異動の書類作成をし、教育委員会の聞き取りの際に伝えて了承を得る必要があります。また、休職も可能ですが個人の状況等により対応が変わってきますので、まずは管理職と相談することが肝心です。近年では、様々なストレスを抱え、心の病等で病気休暇を取得するケースが増え、その後の復帰プログラムも整備されています。

(次回へ続く)

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