「学校の安全」とは?【知っておきたい教育用語】

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【みんなの教育用語】教育分野の用語をわかりやすく解説!【毎週月曜更新】

新型コロナウイルスや自然災害などによって、いま学校の安全が脅かされています。このような事態にどのように対応していったらいいでしょうか。今回の教育用語では「学校の安全」を取り上げます。

執筆/国士舘大学准教授・堀井雅道

みんなの教育用語

学校における3つの安全

学校は子どもたちが教育を受け、成長と発達をとげていく場ですが、子どもの成長・発達にとって妨げになる事象がたびたび発生しています。

もっとも身近なのは、授業や課外活動を含めて学校の管理下における教育活動中に発生する事故です。独立行政法人日本スポーツ振興センターの災害共済給付の統計情報(2019年度)によれば、1年間で約96万件の事故(医療費を含めて療養費5,000円以上の負傷や疾病)、56件の死亡事故、363件の障害をもたらす事故が発生しています。このような学校生活において生じる事故の防止は、「生活安全」として捉えられています。

他方、交通事故の防止に向けた「交通安全」や、地震や津波をはじめ自然災害等の被害拡大を防止する「災害安全」も重要です。

「学校安全」は、主にこれら3つの安全について、「安全教育」(教師による安全教育、子どもの安全学習)と「安全管理」(子ども・教職員等の対人管理、学校施設・設備の対物管理)を通じて取り組むものです。

「学校の責務」とは

学校の安全について、「学校保健安全法」において、学校の責務が次のように定められています。

  1. 学校安全計画の策定と実施(27条)
  2. 学校環境の安全確保(28条)
  3. 危険等発生時対処要領(危機管理マニュアル)の作成と教職員への周知・訓練等の実施(29条1項・2項)
  4. 事故等の発生後の学校関係者への心身回復支援(29条3項)
  5. 保護者・地域住民・関係機関との協力・連携(30条)

これらには教育委員会との共同責務であるもの(法令上、「学校においては」という主語は学校・教育委員会の両方をさします)や、校長が担う責務があります。校長の責務としては、学校環境の安全確保や危機管理マニュアルの教職員への周知・訓練があります。

なお、学校環境の安全確保については、この法律の省令(学校保健安全法施行規則)で、学校の「安全点検」の責務が定められています。

以上の法的責務については、必ず実施しなければならないものです。

東日本大震災の津波により児童74名と教員10名が犠牲になった石巻市立大川小学校の裁判例では、学校保健安全法における法的責務は学校等の「安全確保義務」として必ず取り組まれなければならず、それは学校制度を成立させる根源的義務であると示されています(最高裁決定2019年10月)。

このように学校の「安全第一」を実現するために、法令(教育職員免許法・同法施行規則)の改正が行われ、2019年度から大学等で教員免許を取得するために必要な科目の中に、「学校安全への対応」を必ず含むことになりました。教員には「学校安全」に関する意識と知識は必須だということです。

「具体性」「実効性」などが課題

「学校安全」に関する取り組みにあたっては、主に以下の課題があります。

第1に、「学校安全」の取り組みにおける「具体性」と「実効性」です。前述の大川小の判決には、学校は学校の危機管理マニュアルに、その実情をふまえて避難場所を明記した上で、そこへ至るまでの避難経路や手段(徒歩等)についても具体的に明記しておく必要があった、と示されています。

このような「具体性」に加えて、「実効性」も求められます。すなわち、いざ事故等が発生したときに、本当に実行できるかについて、あらかじめ「安全教育」(防災訓練等)を通じて検証し、改善しておく必要があります。また、その際には、子どもの「主体的な行動」を育むことも視野に入れておくことが大切です。なぜなら、自然災害をはじめ事故や災害等は、教員やおとなが子どもの側にいるときに起こるとは限らないからです。以上の視点は災害安全のみならず、生活安全と交通安全の取り組みにおいても重要です。

第2に、事後対応のあり方についてです。文部科学省は2016年3月に「学校事故対応に関する指針」を公表しました。そこには、学校や教育委員会が事故等の発生後、3日を目途に事実関係等を確認する「基本調査」を実施することや、それをふまえて、自治体で「詳細調査」(いわゆる“第三者調査”)を実施すること等が示されています。事後対応にあたっては、被害当事者(被害者の保護者も含む)の意向を尊重し、寄り添うことも求めています。

「新型コロナウイルス感染」との関係

昨今「新型コロナウイルス感染症」は厳しい状況にありますが、学校安全の観点からどのように取り組んだらいいでしょうか。ウイルス感染症は本来「学校保健」の問題ですが、感染予防の取り組み方として「管理」と「教育」が基本であるという点で学校保健と学校安全は共通しています。すなわち、「安全・保健管理」と「安全・保健教育」の両面を通じて、一般的に予防対策としてうたわれている「手洗い」「咳エチケット」(マスク着用)の徹底と、「3密」(密集・密接・密閉)の回避をしていくことです。

一方、このような取り組みには「学校安全」の観点から懸念されることがあります。

ひとつは「咳エチケット」の手段であるマスク着用による事故・健康被害です。たとえば、気温や湿度が高いときには「熱中症」が懸念されますし、体育の授業や運動部活動中のマスク着用には「呼吸困難」の危険もあります。文部科学省の「新型コロナウイルス感染症に対応した持続的な学校運営のためのガイドライン」では、「換気や児童生徒等の間に十分な距離を保つなどの配慮をした上で、マスクを外すよう対応」することや、子ども同士の間隔をとっていれば「体育の授業及び運動部活動におけるマスク着用の必要はない」としています。

また、「3密」を回避するために一人で登下校をする場合、交通事故や不審者による声かけの問題などが起こりえます。それを防ぐために、PTAや地域住民や警察等との協力で見守っていくことなどが求められます。

学校の安全を脅かすこのような事態にどのように対応するか、これまでの事例をふまえつつ、教職員のみならず保護者や地域住民等の協力を得ながら、多角的に検討し、備えておくことが大切です。

▼参考文献
独立行政法人日本スポーツ振興センター『学校の管理下の災害[令和元年版]』2019年
文部科学省『学校安全資料「生きる力」をはぐくむ学校での安全教育』2019年
堀井雅道「大川小判決から学校が学ぶべきこと―大川小判決で何が問われたか」(教育開発研究所『教職研修』2020年5月号)

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