9月入学の新入生にには 「一斉切り替え案」「段階案」を提示【教育ニュース】
先生だったら知っておきたい様々な教育ニュースについて、東京新聞の元教育担当記者・中澤佳子さんが解説します。今回のテーマは9月入学の新入生における2つの案についてです。
執筆/東京新聞記者・中澤佳子
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コロナ禍で再び取り沙汰された9月入学
桜の花びらが舞う中、子供たちがランドセルを背負い、期待と不安を胸に学校へ。新学期や入学式の光景は、何年後かに様変わりするかもしれません。
新型コロナウイルスの影響で休校が長引き、学習の遅れを取り戻す策として、9月入学(秋入学)が話題になりました。
それを受けて文部科学省が、移行にまつわる課題などを整理し、ホームページで紹介しました。
実は、9月入学は目新しい話ではありません。文科省によると、1987年の臨時教育審議会から、2013年の「学事暦の多様化とギャップタームに関する検討会議」まで計6回議論され、答申や報告がまとめられました。
全ての教育段階での導入を検討した87年答申は、「大きな意義がある」と認めつつ、「必ずしも意義と必要性が国民に受け入れられているとは言えない」と慎重な内容。その後は留学促進や国際化の観点から、主に大学など高等教育に着目して検討されましたが、大きな変化になりませんでした。
コロナ禍で再び取り沙汰された今回、文科省は移行に伴う課題と対応策を列記しました。
例えば、学年の区切りを変えるので、幼稚園や保育園で現在「同級生」の子たちの間で、誕生月によって小学校入学のタイミングがずれ、保護者の不安や不公平感を招く。移行対応のための教職員の増員が必要。入試や資格試験、新卒採用を行う時期との兼ね合い。必要な法改正も30を超えるとしました。
9月入学は学校、子供、保護者、社会への大きな負担?
2021年度から移行する場合、具体的にどう進めるかも示しています。在学中の子は現学年に202021年8月末まで在籍し、9月から次の学年。小学校への新入生については、二つの案を示しました。
一つは、202021年9月時点で満6歳の子を入学させる案。2014年4月2日から2015年9月1日の間に生まれた子を、同じ学年にする「一斉切り替え案」です。もう一つは、2014年4月2日から2015年5月1日の間に生まれた子を2021年9月に入学させ、その後4年間、就学年齢を1月ずつずらす「段階案」。各案の移行イメージ図も添え、説明しています。
文科省の見込みでは、移行期は子供の数が約40万人増えるとしています。当然、その関連費用もかさみます。「一斉切り替え案」の場合、教職員の増員数は延べ22万3500人に上り、人件費は計1兆5387億円。教室も足りなくなるため、校舎の新増築にも3766億円が要ると見積もっています。「段階案」だと教職員の増員数は延べ19万3600人で、人件費は1兆3335億円、新増築費は計3038億円と算出しました。
文科省の「課題整理」は、9月入学は学校、子供、保護者、そして社会の大きな負担になる、と暗に訴えたかのようです。ただ社会的コストをかけてでも、やる価値のある政策もあります。やめるべきか、あえて踏み切るか。9月入学はみなさんにとって、どちらでしょうか。
『教育技術』2020年11月号より