直接体験で知的好奇心も学力もアップ!【5年3組学級経営物語16】

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学級経営のポイント満載の学級小説「4年3組~6年3組 学級経営物語」
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通称「トライだ先生」こと、2年目教師・渡来勉先生の学級経営ストーリー。 今回は、総合的な学習についてのお話です。
世界の米料理の探求学習で、直接体験を通した学習にトライする渡来先生と5年3組の子どもたち。様々な国出身のALTに協力してもらった活動で芽生えた知的好奇心が、自主的な探究意欲を高めていきます。さあ、子どもたちの「知的好奇心」の向上にレッツトライだ !

文/大和大学教育学部准教授・濱川昌人
絵/伊原シゲカツ

学級経営物語タイトル

11月②「知的好奇心」にレッツトライだ!

<登場人物>

トライだ先生(渡来勉/わたらいつとむ)
教職2年目の5年3組担任。 真面目で子ども好きの一直線なタイプ。どんなことでも「トライだ!」のかけ声で乗り越えようとするところから、「トライだ先生」とあだ名が付く。トラブルに見舞われることが多く、学級経営の悩みが尽きない。特技は「トライだ弁当」づくり。


しずか先生(高杉静/たかすぎしずか)
5年1組担任で、今年はじめて学年主任に抜擢された、教職10年目の中堅女性教諭。ベテラン教諭に引けを取らないリーダーシップぶりは、剣道五段の腕前に依るところも。産休明けで、子育てと仕事の両立に日々奮戦中。


オニセン(鬼塚学/おにづかまなぶ)
教職生活4年目の5年2組担任。祖父と父が有名校長で母も教師という教育一家出身。イケメンでなおかつ優秀な成績で教育大学を卒業したという、典型的な〝オレ様〞タイプの教師。しかし、昨年度、学級内のトラブルに十分対応できず、再び5年担任を任じられたという経緯をもつ。

世界規模の調理実習!

各グループでの調べ学習も終わり、いよいよ実習の日。家庭科室の黒板前にズラリと並ぶ8か国からのゲスト。中国、韓国、フィリピン、ベトナム、ネパール、タイ、ペルー、モンゴルの方々が、エプロン姿で順番に挨拶をします。

全員が市のALT、日本語も達者で子どもたちとの対応にも慣れています。

今日は、3組から順に2時間毎に調理する予定です。参観者の多さに緊張気味の渡来先生に比べ、子どもたちの意欲は最高潮。各グループがゲストを迎えに行き、世界の米料理の実習が始まりました。

支援をするエプロン姿の渡来先生に、教育委員会の北条仁指導主事がそっと話しかけました。

「地球市民の意識が育ちますよ。素晴らしい!」…ポイント1

校長先生や大河内先生、校内の先生方も来られています。他校参観者も多く、感想が聞こえてきます。

「やっぱり迫力あるなぁ」「よくできたレシピだ…」

各グループでは、レシピをもとに子どもたちとゲストが協力。ご飯を炊く、具材を切る、火を通す等の作業の過程でコミュニケーションも活発化します。具材と米を煮込むフィリピン風のパエリア”バレンシア―ナ”という料理です。その隣でフライパンを操る中国の周さん。

「揚州炒飯は、五目焼飯の元祖。頑張ってつくるぞ!」

呼びかけに、オーッと元気な子どもたち。隣では、テーブルに韓国海苔が敷かれています。

「キンパは韓国風海苔巻き。協力して巻くぞ!」

腕まくりの金さんが、笑顔で説明してくれました。

ボタータイホーラガをつくるナランゲレルさんとの興味深い会話を、サキが報告します。

「モンゴルの冬は、吐息で眉毛が凍るんだよ!」

そしてインドネシアのナシゴレン、ネパールのダルバート、タイのガパオライス…。鍋でアロスコンポーヨをつくるバネッサさんはペルーの元気なお母さん。テキパキと指示をします。

暫くして、各テーブルからいい匂いが立ち上ります。タカが、困った顔で近づいてきました。

「中国ではどう言うの、…いただきますって?」

「周さんに聞こう。自分で尋ねることが大切!」

頷いて戻ったテーブルから、「シーファンラァ!」という大きな声が響いてきました。

「やはり、インパクトがあるな。直接体験は…」

2組の実習に備え参観する鬼塚先生が、呟きました。ニヤリと笑って、高杉先生が答えます。

「ジャンヌさんに、己の未熟さを詫びるんだぞ」

ポイント1【地球市民】
世界には多くの国があり、人種や居住地、環境等の様々な違いがあります。しかし宇宙から地球を俯瞰すれば、地球人としての意識が芽生えるとよく言われます。「地球市民」は市民としての意識を国家よりも広い概念に求めています。地球の市民として、誰もが平等に尊重される社会を共に目指す必要性を、混迷する世界に生きる子どもたちに教えていくことが求められているのです。

活動あって学びもある

後片付けを終えると、メモを取り始める子どもたち。タイのナパポーンさんが質問します。

「みんな偉いね。でも、何をメモしているの?」

「タイについて分かったことや、感じたことです。これから、新聞をつくる資料にするんです」

「タイの新聞が完成したら、読んでくださいね」

意欲的な答えに、何度も頷くナパポーンさん。

渡来先生が、みんなに指示を出しました。

「さあ、教室に戻って新聞をつくるぞ!」

元気よく教室に戻る子どもたち。大河内先生が、渡来先生に励ましの言葉をかけました。

「活動あって学びなし、という批判がある。…これからが本当の勝負だ。この知的好奇心の波を学力向上につなぐ指導…。君がどの様に主体的に学ぶ意欲を育てるか、期待して見ているぞ」 …ポイント2

ポイント2【事後指導】
総合的な学習の様々な体験をどうまとめていくか、そこから何を学ぶのか…。これらは、体験活動後にどの様な活動を設定し、どんな支援を行うか等にかかっています。探究活動としてまとめをどう設定するか。その支援の方法や、成果物への評価規準。さらに活動で高まった知的好奇心や、主体的に学ぶ意欲をどう継続させるか…。これらが不十分であれば「活動あって学びなし」と揶揄される状態に陥ります。活動ありきではなく、活動過程を最後まで見通した実践が望まれます。

学びに向かう知的好奇心

「…ナシゴレンは、インドネシア風焼き飯。具材は卵、人参、胡瓜、牛肉…。味は大評判で…」

黒板に貼った壁新聞を示し、協力して説明する子どもたち。今日は、活動まとめの報告会。

インドネシアグループの発表内容は、文化や歴史、インタビューや自分たちの感想にも及びました。 

後方で見守る渡来先生。その傍には、5年の先生たちと再び来校した北条指導主事がいます。暫くして、高杉先生がボソリと呟きました。

「11月の指導計画は、次年度もこの実践だな」

「ICTより直接体験…、勉強になりました」

恐縮気味の鬼塚先生。先生たちの会話に微笑む指導主事。誉め言葉を笑顔で伝えます。

「…それにジグソー学習。成果を全体交流することで、情報量も8倍に増加。良いまとめです」 …ポイント3 

3人の話を聞き、神妙な顔で答える渡来先生。

「…ですが実践を工夫する度に、主体的に学ばせることの難しさを痛感しました。教師自身が知的好奇心を持って取り組む大切さも。まだまだ発展途上…。今後も知的好奇心の向上にトライです!」

そう答え、報告会を再びじっと見つめる渡来先生。その姿が、5年の先生たちには少しだけ大きく見えました。

ポイント3【ジグソー学習】
子どもたちが協力し合い、教え合いながら学習を進めていく学習方法の一つです。例えば、abcdefghという8つのグループで違う学習をします。次に新たに8グループをつくり、旧グループより1人ずつ配置します。(a1,b1,c1…、a2,b2,c3…、a3,b3,c3…の様に編成) そして新グループ内では各々が旧グループでの学びを伝えたり、他の発表を聞いたりします。その結果、参加者は自分が学んでいない7つの内容を獲得し、学習成果は8倍となるのです。この様なジグソー学習法は、アクティブラーニングの実践方法の一つとして、注目を集めています 。

【参考文献】『小・中・高等学校「総合的な学習・探究の時間」―新学習指導要領に準拠した理論と実践―』(学術研究出版社)第10章第3節「コメから世界を見つめよう ~食を通した国際理解~」

(次回へ続く)

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