今日のあるべき学級観とは?「ティール組織」から得られるヒント
ビジネス界のマインドや手法を教師の仕事に落としこむエッジの効いた発信で多くの若手教師に支持される、”さる先生”こと坂本良晶先生の連載。今回は、次世代型組織モデル「ティール組織」をヒントに、これからの学級のあるべき姿について考えます。
執筆/京都府公立小学校教諭・坂本良晶
目次
これからの時代の学級観とは
今年で10回目の担任をしています。
実は初任者の時も、今も4年生の担任をしていて、そのコントラストを感じながら働いています。10年で、自分自身の”観の変化”がとても大きいからです。
世の中はこの10年で大きく変化しました。「答えのない時代だ」という風潮は、少なくとも比較できないレベルにまで強くなったと感じます。産業構造そのものが連続的に変化し続けており、去年の正解が今年の不正解になるようなことも珍しいことではありません。あれだけ成功を収めていたGAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)も、利の独占性が高すぎることから逆風が吹き始めていて、そのビジネスモデルが正解であるということにクエスチョンがつきつつあります。答えの賞味期限は年々短くなっているのです。
これは、上からの指示待ちではなく、自分の見方を働かせて自律して動くことのできるヒトが求められていることを意味しているのではないでしょうか。待っていれば上から自動的に答えが降ってくる時代は終わりを迎え、自分の足で歩いて足元から答えを拾い上げる力が求められています。
では、そんな時代において、学級観をどう持つべきでしょうか。
担任の指示という正解を与え続け、それを忠実に消化する学級が素晴らしいという、かつてスタンダードだった学級観は、 言うまでもなく時代錯誤であると感じます。
学級で期待されることの一つに”観を養う”ことがあると考えます。
今回は、「ティール組織」という組織論をベースに、これからの時代にあるべき学級観について考えていきたいと思います。
ティール組織とは
「ティール組織」とは、フレデリック・ラルー氏が著書『Reinventing Organizations』で提唱した、組織における概念です。組織の進化過程が、色の名称で5段階に分けられています。
ここでは、レッド → アンバー(琥珀) → オレンジ → グリーン → ティール(青緑)というステップにおいて、学級の様子をイメージしていきたいと思います。
なお、最終形である「ティール」というステージに到達することは極めて難しく、少なくとも今の僕の実力では到底無理です。でも、目指すべきゴール像として持ち続けています。
レッド
教師が“恐怖”によって支配するイメージです。昭和のムチャクチャ怖い先生像を思い浮かべると分かりやすいかもしれません。子どもたちは「先生に怒られないこと」が第一目標となり、学校生活を送ることになります。そういう先生が担任になったら表面上、子どもたちはビシッとするかもしれません。でも、それでは子どもの自律も何もなく、ただただ他律の時間を過ごすことになります。
アンバー(琥珀色)
何事も“普通”にルール通りにすることを大切にするイメージです。少しのずれも許されず、ただただ決められたレールの上を走ることが正解だという価値観です。答えが確かに存在した成長社会においてならともかく、今日の時代性を考えると、その学級観で子どもが獲得する「良い子でいること」という思考は未来において足枷となるかもしれません。
オレンジ
担任が熱血で、何でもかんでも上を目指してみんなをガンガン引っ張るイメージです。授業でも行事でも担任主導のトップダウンで盛り上げます。一見とても良いクラスです。ただ、担任の熱意やカリスマ性に依存してしまっている結果、子どもたちは「お客さん」となってはいないでしょうか。子どもたちは「次はどんな面白いことをしてくれるんだろう?」と担任に期待し続け、教師はその期待に答え続けるという構図です。子供たちは受け身的に一年を過ごすということにならないでしょうか。
グリーン
権限を教師から子どもたちへと徐々に移譲し、ボトムアップで運営するイメージです。
授業は、一斉授業から、子どもたち同士の結びつきの中で協働的なものへと移行していきます。教師は「子どもたちに勉強を教える」から、「子どもたちの学びが適切に進むようにファシリテートする」という考え方にシフトしていくでしょう。行事は、どんなことをするかを子どもたちと考えます。”会社活動”が活発化し、「別に必ずしも必要じゃないけれどこんなのあったら楽しいよね」といったことに価値付けがされていきます。
僕はよく、「先生に”やってもらう”じゃなくて、先生を”使って”ね」という表現で伝えます。「こんなことをやりたいので、場や物を用意してほしい」といった具合いです。
ティール(青緑色)
最終段階の「ティール」は、権限をほぼ子どもたちに移譲した状態です。ルールも宿題も授業も、自分たちで自律して計画していきます。日本においてはほぼ存在しないに等しいと言えるのではないでしょうか。この時点で極めて難易度が高いことがお分かりいただけると思います。
ティール組織では、その組織の存在目的(ミッション)を実現するために、個の能力が最大発揮されるよう自主経営されることが求められます。そのため、常々子どもたちに語り、目的を共有させること、個を尊重し高め合うこと、自律して考えることなどを共有して価値づけ続けることが大切なのだと考えます。
「守・破・離」のステップを大切に
※守破離(しゅ・は・り)…もとは武道や茶道で、修業上の段階を示したもの。型を確実に身につける「守」、型を改良・発展させる「破」、新しいものを確立する「離」。
これはかつて僕自身が陥ってしまった大きな反省点なのですが、「物事には順番がある」のです。
「守・破・離」というステップは、ティール組織にもそのままあてはまります。
4月からいきなり子どもたちに「自律だ!」声高に叫んでも、その在り方や方法を理解していないわけですから、多くの場合、子どもたちは戸惑い、それはマイナスへと動きます。時間をかけ、しっかりと語って、価値観を共有した上で、徐々に子どもへ権限を譲渡していかなければなりません。
答えなき時代に答えを見つけ出されなければいけない時代において、子どもたち自身が考え、判断し、価値創出をしていく「自律」は、絶対的に必要なものです。
1983年生まれ。京都府公立小学校教諭。前職では大手回転寿司チェーンで店長として全国売り上げ1位を記録するという異色の経歴をもつ教師。「教育の生産性を上げ、子どもも教師もハッピーに。」を合い言葉に日々発信するTwitter「さる@小学校教師」のフォロワー17000人以上。著書に『全部やろうはバカやろう』(学陽書房)、『MISSION DRIVEN』(主婦と生活社)などがある。