Withコロナの二学期~子供のストレスコントロールのために担任ができること~【分析用データ付き】
長期のコロナ禍、短い夏休みからの授業再開で、子供たちも保護者もストレスを心に抱えながら二学期の生活を送っています。また、過剰な不安やストレスを抱えている子だけでなく、過小な不安やストレス、感じない子供たちのことも意識して対応していくことも大切です。 子供のストレスタイプの違いによる対応を紹介します。
執筆/ろりぽっぷ学園カウンセラー・キャリアアドバイザー・八巻寛治
目次
コロナストレスのアンケートから
この夏休みに、各地の研修会やオンライン研修会等で声をかけていただき、「Withコロナの子供と二学期スタートに向けて~子供のストレスコントロールのために担任ができること~」というタイトルで研修会や勉強会を行いました。例年よりはだいぶ少ない6か所で、約200人の方に参加していただきました。その際、アンケートを行い、128人に回答いただいた結果は次の通りです。
〇質問「『子供のストレス』について知りたいことは何かありますか?」
・知りたいことがある 95%
・特にない 8%
n=128(教育・保育関係者。ただし、男女比、年齢、経験年数等不明)
「知りたいことがある」で特に多かったものは次の通り。
- 子供がストレスを感じているかを把握する方法を知りたい。
- 学年ごとに抱えるストレスは異なると思うが、学年に応じたストレスケアの方法と子供のストレスについて、家庭に伝えられる事は何かということ。
- 子供たちがストレスをどの程度感じているのか、客観的に把握する方法があれば教えてほしい。その兆候を見逃さないようにしたい。
- 家にいる方がストレスになるという子供をどのようにケアしていくか。
- ストレスマネジメントの授業の流れが知りたい。
- 子供の実態に合わせたストレスについての授業を知りたい。
保護者のストレスが与える影響
二学期の授業再開に限らず、長期休業明けの学校や担任の立場としては、「授業時数の確保」「学力維持」を目的に、授業優先に取り組みたいと思っている場合が多いと思われます。 文部科学省調査では、夏休み期間16日間というのが小中学校で最も多く(高校は23日間)、短いところでは4日、長いところでは30日以上の夏休みがある地域もあったようです。そのため、夏休み期間の格差による不満が子供や保護者に見られます。
保護者の不安としては、夏休み期間が短くなり、課題が少ないこともあって、子供が一人でゲームにのめり込むことや、生活リズムが乱れることを心配する声もありました。親自身もコロナでストレスをため、子どもの面倒をみることに負担を感じています。そのため子供は学校生活へのストレスを抱え、長期の休み明けに不安定になりがちで、心の安らぎにはつながらないのです。
国立成育医療研究センターの小中高校生対象の「コロナ×こどもアンケート第2回調査」によると「コロナのことを考えると嫌な気持ちになる」や「最近集中できない」が3割から4割で、強いストレスの症状が示されたそうです。「自分の体を傷つけたり、家族やペットに暴力をふるったりする」という子も約1割いて、小学生に目立つ傾向だったそうです。 この結果からも、長期休み明けや臨時休校明けの子供たちの心理には、配慮が必要であることが分かります。
「ねえ、お父さんお母さん」
「コロナ×こどもアンケートその2『大人たちに伝えたいこと』」国立成育医療研究センターコロナ×こども本部 2020年7⽉ アンケートより
・お母さん、座ってちゃんと聞いて
・僕を抱っこしてね
・やさしい、いいかたをしてほしい
・もっといっこずついってほしい
・しつこく色々聞いてきたり、やらせたりするのはやめてください
・コロナに関係していなくても こどもの悩みに耳を傾けてほしい
・お父さん、すぐ怒らないでほしい ほっとけることはほっといてほしい
・大人の価値観をこどもに押し付けないでほしい
子供たちは、家庭内での自分自身の立ち位置として、「しっかり話を聞いてほしい」「家族の一員として認めてほしい」と思っているのです。この不安や不満を解消せずに登校している子供がいることを意識すると、子供たちの心のケアが必要になることが分かります。
そもそもストレスの捉え方は?
そもそもストレスの捉え方は、大人がそうであるように、子供によっても違います。
<例>明日の発表会の時に一人で担当するセリフがある
①モチベーションが高い子は「やりきって皆に認めてもらえるから頑張る」のように、“正のストレス”を感じて取り組むため、適正に反応することになり“活力”にもなります。
②モチベーションが低い子は「失敗したらどうしよう」「笑われたくないなあ」のような“負のストレス”を感じて取り組むため、過剰に反応することになり“不適応”を起こしやすくなります。
③両方を認識しにくい子もいますが、自分を受容できなかったり、認めたくなかったりするために、自分を過小評価し、意欲低下として反応してしまうことがあります。中には、励ましがプレッシャーになる場合もあるので注意が必要です。
過剰な不安やストレスが問題ですが、過小な不安やストレスや、感じない等も問題になるため、子供たちでも意識して生活することが大切であると思います。
ストレスをためやすい子供のタイプと対応
ストレスをためやすい子供の傾向タイプA
≪特性や性格≫
- 競争心が強い
- 負けず嫌い
- せっかちで余裕がない
- 自己中心的
- 思い込みが強い
- 思い通りにならないとイライラしやすい
- わがまま 等
このようなタイプの子は、過剰反応や強い自己愛がもとで、日常的によくない結果を招く行為を決まって取り続ける結果を招くことがあり、一種の“パーソナリティ障害” と考えられるケースもあるので注意が必要です。
≪対応≫
“不安や怒りをそのまま表に出す、他人をコントロールしようとする” タイプの子には、アンガ―マネジメントプログラム等が有効です。次は、5~6時間で実施する場合の例です。
1 感情の理解-いろいろな気持ちに気付く
①いろいろな気持ち: 感情と表情のつながりに気付く。
②気持ちと顔の表情のつながりに気付こう: 自分の感情に注目する。
③気持ちの木: いろんな感情があることに気付く。
④私の気持ち: 自分の気持ちを確かめる。
2 怒り感情の理解とモニタリング-怒りの気持ちに気付く(怒りの温度計)
①怒りは大事な気持ち: 怒りの感情が起こったときの身体の変化に気付く。
②怒りを感じているときの体の変化に気付こう: 怒りの感情に関する語彙を広げる。
③怒りの温度計を使ってみよう: 怒りの強さの程度を知る。
④怒りの温度計と怒りの言葉:自分のことを確かめる。
3 怒りのコントロール-怒りの気持ちをコントロールする(怒りやわらか作戦)
①怒りの気持ちのコントロール。
②怒りの気持ちをやわらかくする方法: 怒りをコントロールする方法を知る。
③怒りやわらか作戦を立ててみよう: 怒りの段階に対応するコントロール法を考える。
④怒りやわらか作戦をやってみよう:実行場面を決める。
4 敵意的帰属の修正-別の考え方を見つける(ほんとうにそうかな?)
①怒りの気持ちを感じたときの考え: 怒っているときの考えに注目する。
②「ほんとうにそうかな?」と考えてみよう: 他の考え方があることに気付く。
③怒っているときの考えと怒りの温度: ものごとの考え方と怒りの程度の関係に気付く。
④別の考え方を見つけてみよう。
5 アサーティブ・コミュニケーション-自分の気持ちや考えを伝える
①気持ちや考えを伝える3つのタイプ: コミュニケーションにはいくつかのタイプがあることを知る。
②3つの伝え方を比べてみよう。
③自分にも相手にもよい“さわやか”な伝え方のポイントを知る。
④“さわやか”な伝え方のポイントを参考に自分の気持ちや考えを伝えてみよう:アサーティブな伝え方のポイントを知り、実践する。
授業としての時間が取りにくい時は「気持ちを落ち着ける」ことを目的に、次のようなことも有効です。
≪刺激を排除する方法≫
目をつぶる、深呼吸をする、タイムアウトを取って離れる。
≪気分転換・ストレス解消をする方法≫
体を動かす(散歩・運動)、お気に入りの音楽を聴く、水を飲む、お気に入りの本を読む、気に入ったもの(タオル・ぬいぐるみ等)に触れる。
ストレスをためやすい子どもの傾向タイプB
≪特性や性格≫
- 生真面目で几帳面
- 気にし過ぎる傾向が強い
- 頑張り屋さん
- 気配りが上手
- 繊細
- 感受性が強い
- 感情移入しやすい
- 必要以上に場の空気や人の顔色を読む
- 小さい音や環境の変化にすぐに気付く
- 手触り・臭い・音・気温等に敏感に反応する
- 大きい音や人ごみが苦手な傾向がある
このようなタイプの子は、感受性が強く、過剰適応やピアプレッシャー(仲間からの同調圧力)がもとで、不安や怒りを抑圧して表に出さないため、他人にコントロールされやすい傾向にあり、一種の“適応障害”を生じることが考えられるケースもあるので配慮が必要です。
≪対応≫
情緒の安定を図るための自己コントロールについて、発達段階に応じたストレスマネジメントプログラム等が有効です。次は6~7時間で実践する場合の例です。
1 からだの感じをつかもう(呼吸法・肩リラクセーション法)
◇呼吸法…主に腹式呼吸法を行い、情緒の安定を体感させる。
◇身体的・精神的リラクセーション…主に筋弛緩訓練のように身体にはたらきかける活動を行い、情緒の安定を体感させる。
2 認知的ストレスマネジメントの方略
◇ストレスに関する知識やストレス対処の仕方を理解し、自他の多様な感情に気付かせる。
・ストレスのしくみ
・ストレス対処法
3 ストレスコントロールをする
「上手な聴き方」「温かい言葉かけ」「やさしい頼み方」「質問する」「仲間の誘い方」「勇気をためる自己会話」「上手な断り方」「トラブル解決策」等の対応するコントロール法をソーシャルスキルとして学ぶ。
4アサーショントレーニング
①3つの気持ちの伝え方、タイプ別コミュニケーションを知る。
②3つの伝え方を比べる。
③自分にも相手にもよい “さわやか” な伝え方のポイント。
④“さわやか” な伝え方のポイントを参考に、自分の気持ちや考えを伝えてみる:アサーティブな伝え方のポイントを知り、実践する。
まずは健康観察の工夫をしよう
①児童理解としての毎日の健康観察
一般的に行われている健康観察は、呼名した後に「はい、元気です」や「はい、眠いです。昨日暑くて夜中に何度も目を覚ましてしまったからです」のように返事をさせることが多いと思いますが、次のようなやり方はどうでしょう。
・心理状態を表現する 返事に+1
「はい元気です。」の後に次のお題をプラスして答えるようにする。
・今の気分は?
・色にすると何色?
・形にするとどんな形? 等
高学年や中学生など自己開示に抵抗がある場合は「英語で答える」等するとよい。全員終わった後で、「水色と答えた人は何人でしょう」のようにクイズにして出したり、同じものを選んだ人と集まったりするなどして確認してみるのもよい。
・定点観察
「前・横・後」など、いつも決めた場所から観察する。
・移動観察
「休み時間や当番活動、音楽室」など、場所や時間を変えて観察する。
・複数観察
学年や学年部のメンバー、担任外に協力してもらう。付箋を使って気付いた教職員に記入してもらう、等。
②時間を作っての観察・面談
・すれ違った時のチャンス相談として声をかける。今の時期「大丈夫?」と聞くと「大丈夫」とオウム返しに返事されるので、①のお題のように声をかけてみるとよい。
・給食時、当番活動の際にサークル対話のようにして、グループ面談をする。
・個人の日記 グループ日記のテーマに「ちょっと不安なこと」「プチ悩み事」「こんなときのストレス解消法」などを記入してもらう。
《参考》「八巻寛治 365日の学級づくり やまかんメソッドでつくる最高の教室(低・中・高学年編)」(明治図書出版)
③健康観察チェックの例
下のチェックカードの例のようにできるだけ客観的に、気になる子を確認するのに活用します。
●健康観察チェックカード
●健康観察カードから分析したグラフ(児童Aの例)
【ダウンロード】
●健康観察チェックカード
●健康観察チェック(集計Excelデータ)
広がりが大きいほどストレスが大きいことを表しています。どのような場面で大きいか、全体的にはどうかを確認しましょう。
≪Aさんへの対応例≫
〇朝の会・帰りの会でストレスが高く、体調不良を訴えることが多い。自分の気持ちを分かってもらえるような心ほぐしミニゲームをする。
〇休み時間や昼休みに一人でいることが多く、孤立感を感じていることが考えられるので、授業場面でペアやグループ活動を増やしたり、当番活動で他者との交流場面を増やしたりする。リレーションを促進できるような心ほぐしミニゲームをする。
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八巻寛治(やまきかんじ)●ろりぽっぷ学園カウンセラー・キャリアアドバイザー。元公立小学校教諭。上級教育カウンセラーとして人間関係づくりやコミュニケーション能力の育成,子育ての悩み相談等,ガイダンスカウンセリング等を指導。構成的グループエンカウンター,心ほぐしのミニゲーム等心理的距離の取り方やリレーション(関係性)の創り方を発信している。『心ほぐしの学級ミニゲーム集』(小学館刊)『社会的スキルを育てるミニエクササイズ基礎基本30』(明治図書出版刊)ほか著書多数。