低学年がザワザワする時の言葉がけのワザ

兵庫県公立小学校校長

俵原正仁

学年も後半に突入し、すっかりクラスになれた子供たち。活気が出てくるとともに、何となく教室がザワザワしやすい時期でもあります。そんな子供たちにどんな言葉がけをすれば、自己肯定感を高め、やる気を伸ばすことができるでしょうか。ここでは低学年の子供のザワザワにかけるNGワード&OKワードを、3つのケースに分けて紹介します。

執筆/兵庫県公立小学校校長・俵原正仁

〇と✗
写真AC

ザワザワし始めるこの時期にこそ

10月になりました。今年度も後半に差しかかり、ちょっとクラスがザワザワとし始める時期でもあります。

例えば、最近、授業が始まってもなかなか静かにならないことが増えてきたなぁと感じることはありませんか?これって、軽い崩壊フラグが立っている状態です。このフラグをそのままスルーしていたら、確実に学級は崩れていきます。手を打たなくてはいけません。

低学年の場合、力技でとりあえず静かにさせることは可能です。ただし、そのようなことを常に行っていれば、確実に子供たちとの距離は離れていきます。ソーシャルディスタンスが流行語大賞に選ばれそうなこのご時世、子供たちとの心理的距離まで広げてしまってはいけません。力技には副作用があります。無自覚に力技に頼っていると、また違う崩壊フラグを立てることにもつながります。   

そもそも、力技で乗り切る必要はないのです。あなたの学校に、声を荒げることもなく、いつも笑顔で1年間楽しそうにクラスの子供たちと過ごしている先生はいませんか?

そのような先生方は、決して力技を使ってはいません。

柔よく剛を制す。

一律強引な指導ではなく、その場その子に応じた言葉がけを行うことで、子供たちの力を伸ばしているのです。

ケース1 
授業が始まっても静かにならない

北風と太陽のイラスト
俵原先生「太陽のような温かい言葉がけが子供たちの力を伸ばします」

朝のチャイムが鳴りました。 1時間目が始まる時間になっても、子供たちのおしゃべりは止まりません。

教師は、黒板の前で腕組みをして黙って立っています。

何も言わずに立っている教師の姿を見て、一部の子はおしゃべりをやめました。でも、全員ではありません。騒然とした雰囲気は続いています。なかなか静かにならない状況に教師の我慢も限界を超え、ついに口を開きます。

NGワード

「静かにしなさい!」

例えば、圧がとても強い教師が、この一言を叫べば、一瞬で静かになるはずです。目には目を歯には歯を……大きな声には、さらに大きな声で注意する。これぞ、力技の王道ともいえる指導法です。ただし、普段から圧の弱い教師の場合、さらに騒がしくなることもあります。興奮して大きな声を出そうとすると、どうしてもキンキンとした高い声になってしまいます。特に若い女性の先生の場合、その声が子供の高い声と同化してしまい、ますます教師の声は子供たちに届きにくくなり、教師が叫んでいる分だけ、さらに教室が騒然としてくるということになるのです。

それでは、「注意するときは低めの声で……」という教師の話術のテクニックを活用すればよいのかといえば、そうすることで圧の強い先生と同様の結果を得ることはできるかもしれませんが、やはり力技に頼って静かにさせるということになるのでおすすめはできません。先に述べたように力技には副作用があるからです。   

そして、特に一年生の場合、「静かにしなさい!」と強く言われて、その一瞬だけ静かになったとしても、すぐにおしゃべりが始まり、また騒然とした状態に戻ってしまうということがあります。言われた言葉の意味を受け取って、反省して静かになったのではなく、ただ単に大きな音に驚いて、条件反射的に静かになっただけのことが往々にしてあるからです。つまり、いつまでたっても静かな状況にはならないということです。

力技を使わなくても、低学年には、もっと簡単にできて、しかも効果的な言葉がけがあります。

OKワード

「今、しゃべりません」

余計なことは言わず 「するべきこと」だけを言うのです。「お静かに」 「静かにしろ!」「静かにできるかな?」など、これらの言葉はすべてこちら側の希望する状況を言ったにすぎません。だから、これらの言葉を受け取っても、低学年の場合、自分たちが何をするべきかということまでつながらないことがあるのです。「いつまで……」「何度言ったら……」式の言い方はさらに悪く、子供には文句としてしか届きません。

一方、「今するべきこと」を伝えると、子供はそのとおりにしようとします。「静かに…… 」「いつまで……」ではしゃべり続けていた子供たちも「今、しゃべりません」と言われると、しゃべるのをやめます。このとき、いつもより「低めの声でゆっくり話す」という話術のテクニックを使うと効果倍増です。

先生「「今、しゃべりません。えらい‼みんな静かになりましたね」
OKワード→行動が変わる→ほめる
俵原先生「最後のほめるまでがワンセット!」

ケース2 
子供たちが口々に話し出した

 1時間目が始まりました。先ほどの指導がうまくいったのか、今日は静かに話を聞いていて、みんなえらいなぁと感心していたら、

「みんな、この間のお休みは何をしていたの?」

教師のこの一言から一気にその場が騒がしくなってしまいました。

「あのね、お母さんとチーズケーキを……」
「ぼく、甲子園に行ったよ」
「私、お父さんと……」
口々に騒ぎ出す子供たち。

ちょっと子供たちに質問をしただけなのに、それぞれが思い思いに話し出すなんて想定外。とにかくそれぞれの子のおしゃべりを止めなければ授業が始まらない……という思いで、ついきつい口調でNGワードを言ってしまいます。

NGワード

「どうして騒がしくなるんですか?」
「静かにしなさい!」

でも、騒がしくなったのは子供たちの責任ではありません。子供たちは、教師から「お休みは何をしていたの?」と質問をされたから、答えただけです。何をするにもやる気満々の低学年の場合、35人いれば35人が答えようとします。しかも、大好きな先生に自分の思いを伝えようと大きな声で長々と……。

騒がしくなるのは当然です。この騒がしさは、教師自身が仕向けたことなのです。それなのに騒がしくなった結果、それを収めようとして、結局、怒鳴ったのでは、子供たちにとっては本当にいい迷惑です。このような状況になってしまったら、教師が打てる最善の手は次のようになります。  

OKワード

「咲希ちゃん、 チーズケーキつくったんだ」
「堀くんは、甲子園に行ったの?」

静かにさせることをいったん諦めて、とりあえず聞き取れた言葉をオウム返しのように言ってみましょう。子供たちは先生に届いたことが嬉しくて、その後の指示にも素直に従います。

なんでも先生に伝えたいのが低学年の微笑ましい特徴です。何かを質問して騒がしくなったときは、聞き取れた言葉だけを復唱し、改めて発言ルールなどを伝えると、再び静かになります。急がば回れということです。

ケース3 
テンションが上がって大騒ぎ

業間休みの後の3時間目は、みんなが待ちに待ったお楽しみ会。司会の二人は前に出て準備完了。でも、クラスの子供たちはテンションが上がりすぎてなかなか静かになりません。

「静かにしてください」

司会の二人は一生懸命クラスの友達に訴えかけますが、静かになる気配は一向にありません。ここまで口出ししたくなるのを我慢して様子を見ていた教師が、きつい口調でNGワードを発してしまいます。  

先生「静かにならないとお楽しみ会はできません!」
俵原先生「脅しの言葉を口にしていませんか?気付かぬ間にダークサードに陥っているかも‥‥」

NGワード

「静かにならないと、お楽しみ会はできません!」

この教師の一言で子供たちは静かになりました。ただし、この言葉がけが正解だと思ってはいけません。「〜しないと、〜できません 」という言い方は、言い換えれば 「私の言うことを聞かないと罰を与えるよ」ということと同じです。罰が嫌でとりあえず子供たちは言うことを聞いているにすぎないのです。でも、このような言われ方をされて気分のよい人はいません。子供たちの心は、確実に先生から離れていきます。

「〜しないと、〜できません」という言い方は、一種の脅しですが、即効性があり、便利な言い方です。そのため、それ以外の方法では子供を動かせない、指導力のない先生はよく使います。しかし、子供の心はそのたびに少しずつ離れていき、気付いたときには話を聞かない子供になってしまいます。では、どのような言葉がけをすればよいのでしょうか。

OKワード

「静かになったら、お楽しみ会が始まりますよ」

「ほとんど同じやん! 」とツッコんだ人、あなたは正しい。関西人(もしくはお笑い好きな人 )なら、誰しもがツッコミたくなるくらい、違いはわずかです。でも、その違いが重要なのです。

不思議なもので「〜したら、〜できますよ」と、逆の言い方をするだけで、子供たちは主体的に、そのとおりのことをしようとします。脅かされてしかたなしに動くのではありません。 目的を達成するために進んで努力する子供に育っていきます。

先生「~しないと~できません」「~したらできますよ」
俵原先生「マイナスの表現ではなく、プラスの表現で言葉がけをします」

イラスト/浅羽ピピ

『教育技術小一小二』2020年10月号より

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