病室とつなぐリモート授業にトライだ【5年3組学級経営物語17】

連載
学級経営のポイント満載の学級小説「4年3組~6年3組 学級経営物語」

通称「トライだ先生」こと、2年目教師・渡来勉先生の学級経営ストーリー。互いを思いやり、励まし合う。それが一人ひとりの心をしっかり結びつけます。そして集団の質を高め、よりよい学級をつくり出していくのです。リモートでも直接でも、心と心は繋ぎ合えます。さあ、心の絆を深める活動にレッツトライだ!

文/大和大学教育学部准教授・濱川昌人
絵/伊原シゲカツ

学級経営物語タイトル

12月①「心の絆」にレッツトライだ!

<登場人物>

トライだ先生(渡来勉/わたらいつとむ)
教職2年目の5年3組担任。 真面目で子ども好きの一直線なタイプ。どんなことでも「トライだ!」のかけ声で乗り越えようとするところから、「トライだ先生」とあだ名が付く。トラブルに見舞われることが多く、学級経営の悩みが尽きない。特技は「トライだ弁当」づくり。


しずか先生(高杉静/たかすぎしずか)
5年1組担任で、今年はじめて学年主任に抜擢された、教職10年目の中堅女性教諭。ベテラン教諭に引けを取らないリーダーシップぶりは、剣道五段の腕前に依るところも。産休明けで、子育てと仕事の両立に日々奮戦中。


オニセン(鬼塚学/おにづかまなぶ)
教職生活4年目の5年2組担任。祖父と父が有名校長で母も教師という教育一家出身。イケメンでなおかつ優秀な成績で教育大学を卒業したという、典型的な〝オレ様〞タイプの教師。しかし、昨年度、学級内のトラブルに十分対応できず、再び5年担任を任じられたという経緯をもつ。

遠隔での個人指導

静かな放課後、鬼塚学先生の独り言が2組から聞こえてきます。何事か…、と渡来勉先生が教室を覗くと、鬼塚先生がパソコンに語り続けていました。呼びかけても、全く気がつきません。

リモート授業

「鬼塚先生、誰とずっと話を…。あっ、スミレ!」

ヘッドセットを外し、渋い顔で睨む鬼塚先生。

「算数の個別指導中だ。…邪魔するな!」

『トライだ先生、久しぶり! 懐かしいなぁ…』

ヘッドフォンのスピーカーから漏れ聞こえる明るい声。画面の向こうの病床で、スミレが手を振っています。

何度も手術を受けて、林間学級も運動会も参加できなかったスミレ。遠隔授業の実施を理解した渡来先生が、心をこめて語りかけました。

「よかったなぁ、スミレ。鬼塚先生の授業を受けられて。早く良くなって、学校に戻って来いよ!」

画面のスミレが、嬉しそうに微笑みました。

遠隔で結ぶ熱い絆!

「スミレとの遠隔授業か。…麗しい師弟の絆だ」

高杉静先生に褒められて、頭を掻く鬼塚先生。雑談で盛り上がる職員室、渡来先生が尋ねます。

「でも遠隔授業って、どんな指導なんですか?」…ポイント1

「板書の写真や簡単な動画を添付し、説明する。長時間は無理だけど。…また手術を受けるから」

母親の表情になった高杉先生が心配をします。

「今度は脊髄腫瘍の摘出。首の骨を切開して、中枢神経のところにできた腫瘍を取り除く。…相当危険だぞ」

驚く渡来先生に、しみじみと語る鬼塚先生。

「…野に咲く華奢な花。けれど根が太く、手折られても枯れないすみれ。その花のように育てと名付けられた。だから頑張るんだって、スミレが…」

「どんな時も諦めず、前向きに生きる。教え子の逞しい生き方に、教師が逆に励まされるな…」…ポイント2

鬼塚先生の心は、大きく揺れ続けていました。

ポイント1【遠隔授業の可能性】
入院や不登校等で登校できない児童も、ICT活用で効果的な指導が可能になります。個の状況に応じた教育機会を保障し、授業参加率を高めて学校教育の可能性を拡大します。また、ロボット(アバター)を教室側に置くことで、さらなるバーチャル参加形態が実現できます。
参考文献:「遠隔教育システム活用ガイドブック(第2版:文部科学省)

ポイント2【子どもから学ぶ】
教師は子どもを指導するだけでなく、子どもから学ぶ場合があります。困難に耐え頑張る姿勢や他者への心遣い、学習意欲や知的好奇心など、教師の方が一人の人間として学ぶ機会は、全ての教室にあるでしょう。その機会を適切に生かすことで、「学び合い、教え合う学習集団」 を育てることができます。

リモート授業、開始!

教室後方にカメラを設置し、授業を始める鬼塚先生。スミレの声がパソコンから聞こえます。

「久しぶりだね。一緒に勉強できて嬉しいよ!」

歓声が沸く教室、鬼塚先生が指示をします。

「『これからの工業生産とわたしたち』は、主に学習のまとめ。調べたことを発表してもらうぞ」

まず、自動車工業を調べたケンタのグループの発表です。様々な資料を電子黒板に映します。

「スミレ、分からないことがあれば質問してね」

カメラに向かい語りかけるジュン。パソコンから、嬉しそうに弾んだ声が聞こえてきます。

『ケンタは説明上手だから、よく分かるよ!』

照れるケンタ、教室に満ちるみんなの笑い声。廊下で参観する高杉先生が、思わず呟きます。

「ICTで教室と病室を繋ぐ。…素晴らしいな」

「いい雰囲気になってきましたね。…2組は」

傍らで微笑んで頷く渡来先生。スミレへの思いやりが、皆の心をほっこり温めていきました。

状況急変、どうするオニセン!

師走にしては暖かな日々が過ぎ、急に寒さが増したある日。…スミレの病状が急変しました。

「本当ですか、スミレの手術が早まったって!」

職員室に駆け込んできた渡来先生。硬い表情の鬼塚先生の代わりに、返事をする高杉先生。

「3日後だ。体調の悪化で予定が繰り上がった」

「…腫瘍は、首の難しい場所。神経を傷つければ大変だ…。生命にも関わると、お父さんが…」

そう呟くと、フラフラと教室に向かう鬼塚先生。励ます言葉もない渡来先生と高杉先生。

そして…、教室のカメラを片付ける鬼塚先生に不審そうな子どもたち。ジュンが質問します。

「先生どうしたの。…スミレに何かあった?」

鬼塚先生の暗い表情に、敏感に反応したトモコ。その涙目に異変を感じ、集まってきた子どもたちが不安そうに質問をします。全員を着席させて、鬼塚先生はゆっくり語り始めました。

「…難しい手術だ。だから無事を祈ってほしい」

しんと静まる教室。涙を拭う子どもたち。突然、ケンタが立ち上がり強い口調で訴えました。

「でも、怖くて不安で泣きたい気持ちだと思う…。 僕は、祈るよりも前にスミレを元気づけたいよ。だから、励ますための計画をみんなで立てたいんだ。…やろうよ!」…ポイント3

教室の熱気が、鬼塚先生を圧倒します。みんなの視線が、グイグイと心に突き刺さりました。

ポイント3【共感的理解を深める】
「空気を読む」という表現がありますが、「相手の立場や考え等に思いを馳せ、共感をする」ことは非常に大切なコミュニケーション能力です。このような情緒的情報の収集、分析に基づく人間的な理解を経験的に学び実践していくことが、よりよい人格の形成の基盤づくりとなります。この能力が不足すると、折角の「思いやり」が「重い槍」となり相手を痛くさせます。

(次回へ続く)

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