髙橋朋彦×古舘良純対談:6担初心者がぶつかる壁と乗り越え方

特集
卒業特集ー6担初心者もこれで安心!ー 

千葉県公立小学校教諭

髙橋朋彦

岩手県公立小学校教諭

古舘良純

千葉県の初任研修で同じ班になって以来の仲である二人は全くタイプの違う小学校教師。髙橋先生は5回、古舘先生は5年連続9回の6年担任の経験があります。「みんなの教育技術」でそれぞれ連載をもつ二人が、6年担任の心得について熱く語り合った、2時間の記録をお届けします。(さらに延長戦があったらしい…)。

右)古舘良純(岩手県公立小学校教諭)
左)髙橋朋彦(千葉県公立小学校教諭)

全く違う二人の教師

―初任研修で同じ班だったとのことですが、すぐに意気投合したのですか?

古舘:研修での印象は、積極的に参加する人たちを後ろで見ているタイプの自分とは真逆という感じ(笑)。僕は学級経営を、トモヒコ(髙橋先生)は授業を重視していたから、教育へのアプローチも全く違っていました。

髙橋:学級をうまくまとめられていないと感じていた僕には、古舘はすごくキラキラして見えていましたね。僕は僕で授業研究をがんばっていた訳ですが、教員6年目で6年生を担任した年、いよいよ行き詰まってしまいました。そのとき初めて、あまり力を入れていなかった学級経営について、古舘に詳しく聞いてみようと思ったのです。ファミレスでランチを食べて、夕飯を食べて、さらに深夜になるまで居座って話し込みました(笑)。

―(ここで、どの店だったかの記憶違い論争が勃発し、一応の収束…)。

髙橋:その時、菊池省三先生(*)の実践を教えてもらって。半信半疑で「ほめ言葉のシャワー」を取り入れてみたところ、なるほど、効果があったんです! それから、学級経営の勉強を始めました。その後、お互いの方法論に歩み寄ることになりましたね。

古舘:僕は常に理解しようとしていたけどね!

髙橋:若さゆえの妙なプライドがあったのかな…。

(*)菊池省三 …… 教育実践研究サークル「菊池道場」主催、高知県いの町教育特使、教育実践研究家。「ほめ言葉のシャワー」「成長ノート」「白い黒板」「価値語」などの独自の実践により、児童の自尊感情を高める学級づくりをめざす。「学級崩壊立て直し請負人」(新潮社)「菊池先生のことばシャワーの奇跡」(講談社)「菊池省三流 奇跡の学級づくり」(小学館)ほか著書多数。

「6担は力がなければ」と思うのをやめよう

-高学年の担任といえば、かつては、経験豊富な男性教師が担当というイメージでしたが、今はそうでもないようですね。

髙橋:若い女性の先生も多いですよ。高学年担任になると、ビシッと叱らなくてはならないと思いがちだと思いますが、無理に高圧的になってもうまくいきません。もともと持っているその人らしさを生かして子供と接するようにした方が、絶対にうまくいくんです。

古舘:「6年担任」については、バイアスがかかり過ぎているところがあると思う。6担は何でもできなきゃいけない、って。不安ばかり募ると、血の通っていない方法論に頼りがちになってしまうんですよね。「6年生はよかった」という情報は広がらず、ネガティブな情報ばかりがクローズアップされている気がしますが、「大丈夫だから」と僕は言いたい。だって、6年生はすごくいい子たちばかりだし、6年担任はすごく楽しいんですよ。

古舘良純教諭
「6担は楽しい!」と古舘教諭

髙橋:僕の場合は、初めて6年担任になった年、行事に追われて子供と向き合う時間が全く取れなくなって気づいたら学級が崩れてしまった。今思い返すと、僕と古舘の決定的な違いがあったんです。僕は、あくまでも授業をメインだと考えて、行事は「こなすもの」と捉えていたけれど、古舘は、行事を通して子供を育てようとしていた。僕は、一連の業務にストレスに感じてしまっていたけれど、古舘はそれがなかったんだと思います。

子供が話を聞いてくれないとき

―6年生担任の困りごととして、「子供が素直に話を聞いてくれない」というのがあります。何か対応策はありますか?

髙橋:成功体験をさせるのが効果的だと思います。例えば、「10分間だけ」と念押しして、しっかり先生の話を聞くように言ってからすぐにテストをやったら点数が上がるとか、そんなイベントを用意するのです。ほらできたでしょ、聞けばできるんだよ、と。あとは、「これから先生が大切な話をするよ。真剣に話すからみんなも真剣に聞いてくれる? 姿勢を正して話すから皆さんも姿勢を正して聞いてください」とかってやりますね。

古舘:僕は、子供に「イヤだな」と言います。それをされたら先生は不快に感じるよ、というのを子供に伝えるのです。極端に言えば、「話を聞かなくてもいいけど、先生の視界に入らないところで聞かないでくれる?」なんていう感じ(笑)。また、何か注意すべきことを伝えるときは、子供にそれを言うべきか言わないべきか、常に自問自答しながらやっています。そして言うと決めたら、一言挟みます。「分かってるとは思うんだけど…」「担任だから言うね。それが仕事だからね」「言いたくはないんだけど…」という言い方で、僕は伝えるようにしています。

髙橋朋彦教諭
古舘教諭の言葉に「なるほど…」と髙橋教諭

そして、話を聞いてもらえないのは、その人の話し方に問題があるんじゃないかな? 僕は、「聞いてもらえない前提」でいるんですよ。届いたらいいなというくらいの気持ちです。先生の言うことを子供は聞くのが当たり前、という意識ではダメ。伝える側が、伝え方・話し方を研究する必要があります。具体的に言えば、要点を絞る、一文を短くする、1分以内で話す、などですね。一朝一夕では身に付かないことですが、若い先生には、ぜひがんばってほしいです。

―話し方の研究というのは、具体的にどのように行えばいいでしょう?

古舘:僕の場合は、自分の話している様子をスマホで録音して、帰り道に車で聞いていました。いらない言葉をたくさん使っているなとか、話し方のクセに気づくことができます。不安なのは、準備が足りていないからです。不安要素がある中で話しているから、ちょっとした子供のしぐさが気になってしまって、「ちゃんと聞いて」などという威圧的な言葉が突発的に出てきてしまうのです。今の勤務校の同僚で初めて6年の担任をしている4年目の女性教師の授業を聞く機会があったのですが、その際も、「えーと」が多かったよ、などアドバイスをしました。その若手の先生には、話し方が僕に似てきた気がすると言われました(笑)。

髙橋:意識すると変わってくるんだよね。

古舘:モデルがいるといいよね。自分の場合は、菊池先生だった。

髙橋:一時期そっくりだったもんね(笑)。

古舘:等身大の自分のまま、成長のためにはモデルを設定して、実践を真似してみたりすればいい。先ほどの4年目の先生は、ヘンにプレッシャーを感じていないし、可能性を信じています。実力以上に、無理やり「うまくやろう」としなくていいんです。

髙橋:特に、6年生担任は、上に立つのではなく、子供と一緒に並走していくように意識して接しなければ、子供にメッセージは伝わらないよね。

古舘:とは言っても、子供が成功体験を実感するイベントを設定してあげるのが、大人の仕事。少なからず、負荷をかけなければ、力は伸びないからね。

子供たちとの距離感

―子供との距離感に悩む先生も多いようです。難しいところですよね。

古舘:昔は休み時間は子供と遊んでいましたが、今は、そうする必要はないと考えています。授業を通して子供と信頼関係を築けていれば、必要ないと思うようになったから。

髙橋:自分は、普段あまり話すことのない、教室に残っているような子と関わりたいと思っているから、子供たちと外で一緒に遊ぶということはしませんね。

―子供との「雑談」をするかどうか、質問が来ていましたが、いかがですか?

髙橋:昔は子供に気に入られようとして「雑談」を利用していたような気がします。今は、子供が何に興味を持っているのかを知るために、子供と話をしています。雑談の目的が変わったんです。子供の興味を聞き出して、「あのYouTube観たよ、面白かったよ」とかやっていると、こちらの話にも耳を傾けてくれるようになる。子供が話を聞いてくれないのは、教師が子供に関心を寄せていないからかもしれません。思春期の子供は特に、自分のことを理解してくれる人の話しか聞かないといった年頃ですから。

古舘: 雑談で子供とつながりたいというのは、教師側のエゴだと思うな。 僕は、雑談というより、聞くだけです。質問しかしません。その子が自分の言葉で話せるかどうかというのが一番大事だと考えているから。自分のことを自分の言葉でしっかり話せる人間になってもらいたいんです。

髙橋:僕は、その子が大切にしていることを大切にしたいと思っていて。それは、その子が書く日記や雑談の中から見えてきます。若い先生は、子供に気に入られようとしがちだと思いますが、相手に媚びるような態度を、子供は見抜きます。大事に思っているというのが伝われば、相手もこちらを気にかけてくれるようになると思います。

古舘良純教諭
「子供が自分のことを話せるようになることが何より大事」と古舘教諭

―一方で、自分のことを何も話そうとしない子にはどうすれば?

古舘:1年かけて、その子が話したくなるようにします。そのためには、教師がその子にとって聞いてほしい相手になることです。例えば、Twitterで「30分無料コーチングやってます」というのを見かけたとしても、その人自体に魅力を感じていなかったら、聞いてほしいとは思いませんよね。話させるテクニック云々ではなく、教師は学級を温かく見守りながら、授業力を磨いて信頼を得ていくしかないのです。

子供から茶化されたら

―大人と関わろうとしない子がいる一方で、性的なことでからかったりするなどして、教師がおどおどする様子を面白がるといったようなこともあると思います。

髙橋:まず、あなたたちを大切に思っているというメッセージが子供たちに伝わっていたら、担任にそんな態度はとらないはず。それが普段、伝わっていないということですよね。今、僕のことをからかう子はいませんが、以前はたくさんいました。その頃と何が違うかというと、昔より今の方が子供を大切にしようという思いが格段に強いんです。

古舘:そういったことへの対応には、“インプロ(即興)力“が必要になってきます。「先生、彼女いるの?」と質問されて、「そんなこと聞いちゃダメ」と拒むのか、具体的に話してドン引きされるか(笑)。その人なりの即興力が大切かな。自分のキャラクターを生かして話すようにしていれば、だんだん上手く対応できるようになっていくもの。ハウツーでどうにかできることではないんです。

子供同士の関係をつくるには

古舘:教師対子供の関係について話してきましたが、高学年になったら、子供対子供の関係の方が大事だと思います。僕も昔は、手品をやってみたり、面白い話のネタを探したり、一緒に遊んだりと頑張っていたものですが、限界を感じました。「あなたたちが楽しそうにしている様子を見ていると先生はすごく嬉しい」というのが伝わり、「先生はこのクラスを肯定的に見てくれているんだ」と子供たちが感じれば、自ずと教師対子供の関係もよくなるんですよ。

髙橋:その通り。高学年は、教師と子供というより、子供同士の横の関係の方に気を配るべきです。教師が男性でも女性でも体が大きくても小さくても、子供同士の関係は変わらないのだから。同じ教員をしている妻も言っていましたね。

―子供同士の関係性をつくるために、具体的にはどんなことをすれば?

古舘:見えないものを言語化していくことです。菊池先生のお考えがベースになっているのですが、例えば、Aさんが話しているとき、BさんがAさんの方へ体を向けたとか目線をやった瞬間を価値づけます。たとえBさんは意識していなかったとしても、「聞きたいと思ったから、Aさんの方に体を傾けた方がいいと思ったんだね。どう? 違う?」と聞けば、「違いません」となりますよね。多少の圧はかけますが(笑)。そして、「こんな姿勢が教室に広がったらいいなぁ…。話を中断しちゃってごめんね。続きをどうぞ!」と展開すれば、周りの子もそれに倣っていくようになります。

髙橋:そうそう。「話をする人の方を向く」という「形式」を指示するのではなくてね。あくまでも子供から自然に出てきたとすることが重要!

髙橋朋彦教諭
「ただ『形式』を指示するのではいけない」と髙橋教諭

―子供同士の関係があまりうまくいってないなと気づいたときは、どうしていますか?

古舘:パワープレイで、関係をつなぐというのは特にはやりません。ただ、固まっているものをほどいてあげられるように、教室が温かな空気感で満たされるよう気を配るようにしています。

髙橋:もし、若手の先生から相談を受けたら、「子供の話を聞くように」って言うかな。たとえ子供が「何もない」と言っても、聞く。「あなたの困り感に寄り添おうとしている」というメッセージを伝え続けることが大切、とアドバイスしたいですね。

授業準備はどうしてる?

―「授業準備について知りたい」という質問も来ていますが、お答えいただけますか?

古舘:「授業づくりノート」をつくって活用しています。僕の“精神安定剤”なんですよ。こちらの記事にまとめてありますので、ぜひ参考にしてみてください。

古舘教諭の「授業づくりノート」
「自分なりの授業づくりをルーティン化・身体化できるとよい」と古舘教諭

髙橋:僕も、A4のノートに、教えるポイントをまとめています。そして、準備以上に、終わった後の反省を大切にしていますね。

髙橋教諭のノート
「準備以上に授業後の振り返りが大切」と髙橋教諭

最後に…

髙橋:僕と古舘がそれぞれ大切にしているものは違うけれど、どちらが正しいということはありません。一人ひとりいろいろな考え方があっていいのですから。ただ、「子供を大切に思う気持ち」が根幹にある事が重要なんです。

古舘:教育は稲作みたいなものだと思うんです。手間がかかるし時間もかかる。結果が出るのは10年先かもしれません。見栄えだけはいいお手軽な技を駆使して一瞬瑞々しくなったと思っても、すぐにしおれてしまったら意味がないのですから。教師を強く美しくするのは、ネイルじゃなくてピラティス、腕時計じゃなくて筋トレです(笑)。外側をどうこうしようというのではなくて、内側、本質から変えていくことが大切だと思います。

髙橋:いつも二人で延々、こんな話をし続けています。

古舘:こんな風に話ができる相手、他にいないからね。「盟友」ではないと思うけど(笑)。

髙橋:話していると、一人で考えているだけでは思いつかなかっただろう気づきが生まれてくるんですよね~!

(二人の話はつきない……)


いかがでしたか? 
YouTubeでもおなじみの明るさで(しかし実はネガティブと自認。くわしくは「トモチャンネル」をご覧ください)場を盛り上げてくれる髙橋先生と、どこか武士然とした古舘先生。対照的な二人ですが、どちらも自分の信念を持って子供と向き合っている様子。
高学年ならではの特性を把握し、自分なりの軸をもって学級経営をしていけば、「6年担任」は必要以上に恐れるものではないのかもしれません。

二人に聞いてみたいことがある方は、ぜひこちらからご投稿ください。

↓↓↓

  • ↑メールアドレスだけで、カンタンに投稿できます。
  • いただいた内容を一部引用、要約してサイトに掲載させていただくことがあります。

古舘良純(ふるだて・よしずみ) ●岩手県久慈市出身、北海道教育大学函館校出身、菊池道場岩手支部代表、バラスーシ研究会所属、共著『授業の腕をあげるちょこっとスキル』(明治図書出版)、平成29年度千葉県教育弘済会教育実践研究論文にて最優秀賞を受賞

古舘良純の『つぶやききれなかったこと』」、月1回不定期連載中!

髙橋朋彦先生
髙橋朋彦教諭(撮影/田中麻衣)

髙橋朋彦(たかはし・ともひこ)●1983年千葉県生まれ。第55回わたしの教育記録特別賞を受賞。教育サークル「スイッチオン」「バラスーシ研究会」に所属。共著に『授業の腕をあげるちょこっとスキル』『学級づくりに自信がもてるちょこっとスキル』(共に、明治図書出版)がある。算数と学級経営を中心に研究中。
Twitterアカウントは @tomotomoteacher  https://twitter.com/tomotomoteacher
トモ先生のインスタ https://www.instagram.com/tomotomotea/
トモ先生のnote https://note.com/tomotomo777

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取材・文/設楽由紀子

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