句会ライブで目立たない子も主役に【プレバト!! 夏井先生が解説】
『プレバト!! 』(MBS)の俳句査定において、歯に衣着せぬ鋭い解説で知られる人気の夏井いつきさん。言葉を巧みに操り情景を彩る第一人者に、表現力を豊かにして学級経営にも役立つという「俳句ライブ」のポイントを解説いただきました。
夏井いつき
俳人。『NHK 俳句』(NHK)や『プレバト!!』(TBS系)などで俳句解説を行うほか、各地の学校にて「句会ライブ」と名付けた俳句の授業を展開。
『夏井いつきの世界一わかりやすい俳句の授業』(PHP研究所) 、『夏井いつきの 日々是「肯」日』(清流出版)など著書多数。
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目次
小学生でも5分で作れる「取り合わせ」の技と「句会ライブ」
子供たちを俳句嫌いにしないためにも、先生方にはぜひ誰でもできる「俳句の簡単な作り方」を覚えてほしいと思っています。
初めて俳句に取り組むときにお勧めしているのが、「取り合わせ」という技と「句会ライブ」です。「取り合わせ」とは、季語とは全く関係ない十二音のフレーズを考え、その後、五音の季語を選んで合体させるやり方です。
まず要求されるのは、自分の正直な気持ちを十二音でつぶやくことなので、俳句に対する敷居がグッと下がります。そしてその十二音に似合いそうな季語を選んで組み合わせるだけで簡単に俳句ができあがります。
例えば、「のんびりしてたら遅刻した」というつぶやきに対し、「梅雨曇」という季語をつけてみます。とても暗いイメージで、先生に怒られそうな切迫感がありますね。しかし「風薫る」という季語にすると、「なんとかなるか」といった明るい印象になります。
句会ライブでは、最初に「取り合わせ」のやり方を教え、「5分で1句だよ! ゴー!」と言って5分程度で俳句を短冊に書かせて集めます。その後子供たちを休憩させている間に入賞作品を7句程度選び、大きな短冊に清書し掲示。
休憩終了後、作者を伏せて入賞作品を発表し「この中から優勝を決めます」と言って議論を開始します。句会ライブではこの議論が最も大事な時間です。俳句の読み方に正解はありません。ですから誰かがその句のよさを語ると、「そういう読み方があるのか」と気づき、いろいろなよさを発見し、共有できます。
学級経営に「俳句」を通すと教科指導や教育活動と相乗効果が
また子供たちが素っ頓狂な感想を言っても「その発想力は凄いね」と、どんな意見もほめてあげることができます。実は句会ライブは普段目立たない子にも、堂々とスポットライトを当ててあげられる便利なツールなのです。
そして、人の意見を聞き、ほめ合い、迷いながら読み合うことで、「俳句を作る力」と、「読み解く力」が付きます。この2つの力は車の両輪のようなもの。両方が育つことで俳句が益々上達します。
さらに子供たちは日常的に十二音になる「俳句の種」をゲーム感覚で探すようになり、言葉に敏感になります。また、社会や理科など他の教科でも、言葉や事象をよく考察するようになります。つまり学級経営に俳句という芯を一本通すと、全ての教科や教育活動とリンクし、よい循環が生まれるのです。
句会ライブの具体的な流れ
①「取り合わせ」を解説
取り合わせの公式
<季語と関係ない十二音>+<五音の季語>
↓
②俳句を作成(5分程度)
短冊に俳句と名前を書いて提出
↓
③子供はトイレ休憩
教師が入賞作品を選ぶ(7句程度)
↓
④入賞作品を発表
大きな短冊に清書し掲示(無記名)
↓
⑤議論
印象や感想など入賞作品のよいところを述べ合う
↓
⑥互選(拍手or挙手)
入賞者を公表し優勝者を表彰
句会ライブ成功のポイント7
その1 日記指導と組み合わせる
俳句を作る時間がない場合は、日記指導と連携させるのも効果的。子供が書いた日記の中から、五文字や七文字のフレーズを見つけて線を引き、「俳句の種だね」とコメントして返却します。
自分が書いた日記の中にすでに俳句の種があるとわかると、俳句に対するハードルがグッと下がります。
また、その後も言葉に敏感になり、俳句の種になりそうな五文字や七文字の語句を積極的に使うようになります。
その2 季語から作らせない
ありがちな失敗が、「朝顔という季語を使って俳句をつくろう」などと、季語そのものについての俳句を作らせるやり方。これは「一物仕立て」というプロでも非常に難易度の高いやり方なのです。
素人が作ると、「朝顔がいくつ咲いてる」「しぼんでた」「きれいだな」など、似たような俳句しか出てきません。季語以外の十二音から考えさせてみましょう。
その3 作者に作品を解説させない
大きな短冊に俳句を書き、作者自ら自分の句を解説するのは愚の骨頂(笑)。なぜなら本来俳句は字面だけの世界。作者の意図だけが正解ではありません。
「これはこういう場面じゃないか」「いや自分はこういう場面だと思う」と読んだ人が想像して自由に語り合うことで、作品が豊かになるのです。
句会ライブで作者を隠して議論するのは、ゲーム性、平等性を確保するだけではなく、読み方の多様性を確保するという目的もあるのです。
その4 日常会話から議論を展開する
「どうしてその句が好きなの?」と質問すると、「何となく…」という答えしか返らない時。私は「この五七五の、どの言葉が君にヒットしたの?」とつっこみます。
五七五の3つのフレー ズの中でその子が気になった言葉から、話の切り口を広げていきましょう。決して「正解を言いなさい」という空気を作らないこと。
俳句をネタにみんなで世間話をしてい くようなイメージで話をすると「うちの家族の場合は…」「夏休みに私は…」などと、俳句を語るという第三者の立場を借りて、自分の気持ちや家族のことを語り出すようになり、児童理解にもつながりますよ。
その5 使いやすい季語を選ぶ
「取り合わせ」を活用する場合に相性がよい季語は、「時候」と「天文」の季語です。時候の季語は、映像をほとんど持っていません。ですから自分の吐き出した自由な言葉とバッティングしないのです。
風や雲、月を使った天文の季語も、どんな十二音のフレーズともバッティングせずに、さらに心も表現することができます。秋でよく使うのは「秋うらら」「いわし雲」「そぞろ寒」「秋の朝」「秋深し」など。
「秋彼岸」や「運動会」などは、状況を限定してしまうので使いにくい季語と言えます。俳句をつくる前に、時候の季語や、天文の季語の例をプリントにして提示してあげるとよいでしょう。
その6 議論しやすい句を入賞作品に選ぶ
句の選び方に正解はありません。ですから、7句選ぶ場合は、先生が真剣に褒められるものや、教育的配慮から3句くらい選び、残りの4句は子供たちが議論しやすいものを選ぶとよいでしょう。
例えば兄弟喧嘩の句などは子供にとってはリアルなネタで、「僕も昨日…」などと議論しやすいでしょう。絶対に選んでいけないのはありがちできれいなだけの凡人の句です。
選句する際に大事な評価軸は「自分が体験したリアリティ」と、「自分だけのオリジナリティ」。先生が「まあ、よくこんなことを書くよ」と驚くようなネタも、オリジナリティとリアリティがあれば大いに評価してあげます。
その7 脱・凡人! 入賞作品は教師が選ぶ
子供が書いた俳句を全員分印刷し、子供たちによい句を選ばせるという句会もあります。しかしこの方法では必ず耳触りの良い凡人の句が一位になります。誰でも考えつくような句は、誰にでも伝わります。
そのため票が集まりやすく一位になってしまい、みんな凡人の句がよい句なのだと勘違いしてしまうのです。私はそれを回避するために、オリジナリティのある句を自分で選んで決勝に残しているのです。
似たような句が多い場合は、それらを立て続けに詠みあげます。すると「これは平凡な句なのだ」と気づくでしょう。
いかがでしたか?
「オリジナリティとリアリティを評価する」という視点は、日常無意識に求められている「誰にでも伝わる表現」に窮屈さを感じる子供にとって、大きな救いになるかもしれませんね。
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撮影/五十嵐美弥 構成/出浦文絵
『小一教育技術』2018年9月号より