学年主任必見!最強の学年チームをつくるまでの3つのスモールステップ
コロナ禍で学年チームの重要度がますます高くなっている昨今。チームで共通理解を持ち、ポジティブなコミュニケーションをとることが、子供たちの環境改善に直結するでしょう。ここでは、しっかり機能するチームをつくるための学年主任としての取り組み、それを支える若手の心がけ、さらに学年全体に笑顔があふれるアイディアも紹介していきます。
執筆/千葉県公立小学校教諭・古舘良純
目次
学年主任として取り組む
学年チームづくりの3ステップ
学年が「チーム」になっていくストーリーを、自分なりに考えてみました。すると、
1、先生方の強みを生かした学年運営が成り立っていく。
↓
2、先生方が笑顔で、コミュニケーションをとることができるようになっていく。
↓
3、「論・述」と同時に「観」の部分の共通理解が図られていく。
というようなステップをイメージすることができました。
現在、若年層の先生方が多く勤務する学校が多数あり、職員室の平均年齢が低くなっています。私の勤務する学校も、中小規模でありながら、2人の初任者が同時に配属されました。それに伴い、学年主任の低年齢化も進んでいます。30代前半で学年主任を任されるケースが多く、早ければ20代で学年主任を任されることも少なくありません。
私自身は初主任が29歳の時で、六年生の学年主任を任せていただきました。そう考えてみると、「学年主任と言えばベテラン」といった構図は、少しずつ変化してきているのではないかと感じてしまいます。
同時に、経験年数の少ない若い学年主任が、どのようにして学年運営をしていくのか、学年をどうチームとして機能させていくのか、不安になる部分も多くあるのではないでしょうか。
私はこれまで、ベテランの先生方から多くのことを学びました。やってみたいことにたくさん「チャレンジ」させていただきました。見えないところでの「仕事術」もたくさん学びました。「気遣いや配慮」もたくさん感じることができました。これらの経験から、上記の3つをひと言で表すと、『大人同士がエネルギッシュに仕事をし、仲良く働いている状態」だと考えます。
1、先生方の強みを生かした学年運営が成り立っていく
私自身は大学時代に体育を学んできた人間でした。前任校から体育主任を7年連続で務めてきたこともあり、「体育の授業は古舘先生」のようなイメージが子供たちにも根付いていました。校内体制として、学年の先生方と交換授業を行い、私の学級の家庭科や音楽を見ていただくことが多くありました。全部を自分自身で抱えるのではなく、学年の先生を頼ったり、自分の得意分野を生かしながら、子供たちを伸ばしていくことが大切だと考えています。
また、年度当初に1年間の行事を可視化し、それぞれの先生がどの行事を担当するのか、どのようなねらいを持って指導するのか、という共通理解を図るようにしました。行事を通して何を大切にするのかを共通理解した上で、お互いが立案するようにしていくのです。
子供たちを指導する上で、教師自身が「自信を持って指導する」ことが、子供たちを伸ばすことにつながります。そのためには、教師自身の強みを生かしていることと、その指導を楽しんでできるかかどうかが大切です。
ある年、海外旅行が好きな先生と学年を組んだことがありました。外国語の授業をリードしてもらったり、社会科の授業で海外のパンフレットを用意してもらったりしました。とても生き生きと授業をしていた姿が忘れられません。
学年全体の子供たちが、一気にその先生に引き込まれていきました。とても素敵なことです。私は「ありがとう!先生のおかげで助かりました!先生らしさが出ていましたね」と笑顔で感謝の気持ちを伝えました。
2、先生方が笑顔でコミュニケーションをとることができるようになっていく
子供から見れば、年配の先生、若い先生、誰もが「先生」です。日頃から担任同士が良好な関係で仲良く接していることが大切になるでしょう。「人と人とは笑顔で接するのだ」ということや、「先生方はお互いを大切にし合っているのだ」ということを、教師の姿を通して指導していくことができます。
北海道の堀裕嗣先生のSNSの記事に、次のようなものがありました。「『仲良く、楽しそうにしている大人たちが身近にいること』これにまさる教育効果を持つ手法など、この世にはありません。」というものです。
この投稿を見て、教師としての在り方や、一人の人間としてどのように子供たちに接するべきかなど、改めて考えることができました。
子供たちを見取り、伸ばすために、まず先生方がお互いを大切にし合うことが「チーム」としての前提になるのではないかと考えます。若い学年主任であればあるほど、この視点を欠いてはいけないと考えています。
3、「論・述」と同時に「観」の部分の共通理解が図られていく
勉強会を開くと、若手の先生の悩みを聞くことがあります。「掲示物を揃えなくてはならない」や、「係活動を揃えるので独自性が出せない」というものです。
しかし「学年で揃える」ことは決して悪いことではないと考えています。学年としての統一感が出るので、個人的には好きです。
ただし、「何のために掲示するのか」「どんな子供たちに育てたいのか」という学年としての共通理解が大切だと考えています。
学級ごとに子供たちの実態は違うはずです。そのため、「同じ実践をして、同じ取組をすれば、同じように子供が育つ」とは限りません。それよりも「こういう子たちだから、こんなふうにアプローチをして、こう育てたい」という願いを、共に持ちたいものです。だからこそ、掲示物一つにしても、学年で共通理解を図った上で取り組めるようにしなければなりません。
また、主任から「こういうねらいで、こんな取組をしようと思うんだけど?」と伝え、若手から意見を吸い上げる場も忘れてはいけません。若手は若手なりの教育観を持っているはずです。よい意味で学年の先生方がフラットな関係を保ち、お互いの「観」をぶつけ合うことが必要です。それなしにして「まだ若いから」というようなことがあれば、学年がチームとして機能することはないでしょう。
教師同士が日頃からそれぞれの強みを生かした指導を行い、笑顔でコミュニケーションをとることで、お互いの考え方を理解し合っていく。それが学年をチームとして機能させていくのだと考えます。それが結果として、子供たちへの良質な指導へとつながるのです。子供たちを見取り、伸ばすためには、まず教師集団が変わっていく必要があると考えています。
子供たちに対して「美点凝視」の会話をすることで教師集団が変わる
では、教師集団が変わっていくための取組例を紹介します。
次の2つの取組は、
・子供たちに安心感を与え、成長を促すため
・子供たちのバラスーシ(素晴らしい)な行為を職員間で話すため
という、大人が子供に対して「徹底してプラスの目で見る意識」を強く持つことを目的とした取組です。
子供たちに対して、「みんなのすてきな姿を見ているよ」というメッセージを伝える手段であると同時に、教職員が子供たちを「ほめて伸ばす」ための意識改革につながるはずです。
①バラスーシカード
この「バラスーシ」とは「素晴らしい」という言葉をもじって生まれたものです。
各教室に用意しておきます。A4サイズの用紙に9枚分のカードが取れる大きさです。50枚印刷して裁断すると、一度に450枚のカードができます。
バラスーシカードは、毎日、日直の子に対して全員が、1枚ずつ書くことを基本としてします。
内容は「素晴らしい行動の事実」と「それに対する価値付け」を2文で書いていきます。日直以外の子の素晴らしい行動に対しても、書いてよいことになっています。すると、教室に「プラスの目でお互いを見合う空気」が生まれます。
活用方法として、教師が子供たちに書いたり、子供たちが教師に書いたりすることもあります。
上の写真は、校長がある子に書いてくれたカードです。このように子供たちを美点凝視(美しい点をしっかり見る)してくださることは、本当に有難いことです。カードをもらえたら、子供たちも嬉しさが倍増することでしょう。もらった子は、最初は驚いた様子でしたが、しばらく嬉しそうにカードを眺めていました。
このカードがあったことで、子供たちの成長について校長と話すことができました。
「ピグマリオン効果」という言葉があるように、プラスの目で見ることが、子供たちの成長をより促していきます。学年でこうした取組を続けることで、教職員の子供を見る目が変わり、子供たちを飛躍的に伸ばすことができます。
②ミニ賞状
名刺サイズのラミネートフィルムが売られていることをご存知でしょうか。値段は、300円で100枚入り程度です。A4サイズに10枚入る大きさ(名刺アプリで作成可能)でミニ賞状を作り、裁断してラミネートします。事務仕事の傍ら、こつこつとラミネーターに通し、一気に100枚作ってしまうと便利です。
このミニ賞状は隣の学級の子へ贈ることができる賞状です。
例えば、「先生の学級の○○さんが、黙々と一人で掃除をしてましたよ。とても責任感がありますね」と、子供たちの頑張っている姿を具体的に伝えます。そして、「ミニ賞状を渡してあげてください!」と言って手渡します。
そうすることで、教師の意識が「今日は彼を見てみよう」と思ったり、「あの子の成長が楽しみだな」と考えたりするようになっていきます。
若手の一担任が心がけたいコミュニケーション、情報共有のポイント
ミニ賞状は、教師が子供たちをプラスの目で見ることが前提になります。そして、教師同士が子供を「美点凝視」で見合い、育てるための切り口になるのです。前ページまでに述べたような内容を意識することが、若手の一担任も心がけたい基本的なことであると考えています。
子供たちのことをポジティブに捉え、バラスーシカードに書いて渡したり、学年間で子供たちにミニ賞状を贈ったりするようなことを続けるのです。すると、自然に笑顔でコミュニケーションがとれるようになります。どのような行動を見取り、子供たちを伸ばしていこうとするのか、徐々に教師間の共通理解が図られていきます。
そうしたことを前提にした上で、若手が学年主任の先生とコミュニケーションをとるポイントについて考えると、次項の3つが挙げられます。
①「ポジティブ情報」に変換して共有する
6月に入った頃、後輩の先生が担当する学年で、次のような事例がありました。学年主任の学級で「雨が降り、外遊びができない子供たちが、紙飛行機を作って廊下や階段で飛ばしていた」というのです。
校内の過ごし方としては、よくないことです。
このまま主任に伝えると、ネガティブ情報として伝わることになります。しかも、主任の学級の子供のマイナスを、浮き彫りにしてしまいます。
その若手教員は、その場できちんと子供たちを叱り、行動をやめさせました。そして、「子供たちが素直に話を聞いてくれました。次の時間から一切やらなくなりましたよ」と伝えたそうです。主任の先生は、「ありがとうございました。助かりました」とおっしゃっていました。
ネガティブな情報も、きちんと指導してポジティブ情報に変換し、情報共有できた事例だと感じました。
②個々の小さな変容を共有する
子供たちを評価する時、「できたかできないか」「正解か不正解か」というような、到達度で判断することがあります。
しかし、子供たちは1年間を通して緩やかに成長を続けています。昨日より今日、今月より来月というように、日々小さな変容があるはずなのです。授業開始時刻に間に合わなくても、その遅れが目立たなくなってきたり、ノートに何も書かなかった子がノートを開くようになったり‥‥…。そうした極微の成長を見取ることのできる教師になりたいものです。そして、その成長の積み重ねを学年の先生方で共有できたら、とても素敵なことではないでしょうか。
到達度で評価するシステムがよくないということではありません。到達に向かう過程を細かく見ていきたいということです。ゴールは3月であることを意識し、個々の変容や、成長のストーリーの細部を共有するのです。
③未来志向でアドバイスを求める
後輩から「うまくいかなくて…‥‥」「やってみたんですけど……」など、「どうしたらよいですか?」というようなアドバイスを求められることがあります。その都度、一気に負のオーラに引き込まれる感覚があります(笑)。
若い先生方には、若手だからこそできるチャレンジがあるはずです。主任にはぜひ、「こうしたいんですけど!」「こうやってみたらどうですかね?」のように、提案を含んだ未来志向のアドバイスを求めてみてください。
私の感覚ですが、最近の若手教師は相談することが少ないように感じます。抱え込んで、ぎりぎりまで耐えているように見えます。
人は、頼られたら何とかしてあげたいと思うものです。私もそうです。私は、主任の先生に仕事もプライベートも何でも相談してきました。「できないことはできない」と割り切ってきました。「親のように」頼っていたと思います。
教師も「人」です。主任の先生を心底頼ってみてください。きっと全力でサポートしてくれます。そして、鍛え、育ててくれるはずです。
『小六教育技術』2018年9月号より