新型コロナ対策─楽観的にならず、しかし過剰に不安を感じないように
小学校で新学習指導要領が全面実施となる今年度は、新型コロナウイルス感染拡大が続く非常事態の中でのスタートとなりました。こうした状況下で、学校は子どもを守るためにどう考え、どのような役割を果たすべきなのでしょうか。また、新型コロナウイルスに限らず、インフルエンザなどを含めた感染症の対策として、どのような意識が必要になるのでしょうか。川崎市健康安全研究所所長で、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議のメンバーでもある岡部信彦氏に伺いました(3月30日取材)。

岡部信彦(おかべ・のぶひこ)東京慈恵会医科大学卒業。小児科医師として各地の病院に勤務。米国バンダービルト大学小児科感染症研究室研究員、WHO西太平洋地域事務局伝染性疾患予防対策課課長、慈恵医大小児科助教授、国立感染症研究所感染症情報センター長などを経て、2012年より川崎市衛生研究所(現・川崎市健康安全研究所)所長。
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学校現場で働く人は特に感染に対する細心の注意を
2月27日に首相から発表された一斉休校要請は政府独自の政治的判断ですが、2月下旬に北海道で急激な新型コロナウイルス感染拡大の兆候が表れた頃から、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議では、学校で感染者が出た場合にどうすべきかが話し合われ始めました。私たちの見解としては、休校するかどうかは地域によって決めるべきだと考えていました。
例年でもインフルエンザが流行すれば学級閉鎖をする場合があるのと同様に、もし子どもが新型コロナウイルスに感染すれば、その子を出席停止にし、在籍しているクラスは学級閉鎖にしたほうがよいでしょう。
学校内で感染者が複数人出るようなら休校にし、地域で感染者が出ているならその地域一帯の学校を休校にする必要があるでしょう。
少なくともこれまでに、小・中学校が、クラスターといわれる流行のもとになっているという事態は発生していません。残念ながら、流行のもとになっているといえるのは、食事会や飲み会といった大人の集まりが中心でした。若者ばかりが注目されていますが、中高年も同じです。そうして感染した人が職場で病気をうつして感染が拡大していることが明らかになっており、問題となっています。
常に集団で生活をする学校が感染増幅の場になりやすいことは確かです。今、学校の先生方にお願いしたいのは、感染のリスクが高いといわれている場所へ行くのを避けてほしいということ。それは、子どもを守り、学校を守るためです。
政府が公表している「3密(密集・密閉・密接)」の場所は、医学的に感染のリスクが高いですから、教育に携わる人は感染拡大が落ち着くまではそういった場所へ行くのを我慢してください。誰にでもいえることではありますが、ほかの職業の人たち以上に細心の注意を払ってほしいと考えています。
マイナスの状況をプラス方向に変える意識が有効
子どもにとって今の状況は、人間社会ではさまざまなことが起こりうるということを学ぶ機会になると思います。社会は思いどおりに進まなくて、想定外の事態が起きた際にはしっかりと状況を把握することが求められ、どこから情報を得て、どうやって方針を決めるべきなのかということを、そして場合によっては一人ひとりが我慢しなくてはいけないこともあるけれど、それは家族や友達を守るためなのだということを、身をもって学ぶことができるはずです。学習の進度は遅れてしまうかもしれませんが、これを機に人間の生き方について教えてあげてください。
大事なのは、マイナスをプラスに切り替える、ピンチをチャンスに変える、という意識をもつことです。こういった状況だと、どうしてもマイナス面ばかりが強調されがちで、心が閉じこもり、精神的に押し込まれてしまいます。しかし、状況を変えられない以上は、前向きに考えられる面を見つけていくべきです。
普段、親子のコミュニケーションが少ない家庭であれば、対話をしたり、一緒に遊んだりするよい機会です。電車に乗って遠方へ出かけなくとも、遊ぶ方法はいくらでもあります。チャンスというと語弊があるかもしれませんが、ポジティブ思考に切り替えることは有効な方法の一つです。
ただ、それができる人は、他人に言われなくてもできるものです。できない人にどうアプローチするかと考えた場合、その役割を担うことができるのは教員です。自らマイナスをプラスに切り替えられる家庭にも相応のサポートは必要ですが、そうでない家庭にはケアが行き届くようにすることが大切です。もちろん、自身が家庭をもっている教員も多いでしょうから、そのケアも忘れないようにしてください。