学校再開ガイドラインを現場目線で具体的に考える【新型コロナ対策】
新型コロナウイルス感染拡大防止のため、学校再開に向けて具体的な方針に悩んでいる学校も多いのではないでしょうか。感染状況が拡大傾向にある地域とそうではない地域とでは対応が変わるかとは思いますが、ここでは、文部科学省から出された「学校再開ガイドライン」について現場でどう考えたらよいのか、多賀一郎先生にご提案いただきました。
追手門学院小学校講師・多賀一郎
目次
三つの条件を避ける学校づくり・学級づくりを
文部科学省は三つの条件、
「手の届く距離に多くの人がいる」
「換気の悪い密閉空間」
「近距離での会話や発声」
が同時に重なることを避け、健康管理の徹底を呼び掛けています。
(1) 換気の徹底
(「新型コロナウイルス感染症に対応した学校再開ガイドライン」より)
教室等のこまめな換気を実施すること(可能であれば2方向の窓を同時に開けること)。その際、衣服等による温度調節にも配慮すること。
(2) 近距離での会話や発声等の際のマスクの使用等
多くの学校においては人の密度を下げることには限界があり、学校教育活動上、近距離での会話や発声等が必要な場面も生じることが考えられることから、飛沫を飛ばさないよう、咳エチケットの要領でマスクを装着するなどするよう指導すること。
これらを考えて学級づくり、授業づくりを行わねばなりません。
例えば、対話型の授業にするとき、マスクをつけて行なわねばなりませんが、対話型で子どもたちが距離を近づけての授業は、減らさねばならないでしょう。
業間や休憩のときまで「友達と接触せず、あまり会話しないように」などと徹底することはできないのですから、授業の主体を全部対話型で進めていくようなことは控えた方が賢明です。
保護者も、特に高齢の祖父母がいらっしゃるご家庭は神経質になっています。
学校でどのように配慮された授業が行われているかは、関心の高いところでしょう。そういった不安に対しても、学校としては説明責任があります。
このように考えてくると、この緊急事態に対応した授業づくり、学級づくりが必要なのではないでしょうか。
保護者に明確な説明ができるように教師が配慮すべきこと
これから、学校でどのような授業をしていくかを考えなくてはなりません。目に見えない相手と戦っているような時期ですから、授業の形は揃えていかねばなりません。そこがばらばらでは、保護者は安心できません。
保護者は様々な不安を抱えています。文部科学省の指針と各委員会の方針に従って、保護者が子どもたちを学校へ安心して送り出せるような授業の在り方を学校単位で考えましょう(小規模校、1クラス40人近い学校など、地域によって子どもの実態は変わります) 。
いくつか基本的な在り方について提案してみたいと思います。各学校の実情に応じて活用してください。できれば、学校側から(冷蔵庫などに貼っておいてもらえるように)1枚の通信にまとめて出すのがよいでしょう。
文部科学省からは、再開に向けてのQ&Aが出されていますから、それを踏まえて、ここではより具体的なことに絞って書きたいと思います。
朝、学校に着いたときからの一連の活動
- 挨拶は元気ではきはきとするのがよいに決まっています。しかし、こんなときだからこそ、顔を見て小声で笑顔のあいさつを奨励してみるのも一案です。
- 教室に入る前に手洗いをすることが大切です。アルコールを常設できるかは地域の事情によるでしょうから、インフルエンザと同様に、手洗いをさらに徹底することです。もちろん、ハンカチは子ども一人ひとりが忘れないように持ってくるようにしましょう。
【関連記事】「新型コロナウイルス感染症に対応した学校再開ガイドライン」(文部科学省提供)内、正しい手の洗い方のポイントを、子どもにわかりやすく教える方法はこちらの記事をお読みください→「正しい手の洗い方」(首相官邸HP)を子供に教える方法【3分動画】
- 間接的に検温できるものの用意が可能なら、全員の熱を測れると安心できるでしょう。もちろん、おうちでの意識づけも大切なので、各家庭で朝の検温をして提出いただくことになると思います。しかし、その通りにしてくださるおうちばかりとは限りません。登校した時に検温できると保護者も安心されるでしょう。
授業時の座席
座席と活動の形についても配慮が必要です。
- 座席は、できるだけ間を空けて広がった形にします。隣とくっつけたり、コ型の対面的な座席にしたりするのは当面避けます。2メートルの距離というのは、中規模以上の学校では、不可能です。まっすぐ1列にせず、横1列ずつ交互にずらすと縦横の距離はとれます。
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- 教師主導で進める一斉授業の形で行います。当面、対話型は避けることになるでしょう。
- 音読などの元気な発声の活動は教室では自粛します。「微音読」を活用し、大きな声を出すときは校庭に出て行います。
- プリントなどの提出は、分別して提出するスペースを確保すると、一時に大勢が固まることが避けられます。タブレットなどを使える場合には、その活用を。できるだけプリントは少ない方がよいでしょう。
- 徒歩の登下校時までもマスクをつける必要はないと思いますが、授業中は常時着用を基本とします。
【関連記事】授業の具体的なアイデアについてはこちらの記事をご覧ください。→学校再開の授業アイデア:モジュール授業と聞く指導【新型コロナ対策】
業間や休み時間の過ごし方
- 基本的に天気のよいときは外で遊ぶようにします。学校の規模によっては、場所と時間を振り分ける必要もあるでしょう。
- 雨天時は、子どもが一人で遊べるものを用意したり、読書を推奨したりします。
給食の形と配膳
- 配膳はできるならば教師が行うのがよいでしょう。各クラスに管理職を始め、全ての職員で対応できるならば、です。難しい学校も多いと思いますが、せめて、低学年だけでもそうするのがよいでしょう。
- 友達と対面で楽しくおしゃべりしながら食べることは避けざるを得ないでしょう。その間、教師が絵本を読み聞かせするのもよいかもしれません。できるだけ無言で食べることを指導しましょう。
- もちろん、全員が前を向いた形での食事時間がよいでしょう。
子どもの心のケアに対する手立て
- いろいろな縛りを求めるのですから、それが子どもたちのストレスの要因になりかねません。子どもたちが納得するよう、説明を丁寧にすることです。
- 家庭がどのような状況になっているかわかりません。仕事がなくなったり、在宅が増えたりして、家庭でのストレスもたくさんあるでしょう。日記やふり返りジャーナルのような、子ども個々とつながる手立てを持ちましょう。子どもの思いを受け取ることが最優先だと思います。
- カウンセラーの配置など委員会がすることとは別に、通信などで子どもたちの心の状況を家庭に伝えていくことも、家庭の安心につながり、子どもたちのストレス軽減にもつながっていくでしょう。
【関連記事】学級担任として学校再開時に配慮しておきたい子どもの心のケアについてはこちらの記事をお読みください→学校再開時の小学生のストレスと受け止め方【新型コロナ対策】
これまでにない対応を迫られることになった新年度ですが、みんなでなんとか乗り越えていきたいですね!
●多賀一郎(たが・いちろう)。追手門学院小学校講師。神戸大学附属住吉小学校を経て私立小学校に30年以上勤務。「親塾」を各地で開いて保護者の相談に乗ったり、公私立小学校での指導助言や全国でのセミナーを通して教師を育てることにも力を注いでいる。 著書に『学校と一緒に安心して子どもを育てる本』(小学館)『危機に立つSNS時代の教師たち―生き抜くために、知っていなければならないこと』(黎明書房)『全員を聞く子どもにする教室の作り方』(黎明書房)他多数。