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トランスジェンダーを、ここで整理しよう――異性装(トランス・ヴェスタイト)とLGBTの全体像【教室から始める性教育~“いのち”と“多様性”を育てる授業】#9

連載
教室から始める性教育~“いのち”と“多様性”を育てる授業

小学校や中学校で性教育の指導に長年携わったスペシャリストである、帝京平成大学教授・郡吉範先生による連載「教室から始める性教育~“いのち”と“多様性”を育てる授業」の第9回です。この連載では、安心して実践できる基礎的・基本的なことがらやすぐに使えるヒント、ちょっと背中を押す言葉などをお届けします。今回のテーマは「トランスジェンダーを、ここで整理しよう――異性装(トランス・ヴェスタイト)とLGBTの全体像」。今回は、トランスジェンダーの3つ目にあたる「トランス・ヴェスタイト」についての話です。これで、トランスジェンダーの枠組みがひととおりそろいます。具体例は、郡先生の経験や現場での実践に基づくものですので、現場でのヒントにしてください。

執筆/帝京平成大学人文社会学部教授・郡 吉範

異性装=トランスジェンダー、ではない

「異性装(いせいそう/トランス・ヴェスタイト)」――つまり、自分の性別とは異なる服装をすること。昔から、このスタイルはなぜか“性的マイノリティ全体の象徴”のように見られてきた歴史があります。例えば、テレビなどで紹介される、いわゆる“オネエタレント”の方々の影響もあり、「トランスジェンダーって、女装や男装をする人でしょ?」と誤解されることが、今でも少なくありません。

でも、ここが大きなポイント。異性装=トランスジェンダー、ではないんです

ただし、ここで少し整理が必要です。学術的には、「トランス・ヴェスタイト」をトランスジェンダーの広い分類に含める考え方もあります。トランスジェンダーを3つに分類して説明するのは、こうした整理によるものです。これはあくまで分類上の整理であり、実際の理解としては、性自認とは別の側面として捉えることが大切です。

「トランス・ヴェスタイト」(異性装)って、どんな人たち?

この言葉が指すのは異性の服を着ることで、安心したり落ち着いた気持ちになれたりする人たちのこと。ここで大事なのは、「性的な快楽を目的としているわけではない」ということです。つまり、性的嗜好ではなく、「この服を着ると落ち着く」という感覚の話なんですね。どちらかというと、「心が安定するための表現スタイル」として異性装を選ぶ、というイメージに近いかもしれません。

学校現場に“トランス・ヴェスタイト”の子はいるの?

結論から言うと、学校でこのタイプの子供に出会うケースは、現時点ではかなり少ない印象です。例えば、スカートをはきたがらない子供がいたとしても、それはむしろ「狭義のトランスジェンダー」――つまり、社会の性別役割に違和感を覚えているケースのほうが多いでしょう。

また、私服でユニセックスな服を着ている小学生がいたとしても、それは「ジェンダー・エクスプレッション(性の表現)」の一部。「トランス・ヴェスタイト」とは少し違うと思っています。

トランス・ヴェスタイトのイラスト

教員として知っておきたいポイント

それでも、この概念については、“知識としてもっておくこと”が今の時代の教員には大切だと感じています。まとめると、次の3点がポイントです。

・「トランス・ヴェスタイト」は、トランスジェンダーの分類の1つとして整理されている。
・かつては“異性装の印象”が性的マイノリティ全体のイメージをつくってしまっていた。
・今でも「異性装=トランスジェンダー」という誤解は根強い(でも実際には全く別の話)。

今後に向けて、知っておくことが「備え」になります。今のところ、「トランス・ヴェスタイト」に該当する子が教室で困っている……という場面は少ないかもしれません。でも、これからの時代、社会の価値観はますます多様化していきます。それに伴って、子供たちの“性のあり方”の表現も、もっと幅広くなっていくことでしょう。

そんなときに、
「異性装ってそういうものだよね」
「それはトランスジェンダーとは違うよ」
と、整理された知識をもって子供に向き合える先生がいることは、大きな意味をもつと思うのです。

多様性の“引き出し”を増やしておこう

すぐに対応が必要な場面ではないかもしれません。でも、“いざというとき”のために、知識の引き出しを1つ増やしておくこと。それが、子供たちにとって「安心して相談できる大人」になる第一歩です。
「誰の話だか分からないから、スルー」ではなく、「もしかしたら、そうかもしれないから、知っておこう」。その姿勢が、これからの教育現場には求められているのだと思います。

ここまでのLGBTの整理――基本の地図をつくる

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