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47都道府県縦断!全国オリジナル地域教材でつくる「本気!」の道徳授業 #6 十勝ばれ~30年以上できなかったフェスを開催した高校生 

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元北海道公立中学校教諭

千葉孝司
連載「47都道府県縦断!全国オリジナル地域教材でつくる「本気!」の道徳授業」バナー

全国各地の「ひと・もの・こと」を教材化し、子どもたちの感情、思考、価値観を大きく揺さぶる道徳授業を提案。さらにそれらを集めてアーカイブ化しようという野望に満ちたリレー連載です。今回の執筆者は、北海道帯広市の千葉孝司先生です。

編集委員/藤原友和(北海道函館市立鍛神小学校教諭)
執筆/千葉孝司(ちばラボ・元北海道公立中学校教諭)

はじめに

私の住む帯広市は北海道十勝地方の中央に位置し、自然に恵まれた地域です。その自然はいつも明るい陽射しと共にあるような気がします。十勝は年間の日照時間が全国平均よりも長く、晴れの日が多いからです。この晴れた空は農業や観光にとって大きな恵みをもたらし、十勝の広大な大地に広がる、どこまでも澄んだ青空は「十勝ばれ」と呼ばれ、地域の人々に親しまれています。

一方で、十勝も北海道全体と同様に人口減少が進んでいます。特に若年層の都市部への流出が課題となっており、農業や地域産業の担い手不足が懸念されています。豊かな自然環境と農業資源を持ちながらも、将来に向けて地域の持続性をどう確保するかが重要なテーマです。

ふるさととは、変わりゆくものと変わらないものが交錯する場所です。いつまでも変わらないものに安堵し、変わっていくものが成長と呼ばれるものであっても、どこか寂しさを感じさせます。でも、次代に引き継ぐための変化も求められます。

晴れ渡る空の下にありながら、未来には不安な影が差し始めている十勝。 子どもたちには、この現実を理解し、地域を守りたいという願いを抱き、 自分にできることを考えるきっかけにしてほしい。 その思いから、このテーマを授業の題材として取り上げました。

 教材について

近年の社会は、前例を踏襲することやクレームを回避することを大切にしてきました。しかし安全で無難な選択ばかりでは、新しいアイデアや挑戦は生まれなくなります。

本教材では、市の野外ステージを使ってフェスを開催しようとした、ある高校生たちの挑戦を扱っています。

彼らのアイデアは、大人の考えに何度も跳ね返されます。生徒たちは自然に高校生を応援したくなるでしょう。けれども生徒自身の持つ、事なかれ主義や、面倒なことには立ち向かわないといった思考にも気づいてほしいと思います。

これからの社会は、「誰かがやってくれる」ではなく、「誰もが主体的に地域を支える」必要があります。主人公が同じ10代であることから、生徒にとって身近なロールモデルとなると考え、このテーマを授業に取り上げました。

紹介するエピソードについては、十勝毎日新聞、クラウドファンディングサイト「キャンプファイヤー」などから情報を得ています。

 授業の実際

対象:中学1年
主題名:十勝ばれ
内容項目:C-12 社会参画、公共の精神

4枚の写真(公園、池、芝生、野外ステージ)

導入「ここはどこでしょう。ここで何がしてみたいですか?」

上の4枚の写真(公園、池、芝生、野外ステージ)を掲示する。

  • ずっと鬼ごっこ
  • 芝生で寝ていたい
  • ボートに乗りたい
  • ステージで踊りたい

「この青空の下で自由に過ごせたら楽しいですね。ちなみにこの芝生はグリーンパークと呼ばれ、8haの広さがあり400mの長さのベンチもあります。じつは、この写真の場所は全部同じ地域にあります」

地図を掲示する。

公園の地図

地元高校3年生の石川裕大さんは、この野外ステージ「グリーンステージ」を見て、「ここで高校生たちと夏フェスを開催すれば、きっと最高の思い出になる!」と考えました。

石川裕大さん
※キャンプファイヤーHPより、石川裕大さん

展開 どこに問題があるかを考える

説明

その後の石川さんの行動について説明します。

石川さんは帯広市役所に問い合わせてみました。どんな答えが返ってきたと思いますか。

じつは、「ロックなどの音楽演奏使用はダメ」と断られてしまいます。

今から30年以上前、グリーンステージで夏の音楽フェスティバルが開かれた際に、大きな音量について近隣住民から20件ほどの苦情があったそうです。それ以来、音量の大きな演奏は許可しなくなっていたそうです。

発問 「何か問題はありますか? 何が問題ですか?

  • 問題あり
  • せっかくのステージが有効利用されないのは問題だ
  • 時間帯や音量を工夫すれば出来るのでは?
  • 市役所側が柔軟に考えないことが問題だ

実際に石川さんも、その答えには納得がいきませんでした。ロック以外の音楽演奏は許可されていたり、氷まつりという大きなイベントでは大きな音量を出して使っていたり、という実態があったからです。

そこで石川さんは、「イベント本番を想定して音響テストを行い、近隣住民の方々に騒音だと感じたかどうかをアンケート調査して、ほとんどの方が騒音だと感じなかった場合、夏フェスを開催させてほしい」と市役所にもちかけました。

帯広市役所の答えは、

「ロックなどの音楽演奏使用はダメ! ロックは大音量で楽しむものなので」というものでした。

発問 「何か問題はありますか? 何が問題ですか?

  • 問題あり
  • そもそも許可する気がないのでは?
  • 最近の音楽は大音量ではなくスマホで聴くなど楽しみ方が違ってきているのに、自分の価値観で決めつけているのが問題
  • せめて音響調査ぐらいさせるべきだ
  • アンケートで問題がなければやらなければならないので、それが困るのでは?
  • やる前からやらないことを決めていることが問題だ

皆さんが石川さんならどうしますか? 「もう無理、あきらめた」という人もいることでしょう。高校生の力には限界があります。石川さんの心も折れかけていました。

その頃帯広市では、大型店が相次いで姿を消そうとしていました。市の中心部で120年以上続いていた百貨店が閉店になり、駅に近く書店や飲食店も入っていた、高校生にとっての「いつもの場所」である大型スーパーも閉店が決まり、さらに別の場所の大手スーパーの撤退も決まっていました。

どんどん賑わいや勢いを失っていくふるさとを見て、石川さんは、

「若者が逆境に立ち向かい、イベントで盛り上がるのは、自分たちだけではなく、街のためにもなるのではないか」と考えます。

石川さんの思いは大人にも飛び火します。友人のお父さんの友人である市議会議員がステージ利用について議会で質問し、その話題が地元紙の裏一面に掲載され、事態は大きく転換します。

状況が認知され始めた頃、帯広市役所から、
「石川くん以外の高校生がどう思っているのか聞きたい」とのことで、軽音楽部員と市役所職員で何度か意見交換会を開催することもできました。 

その結果、春に提案が却下された、「事前の音響テストに関してアンケートを行い、近隣の同意を得た上でテストを実施し、騒音と感じるかどうかの事後アンケートを行う」ことが決定します。音響テストの前にアンケートを実施することが石川さんら高校生に託されます。

石川さんは、「とかち高校軽音楽振興会・トカチューン」を旗揚げします。「いつもの場所」で開催された1回目のイベントは、軽音楽部のある学校はもちろん、ない学校も含めた高校8校、総勢約50名の演奏が行われ、300名を超える人が集まりました。
ライブ後、総勢33名となったトカチューンで、音響テストの実施の可否に関する事前アンケートを作成し、20人のメンバーが近隣住民の住宅を歩いて回ってポスティングしました。
「新聞見たよ!」「応援してるよ!」と直接声をかけてくれる人もいたそうです。
その結果、96%の方々が音響テストの実施に同意してくれました。

このアンケート結果を受け、ついに帯広市役所から、音響テストの実施に許可が下りました。石川さんにとって大きな前進です。しかし、まだイベントの実施許可が下りたわけではありません。

その後、グリーンステージで高校生バンドによる試験演奏を行い、騒音計を使って近隣住民の迷惑にならない音量を探りました。
測定する担当者を、グリーンステージ前と、ステージから半径約350m圏内の住宅街付近計4か所に、それぞれ二人ずつ配置します。

音響テストの人員配置図

住宅街付近での音量40dbを参考に、演奏中の楽器の音量を40~45dbに抑えるよう調整しました。さらに音量の感じ方などを尋ねるアンケートを緑ケ丘公園の近隣4490戸を対象に実施、集計しました。
その結果、演奏を騒音だと感じた人は一人もいませんでした。


この結果を持って、石川さんは帯広市役所へ。帯広市の回答は……。

「音楽演奏使用を許可します」というものでした。

発問 「何か問題はありますか? 何が問題ですか?

  • 問題なし
  • みんなが納得できる内容なので
  • 問題あり
  • 時間がかかり過ぎているのが問題
  • 住民の声を大切にしているのはわかるけど、市が責任をかぶらないようにしている感じがする

いよいよ開催可能となったところで、まだ問題が残っていました。それは予算です。それまでも多くの人々の協力を得ながら活動してきた石川さんですが、本番のイベントを行うとなると、さらに大きな予算が必要です。そこでクラウドファンディングで資金集めをしました。

クラウドファンディングの募集告知用バナー。キャンプファイアのHPより。
※キャンプファイヤーHPより

「30年以上音楽が封鎖されていた帯広市緑ヶ丘公園で高校生の夏フェスを開催したい!」

ここまでの活動が、新聞やテレビなどで大きく報道されてきていたことも追い風となって、目標金額を超える163万8500円が、186名の支援によって集まりました。

そして石川さんが代表を務める学生団体「とかち高校軽音楽振興会・トカチューン」による野外音楽フェス「Youth Fes Tokachi」は、2024年の夏、無事に開催されました。

めでたし、めでたし。良かった…と生徒たちが感じたところで、軽く問いかけます。

十勝ばれの青空を撮影した写真

「石川さんたちの目に十勝ばれと呼ばれる晴れ渡った空はどのように映っていたでしょう?」

  • 一生忘れないくらいきれいだったと思う
  • よくやったって見守ってくれているよう

そして、

30数年後に、石川さんたちのような気持ちで、十勝ばれの空を眺める若者はいるのでしょうか

と投げかけ、最後に同じ発問を繰り返します。

発問 「何か問題はありますか? 何が問題ですか?

  • 問題あり
  • 問題が解決したような気がしていたけれど、フェスを開催すればそれでOKなわけではない
  • 毎年若者のフェスが行われるような活気ある地域をつくるには、今までどおりではいけない
  • この地域に住んでいる私たちが問題意識を持っていないことが問題だ

授業の最後に「今の自分たちにできることは何でしょう」とあえて問わないことには、意図があります。
なぜなら、生徒たちが現時点での力不足を感じるからこそ、未来に向けて「成長の必要性」を自覚できるからです。
もし、「今できること」を問うてしまえば、答えは限られた小さな行動にとどまり、かえって生徒自身の可能性を狭めてしまうこともありるでしょう。

3 どこにどのようにつなげる

教育活動の中で、生徒が地域に関わる様々な場面があります。地域の清掃活動やボランティア、地域の人へのインタビューや調査などです。そうした場面で「自分たちの力が十分ではない」と感じることは、決して否定的な経験ではありません。むしろ、その「無力さ」を実感することこそが、地域に主体的に関わっている証拠です。

地域の人から感謝され、自分の行動が小さくても役立っていると気づいたとき。
地域の大きな課題に直面し、自分たちの力だけでは解決できないと痛感したとき。

その両方を経験することで、生徒は「自分たちの存在が、社会の一部である」という感覚を持ち始めます。

授業の最後に問いかけるべきなのは、「今できること」ではなく、「これからの自分たちに必要な力は何だろう」ということです。そうすることで、生徒は自分の学びを「未来につながるもの」として捉え直します。

授業の最後の発問は、「今の自分たちの限界」を認めさせるためではなく、「限界を超えていくための成長の必要性」を感じさせるためにあるのです。
そして、地域に関わる活動の中で可能性と無力さを同時に体験することが、生徒を「他人事だと考えず、主体的に関わる存在」へと導いていきます。

4 おわりに

授業や学習の場面で本当に大切なのは、教師から「正解のある問題」を与えられ、それを解くことではありません。 これからの社会を生き抜くためには、自分で課題を見つけ出し、その課題に主体的に取り組む姿勢が求められます。

与えられた問題に答えるだけでは、思考は受け身になりがちです。知らず知らずのうちに「思考停止」に陥り、やがて地域社会の活力を失わせる危険さえあります。
また、唯一の答えを求める姿勢に慣れてしまった大人は、生徒の創造性や柔軟な発想を育てることが難しくなります。だからこそ教師は、この落とし穴に陥らないよう、自らを戒める必要があります。

日常生活の中で「なぜこうなっているのだろう」「もっと良くするにはどうすればいいのだろう」と考えることができれば、それはすでに問題を発見する第一歩です。
こうした姿勢を育むことができれば、生徒は「答えを探す」段階から「問いを生み出す」段階へと成長していきます。そのとき、学びは他人から与えられるものではなく、自分自身の内側から湧き上がるものへと変わっていくのです。

参考
30年以上音楽が封鎖されていた帯広市緑ヶ丘公園で高校生の夏フェスを開催したい! – CAMPFIRE (キャンプファイヤー)
https://camp-fire.jp/projects/763099/view


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