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GIGAスクール構想に向け、先生もコンピューターに慣れることから始めよう

2020/4/13

文部科学省は2023年度までに小中学校の児童生徒に1人1台の教育用コンピュータを整備することを決めました。学習指導要領を踏まえ、端末をどのように授業改善に生かしていけばいいのでしょうか。東京学芸大学の高橋純准教授に聞きました。

高橋純先生
東京学芸大学・高橋純准教授

高橋 純(たかはし・じゅん) 1972年生まれ。東京学芸大学准教授。専門は、教育工学、教育方法学。富山大学人間発達科学部准教授などを経て、2015年より現職。ICT活用によるわかりやすい授業づくりの研究に取り組み、全国の教委、学校に助言を行っています。中央教育審議会臨時委員(初等中等教育分科会)、「教育の情報化に関する手引」作成検討会委員。

キーワードはDX

新学習指導要領では、総則の「主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善」の中で、ICTの活用や情報活用能力について書かれています。つまり、新学習指導要領はICTを活用して勉強することを前提に書かれているのです。そのことをまず、小中学校の管理職の皆さんには踏まえてほしいと思います。

もう一つ、知っておいてほしいのは世の中の変化です。ICTが果たす役割が大きく変わってきています。それに伴い、押さえておきたいキーワードがあります。それはデジタルトランスフォーメーション(Digital transformation、以下DX)です。日本語で言うと「溶け込み」となります。これは、ICTが何かの補助ツールという枠組みを超え、何かに溶け込んでいて切り離せないものになっていて、それによって世の中を変革していこうとする概念です。近年、これが世界的な潮流となっていて、世界中の多くの企業がDXを進めています。

DXの時代にはコンピュータがなければ始まりません。文部科学省がGIGAスクール構想により、2023年度までに児童生徒に1人1台の教育用コンピュータを整備しようとしているのは、大きな視点に立って「コンピュータがあるのは当たり前の世の中にする」ことが目的なのではないかと思われます。

ICTが不可欠な理由

小学校の学習指導要領の解説の総則編、「主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善」のページには、「生涯にわたって能動的(アクティブ)に学び続けるようにすることが求められている」という文言があります。私は、これが非常に重要なメッセージだと思っています。主体的・対話的で深い学びとは、子どもがやがて成長し、最終的には保護者も先生も周りにいなくなっても、一人で学び続けられるようにするためのトレーニングの一種なのではないでしょうか。

子どもたちは将来、ネット上のeラーニングで学んでいくことになるでしょう。そのときにICTを使うだけで疲れ果てているようでは、勉強にならないと思うのです。やはり、子ども時代から学校で「主体的・対話的で深い学び」を、ICTを使いながらし続けることで、生涯にわたって能動的に学び続けられるような人材に育っていくはずです。ですから、ICTは学校教育にとって不可欠なものなのです。

全国学力調査はどうなる?

ただし、1人1台になるからといって、学校教育のすべてのことをICT化すればいいわけではないと思います。

全国学力・学習状況調査(以下、全国学力調査)で正答率が低い子どもたちに対して、ICTを使って動画を見せたり、ドリルをさせたりすることもできると思いますが、そもそも低位層の子どもたちは問題の文字を読むのも計算するのも苦手なのではないでしょうか。もしも勉強をしたくない子どもに、個別最適化ということで、何回も何回も同じような動画を見せたり、同じようなドリルの問題をやらせ続けたりしたら、どうなるでしょうか。できないという思いがもっと強くなる可能性があります。

苦手を克服したいと考えるのは、ある程度、勉強ができる子どもたちです。低位層の子どもたちの中で、ICTへの関心が高い子どもには、ICTを使って学習させるのは有効だとは思いますが、その場合は、むしろ得意な問題ばかり出てくるようにして、自信をつけさせるといったやり方も検討したほうがいいと思います。

ICTに興味がなく、勉強もしたくない子どもに対しては、今まで通り、先生たちが手を替え品を替え、教え方を工夫する必要があるでしょう。基本的に、全国学力調査のように紙で行われているものは、紙で勉強したほうが有利ではないかと私は考えます。ドリルひとつをとってみても、これまでに長い年月をかけて積み重ねてきたものがあるわけですから、非常にいい教材が揃っているはずです。その部分をあえてICTにする必要はないように思います。

生涯にわたって勉強し続けるような独立した学習者になることを考えていくとICTは欠かせないものではありますが、学校現場では必要に応じて紙のドリルも使うし、ICTも使う、そのような柔軟な発想が求められます。

今後、全国学力調査をはじめ、様々なテストをICTで行う時代がやってくるでしょう。具体的に、全国学力調査がどのようなテストになるのかについては、まだ決まっていないようですが、おそらく問題の作り方がかなり変わってくると思われます。例えば、子どもが選択肢のどれを選ぶかで、その先に出てくる問題が変わっていくような問題が出てくるかもしれません。Aという子どもと、隣に座っているBという子どもとでは、画面に出てくる問題の順番が変わる可能性もあります。記憶してきたものを単に再生するのではなく、考えて反応し、さらに考えて反応し返すような、真剣に考えなければ答えられない問題も作れるはずです。自由記述をもっと増やすことも可能になるかもしれません。

そのような時代になる前に、大事なことは子どもたちがもっとICTに慣れることです。

子どもに何を教えるべきなのか

では、子どもたちがICTに慣れるにはどうしたらいいのか、ということですが、その場合、コンピュータを子どもに渡して自由に触らせておけばいいわけではありません。好きにさせていると、子どもは甘やかされて全然勉強しなくなってしまいます。やはり、学校が基本的なことを教えなくてはいけないのです。

例えば、A小学校はICTを授業に積極的に取り入れている先進校ですが、ここにはメディアコミュニケーション科という教科があります。この時間に、各教科を貫く情報の取り扱いを教えているのです。具体的には、コンピュータを使って情報を整理する方法、表現する方法、キーボードの使い方、表計算ソフトの使い方など、学習指導要領で情報活用能力と呼ばれるものです。

子どもたちはメディアコミュニケーション科でしっかりと指導を受けているため、高学年になると自主的に様々なソフトを使って、問題解決をしていけるようになります。先生の制御がゆるい授業が可能になるのです。おそらく多くの皆さんが見たことがあるような、ICTを1人1台活用している授業というのは、「今からコンピュータを使います」「電源を入れましょう」「今からこのソフトを使います」のように進めていく授業だと思います。これは先生の制御が厳しいタイプの使い方であり、既に過去のものなのです。

先生も慣れる必要がある

子どもたちだけではなく、先生たちもICTに慣れ親しむ必要があります。そのためにはまず、旧時代の古い発想のワープロソフトではなく、世界先端の企業が問題解決や業務推進に使っているようなクラウド型のワープロソフトを使ってみるといいと思います。ワープロソフトと呼びますが、現在、日本中に広く普及しているワープロソフトとはまったく別物ですので、これを使うと仕事のやり方が変わるはずです。コンピュータ上で協働的な作業が可能になるのです。

そして、このような仕事のやり方をしている企業が現在、大きな利益を上げていることを先生たちに実感してほしいのです。日本の一部の小中学校でも、このワープロソフトを導入しているところがあり、会議が変わりつつあります。おそらくこの企業の真似をする企業が今後、世界中にどんどん出てくるはずです。今の子どもが社会人になるころにはそういう企業ばかりになっているでしょう。

それから、今後、先生のコンピュータには全学年の全教科書が入ることになると思います。そうなれば、何冊もの教科書を持ち歩く必要がなくなり、いつでも全学年の内容を確認できるようになります。このようなデジタル教科書の使い方にも慣れてほしいと思います。

「1人1台のために国の膨大な予算をかけているのに慣れ親しむだけでは困る」と感じる人もいるかもしれませんが、慣れ親しむことの先にあるのは、子どもたちの国語や算数などの成績を上げることだけではなく、DXです。DXに向けて変わっていくために慣れ親しむのだということを覚えておいてほしいと思います。

取材・文/林 孝美

『総合教育技術』2020年4月号より

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