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【シリーズ】高田保則 先生presents 通級指導教室の凸凹な日々。♯19 うまくいかなかったケースから学ぶ

連載
通級指導教室の凸凹な日々。 presented by 高田保則先生
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北海道公立小学校教諭

高田保則
連載「通級指導教室の凸凹な日々。」バナー

通級指導教室担当・高田保則先生が、多様な個性をもつ子どもたちの凸凹と自らの凸凹が織りなす山あり谷ありの日常をレポート。情熱とアイデアに満ちた実践例の数々は、特別支援教育に関わる全ての方々に勇気と元気を与えるはずです。

執筆/北海道公立小学校通級指導教室担当・高田保則

はじめに

北海道オホーツク地方の小学校で、通級指導教室を担当している高田保則(たかだやすのり)です。日々、子どもたちと向き合う中で感じたことや考えたことを綴っています。ここに記す事例は、これまでに出会った子どもたちのエピソードを組み合わせて作った架空のお話ですが、実際に過ごした時間の空気感を込めています。

通級指導では、複数の要因が絡み合って支援が上手く進まないことも多々ありました。 担当した子どもへの申し訳ない思いは、今も強く残っています。それは、できれば思い返したくない記憶でもありますが、失敗から学んだことも確かにありました。

そこで今回は、「上手くいかなかったケースを振り返る」というテーマで、いくつかのエピソードを記していきたいと思います。私自身の失敗が、みなさんの実践を考える一助となれば幸いです。

イラスト1/立ち止まって振り返る   by高田保則 (生成AIを使用して作成)
イラスト1/立ち止まって振り返る by高田保則 (生成AIを使用して作成)

1保護者の理解が得られなかったケース

〈対人関係に困りを抱えるAさん〉

小学3年生のAさんは、自己中心的な言動が目立ち、友達とのトラブルを繰り返していました。指導に苦慮した学級担任から相談が寄せられ、新学期が始まって間もない頃、通級指導につながりました。

通級指導では、テーブルゲームを活用した手立てを取り入れました。すると、Aさんの特徴が次第に見えてきました。私のカードをのぞき込んだり、山札の位置を確認したりして、自分が有利になるよう振る舞うのです。私はそうした行動が見られるたびに、「それはズルになるから、みんなでやると面白くなくなるんだよ」と伝えました。しかし、勝ちたい気持ちが強いAさんは、同じ行動を繰り返してしまいました。

私はその様子を指導記録にまとめ、ご家庭に伝えました。すると保護者から、「家でも同じゲームを用意して練習します」との返事がありました。

夏休みに入った頃、保護者から面談の申し込みがありました。

「うちの子は、発達障害だというのですか?」

その問いには、「診断」への不安が強くにじんでいました。私が話していたのは、医学的な診断の話ではなく、学校生活の中で見られるAさんの行動の特徴や、教育的支援の必要性についてでしたが、その思いは十分に伝わりませんでした。

保護者からは、特別支援教育に対して、強い拒否感を示す言葉も投げかけられました。Aさんのご親族には、特別支援教育に関わった経験のある方がいました。特別支援学校の実情や卒業後の進路について、詳しい情報をお持ちだったからこそ、不安や警戒心がより強まっていたのだと思います。私は、誤解を解こうと説明を続けましたが、話し合いは平行線のまま終わりました。

その後、Aさんの通級指導は休止となりました。

〈今ならこうする〉

今振り返ると、特別支援教育に対して拒否的な感情が強い保護者に対して、Aさんのできていない部分に焦点を当てた指導記録をまとめてしまったことが、大きな失敗だったと感じています。
Aさんがゲームを楽しんでいる姿や、関わろうとしている姿を丁寧に伝えていれば、保護者の感情がここまで昂ぶることはなかったかもしれません。

もし今、Aさんを担当するなら、まずは個別指導の中でゲームの楽しみ方をじっくりと扱い、適切な関わり方が定着してから、少人数で同じゲームを楽しむ機会を設けるでしょう。指導記録には、Aさんの前向きな姿や、小さな変化と成長を中心に記すと思います。

イラスト2/上手くいかなかった記録   by高田保則 (生成AIを使用して作成)
イラスト2/上手くいかなかった記録 by高田保則 (生成AIを使用して作成)

2分析が甘かったケース

〈読み書きに苦戦するBさん〉

小学2年生のBさんは、読み書きにつまずいている様子を心配した保護者からの相談をきっかけに、通級指導につながりました。知能検査の結果、全体的な育ちは年齢相応で、特に大きく落ち込んでいる領域は見られませんでした。私は、Bさんの読み書きの困難さが年齢や経験だけでは説明しきれないと感じました。そこで、学習障害の可能性があるのではないかと考え、その前提で指導を開始しました。

学習障害の指導法について書かれた書籍を参考にし、Bさんに合いそうな手立てを次々と実践しました。しかし、読み書きの状況はなかなか改善しませんでした。

「なんか、つまんないなぁ……」

Bさんはそうつぶやき、次第に通級指導をためらう様子を見せるようになりました。

〈今ならこうする〉

うまくいかなかった理由は、ハウツー本に頼るあまり、Bさん自身の読み書きの困りを丁寧にアセスメントしなかったことにあります。Bさんが本当に苦手としていたのはどこだったのかを、深く掘り下げることができませんでした。

・苦手なのは、読むことか書くことか

・文字の形を捉えることが難しいのか

・文字を言葉のまとまりとして捉えにくいのか

・言葉の意味理解につまずきがあるのか

・手先の不器用さが影響しているのか

・集中の持続が難しいのか

・文字の細部への注意が向きにくいのか

読み書きの苦手さの背景は多岐にわたります。その核となる要因を見極めないまま、方法論に頼った指導をしてしまったことが失敗でした。

今なら、一つひとつを丁寧に確認しながら、Bさんに合った支援を考えていくと思います。

3子どもの思いを汲みとれなかったケース

〈自分のペースで学びたかったCさん〉

入学して間もないCさんは、授業中に突然大声で泣き出したり、感情が昂ぶったりすることが頻繁にあり、通級指導につながりました。発達検査の結果、全体的な発達のペースがゆっくりであることが分かりました。保護者は「とにかく勉強ができるようになってほしい」と強く希望されていました。一方で、入学前の就学相談は受けられていませんでした。

通級指導では、Cさんが取り組めそうな教材やプリントを用意し、学習指導を進めようとしました。しかしCさんは、おうちでの出来事や好きな遊びの話を次々と語り、なかなか学習に向かおうとしませんでした。数を数えるプリントに取り組んでもらおうとしたとき、突然大泣きしました。

「こんなの、おうちでやってる! でも、できないんだもん!」

Cさんは、家庭で長時間、勉強を教えられていたのでした。その後、保護者の転勤に伴い、Cさんは転校しました。

〈今ならこうする〉

Cさんがゆっくり学ぶタイプの子であることは分かっていました。しかし、週に一度の通級指導で成果を出そうとするあまり、Cさんの不安や思いを十分に受け止められず、教科の補充指導に偏ってしまいました。入学したばかりの学校は、Cさんにとって分からないことだらけで、毎日が不安だったのだと思います。そのSOSが、大泣きという行動に表れていたのでしょう。

今なら、まずは好きなことにじっくり付き合い、安心できる関係づくりを優先します。その上で、遊びを生かした学習活動を取り入れ、無理なく取り組める形を探ります。また、Cさんの育ちの様子を丁寧に保護者に伝え、Cさんが力を発揮しやすい環境について一緒に考えます。
そして、十分な情報共有と合意形成を前提に、特別支援学級への転籍も選択肢として提案すると思います。また、転校に際しても、これまでの様子や配慮点を丁寧に引き継ぎ、次の学校にお願いしたでしょう。

イラスト3/交わらなかった気持ち   by高田保則 (生成AIを使用して作成)
イラスト3/交わらなかった気持ち by高田保則 (生成AIを使用して作成)

4失敗から学ぶ

「失敗学」という考え方があります。事故や失敗の原因を分析し、再発防止につなげる学問です。

有名な事例に「タコマ橋の崩壊」があります。1940年、アメリカ・ワシントン州タコマに建設された吊り橋は、完成からわずか4か月後、強風によって崩壊しました。原因を調査した結果、この橋は横風の影響を受けやすい構造であったことが分かりました。この事故をきっかけに、長大な吊り橋の設計ではあらかじめ風洞実験が行われ、風の通り道を考慮した構造が採用されるようになりました。

指導の失敗を振り返ることは、痛みを伴います。しかし、失敗から目を背けてしまえば、同じ過ちを繰り返すことになりかねません。私たち教員は、上手くいかなかったことを冷静に見つめ、改善策を考え続ける姿勢を持つ必要があるのだと思います。

5「今ここ」に寄り添う責任

私たち教員は、指導や支援の失敗から学び、次に活かすことができます。しかし、その学びを直接活かせるのは、次に担当する子どもたちです。失敗したケースの子どもたちにとっての貴重な学びと育ちの時間は、取り戻すことができません。

うまくいかない要因を振り返り、できるだけ早く指導を修正していくことが大切なのだと思います。失敗の原因を子どもや保護者、学級担任といった他者に求めても、事態は改善しません。変わることができるのは、指導者自身です。

今、目の前にいるこの子に、よりよい手立てはないのかと考え続けること。それこそが、通級指導担当者の矜持なのだと感じています。

〇文献
「失敗知識データベース タコマ橋の崩壊」 特定非営利活動法人 失敗学会
https://www.shippai.org/fkd/cf/CA0000632.html


高田保則先生写真

高田保則先生プロフィール
たかだ・やすのり。1964年北海道紋別市生まれ。オホーツク地域の公立小学校教諭。公認心理師。特別支援教育士。開設された通級指導教室の運営を任され、新たな指導スタイルを模索している。趣味はバンド演奏。

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