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よくわかる教育委員会〜指導主事の仕事を中心に|第14回 人材育成の基本

学校管理職や指導主事にとって、人材育成は最も難しいミッションの一つでしょう。なぜなら、相手は一人ひとり背景も価値観も異なり、同じ指導や働きかけが必ずしも同じように届くとは限らないからです。さらに、成果がすぐに見えることがまずないため、継続して地道に関わり続ける粘り強さも求められます。
ではどうすればよいでしょうか。今回は、私(西村)が教育委員会在籍時に考え、取り組んできたことについてお話しします。

西村健吾(にしむら・けんご)
1973年鳥取県生まれ。東京学芸大学教育学部卒業後、鳥取県の公立小学校および教育委員会で勤務。「マメで、四角く、やわらかく、面白い…豆腐のような教師になろう!」を生涯のテーマにしている。学校教育に関わる書籍を多数執筆。近著は『学校リーダーの人材育成術』(明治図書)。現在、米子市立福生東小学校長。本コラムは、10年間の教育委員会事務局勤務の経験を元に執筆している。

人材育成に必要な視点

一口に人材育成と言っても「○○をすれば人が育つ」といったような、単純な方法はありません。しかし、それでも何かしらの拠りどころがないと、暗闇に向かって鉄砲を撃つようなものです。私は、指導主事が現場を支え、学校組織を成長させるために欠かせない視点として、次の3つの視点があると思っています。

個を理解し、個に応じた支援を行う視点

  • 指導主事は、校長・教頭・主任・若手など、それぞれの立場や成熟度に応じて支援の方法を変える必要がある。
  • 同じ助言であっても、相手の経験や学校の状況に合わせて「解像度」を調整し、一歩先に進める支援を行うことが大切。

人を育てる組織を作ることを支援する視点

  • 人材育成は個人任せではなく、学校全体として取り組めるような仕組みづくりが必要。
  • 役割の可視化、育成計画の共有、協働を促す校内体制の整備など、制度と運用の両面から「人が育つ環境」を整える視点が求められる。

成果ではなく成長過程を見る視点

  • 人材育成は、短期的な成果よりも、「昨日より今日、今日より明日」といった形で、どれだけ前に進んだかを見守る姿勢が重要。
  • 失敗も学びの一部として扱い、小さな変化や努力を丁寧に認めていくことで、本人の主体性と自走力を育てていく。

尊敬する先人の言葉を書き留める

今回の連載にて、ノートの活用ということを繰り返し申しあげてきました。その中で、連載第5回では「教育長ノート」を紹介しました

私は、例えば校長面談の際、あるいは教育長室に呼ばれて指示を仰ぐ際、果ては学校訪問の行き帰りの車内での会話などで、教育長が発する言葉の数々のうち、心に響いたものをできるだけノートに書き留めました。それは教育長という上司の言葉だったからということ以上に「人材を育てる」「組織を成長させる」プロとして、心から尊敬できる人だったからです。公式の場・非公式の場にかかわらず、教育長の数ある金言を日々書き留めてゆきました。

どんなノートだったか、画像でご覧ください。

私が書いていた「教育長ノート」の実物

今思い返せば、こうした行為には、次のようなメリットがあったと考えています。

  • 尊敬する先人の言葉には、経験に裏打ちされた価値基準や判断の根拠が凝縮されている。それを書き留め、繰り返し読んでいると、自分の中に「判断の軸」が育ち、難しい場面でも迷いにくくなる。
  • 先人の言葉を記録しておくと、指導や対応で悩んだ際に立ち返る拠りどころとなり、「今の自分の行動は、この言葉に照らしてどうだったか」と振り返ることができる。このことが、成長を促す習慣につながる。
  • ただ聞き流してしまえば消えていく言葉も、書き留めることで蓄積され、やがては自分にとっての教育観や仕事観を形作る財産になる。人材育成の場面で、根拠をもって語るための「言葉の引き出し」になる。
  • 尊敬する先人の言葉には、不思議と自分を前に押し出してくれる力がある。疲れたとき、迷ったとき、その言葉を読み返すことで姿勢を立て直し、「また頑張ろう」と思える原動力になる。
  • 「書き留める」という意識があるだけで、日々の対話や研修、校内の出来事に対して「学べることはないか」という意識が自然と働くようになる。つまり、日常そのものが学びの場に変わってゆく。
  • 継続して書き留めていると、「初期の頃より今の自分の方が書き留める視点が成長しているな」と感じることがある。「人はゆっくり育つ」ということが実感できるので、人材育成のための重要な視点を得ることができる。

身近な尊敬できる人以外にも、例えば自分が読んだ本、見たテレビやYouTube、聞いたラジオやポッドキャストなども参考にできます。「我以外みな師」です。至るところに「いい言葉だな」「参考になるな」「自分を成長させてくれるな」といった言葉がきっと見つかるはずです。

言葉の書き留め方

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