パワハラと言われない対応とは?「教師という仕事が10倍楽しくなるヒント」きっとおもしろい発見がある! #32

「教師という仕事が10倍楽しくなるヒント」の32回目のテーマは、「パワハラと言われない対応とは?」です。「うかつに注意もできない」といった経験はありませんか。「注意」と「パワハラ」の違い、どのように注意(指導)したらよいかなど、パワハラをしないための様々なヒントをお届けします。

執筆/吉藤玲子(よしふじれいこ)
帝京平成大学教授。1961年、東京都生まれ。日本女子大学卒業後、小学校教員・校長としての経歴を含め、38年間、東京都の教育活動に携わる。専門は社会科教育。学級経営の傍ら、文部科学省「中央教育審議会教育課程部社会科」審議員等、様々な委員を兼務。校長になってからは、女性初の全国小学校社会科研究協議会会長、東京都小学校社会科研究会会長職を担う。2022年から現職。現在、小学校の教員を目指す学生を教えている。学校経営、社会科に関わる文献等著書多数。現在、日本・中国・韓国の初等教育において、異文化理解教育の推進に関する実践と研究にも携わっている。
目次
指導の仕方も注意して
「それ、パワハラですよ!」と若手の教員に言われて、ドキッとしましたと先日あるベテラン教師から相談されました。とても仕事熱心な真面目な教員で子供や保護者からの信頼も高く、クラスをまとめられない同じ学年の新任採用(以下、新採)2年目の若い教員に指導したそうなのですが、自分の思いが伝わらなかったことに落ち込んでいました。
この教師だけでなく、教育実習や研究授業の講師で現場の小学校を訪問すると、「うかつに注意もできない」と言う管理職や主幹教諭の悩みを聞くことが多くあります。注意ができないという現状には考えさせられます。何度も述べてきていますが、教師という仕事は職人技のような一面がありますから、親方から弟子に指導するようにして身に付くところも少なくありません。指導や注意をパワハラと言われてしまったら、経験者は何も言えなくなってしまいます。そして、経験不足の教師は指導を受ける機会を失ってしまいます。今回は、このパワハラ(パワーハラスメント)問題について述べたいと思います。

「注意」と「パワハラ」の違い
「注意」と「パワハラ」とは、どちらも職場で上司などから部下に対して行われる行為ですが、目的や内容、方法が大きく異なります。業務上必要な指導や指摘は注意です。これが、業務の範囲を超えた人格否定・過剰な叱責などはパワハラになります。
「注意」は、「ここを直そう」と冷静な態度で行われるのに対し、感情的・威圧的になったり、怒鳴ったり侮辱をしたりするのが「パワハラ」です。一言で言って、注意や指導は、相手を成長させるための教育的行為であり、「行動の改善」が目的です。
それに対し、「パワハラ」は、相手に恐怖や屈辱感を与える行為であり「相手を傷つける・支配する」行為です。このように意味を分析していけば明らかにこの2つは違うのですが、なぜ注意を受けたほうの先生は混同してしまうのでしょうか。
その理由の1つに、怒られることに慣れていない、注意を受けた側がすぐに「パワハラ」と感じてしまう現状が挙げられます。「自分のプライドを傷付けられた」「全否定された」「もうやる気が出ない」、注意をした側はそんなことなど思ってもいないのに、注意を受けた側がそう感じてしまうのです。現状として、注意をする側は相手が「これは指導を受けているのだ」と感じることができるように話さなくてはなりません。具体例で示していきましょう。
