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万引きが⾃分の学級で起きると【伸びる教師 伸びない教師 第61回】

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伸びる教師 伸びない教師
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栃木県公立小学校校長

平塚昭仁
第61回 伸びる教師 伸びない教師
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豊富な経験によって培った視点で捉えた、伸びる教師と伸びない教師の違いを具体的な場面を通してお届けする人気連載。今回のテーマは、「万引きが⾃分の学級で起きると」です。万引きは悪いことには違いないのですが、その子供の人格を全否定しないで、どう起き上がるようにするかを考えるという話をお届けします。

執筆
平塚昭仁(ひらつか・あきひと)

栃木県公立小学校校長。
2008年に体育科教科担任として宇都宮大学教育学部附属小学校に赴任。体育方法研究会会長。運動が苦手な子も体育が好きになる授業づくりに取り組む。2018年度から2年間、同校副校長を務める。2020年度から現職。主著『新任教師のしごと 体育科授業の基礎基本』(小学館)。

伸びる教師はつまずいたときにこれからどうするかを考え、伸びない教師はこれまでの自分を責めすぎてしまう

子供が万引きをしたという知らせが

5年⽣の学年主任をしていたときのことです。
隣の学級の⼦供がカードを万引きしたとの知らせが学校に⼊りました。
当時は、⼦供が万引きをすると学校にも知らせが来て、担任がその現場に駆けつけることがありました。このときも担任の教師が現場に駆けつけ、保護者とともにお店の⼈に謝罪をしました。

学校に戻った担任の教師は、とても疲れた顔でこんなことをつぶやきました。
「何か⾃分の教育の仕⽅が悪かったんでしょうか」
話を聞くと、その⼦供は学級の中ではとても素直で明るく、万引きをするような⼦供にはとうてい⾒えなかったそうです。⾃分の前ではいい⼦なのに、いざ学校を離れるとそんなことをしてしまうのは、⾃分のこれまでの指導が悪かったのだと反省しているとのことでした。また、学級全体の⼦供たちもそうなのではないかと疑⼼暗⻤になっているとも⾔っていました。

その夜、私は家に帰っていろいろなことを考えました。万引きした⼦供の気持ち、不安になっている担任の気持ち、迎えに来た保護者の気持ち、そんなことを想像すると何かとても切ない気持ちでいっぱいになりました。また、この教師が⾃分の指導に⾃信をなくし、学級全体が崩れてしまうのではないかと⼼配になりました。

教師に向けての通信で

次の⽇、学年の教師に向け次のような通信を配りました。

学年の先⽣⽅へ

万引きが⾃分の学級で起きると
「⾃分の指導が悪かったのではないか」
「この⼦はこれから⼤丈夫だろうか」
そんな⼼配をするかと思います。
しかし、万引きをしたからといって、その⼦がすごく悪い⼦かというと、そうではないと私は考えます。そもそも万引きに対しての捉え⽅が⼈⽣経験を重ねた⼤⼈と何も知らない⼦供では違うのです。
⼦供は「ほしいから盗った」、ただそれだけだと推測します。また、その⾏為が悪いことだとは分かっていると思います。どれだけ⼤変なことかは、実際に⾒付かってから気が付いたのだと思います。
実は私も⼩さい頃、⽗の財布から⼩銭を盗っているところを⺟に⾒付かりものすごく叱られた経験があります。当時は、そんなに悪いことだという感覚はありませんでした。⼤⼈になるにつれ、⼈のものを盗むことの重⼤さに気付いていきました。

今回のようなことがあったとき、⼤⼈はその⼦の将来まで考え、すごく重く捉えます。もちろん、悪いことなので、将来を考え指導しなくてはいけないのですが、あまりに重く捉え過ぎるとその⼦の⼈格まで否定してしまうことがあります。
⼦供は、初めてやった悪いことを⼤⼈がどう受け⽌めるかで将来が決まることもあるそうです。悪い⼦だと⼤⼈が思って、その後もそのように接していたら⼦供は本当に悪い⼦になっていくのだと思います。
逆に、あなたはいい⼦だけど失敗してしまった、だから、これから⾃分を変えていこうよ、先⽣も⾒守っていくからと、そういうスタンスで接していくと⼦供たちはきっと変わるはずです。
万引きについてはこの時期にそれを知り、指導できてよかった、常習になる前に指導できてよかった、⾃分が担任をしている間にその指導ができてよかったと私は思うようにしています。

以前、⾃分の学級の⼦供が万引きをしたとき、私は保護者にこんなことを話しました。
「今回はやった⾏為が悪かっただけで本⼈のすべてが悪いわけではないです。いろいろ思うところがあると思いますが、お⼦さんを全否定しないでください。とてもいい⼦ですよ。お⼦さんは⾃分のしたことでおうちの⽅に嫌われるのを⼀番恐れていると思います。たくさんお話をしてあげてください。これから同じことをしなければいいのです。これで、⼈のものを盗るのがどれだけ⼤変なことか分かったとしたら、却ってよかったかもしれません」
お⺟さんは、泣いていました。相当悩んでいたのだと思います。

先⽣⽅も同じです。
万引きをした⼦供や⾃分のこれまでの指導を全否定しないでください。4⽉に⽐べて⼦供たちはとってもよくなっていますよ。ときにはこんなこともあるのです。問題は起きたことをどのように指導し、これから起きないようにするかです。
また⼀緒に頑張っていきましょう。

子供たちは成長するから転ぶ

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