雑談力…クラスでも職員室でも、絶対にプラスになる力を磨いていこう!

みなさんは、日々いろんな人と雑談によるコミュニケーションを楽しんでいますか? 雑談が上手な人ほど、人格的に魅力があり、幅広い知識や教養を身につけているものだと思います。それは、教員の一つの理想の姿ではないかと思います。今回は、雑談力をつけるために、今日から始められる工夫について、ご紹介していきたいと思います。
執筆/株式会社電通総研 研究員・慶應義塾大学SDM研究所 研究員・元横浜市公立小学校教諭
岡田芳樹
シン・コミュニケーション#4
目次
雑談は世界基準のスキル
前回は雑談がいかに貴重な存在であるかについて論考しました。今回は海外の雑談事情をご紹介した後に、教師の雑談力を高めるための方法について考えてみたいと思います。
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー(ダイヤモンド社)の記事では、アメリカ文化において「雑談力」の欠如はビジネス上のハンデになることが論じられています。アメリカのビジネスは雑談ありきであり、そこで人脈を築き信頼を勝ち取るため、雑談力はビジネスパーソンの必須スキルという位置を確立しているのです。
欧州ではどうでしょうか? 国際経営開発研究所(IMD)の調査では、デンマークが5年連続でビジネス効率性世界1位に選ばれています。デンマークの労働を研究しているデンマーク文化研究家・針貝有佳(はりかい・ゆか)氏によれば、デンマークのビジネスでは「雑談文化」が土台にあります。デンマークはイノベーション大国でもあり、その秘訣は3分間の良質な雑談にあるようです。平均労働時間も日本よりはるかに短く、なおかつ生産性は高いデンマーク。その雑談文化には日本も見習う部分が多いように感じられます。
海外の教育現場における雑談事情
では、海外の教育現場では雑談は重要視されているのでしょうか? 中国の研究によれば、教師の「近接性(親しみやすさ)」と子どもの「学習意欲・話したい気持ち」には関連性があることが示唆されています。「近接性」の向上を考える際、ただ教師用の指導書に沿って授業を行うだけでは到底向上は見込めません。
そこで雑談の出番です。雑談が教師の近接性向上の鍵を握っています。海外では、とくに第二言語の授業では雑談から入るケースが多く見受けられ、カリキュラムに意図的に入れている学校もあるほどです。
その他にも、欧米の大学や語学学校では、授業の前後、休み時間、子ども同士のグループワークにおいて雑談の時間を設ける学校もあります。その手段は多様で、教師の説話で雑談が始まる場合もあれば、カードゲームなどを用いて雑談を始める国・学校もあります。
こういった活動が、その後の自由討論やアイデア生成におけるウォーミングアップにつながることを彼らは知っているのです。雑談の効能が認識されている証拠ともいえますね。
今からでも日本の雑談を変えるために
複数の海外における雑談事情に触れてきましたが、この知見を日本の教育現場で生かすにはどこから取りかかるべきなのでしょうか。ここで大きく分けて3つ提唱したいと思います。
①雑談の価値を再認識しよう
教師自身が雑談の効能を学術的根拠から理解することです。雑談が「無駄な時間」や「場当たり的な過ごし方」とならないように、戦略的に雑談導入方法を練る必要がありますが、まずはマインドチェンジこそが何事においても出発点になりますので、雑談に対する認識・理解のアップデートから始めることを推奨します。
②雑談の引き出しを増やそう
2つ目に、雑談コンテンツの充実です。雑談といっても、ただのらりくらりと話せばよいものではないことはこれまで述べてきた通りです。人間はその発する言葉に、人格、教養が表れます。
あなたは子どもたちの将来に決定的な影響を及ぼすほどの力を有する、エッセンシャルワーカー(社会に不可欠な仕事をする人)です。職務的に高尚な教師だからこそ、人格と教養を磨くことに注力してほしいと思います。
ポイントは、自分の興味ある領域の「外」に目を向けることです。
なぜなら雑談とは、トークの話題という、相手から来たボールを、いかにレシーブするか、ということだからです。こちらが良いレシーブができるか否かで、その後の雑談の中身が大きく変わります。レシーブが全くできないと、その場で雑談終了ということも多々あるでしょう。
どんなボールが来てもレシーブできる人は、プロコミュニケーターの大事な要素を持っていると言えます。そのためにも重要なのは、前述したように自分の興味外の分野に関心をもつことです。
海外でのビジネスにおいては、いかに自国の文化、歴史、古典を語れるか…すなわち、人文科学、社会科学、自然科学といった幅広い教養(リベラルアーツ)をいかに持ち合わせているかで、ビジネスマンとしての素養が判断されます。
教師も同じく、教科指導や児童指導について学ぶだけでなく、国内外の政治、芸術、歴史、自然科学など、教育以外の引き出しを増やすと大変強力な武器になります。
ここで、「子どもたちの興味のある娯楽に関して話題を増やすのも大事なのでは?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
児童理解において大事な要素ではあるのですが、ただ娯楽に詳しいだけだと、「親しみやすい先生」というだけで終わり、学級経営や教科指導でプラスになることはありません。
教師とは子どもたちの現在を把握したうえで、よりよい将来を導いてあげる仕事です。
もし音楽が好きな子がいるとしたら、その子が将来音楽の道を目指したときに、どんなことができるのか、どんな仕事の可能性があり、どんな知識や学びが必要なのか。
自分の知識を駆使して、子どもの興味が発展した先のビジョンを見せてあげられるのが、尊敬される教師ではないかと思います。
③読書をし、思考力を高め、人として育とう
3つ目に、教師自身の学習時間の確保です。リスキリングという言葉がメディアで多用されている昨今、教師こそリスキリングが必要であり、その「場」と「時間」の確保は他の業務と同等、もしくはそれ以上の価値があると私は考えます。立命館アジア太平洋大学元学長の出口治明氏は多くの著書の中で人を成長させるのは「旅、本、人」の3つであることを主張しています。
その中でも私は読書を強くお勧めします。読書は思考力を高め、また多くの価値観と触れ合うことができるからです。現在・過去を問わず、さまざまな偉人や著名人に直接会わなくても、その考え方や価値観を学べる方法は、読書以外にありません。
読書は前述した雑談の引き出し一つ一つを拡大してくれる機能があります。そして、先ほどのボールの例に例えるなら、相手からのボールを的確にレシーブし、相手により鋭いコースで、威力のあるボールを返すようなものです。ぜひ、皆さんも、さまざまな方と雑談をするときに意識してみてください。読書家ほど、雑談の質が高いことを再認識されるのではないかと思います。
これは教師と児童生徒の間でも例外ではありません。教師は、教科書の内容を教授するだけでなく、いかにプラスアルファで現代社会と結びついた知恵を授けることができるか。その会話の多彩さや興味深さにこそ、児童生徒は憧れと尊敬の念を抱くでしょう。
しかし現状、長時間労働で有名な教育現場の教師たちの中で、どれだけの人が読書に時間を当てているでしょうか。文化庁の「令和5年国語に関する世論調査」によれば、「1か月に読む本の冊数」に関して、全体の62.6%が「1冊も読まない」と回答しており、日本における成人の読書不足は深刻な事態に陥っています。では、肝心の教師はどうかというと、連合総研の調査によれば、1日の読書時間数は平均15分未満と回答した数が最多でした。
これは、活字を読むことに対する労力に現代人は耐えられなくなっている、ということではないかと危惧しています。
読書や活字に向き合うことは一定の時間が必要です。その際には集中力や思考力といったさまざまな労力がかかります。こうした努力によって、他者への想像力や発想力などが鍛えられるはずなのですが、現代人はそれを行うだけの忍耐力がなくなっているのかもしれません。
なぜなら、ネット社会は、そんなに労力をかけずとも、即座に答えを用意してくれるからです。
しかし、大正大学教授の稲井達也氏は、読書しない層が増えると、活字への意識は減り、結果的に表面的な情報ばかり重視する社会になることを指摘しています。これはフェイクニュースが氾濫するこのご時世において、いとも簡単に人々がだまされていくことを示しています。
ネットは常に真実を教えてくれるわけではありません。生成AIが出してくれる回答は、時として全く間違っていたり、不正確だったりします。
どんなに時代が進んでも、物事を正しく判断するためには教養と思考力が必要です。そのための最適解である読書という基盤が、今は社会全体として崩れています。この基盤の立て直しは、社会の急務と言えるでしょう。
雑談の価値を再認識しよう
前回から続いて雑談の重要性について論じてきました。総じて言えることは、日本における雑談はその効果を軽視されがちであるという点であり、まずそこからテコ入れをする必要があります。
では、どこから雑談に手を付けたらよいのでしょうか。まずは、あなたの中にある固定観念を変えていくことが大事だと思います。
まず第一に、「教師とはこうでなければならない」という、あなたの中の教師像をいったん手放してみましょう。
威厳ある姿を見せることも時には重要ですが、1年間その姿を保つのは教師自身の首を絞めることになります。まずは「叱る指導や一斉授業が当然」といった固定観念は勇気をもって捨ててください。

次に、教室全体と雑談するのはハードルが高いと思うので、
「話しかけてきた児童生徒1人ひとりに対して教師の前に、一人の人間として応答する」ようにしましょう。
本音をさらけ出すことは大変勇気がいります。しかし、本音の言葉でなければ相手には一切響きません。ここも固定観念を覆すポイントだと言えます。
なぜなら、教室では本来の自分で居て良い、という心理的安全性が醸成されることが大事だからです。これによって甘えが生じ始め、クラスが浮ついてくるかもしれませんが、それはただまとまらないクラスとは根本が違います。なぜなら、本音で個々人と向き合った後でなら、教師対クラス全体という対話の構造も成立するようになっているはずだからです。あなたがチャレンジしたことは、確実にあなたの力になっていきます。まずは勇気をもって本音の雑談にチャレンジしましょう。
上記ができたら、職員室で雑談することもそれほど苦ではありません。私は教室以上に、職員室の心理的安全性は重要だと考えます。職員室のチームワークが良ければ、教室でもその効果は波及するからです。そのため、順序としては職員室での雑談文化を醸成することが先のようにも思えます。ただし、その際は、学年主任や主幹教諭の力量に懸かっています。
私の研究結果では、学校現場における雑談文化醸成には中間指導職がいかに雑談するかが重要であることが示唆されました。教室では担任に、職員室では中間指導職に懸かっているのが雑談文化の特徴であることをぜひ覚えておいてください。
ダイアログ・ジャーナルは一つの理想形
ここからはさらに具体的にどのように雑談を繰り広げるのかについて論じたいと思います。私は教員時代、本記事で参照した学術論文を読んで、雑談に対するさまざまな取り組みを試みてきました。その中でも効果があったと自負しているのが「ダイアログ・ジャーナル(Dialogue Journaling)」です。教師と子どもが定期的に短文で個人の話題や感想を共有することです。
私は、三行日記カードというフォーマットを作ったり、音読カードの余白を使ったりして、毎日30人近い子どもたちと短文で雑談をしていました。放課後に子どもたちからの文章に返事を書く時間がそれなりに必要でしたし、毎回気の利いたコメントを書けるわけでもありませんでしたが、それでも子どもたちとの関係性構築において非常に役立った取り組みだったと今でも心から思っています。
ダイアログ・ジャーナルのポイントは2つあります。
1つ目が「相手を否定しない」ことです。児童生徒との文章でのやり取りにおいて、時には深刻だったり、ネガティブだったりする感情的な内容も含まれることがあるでしょう。しかし、どんな内容であれ否定はご法度です。文章で感情のキャッチボールをすることは不可能に近いからです。LINEやメールでもそうですが、すれ違いや関係悪化の原因は、たいていこの感情のやり取りによる誤解が原因です。
気になった点に関しては、実際に対面して話すようにしましょう。
2つ目は「相手に質問する」ことです。質問は関心を示すことと同じです。ダイアログ・ジャーナルにおいても、一方通行では児童生徒は長続きしませんし、途中でやめてしまいます。教師側から質問を投げかけることで、児童生徒は翌日その答えを返してくれます。質問も非常に頭を使う作業でもあり、最初は大変苦労しますが、教師の思考力を鍛える素晴らしいルーティンになります。
雑談をその場しのぎであったり、アイスブレイクだったりのみで用いるのはあまりにもったいない。雑談は人間関係構築、そして組織発展の土台となるものです。教育現場に限らず、企業や自治体も含めてその価値が日本で見直されることを切に願っております。
【参考資料】
・Harvard Business Review “The Big Challenge of America Small Talk” February 27, 2013
・Harvard Business Review “Remote Workers Need Small Talk, Too” March 25, 2021
・針貝有佳 (2025)『デンマーク人はなぜ会議より3分の雑談を大切にするのか』PHP研究所
・IMD『IMD World Competitiveness Booklet 2025』
・文化庁(2024)『令和5年度「国語に関する世論調査」の結果の概要』
・連合総研(2016)『とりもどせ! 教職員の「生活時間」』
教育現場のコミュニケーションをアップデート! 元小学校教諭のプロ・コミュニケーター岡田芳樹先生の連載『シン・コミュニケーション』はこちらからご覧ください(以下、公開順)。
◆【シン・コミュニケーション #1】教師にとっていちばん大切な力は何だと思いますか? シン・コミュニケーション~教師というプロコミュニケーターになるために~
◆【シン・コミュニケーション #2】戦略とは戦わずして勝つこと。そして教師の最大の武器とは「戦略的コミュニケーション」。
◆【シン・コミュニケーション #3】コスパ・タイパにサヨナラを…仕事の成果が最大化する、一見無駄なこと。「雑談」は教育現場を、組織を変える!

執筆者:岡田芳樹(おかだ・よしき)
1986年、東京都生まれ。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了。新卒で政策シンクタンク勤務を経て、横浜市の小学校教諭として7年間勤務。現在株式会社電通総研にて研究員を務める。同時に慶應義塾大学SDM研究所の研究員、大学院のゲスト講師、『週刊教育資料』のコラムニストを担う(「バーンアウト防止に必要なデータによる感情管理」「安易なウェルビーイング教育は感情の資本化を促進する」など)。研究テーマは感情社会学、教育社会学、戦略(コミュニケーションやインテリジェンス)研究など。
