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インタビュー/神奈川県公立小学校教諭 水野佐知子さん:3期の標準時数を経て、子供と教員はどう変わってきたのか【授業時数問題 解決へのヒント④】

連載
インタビュー連載:授業時数問題 解決へのヒント
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「授業時数が多すぎる」、そう感じている小学校の先生は、全国にたくさんいるのではないでしょうか。今までは学校や先生方の工夫で何とかこなしてきましたが、これから先もこのままでいいのでしょうか? 中教審で次期学習指導要領の議論が行われている今だからこそ、現場の声を上げ、具体的に何をどう変える必要があるのかについて考えてみませんか。連載の第4回は、現役の先生たちはどう思っているのかを聞いてみたいと思い、これまでに3期の標準時数を経験してきた、神奈川県公立小学校の水野佐知子先生にお話を聞きました。

(プロフィール)
水野佐知子(みずの・さちこ)神奈川県公立小学校教諭。2003年から5年間、神奈川県内の私立学校に勤務。2008~2020年に鎌倉市立小学校に勤務し、2021~2023年に自己研鑽休職制度を利用して中央大学文学部特任助教。2024年から復職し、現職。現在は5年生の担任を務めつつ、「『登校拒否』を考える交流会」の実行委員をしている。

職員室でお茶を飲む時間があった1998標準時数

私が新卒で小学校の教員になったのは2003年度です。最初の5年間は私学にいて、2008年から公立小学校で働き始めました。教員としてこれまでに1998標準時数(2002~2010年)、2008標準時数(2011~2019年)、2017標準時数(2020~)の3期を経験しています。

これらの3期の中では、ダントツに緩やかだったのは1998標準時数でした。放課後に職員室で他の先生たちとお茶を飲みながら雑談する時間がありましたので、今よりもずっとゆとりがあったと思います。当時の5年生の総授業時数は945時間でした。高学年でも5時間授業の日が週に何回かあり、放課後、子供たちと遊ぶ時間もありました。

しかし、2008標準時数になって、2012、2013年ごろに状況がガラッと変わりました。急に忙しくなり、放課後にお茶を飲む時間がなくなったのです。その理由の一つとして、外国語活動が入ってきたのが大きかったと思います。

5年生の総授業時数は980時間に増えました。それに伴って6時間授業の日が増え、子供の下校時刻が遅くなりました。当時も時間割をいろいろ工夫して、4時間や5時間で終わる日を入れるなどしていたのですが、その頃からクラブ活動の時間を減らす動きが始まりました。行事も減らされ始めました。それは先生たちから「授業の準備が終わらない」という声が上がったことと、運営をする余力がなくなってしまったことからだと思います。

子供たちの帰る時間が遅くなると、放課後に遊びに来る子供たちが減っていきました。子供が学校にいる間は自分の仕事ができないため、会議が始まる時間も遅くなり、教員の帰宅時間が今まで以上に遅くなっていったように思います。

それから、鎌倉市ではその頃から特別支援学級の全校配置が始まりました。今までは普通級で一緒に過ごしていたはずなのに、支援級という受け皿ができたからには、そこに子供を入れていこうという動きが見られるようになりました。手のかかる子たちはどんどん分けていかないと、という焦りのようなものも、先生たちの中に出てきたのではないかと思います。「落ち着いたクラス」がいいクラス、「学級崩壊」させるのはダメ教員といったような、教員同士の評価が、教員の分断・子供の分断を生んでいったように感じています。

2017標準時数で教員はより多忙に。理想は875時間

2017標準時数では、5年生の総授業時数は1015時間に増えました。高学年は毎日6時間まで授業がある学校もあるのではないでしょうか。

今の私の学校では、6時間まで授業があると、子供の下校時刻は15時30分です。子供たちはその時間から家まで歩いて帰り、習い事や遊びに向かいます。17時には遊びを終えるとしたら、遊べる時間はほとんどありません。

教員は15時30分から、名ばかりの45分間の休憩を取り、16時15分から会議や事務作業を行います。定時の17時までに45分しかないため、結局、授業準備や会議の資料づくり、保護者対応などの仕事は時間外に行うことになってしまいます。

ここまで3期の標準時数下での教員や子供の様子を振り返ってきましたが、私の考える理想的な総授業時数は875時間です。授業は毎日5時間までにして、5コマ×5日=週25コマです。週25コマ×35週=875時間となります。

本音をいうと、4時間で終わる日があるといいと思います。875時間で、学校が工夫して、4時間の日と6時間の日をつくるのもいいと思います。あるいは、週1回4時間で終わりにして、その代わりに朝モジュールを使うのもありだと思います。4時間で終わる日ができると、子供たちは習い事の前に遊ぶ時間が取れます。教員も放課後にゆとりができます。

2017標準時数で教員の多忙化の原因の一つは評価の変更

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