【出版記念スペシャルインタビュー】全国調査から見える家庭環境・親子関係と青少年の性のかかわり
2023年度に実施された青少年の性行動の全国調査をまとめた『「若者の性」白書―第9回 青少年の性行動全国調査報告―』が出版されました。その白書の執筆者の1人である武蔵大学社会学部准教授・苫米地なつ帆先生に、家庭環境・親子関係と青少年の性のかかわりについて伺いました。家庭環境と性のかかわりについて、興味深い内容が分かります。
目次
「ひとり親世帯の子どもは性に関する事柄の経験率が高い」という調査報告
――家庭環境・親子関係と青少年の性のかかわりについて、ひとり親世帯とそうでない世帯との比較について分析されています。その概要を教えてください。
苫米地 青少年(中学生、高校生)の性のかかわり、つまり、キスや性交、性的関心について家庭環境とどのようなかかわりがあるのかを分析しています。家庭環境の視点は様々ですが、重要なポイントの1つである世帯形態について、ひとり親世帯とそうでない世帯との比較をしています。今回の調査では、ひとり親世帯の子どもは相対的に性に関する事柄の経験率が高かったり、より早期に経験していたりするという分析になりました。これは過去の青少年の性行動全国調査のデータにも見られている傾向です。
その要因として推測できることの1つは、ひとり親世帯の子どもが家庭外の環境や家族以外の対人関係に結びつきやすいことです。ひとり親世帯の場合は就労や家事に追われがちになってしまうことも多く、親の目の届かない状況になりやすいことが関係しているのかもしれません。
――また、親子のコミュニケーションとの関係についても分析されています。その概要を教えてください。
苫米地 今回の調査では、父親、母親との会話頻度についてたずねています。会話の質まではたずねていないため、その会話がなごやかな会話とは限りませんが、父親とコミュニケーションをよくとっている青少年はキスや性交を経験しにくいということが分かりました。これには、男女差(父と息子関係、父と娘関係)はあまり見られませんでした。
母親との会話頻度と性行動の関係についても、父親との会話頻度と同様に、母親とコミュニケーションをよくとっている青少年はキスや性交の経験率が相対的に低くなっていることが分かりました。
――苫米地先生は、家庭ではどのように性に対する教育をするのがよいとお考えでしょうか。
苫米地 子どもたちが自分の身を守るという意味から、性に対する教育は大切なことです。保護者と一緒にいるときには、子どもの身を守ることができます。しかし、子どもが1人のときに、自分の身を守るにはどうすればよいのかということを、教えるというより、一緒に考える姿勢が必要ではないかと思います。
私自身が保護者の立場で体験した話になりますが、私の子どもが通っている保育園では看護師の先生が定期的に「ほけんのおはなし」という会を開催してくれています。そこではいろいろなテーマを扱ってくださるのですが、性もテーマの1つで、例えば「からだの大事な部分はどこだろう?」という疑問を出発点に、プライベートパーツやお友達とのコミュニケーションについて絵本や紙芝居などを使って子どもたちに説明してくれます。
小学校低学年では、体の大事なところを絵本で一緒に見るということもよいのではないでしょうか。中学年や高学年では、ニュースなどメディアを活用して話すのもよいかもしれません。「性」だけに限った内容ではなく、「体のこと」や「命の安全」に関する内容で話してみてはいかがでしょう。
そして、家庭や保護者が子どもにとってアクセスしやすい場所や存在であることが重要です。短期間でそのような関係性を構築することは非常に難しいので、普段から意識しておくことが大切だと思います。
――家庭での性教育についての課題点を教えてください。

苫米地なつ帆(とまべち なつほ)
1987 年生まれ。2016 年東北大学大学院教育学研究科博士後期課程修了。博士(教育学)。東京大学社会科学研究所助教、大阪経済大学情報社会学部准教授を経て、現在、武蔵大学社会学部准教授。専門は社会階層論、計量社会学、家族社会学、教育社会学。主著(いずれも共著)に『夫婦の関係はどうかわっていくのか―パネルデータによる分析』(ミネルヴァ書房、2022 年)、『若者の性の現在地―青少年の性行動全国調査と複合的アプローチから考える』(勁草書房、2022年)、『人生初期の階層構造』(東京大学出版会、2021 年)、『「若者の性」白書-第9回 青少年の性行動全国調査報告-』(共編著、小学館、2025年)などがある。
取材・文・構成・撮影/浅原孝子
好評新刊 現代の若者の性の実態をリアルに映し出す

『「若者の性」白書-第9回 青少年の性行動全国調査報告-』
編/日本性教育協会 刊/小学館
2023年8月から2024年3月にかけて、全国の中学生・高校生・大学生、約1万3000人を対象に実施された「第9回 青少年の性行動全国調査」の結果をまとめた論考集。この調査は、50年以上にわたり継続されている、国内外でも類を見ない調査であり、青少年の性行動や性意識の変化を捉えるうえで欠かせない基礎資料です。