評価計画、キャリア・パスポート…「新学習指導要領」先生たちのモヤモヤまとめ

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國學院大學人間開発学部教授

田村学

2020年4月から全面実施の「新学習指導要領」。現場の先生方は、今どんなことに不安を感じ、疑問をもっているのでしょうか? 座談会形式で洗い出された先生方の率直な疑問や不安について、國學院大學の田村学教授がていねいにお答えします。

協力/東京都公立小学校・海老原司主任教諭、神奈川県公立小学校・川崎真理教諭、埼玉県公立小学校・高知尾梓教諭

 高知尾梓先生(左)、川崎真理先生(中)、 海老原司先生(右)
左から神奈川県市立小学校・川崎真理教諭(7年目)、埼玉県市立小学校・高知尾梓教諭(6年目)、東京都市立小学校・海老原司主任教諭(15年目)

三つの資質・能力を育む授業をどうつくるか?

高知尾 私は今年6年目なので、今回、初めて学習指導要領(以下、指導要領)の改訂を体験するのです。

そのため、指導要領を渡されて、「さあ、これをやってください」と言われても、具体的に何が変わり、教員として何を行えばよいのかが分かりません。

きちんと読んで考えてはきたつもりだけれども、何が分からないかがよく分かってないのではないかと不安です。私だけではなく、同じように漠然と不安をもつ若い先生方もいると思うのです。

川崎 私も7年目で改訂は今回初めてですが、確かに指導要領は分厚いので、読み込んで具体に落としていくのは大変ですよね。

私は、研究をしている理科を中心に読んで、実践に取り組んできているところです。その体験を通して、汎用的知識の育成と限られた時間内での授業づくりについて、みなさんに聞いてみたいし、田村先生にも伺ってみたいと思っています。

海老原先生は改訂を体験されていると思うのですが、現行の指導要領に変わる時はどうだったのでしょうか?

海老原 前回の改訂では増えた内容が多かったので、移行期からやっておく必要があって、教科書の追加の小冊子が出たりしましたよ。

高知尾川崎 へえ〜。

海老原 内容が増えたために、専門以外の教科では、「これ終わっていなかったけど大丈夫?」「間違っていない?」という感じで、てんてこ舞いだった記憶があります。

でも、それは、あくまで内容だけの問題ですからね。今回は目標が三つの資質・能力で整理され、評価が3観点になるわけですから、すんなり入れない人もいるかもしれませんね。

高知尾 「こことここが変わるから、こうするのよ」と具体的に言っていただかないと、なかなかイメージできない人も多いと思います。

高知尾教諭
担任が行うべき「カリマネ」についてぜひ知りたいです。 (高知尾先生)

海老原 今、自分の中で一番大丈夫かなと思うのは、カリキュラム・マネジメント(以下、カリマネ)です。現在、私の学校は、総合的な学習の時間(以下、「総合」)をベースにしてカリマネをやりましょう、と校長先生が方向を示して研究を行っています。

そのように方向が示されている学校は、先生方もやりやすいと思いますが、その軸が明確でない学校だと難しい面もあるかなと思います。しっかりカリマネを行っていくには校長先生のリーダーシップが影響してくるでしょう。

高知尾 現実的に考えて、「カリマネって何?」と思っている若い先生も少なくないと思います。

私自身は「総合」を勉強してきた中で、田村学先生の本を読んで学んだのですが、担任の先生が、カリマネについて学ぶ機会はまだ少ないと思います。「それは、管理職の先生がやるのですよね? 担任もやるのですか?」という先生もいると思います。

川崎 私は理科を研究してきたので、教科の内容で言えば、単元の順番を変えることによって、使っていく知識を意図的に変えるということはすでに行っています。また、学校では、教科横断的な学び方を見付け、子供がその学び方を活用して、課題・問題解決を進めていけるようにする研究を行っています。

例えば、理科での「結果を基に考察する」という経験は、「事実を基に考える」という他教科でも活用できる学び方として位置付けることができます。現時点では、国語、理科、体育において、「教科横断的な学び方」は何かということを研究しているところです。

教師は、指導要領を踏まえなければならないけれども、それを押し付けるのではなく、子供が自らそれに向かっていけるような授業づくりをめざしています。ただ、移行期の現時点では先生方一人ひとりによって、取り組みの状況は異なるように思います。

いずれにしても、カリマネをやっていくには校長先生のビジョンが大事ですよね。

海老原 学校全体で、最終的にめざす資質・能力はこれで、そのための骨組みとなる各教科の知識・技能はこれで、と考えていくことがカリマネだと私は思っているのですが、それは、教師個人でどうこうではなく、学校全体で考えるべきことですよね。

最終的なビジョンが何で、学校として身に付けさせたい資質・能力は何なのか、グランドデザインを明確にして実践していく、校長のリーダーシップが大切ですよね。

川崎 グランドデザインも形だけの学校があると聞きますからね。

ちなみに、本校は会議を減らしていて、そこで研究や困っていることを話し合う時間をとっており、ざっくばらんに話ができるので、グランドデザインや研究主題の共有ができるのですが、そういう時間の確保も必要でしょう。

海老原 カリマネって、でも実際にやると大変だと思うのです。本校は、「総合」を軸にするにあたって、内容での整理だけでなく、最終的には資質・能力を軸にした整理も行いましたが、各教科や「総合」で身に付けさせたい資質・能力を洗い出してリンクを考えていくのはすごく大変でした。

ただ1回やってみると、最終的なゴールが見えてきて授業が変わってきます。例えば、思考ツールを使った国語のこの学習が、「総合」のこの学習でも生かせるので、「総合」の話もしながら国語の授業を膨らまそうというようになってきたところです。

そして、実際にやってみると、教科によって、「知識・技能」で結び付きやすいもの、「思考・判断・表現」で結び付きやすいものなどの傾向があるように感じています。でも、それは研究を通して全員でがんばってやるからできるもので、それがない学校で担任がやるのは大変ですよね。

川崎 カリマネを行う時には、多様な質のものが混ざっているということを理解したうえで、学校の教育目標に合ったものを取り上げていくことが大切なのでしょうね。

高知尾 いろんな学校の状況はあると思いますが、その中でも、担任の先生が行うべきカリキュラム・マネジメントとは何かを、ぜひ田村先生に聞いてみたいです。

授業と評価は表裏一体。子供が変容できる学習活動をどう準備するか?

川崎教諭
「思考・判断・表現」と「知識・技能」を、どう分けて評価するかが難しいですね。 (川崎先生)

評価の変更と評価計画の立て方

高知尾 この座談会の前に、周囲の先生方に疑問点を聞いてみたら、「評価」がまだよく分からないという声が多く聞かれました。

新指導要領では毎時間評価しなくてよいと書かれているので、評価計画の立て方も変わるのかなと思いますが、現時点では教科の評価をどうやっていくのかが疑問です。

海老原 3観点に即した評価は毎時間必要ないとしても、「こういう力を付けたい」という自分の授業のねらいがある以上は、それに対する評価があってしかるべきだと私は考えています。

川崎 評価では、学習の成果だけでなく、学習の過程を一層重視するとあって、その過程の中で三つの資質・能力の育成をめざすのだと思いますが、指導要領で明示された知識・技能をすべて満たすとなった時、知識・技能の習得に追われ、過程を重視した授業づくりが難しくなるのではと危惧しています(ちなみに五年生の理科では、1年間に九つの単元があります)。

本来は、評価を、「知識・技能」という一点ではなく、「問題を見いだす、予想する、考察する」などの子供の「思考・判断・表現」や主体的に取り組む態度という過程・線で行うべきだと思うのですが…。

海老原 理科の「思考・判断・表現」は、三年は「主に問題を見いだす」、四年では「主に予想する」とありますが、結局は六年生でも問題を発見したり予想したりするわけで、それを評価しないということはないわけですからね。

本来ならば、単元の中で考察を評価すると決めたら、1時間目の考察はこうで、2時間目は、3時間目は…という変遷を見とっていかなければなりませんよね。しかし、実際にはその時間の到達点で評価しがちです。その評価計画をどう立てるのが適切なのかについて、ぜひ聞いてみたいですね。

高知尾 今まで、ノートを見て評価していたのに、「主体的に学習に取り組む態度」を評価するために、30人なら30人分の成長の過程を見とって、平等に評価していくのはすごく難しいと思います。その方法を具体的に知りたいです。

川崎 授業づくりと評価は表裏一体のものですから、それぞれの資質・能力の変容を見るためには子供が変容していけるような学習活動を用意していかなければならないわけですよね。その授業づくりが評価につながるのだと思います。

だから、高知尾先生の話は、到達点を評価する「点の評価」ではなく、「線の授業づくり」はどのようにすればよいかという問いになりますよね。そして、それは単元計画にもつながる。

海老原 具体的に理科で説明すると、私は単元をつくる時、知識・技能が答えになるような問題をつくります。例えば、三年なら、「金属には電気が流れる」という答えが出るような問題をつくるのです。その答えにたどり着く過程で、どのように思考力・判断力・表現力等が働くような場面づくりをすればよいかとか、そのような「学びに向かう力」を動かすにはどのような事象との出合いがあればよいか、とか。

そんなふうに指導要領を見ながら考えていますが、それでよいのでしょうか。

成長の過程を見とって、平等に評価する方法を教えてほしい

海老原主任教諭
評価計画をどう立てるのが適切なのか聞いてみたいです。 (海老原先生)

具体的な評価の方法と深い学び

高知尾 評価観点が三つになったこと自体にも不安は感じます。全教科等が三つになって、各教科のつながりは分かりやすくなったと思いますが、評価を実際に行う時、具体的にどう変わっていくのかが分からないのです。

海老原 私は評価については、あまり難しく考えていないのです。新指導要領では、これまでやってきたことを生かしながら行うということが大事だと思っています。まるっきり新しいものに取り組むと思うと現場は混乱するし、大変ですよね。そうではなく、今までやってきたことにプラスするとか、見方を少し意識すると考える。そうしないと長続きしないと思います。

ただ、教科の特性もあるので、例えば、国語と算数が同じ観点というのは難しい感じもしますよね。だから、評価する側としてどう理解すればよいのか教えていただきたいですね。

川崎 教師が、成績を付けるための知識・技能中心の評価ではなく、三つの資質・能力を育むための授業づくりや評価をするためには、どんなことを意識したらよいのか聞いてみたいです。

高知尾 深い学びも大切なところですよね。研究会に行って話を聞くと、「主体的に学んだり対話的に学んだりする中で、深い学びが生まれてくる」と聞くし、そう思っていたのですが…。最近行った理科の授業で、子供たちが、日かげと日なたを触って温度の違いを確かめる観察の後、「夏のプールの地面はすごく熱いよね。地面の質でも違うんじゃないかな」という話をしていたのです。それが深い学びにつながるのかな、と思ったのです。

すばらしい先生の授業を見た時も、子供たちが授業後にも学んだことに対しての感想を話し合っている姿を見ました。それこそ、主体的な学びだし、対話的な学びだし、深い学びだと思うのですが、どうでしょう?

海老原 理科で言えば、今の子供の姿のように、学んだことを基に新たな疑問を発見したりするのは深い学びの入り口の第一歩だと思うんですよね。そこから、自分なりに学んで新たな学びがなされた時、より深い、「知識・技能」と言えると思うのです。

理科の場合は、より科学的であったり、確信をもてたりすることが深い学びの姿と考えてよいと思うのです。「自分の班でやってみた。他のグループはどうかな。他のグループもみんなそうだ。だから、妥当な考え方ができているな」と確信をもてることも深い学びだと思うのです。

川崎 私は「主体的、対話的、深い」という三つの子供の姿を通して授業改善をしようという授業改善の視点であり、教師の誓いのようなものだと思っています。

高知尾 ぜひ、深い学びについても田村先生に伺ってみたいところですね。

プログラミングやキャリア・パスポートの導入について

プログラミングやキャリア・パスポートの導入について

高知尾 先日、市の研究会に行ってプログラミングを学んだ時、すごく難しいなと思ったのです。「子供たちの周囲にはデジタルツールが溢れているので大丈夫ですよ」と言われたりもするのですが、教える私が分かっていないで大丈夫かなと思ったのです。

当初(中央教育審議会の答申等で)は、プログラミング的思考という話だったと聞きましたが、プログラミング的思考ではなく、プログラミング自体は、どうして必要なのか。また教師は何を分かっているべきか。そこを、ぜひ教えていただきたいですね。

海老原 当初のプログラミング的思考という考え方から言えば、教科の中にもあったように思うのですが、プログラミングを行うことになると、それさえやっておけば間違いないというように、導入の意図を見失ってしまうのではないかと心配です。

川崎 プログラミング的思考の育成をめざすという授業をいくつか見たのですが、これまでの授業で求められてきた思考との違いが分かりませんでした。プログラミング的思考を強調する背景には、社会的な要請があると思うのですが、指導要領がどのような思考を具体的にイメージしているのか知りたいです。

海老原 プログラミング同様、新たに導入されたキャリア・パスポートも非常に気になります。

本校の現状で言えば、毎学期、子供にアンケートをとっているし、行事前にアンケートをとり、行事後にふり返りをしたりもしており、それを特活部としてまとめて、6年間のポートフォリオにしているわけです。しかし、同様のことはこれまでも担任が各自行っていたわけです。例えば修学旅行なら、担任がめあてやふり返りをしおりに書かせたりしますよね。

それを統一し、子供自身が後々それをふり返って自己の変容に生かそうという意図を生かし、6年間を通してより効果的・効率的に実施していく方法を教えてほしいです。

川崎 キャリア・パスポートの大事さは分かるけれども、その意図を共有したうえで、その学級のやり方があってもいいように思います。それが、「これでやるから」と学校で形式を統一された時点で、原理や意図がその学級から消えて、やらされ感ばかりになってしまうという不安を感じます。

川崎教諭・高知尾教諭・海老原主任教諭
左から神奈川県市立小学校・川崎真理教諭(7年目)、埼玉県市立小学校・高知尾梓教諭(6年目)、東京都市立小学校・海老原司主任教諭(15年目)

限られた時間の中で何から取り組んでいくか

川崎 この指導要領自体はすばらしいものだと思いますし、「知識・技能」だけでなく、「思考力・判断力・表現力等」や「学びに向かう力・人間性等」にも力を入れる意味はよく分かります。

しかし、内容が減らないまま、学級の子供の数も減らないままで、ここに書かれたことすべてを実現するとなると、すごく大変な気がするのです。現実にどのように単元づくり、授業づくりをしていけばよいのでしょうか。

海老原 確かに、時間や内容の制約がある中で、単元や授業のデザイン力が問われているのかなと思います。どうデザインするかはいろんな方法がある。若手の人でも気を付けるべきことがいっぱいあるような気がしますね。

川崎 教科書を見て教えるだけなら、いわゆる到達点だけの「点の指導」でもできるのだけれど、この指導要領では、学ぶ過程を大事にした「線の学び」をデザインする力が必要なのでしょうね。

海老原 「デザイン力」はいい言葉だけれど、広がりすぎる言葉ですよね。まだ、若い先生方には難しいような気もしますね。

高知尾 確かに、「デザイン力」と言われると少し腰が引けてしまいますね(笑)。

川崎 いろんな疑問はあるのだけれど、まだ具体的にイメージできていないであろう若い後輩たちに、指導要領の改訂について説明していく時、まず、どんなことに気を付け、どんなことから取り組み始めたらよいと伝えればよいのか、ぜひアドバイスしていただきたいと思います。

田村学先生へのQ

・担任が行うべきカリマネとは何?
・評価計画、単元計画はどう行えばよい?
・評価観点の変更で評価のしかたはどう変わる?
・プログラミングはなぜ必要なの?
・キャリア・パスポートの効果的な実施法は?
・限られた時間内で指導要領の内容をどう実現したらいいの?


→田村先生の回答は近日配信いたします。どうぞお楽しみに。

取材・文/矢ノ浦勝之 撮影/黒石あみ

『教育技術小三小四』2020年2月号より

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