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【シリーズ】高田保則 先生presents  通級指導教室の凸凹な日々。♯5 教職員、保護者、外部機関との連携をどうするか?

連載
通級指導教室の凸凹な日々。 presented by 高田保則先生
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連載「通級指導教室の凸凹な日々。」バナー

通級指導教室担当・高田保則先生が、多様な個性をもつ子どもたちの凸凹と自らの凸凹が織りなす山あり谷ありの日常をレポート。アイデアあふれる実践例の数々は、特別支援教育に関わる全ての方々に勇気と元気を与えるはずです。今回のテーマは「教職員、保護者、外部機関との連携」です。

執筆/北海道公立小学校通級指導教室担当・高田保則

はじめに

北海道のオホーツク地方の小学校で、通級指導教室の担当をしている高田保則(たかだやすのり)です。日々、子どもたちと向き合ってきた中で、感じた事や考えた事を記していきたいと思います。
なお、通級指導教室で出会った子どもたちの事例は、過去の事例を組み合わせた架空のものであることをご承知おきください。

今回は、『連携について』というテーマで記してみました。通級指導は単体では機能しません。学級担任や保護者と情報共有をして、その子の理解を更新していく営みを続けることが不可欠です。
また、ケースによっては、外部機関の関係者との情報共有が必要になる場合もあります。エピソードを通して、連携についての思いを綴ってみました。ご感想をお寄せいただけますと、嬉しいです。

1指導記録を記す

通級指導教室を利用する子どもたちは、ほとんどの時間を通常学級で過ごしています。通級指導の個別指導で垣間見えるその子の学び方の特徴を、保護者や学級担任を始めとした関係職員と情報共有する営みは、とても大切になります。私は、通級指導で知り得た情報を指導記録にまとめて、お伝えしています。

特別支援教育が始まった当初、医療や福祉や療育の関係者との多職種連携が必要だと強調された時期がありました。今まで学校の中しか知らなかった教員にとって他の職種の方との連携は、刺激的で示唆に富む情報が数多く得られる場でした。一方、外部の専門家と日常的に情報共有を続けるケースは稀です。お互い忙しくて、連携に多くの時間を割けないのです。

機能する連携は、毎日顔を合わせる職員の間で行われる営みだと思います。病院なら、ドクターと看護師と検査やリハビリの担当職員。介護施設なら、ケアマネジャーとヘルパーと栄養士と調理員。学校ならば、学級担任と学習支援員と養護教諭などの教職員になります。

一方、共有される情報は、常に更新していかなければなりません。落ち着きがなくて、授業に乗れないAさんがいました。当初は、Aさんが生まれながらに持っている集中や注意の弱さが、授業の参加を難しくしている要因と見立てられていました。ある日、Aさんは、朝ご飯を食べていないことが明らかになりました。すると、Aさんの見立ては、全く違うモノに変わります。Aさんの家庭環境に注目が向くようになるのです。
だから通級指導の記録は、毎回記して、その子の情報を更新する必要があるのです。

2.視覚化と文字化

通級指導の記録を関係者と情報共有する時に、気をつけていることがあります。それは、指導の様子の写真を載せることです。写真には、笑顔で学習活動を楽しんでいる子どもが写っています。集中して活動している子どもが写っています。写真は、その時の子どもの様子を雄弁に切り取ります。それを見るだけで、保護者は笑顔になるでしょう。学級担任は、普段のクラスでは見せない子どもの表情を見るかもしれません。

指導記録に載せる写真は、子どもの様子だけではありません。制作系の活動をしている子の作品は、毎回載せています。字を上手に書きたい子の通級指導をした際には、指導開始の時と今日書いた字を並べた写真を載せました。写真は、言葉で連ねるよりも的確に子どもの学びの様子を物語る場合があります。
私が記す指導記録の文章は、載せた写真の説明文を添えるというイメージ(下のぼかし入り見本参照)です。写真だけだと指導者の意図が正確に伝わりません。通級指導のねらいとその結果、今後の指導方針などを短くまとめて文字化してお伝えしたいと文章を綴っています。また、文字化すると、自分の思考が整理されます。指導記録をまとめるという営みは、指導者の省察を深める効果が一番大きいのかもしれません。

写真とコメントで構成された通級指導の記録

3校内をフラフラする

私は、時間を見つけて校内を目的なく歩いて回ることを心掛けています。
勤めている学校は、授業中のクラスに複数の職員が配置されている場合が多いので、入りやすいのです。通級指導教室で担当している子どもの様子はもちろん観察しますし、職員から依頼があった子の様子も観察します。その時に、自分に課しているルールがあります。“決して指導をしない”ということです。複数の教員で授業を行うTT(チームティーチング)指導があります。そこでは、授業の進行を担うMT(メインティーチャー)と、子どもへの後方支援を担うAT(アシスタントティーチャー)に分かれます。私は、校内を徘徊して、たまたまクラスの授業にひょっこり入り込んだヒトです。授業の流れや授業者の意図なんて分かりません。そんな私が、したり顔して自分が担当する子や困っていそうな子の個別指導なんて始めたら、はっきり言って迷惑ですよね。定年退職した教員が学習支援員になって、若い先生の授業の妨げになっているケースをちらほらと耳にします。気をつけたいものです。

私は観察者に徹します。子どもたちに気付かれないように気配を消して教室に入り込み、観察したい子のところに近づきます。その子が、授業者の指示や説明に注意を向けているかを観察します。学習内容や活動内容を理解しているかを観察します。ノートテイクや作業の様子を観察します。
時々子どもから、「教えてよ」と言われます。「ボクに教えられると思うのかね?」と返します。私が教えるヒトではないことを察した子どもは、何も言わなくなります。観察者は支援者に成り代わるのを回避して観察に徹します。

4放課後の職員室をフラフラする

私の通級指導教室には、事務処理用のデスクとパソコンがあります。職員室にもデスクが用意されてはいるのですが、そこで仕事をすることは、ほとんどありません。通級指導教室担当教員アルアルなのですが、他の職員とコミュニケーションを取らなくても、仕事が完結してしまうのです。出勤して通級指導教室に直行して、仕事が終われば退勤できます。やろうと思えば、同僚の誰とも話さずにその日の勤務を終えられるのです。それでは、職員との連携なんて、成立しないですよね。

私は、職員が多く集まる放課後の職員室をフラフラします。子どもの様子について伝えたいことや、問い合わせたいことについて職員に話しかけます。子どもの情報を集めたり伝えたりして、情報共有をするのが一番の目的です。

一方、笑いの輪に入って、一緒に大笑いします。好きなドラマや趣味の話で盛り上がります。一人で沈んだ表情をしている職員に話しかけます。職員室をフラフラするもう一つの目的は、職員と円滑な関係をつくっておくことです。普段の地道な関わりが、いざという時の円滑なチーム支援に繋がることを、過去に何度も経験しました。このことを苦い失敗から学びました。

イラスト:ranico
イラスト:ranico ※この連載のイラストは、高田先生の教え子さんに描いてもらっています。

5.ポジティブな情報を共有する

関係職員との情報共有で気をつけているのは、その子のキラリと光る持ち味や伸ばしたい特長について、取り上げることです。子どもの気がかりな言動については、嫌でも目について話題になります。それも大事ですが、一歩間違えると、その子の個性を否定することになりかねません。「やっぱりあの子は……」というネガティブな情報を共有しても、支援のヒントは見えてきません。意識してその子のポジティブな情報を共有すると、支援に繋がる子ども理解ができると思うのです。

6.職員からの返信

指導記録は、職場内のサーバー経由で、関係職員のパソコンに送付しています。記録を読んだ職員から返信が届きます。最近いただいた返信の中から幾つかを、表現を匿名化して紹介します。

① 指導記録を読みました。Aさんが、通級指導教室に行く時間を楽しみにしている姿や、たかだ先生を見たときに、何か突っ込みどころを一生懸命探しているような楽しそうな姿が印象的です。Aさんは、友達と揉めることも何度かありました。最近起きた揉め事について話をすると、4月のときは、結構自分中心だったけど、最近は自分のことだけでなく友達や相手のことも考えて発言する姿が増えたように感じています。その点で、本人の頑張りもあり、たくさん成長した1年だったと思います。1年間、ありがとうございました(^-^)

② Bさんは、最近お腹が痛くて保健室に行くことが多いです。「お父さんの朝ごはんとお弁当はあるのに、僕の分はなかった」と言っていました。朝ごはんを食べていないようです。

③ 通級指導、ありがとうございました。子どもが夢中になれる時間をつくってあげたいけど、やらなければならないこともあるしなあと、ちょっとモヤモヤとしています。子どもが興味を抱くもの全てに関心を寄せることは難しいですね。ただ、いろいろな世界に触れるのは大事かなと思っています。そういえば、冬休みに本州から帰省した実弟にポケカを教わりました。また一つ趣味を増やしました。

④ Cさんの通級指導、よろしくお願いします。Cさんは、漢字の左右を間違えて書くことがあります。今日も漢字テストを行いましたが、「細い」という漢字を「田糸」と書いていました。また、漢字を書く宿題でも漢字の左右が反対になっていることがあります。「ここ、逆になってるよ。」と指摘すると「あ。まちがえちゃった。」と苦笑いをしています。手先は器用な方です。図工でも、作りたいものを形に出来ることがほとんどです。こだわるところは、とことんこだわります。小さいものを作って休み時間に遊んでいることもあります。なので、教室の中で不器用で困っている様子はありません。どちらかというと、体育等で行う大きな動きが、ぎこちないなという印象を持っていました。ただ、わたし一人の見取りでは何とも言えませんので、分析をお願いします。

⑤ Dさんは、普段から「この勉強、前にもやったような…あ! 〇〇の時間に習ったのと似てるんだ。」という発言が結構あります。教科と教科、経験と教科……などを結び付けるのが得意なタイプだという印象があります。大切な感覚ですよね。


指導記録を読んだ何人かの職員からの返信を抜粋しました。私は、問い合わせに対しては返信し、返信をいただいた職員とは放課後の職員室でお礼を兼ねて世間話をしています。

7保護者からの返信

指導記録を保護者にお渡しすると、次のような返信を頂きました。匿名化して紹介します。

① ご指導、ありがとうございます。通級指導教室で、工作をするのを楽しみにしていました。最近になり本に興味がでてきたようです。私もお姉ちゃんたちより本を読んで上げる機会が少なかったと感じています。よろしくお願いします。

② ご指導ありがとうございました。楽しみながら自分で考え工夫する姿が伝わりました。通級指導教室の先生にゆっくりと悩み事を相談できるのも、心の支えになっていると思います。ありがとうございます。

③ いつもありがとうございます。同じ時間に学んでいた子の反応から、プレゼンスライドを手直しする箇所を確認できたのは素晴らしい時間だったかと思います。いろんな人に伝わるように、簡潔にここぞ! の話をまとめられるようになっているといいなーと思っております。またよろしくお願いします。

④ ありがとうございます。情報端末で勉強していると集中していることが多いです。食事中は話したいことも多くて時間がかかります。周りの環境も大事だと思うのですが、中々整えるのも難しいです。学校では集中できているようで安心しました。

⑤ いつもありがとうございます。3人それぞれ頑張って取り組んでいる様子や、お兄さんたちにたくさんフォローしてもらっているのを知りありがたい思いです。またよろしくお願い致します。

指導記録を読み解いていただき、返信していただけるのを有難く感じます。

イラスト:tunao
イラスト:tunao ※この連載のイラストは、高田先生の教え子さんに描いてもらっています。

8.外部機関との連携~仲良くなる~

子どもの家庭環境を探るのは、神経を使う作業です。保護者は、学校に言えない困りや悩みを抱えている場合があります。地域の子育て支援センターや発達支援センターには、子どもの育ちに関する様々な情報が集まります。センターが持つ貴重な情報は、ぜひ共有したいものです。

私は、機会を見つけて、そうした関係機関の職員と会食をします。
人間は、モノを食べている時に一番機嫌が良くなるそうです。だから、会食という習慣があるのですね。私が住む小さな街では、一度知り合いになった方とは、会合やイベントやお店など、色々な所で会う機会があります。その時に、小さな情報共有をすることもあります。小さな街の大きなメリットです。

関係機関の職員の方とお知り合いになると、問い合わせる機会が多くなりました。ケースについて、詳しい情報を持っている人物に、すぐに繋いでいただけるからです。ここは、ちょっとしたポイントだと思います。もしも、自分のところに、会ったことがない関係機関の職員から、「子どもの情報を教えて欲しい」と連絡が来たとします。その子の詳しい情報をお伝えできるでしょうか? 私には、怖くてできません。外部機関との連携で大切なのは、職員と仲良くなることです。顔見知りには、一歩掘り下げた情報を伝えやすくなるのです。

そうして得られた外部機関の情報は、状況によりスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーに繋ぐ場合もあります。もちろん、来校する彼らと良好な関係をつくっておくことは、言うまでもありません。

9苦い記憶

ひと昔前の話です。入学した一年生を通級指導教室で担当することになりました。その子は、家庭で保護者から不適切な養育を受けているのではないかという噂を耳にしました。関係機関に問い合わせをしました。関係機関の職員の方は、「個人情報については、お伝えできない」の一点張りで、正確な情報をいただくことは叶いませんでした。

懸念は数年後、現実になりました。家族にとって、とても悲しい出来事が起こってしまったのです。もしも、あの時に、正確な情報を関係機関と共有出来ていたならば、子どもと家族が悲しい思いをするのを防げたのではないかと悔やみました。

10守秘義務と情報共有

「情報共有するのは、当たり前ですよね。」

とある連携機関の職員の方は、残念そうに、そう語りました。その方は、話を続けました。

「子どもに関わる仕事をしている者は、それぞれの職場の守秘義務に基づいて業務をしています。だから、関係機関と情報の共有ができます。子どもや家族の個人情報をやり取りするのは、互いの信義と信頼の上で成り立っています。」

連携機関の職員の方がそうおっしゃった背景には、未だに学校との情報共有が上手くいかないケースがあるのだろうと察しました。
個人情報の漏洩が問題になると、「あれもダメ」「これもダメ」と処分の実例を示した指導が学校現場に入ります。不祥事の予防を優先するとそうなるのでしょう。すると、学校職員は委縮して何も言えなくなります。ならば、「子どもを育てる仕事とは何か」というモラルを考える研修をした方が、学校現場はケースに応じた柔軟な情報共有ができるようになると思うのです。

個人情報の管理について、色々とお達しが下りてくる状況になりました。引き継ぎ情報が大炎上した事件がきっかけのようです。あの事件が炎上したのは、情報の中身が酷かったからです。あんなネガティブな情報が共有されていると知ったら、生徒は傷付くし保護者は怒るに決まっています。一方、絶対に炎上しない方法は、知り得た情報を誰とも共有しない事です。でも、それだと連携なんて出来ないのです。

11.連携とは?

子どもが安全に過ごせ、保護者が安心して子育てできるよう支えるのが、子育ての支援を生業とする人たちの仕事です。そのために必要な情報を必要な方と共有するのを情報共有と言います。
例えば、「あそこのお父さんは、ギャンブルが大好き」とか「あのお母さんは、お酒ばっかり飲んでいる」という情報が、その子の子育て支援と何の関係もないのならば、それを話すのはただの噂話です。そんなのは情報共有ではありませんし、プライバシーの侵害です。守秘義務違反の対象になり得ます。

子どもの育ちと保護者の子育てにとってプラスになる情報を関係者が共有し、それぞれの仕事に活かしていく。そのために、互いの立ち位置を理解したり想像を働かせたりしながら、信頼関係を積み重ねていく。それが連携の本質だと思うのです。

情報共有と守秘義務の関係を整理して、連携について考えてみました。お考えをお聞かせいただけると嬉しいです。

高田保則先生写真

高田保則先生プロフィール
たかだ・やすのり。1964年北海道紋別市生まれ。オホーツク地域の公立小学校教諭。公認心理師。特別支援教育士。開設された通級指導教室の運営を任され、新たな指導スタイルを模索している。趣味はバンド演奏。

イラスト/ranico, tunao

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