英語という言葉を楽しみながら使い、他者とつながっていける人になってほしい 【全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す!「高校につながる英・数・国」の授業づくり #29】

前回から宮崎県のスーパーティーチャーである、宮崎市立東大宮中学校の遠目塚由美指導教諭に、英語の単元・授業づくりについて聞いています。今回は、前回紹介をしていただいたような単元・授業づくりの背景となる、英語を通してどのような力を付けたいのかや、そのような力を付けるために大事にしていることなどについて紹介をしていきます。

遠目塚由美指導教諭
目次
一生英語を自分の近くに置いていてほしい
まず、遠目塚指導教諭に英語の単元・授業を通して、子供たちにどんな力を付けたいのか、どんな子供を育てたいのかについて聞くと、次のように話します。
「私は年度はじめの授業開きでは、必ず生徒たちに私の願いやよい授業の姿、それが実現するためのルールを伝え、年間の学習のゴールなどを示しています(資料参照)。さらに、英語の評価の材料や評価規準などについても伝えているのです。その上で(前回、単元を紹介した)3年生ならば、年度末の学習で英語卒業スピーチを行うことを伝えます。そうして年間の学習イメージをつかんだ上で、一人一人の生徒たちに学習に対する決意や、英語が上達したらどんなことをしたいかという願い、さらに授業に対するリクエストなども書いてもらいます。
【資料】3年生の授業開き用資料

このような授業開きの最初に私の願いとして話をするのは、『授業はみんなと先生でつくるもの』『楽しく、かつ力が付く授業にしたい』といった英語授業のイメージと同時に、『みんなが自分の夢や希望を英語で語れるようになってほしい』『グローバルな視点で考え、行動できる人になってほしい』という、私が授業を通して育てたい姿についてです。さらに、そのようなことが実現するよい授業の中では、『生徒が生き生きと英語を使っている』『誰とでもコミュニケーションが図れる』などの生徒たちの姿が見られるはずだということも話します。
ここに私が育てたい人間像が込められているのです。今は、オンラインで海外の人と簡単につながれる時代だからこそ、英語という言葉を生き生きと楽しみながら使い、他者とつながっていける人になってほしい。加えて、それを通して日本では気付かなかった考え方や視点をどんどん広げていってほしいと思います。それこそ、スティーブ・ジョブズの “Stay Foolish”(愚か者であれ)ではありませんが、人と異なる考えや価値観をもつ人が社会で活躍することがあります。言葉を通して、そのような多様な考えや価値観に触れてほしいし、そのための重要な手段として、一生英語を自分の近くに置いていてほしいのです。
ですから、3年生の学習の最後には、そのような学びを通して何を得てきたか、将来にどのようなことを行っていきたいかについて、英語卒業スピーチを行います。3年間自分が学んできた力を使って、『思い出』『感謝』『未来の自分へ』『空想日記 Final』の4つのテーマの中から選んで英語でスピーチをするのですが、これは言わば、『あなたは3年間学んだ学び舎を去るにあたって、どんな言葉を残すのか』という私からの大きな問いなのです。これについては、必ずしも英語力が高い生徒がよいスピーチをするとは 限りません。
このような取組を行っているのは、将来何かの機会に恵まれ、自分のことや自分の気持ちを英語でスピーチするような場面があった場合、堂々と英語で語れるとかっこいいよね、と思うからです。生徒の誰かが将来有名人になって、世界に向けて英語でスピーチする日が来るかもしれないと想像するだけでワクワクします。生徒にも、将来そのような日が来るかもしれないとワクワクしながら英語を学習してほしいのです。
前回の授業紹介の中でも触れた『10の私』の取組について補足をしておきたいと思います。外国の人と知り合って、自己紹介するときに、出身地や年齢、ちょっとした趣味をいくつか言ったところで終わってしまう人も少なくないのではないでしょうか。そうではなく、もっと自分を伝えるとともに、相手の話も興味深く聞いて楽しんで人と関わる力をもってほしいという願いから始めた取組です。各学年で『10の私』というテーマで、自分の趣味や夢、興味・関心のあることなどを10の文章で表現し、一定の学習後、さらにその各文にもう1文を加え、20文にしていくというようなことを積み重ねていくわけです。このような学習を通して自分についてじっくり考え、その時々に変わっていく自分自身も見つめつつ英語で表現できるようにするとともに、人の話もじっくり聞き、関わっていけるようにしたいと思っています」

子供たちが自分ごととして英語を使っていきたくなるような単元づくりが大切
そのように、英語を使って自分自身を表現し、他者と関わっていけるようにするためには、まず何よりも子供たちが主体的に、自分ごととして英語を使っていきたくなるような単元(授業)づくりを行うことが大切だ、と遠目塚指導教諭は話します。
「主体的に子供たちが取り組むためには、まず単元を通した問いを魅力的にすることを大事にしています。問いが魅力的で、子供が自分ごととして『これを調べたいな』と思わなければ、主体的に追究できませんし、他者との対話も学びの深まりも生じにくくなってしまいます。
そのために、例えば前回紹介した単元では、生徒全員が歴史上の人物の中で、『この人をよみがえらせたい』という自分の推しを選んでALTに紹介したわけです。あるいは、2年生のユニバーサルデザインについて学ぶ単元では、教材を通して学んだことを基に、地元東大宮地区で何ができるかを考えて表現していきました(次回、詳述)。
『この内容は学習したこの単元で必ず習熟させる』という考えは今は一般的ではないと感じます。文法事項も、例えば何単元か後に、その文法事項が使えるようなトピックがあります。だからこそ、まず英語を主体的に使いたくなる(表現したくなる)場面設定をし、繰り返し使っていくことでスパイラルに学び、他者と関わりながら修正を繰り返して表現も深め、長い目で考えて習熟していけるようにすればよいのではないでしょうか。
ですから、単元ではまず自ら学びたくなるような問いや場面設定をすることを大事にするとともに、1年間あるいは3年間を見通して文法事項についても習熟していくような指導計画を作成することが指導者としては重要になると考えています」
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今回は、遠目塚指導教諭の英語の単元・授業づくりの考え方と、そのために大事にしていることを紹介していきました。それを踏まえ、次回は2年生の単元 “Universal Design”を紹介していきます。
【全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す! 「高校につながる英・数・国」の授業づくり】次回は4月4日公開予定です。
執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之