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「生き物好き」を育む先生の取り組み方【理科の壺】

連載
理科の壺/進め!理科道~理科エキスパートが教える、小学校理科の指導法とヒント~

國學院大學人間開発学部教授

寺本貴啓
【理科の壺】「生き物好き」を育む先生の取り組み方
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子どもたちは生き物をよく捕まえてきます。一方で、生き物にあまり触れてこなかった子どももいます。理科としては多くの子どもたちに生き物にも関心をもってもらいたいわけですが、その手立ての最適解が分からない、というのが困ったものです。先生自身もあまり生き物に関わってこなかったということもあるかもしれません。今回は、子どもの「生き物好き」を育む先生の取り組み方のアイデアです。まずは、先生が生き物好きになって、子どもたちにも広げていただきたいです。優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような “ツボ” が見られるでしょうか?

執筆/三重県公立小学校教諭・伊藤洸亮
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓

はじめに

みなさんは、日々の教育活動の中で、子どもたちの「生き物好き」を育むためにどのような工夫をされていますか? ご自身があまり生き物が好きではないために、生き物を扱った授業では、教科書に載っている方法だけ行っている、という先生もいらっしゃるのではないでしょうか。それは少しもったいないですね。
実は、特別な専門知識や経験がなくても、子どもたちの好奇心を刺激し、生き物への興味を深めることができるのです。そこで今回は、子どもたちの「生き物好き」を育むためのアイデアを、具体的な事例とともに紹介しています。生き物との触れ合いを通して、子どもたちが主体的に学び、発見する喜びを体験できるよう、少し取り組んでみませんか。

1.先生も一緒に学ぼう!生き物への苦手意識克服法

低学年の生活科では、1年生の「生きものとなかよし」や2年生の「身近な生き物の観察や世話」、中学年以降の理科では3年生の「植物の育ち方と生き物の観察」、4年生の「季節と生物」など、生き物を題材とする単元はたくさんあり、子どもも先生も植物や昆虫といった自然と触れ合う機会がたくさんあります。しかし、先生方の中には「専門的な知識がないから、上手く教えられる自信がない」という声を聞きます。ご安心ください。全てを完璧に知った状態で授業に臨む必要はありません。それよりも、子どもたちと同じ目線で「へぇ、そうなんだ!」と新しい発見を楽しむ気持ちがあることが大切だと考えます。

例えば、子どもたちから「この虫の名前は何?」と聞かれたとき、もしすぐには答えられなくても「先生も知りたいから、一緒に図鑑で調べてみよう!」と提案すれば良いのです。
そうやって、子どもたちと一緒に知識を広げていく姿勢が、子どもたちの学びを深めます。もちろん、事前に少しでも知識があれば、さらに深い学びにつながるのは事実です。具体的な生き物の名前まではわからなくても、「トンボの仲間」や「チョウの幼虫」など、大まかな情報でももっておくと、「さすが先生!」と親近感や好奇心を高めてくれます。

もし時間に余裕があるのなら、春休みやゴールデンウィークなどの長期休暇や普段の休み時間、放課後のちょっとした時間にでも、スマホやカメラを持って学校を散策し、季節や場所によって、よく見られる生き物を調べておくことをお勧めします。
また授業実践の前に自然観察をしておくことで、子どもたちが興味を持ちそうなポイントや、生き物に関する豆知識について準備ができたり、危険な個所の下調べ、指導への不安感を軽減できたりします。さらに、子どもたちと一緒に学ぶことで、先生自身も成長できます。「知らなかった!」という驚きを共有することで、子どもたちとの距離も縮まるでしょう。また、これらの体験的な記憶は本や図鑑で見ているよりも、とても印象に残りやすいので、何度も繰り返すうちに生き物について自然と詳しくなっていきます。

2.日々の活動で「生き物好き」を育もう!

小学校2年生から中学年向けの実践になりますが、生活科や理科、学級活動(特別活動)といった授業の中で、具体的にどのような実践ができるのか説明していきます。私は以下の3つの活動をよく取り入れています。1つ目は、「自然観察会」です。これは実物を採集することを目的とせず、写真やスケッチなどで生き物の様子を野外で記録するものです。生き物が苦手な子でも、気軽に参加することができます。2つ目は、「虫取り・生き物採集」です。実際に生き物を持ち帰って教室や理科室で丁寧に観察することを目的としています。生き物が好きな子がたくさんいる学級や、元気で活発な子が多い学級とは相性が良いです。これらは基本的に観察や採集の目的を明確に決めて行う活動ではなく、それぞれが興味のあるものを自由に触れ合うものとして取り入れています。一方で、4年生の「季節と生き物」のように、この時期に見てほしいものや教材として注目させたいものがあるときには、3つ目の「ウォークラリー」という形式で自然体験学習を実施することもあります。ここでは、事前に決められた生き物を探すことで、特定の生き物について知識を深める効果があります。

これらを使い分けて、子どもたちが自然と触れ合うようにしています。ある時、虫を怖がっていた子が、『この虫、いつもこの木の近くにいる!』と発見を教えてくれました。その発見を褒めたことで、その後も積極的に観察に参加するようになりました。この活動の目的の1つとして、子どもの生き物について知ろうとする態度を認め、褒めることであり、安心できる環境づくりの1つとなります。

虫取りをする子供たち

3.休み時間も学びの場に!「虫取りグループ」で探求心を刺激

授業の中で植物や昆虫について興味・関心を高めることで、休み時間や放課後に、生き物に触れようとする子どもが増えてきます。それは「生き物好き」を育てる大きなチャンスだと考えます。私の学校では、休み時間に虫取りをすることが大ブームです。中学年向けにはなりますが、先生が何度か付いて行けば2年生でも十分できるようになりますし、5・6年生のような高学年でも生き物が好きで参加してくれる子もいます。また休み時間という特徴から、学年の垣根を越えて、色々な子どもたちが自然体験を求めて集まり、大きな賑わいを見せます。それはさながら、鬼ごっこやドッジボールといった活動とは違う、第3勢力のようだと職員室ではよく話題にされます。休み時間ということで多くの場合、ここで『持ち込んだ生き物の扱い』という課題が生じますが、実は子どもたちの学びを深める好機となります。これらの対策として、生き物に関するルールを作り先手を打つことが大切です。例えば、「飼育期間は1週間とし、持ち込める虫は一人2匹までとする。逃げ出した場合の対処法として、捕獲用具を準備しておく。」など、事前に指導しておきましょう。しかしこれらはすでに、生き物を大切にするという活動の1つになります。

4.身近な発見から始めよう!「生き物博士」への第一歩

確認できた生き物表

生き物には、当然ながら1つ1つに名前がついていますが、それらを説明できる人は少ないです。しかし、まずは知っている生き物の名前を「1つ」増やすところから始めましょう。例として、よく学校の敷地内に生えている「クスノキ」という木を題材にします。クスノキは、日本全国の温暖な地域ではよくみられる樹木でありながら、葉をもむと特徴的なにおいがあり、子どもたちはよく興味をもちます。「この葉を揉んでみて。それが虫よけの成分として使われていたんだよ。」と話すだけで、この先生は植物に詳しいんだという印象をもたせることができます。そして結果的に「ただの木」として見ていたものが、「クスノキ」という見方をできるようになれば生き物博士へのはじめの一歩は大成功です。そして、「じゃあ他にどんな特徴があるの?」「この木にはどんな生き物が集まるの?」「他の木はどうなっているの?」といったように、1つの発見から次々と新しい発見に繋がり、知識が広がっていくのです。人間関係においても、同じようなことがあると思います。学級初めに行う自己紹介は、相手の名前や好きなものを知ることで親近感が湧き、「もっと知りたいな。」と思わせる効果があるのと同様に、生き物の名前を知ることで、生き物もより身近に感じられるようになると考えています。

5.苦手意識も個性!可能性を広げる関わり方

当然のことながら、生き物が苦手な子もいます。苦手な子に対して、無理やり押し付けるようなことは求めていません。ただ、バッタが嫌いだからといって、虫というカテゴリ全てを嫌うというのは早計です。苦手なものは苦手でよいですが、好きなものや得意なものも存在するかもしれません。子どもたちの可能性を狭めてしまうのは避けるべきです。実際私が担当していた学級の中に、虫を触ることはできないけど、見つけるのは得意だからと言って一緒に昆虫採集をしている子がいました。私はそれでいいと思います。

結び

「生き物好き」を育むことは、子どもたちの豊かな心を育み、未来を切り拓く力を養うことにつながります。先生自身も子どもたちと一緒に自然と触れ合い、驚きや発見を共有することで、子どもたちの「生き物好き」を育んでいきましょう。先生自身も学ぶこと、そして子どもの目線に立ち、自然と触れ合うことで先生自身も新たな発見と成長に繋がります。さあ、子どもたちと一緒に、身近な自然の中へ飛び出してみませんか?

生き物と触れ合う子供たち

イラスト/難波孝

「このようなテーマで書いてほしい!」「こんなことに困っている。どうしたらいいの?」といった皆さんが書いてほしいテーマやお悩みを大募集。先生が楽しめる理科授業を一緒に作っていきましょう!!
※採用された方には、薄謝を進呈いたします。

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伊藤洸亮教諭

<執筆者プロフィール>
伊藤洸亮●(いとう・こうすけ) 三重県公立小学校教諭 / 三重CST(コアサイエンスティーチャー) / 三重県小学校理科研究部会役員 / みえ森林ワークブック制作検討委員 /津市教職員研修講師 担任として学級経営を行う傍ら、理科教育を柱とした授業を展開。特に、校庭やビオトープでの昆虫採集や動植物の観察・飼育に力を入れ、子どもたちと共に活動している。教材としての標本作成や、生き物を題材とした授業実践を通して、生物多様性や生態系についての教育を探究している。近年は、SDGs達成に向けた授業づくりにも力を入れ、近年はパラオ共和国との遠隔授業も実施している。


寺本貴啓教授

<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。


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