【昭和100年記念リレー連載】昭和世代の教師として、20~30代の教師に伝えたいこと ♯3 中村健一 ~それでも、教師は、良い商売だ!


今年は昭和100年。 昭和100年を記念して、2025年8月、昭和世代の、昭和世代による、令和時代に向けてのセミナーを開催することになりました。このリレー連載では、そのセミナーに登壇する有名講師たちから現在教職に就く皆さんへのメッセージをお届けします。 昭和世代の熱い想いをお読みいただければと思います。第3回はご著書「ブラック」シリーズでスマッシュヒットを連発している、中村健一先生によるご寄稿です。
執筆/山口県岩国市立小学校教諭・中村健一
編集委員/堀 裕嗣(北海道公立中学校教諭)

目次
教育も、教育書もつまらなくなった。それでも…
私は、1970年、昭和45年の生まれです。つまり、昭和の男。
私を含め、昭和生まれの教師たちは、自由でした。とにかく、やりたい放題。
たとえば、尊敬する大実践家・古川光弘氏の実践です。
全ての教育書の中で私が一番好きな本、古川光弘著『「古川流」戦略的学級経営 学級ワンダーランド計画』(黎明書房)から引用します。
(長文の引用を許可してくださった古川氏に感謝! 古川さん、ありがとう!)
(2)様々な種類のラーメンをミックス仕立て!
「ラーメンを盛大に食べよう会」
こちらは教職3年目、6年生を担任していた時の実践です。
当時の学校は、まだ土曜日に授業がありました。その土曜日の昼から、みんなで川原で遊ぼうということになりました。
実は当時、よくこんなことをやりました。土曜日の午後は、色々なことに利用できるゴールデンタイムでもありました。
しかし、ただ集まるだけではもったいないということで、全員にどんなラーメンでもいいから1個ずつ持ってこさせました。
実にさまざまな種類のラーメンが集まりました。当時の記録によれば、ざっと次のようなラーメンを子どもたちは持ってきたのです。
・好きやねん しょうゆ味
・好きやねん みそ味
・わんぱくラーメン
・サッポロ一番 塩ラーメン
・チキンラーメン
・チャルメラ しょうゆ味
・サッポロ一番 みそラーメン
・出前一丁
・ヤクルトラーメン
・好きやねん 塩味
などなど一挙に28個
その後、川原で火を起こし、大きな鍋にこれらを全部放り込み、みんなでいっせいに食べたのです。
何でもやってみるもので、これがまた実においしいのです。
最初は味に不安がっていた子どもたちでしたが、食べ始めると、あの鍋の中のそうめんみたいなラーメンがいっぺんになくなってしまったのです。もちろんスープまでも……。
今考えると冒険的ではあります。しかし、こんな思い出をたくさん作っていくことも小学校教育として大切なことではないかと思っています。
古川光弘著『「古川流」戦略的学級経営 学級ワンダーランド計画』(黎明書房)より
どうです? 自由でしょ。これが、昭和の教育です。もちろん、私も追試しました。私が教職5年目、6年生の担任の時に。
ちなみに、この本『学級ワンダーランド計画』は、2016年の発刊。私が追試したのは、1997年。
たぶん、古川氏が書かれた雑誌論文か何かで、この実践を知ったのだと思います。
私は、「川原」とはいきませんでしたが、家庭科室で。お楽しみ会のプログラムの1つとして、「ラーメンを盛大に食べよう会」をしました。
クラス一人ひとりが袋麺を1つずつ持ち寄ります。それを家庭科室にある一番大きな鍋に全部ぶち込みます。
その時の6年生のクラスは、わずかに10人。「大きな鍋」を特別に用意する必要もありませんでした。
30人程度で追試しようと思えば、「大きな鍋」を用意する必要があるでしょう。
即席麺を煮込むと、肥大化します。驚くほどですよ。鍋一杯に肥大化した麺を子どもたちと、腹がはち切れるまで食べました。大笑いしながら。
私にとっても、子どもたちにとっても、最高の思い出の一つです。

先ほど「追試しようと思えば」と書きました。しかし、この実践、令和の時代に追試できますか?
少なくとも、私は、しません。私の同僚の若手にも、勧めません。
非常に危険な実践だからです。こういう面白すぎる実践は、リスクが高すぎます。保護者からどんな苦情が来るか分かりません。
今は、いろいろな保護者がいますからね。どう受け止められても、おかしくありません。だから、100分の1の可能性でも、保護者からクレームの来そうな実践は、しない。
私も、令和を生きている教師の一人ですからね。
令和の教師の発想は、「保護者が少しでも、おや? と思うような実践はしない」です。
誰もが、保護者に非難されることを恐れています。訴えられることを恐れています。
だから、非難されない、訴えられないことを第一に考えます。そして、非常に無難な、安全性の高い実践しか、しない。
教育がつまらなくなってしまっているのも、当然です。
古川氏でさえ、こう書きます。(前掲書『学級ワンダーランド計画』から引用)
今のような時代、なかなか「馬鹿げたフェスティバル文化」(金森俊朗氏)を実行することはできません
確かに、その通りだと思います。しかし、古川氏は、こう続けます。
しかし、あえて若い時は、無理を承知でこのような体験をしてみることも大切なことのように思っています。教室では得られない貴重な学びを、子どもたちとともに共有することができるからです。
学級経営が非常に難しくなっている今、あえて、「学級ワンダーランド計画」を実行しようではありませんか!
我々、昭和生まれの教師には、心から共感できる言葉です。
先ほど、「教育がつまらなくなってしまっている」と書きました。
ついでに言うと、教育書もつまらなくなってしまっています。
私は、若い頃、教育書おたくでした。
では、どんな教育書を読んでいたか? 授業に関するものが、ほとんどでした。
何もしなくても、学級が成り立っていた時代です。だから、学級づくりなんて、必要なかった。
教育書で得るのは、普通の授業とは違う、一段上の高尚な授業の情報でした。楽しい、面白い、授業の情報でした。
わずかながら、学級づくりの本もありました。しかし、それは、普通の学級づくりとは違う、一段上の高尚な学級づくりの情報でした。楽しい、面白い、学級づくりの情報でした。
でも、今は、違います。今どきの子どもは、同じクラスになったからといって、即、仲間にはなりません。ただ、集まっているだけです。ただ、群れているだけです。
そこで、子どもたちをつなげる。そして、集団にしていく。
教師がきちんと学級づくりをしなければ、クラスは成り立たないのです。
しかし、この学級づくりが、非常に難しい仕事になってしまっている。
しかも、学級づくりは、大学では教えてもらえません。大学で教えてもらえるのは、授業に関することばかり。
私は、学級づくりの土台があって、その上に授業づくりがあるのだと思っています。その証拠に、崩壊学級では、授業が成り立ちません。どんな優れた授業をしても、崩壊学級には、通用しないのです。
初任者や若手教師も、そのことを肌で感じているのでしょう。彼ら彼女らが知りたいのは、普通の学級を普通に成り立たせる方法です。
だから、教育書は、普通の学級を成り立たせるためのものばかりになりました。
教育書がつまらなくなってしまっているのも、当然です。
この普通の学級づくりを教育書にしたのは、尊敬する野中信行氏(元横浜市公立小学校教諭、初任者指導アドバイザー)が最初ではないでしょうか?
野中氏自身は、スペシャルな方です。しかし、そのスペシャルな部分を「売り」にしない。あくまで、初任者や若手たちが真似できるような学級づくりを伝えることにこだわる。
これが、野中氏の強みだと思います。だから、野中氏の本は、爆発的に売れたのです。
そして、今、私も野中氏と同じことをしています。私も、普通のつまらない学級づくりばかりを本にしているのです。多くの教育書のライターが、野中氏と、そして私と同じことをしています。
楽しい、面白い、スペシャルな学級づくりの本を書いても売れないからです。
悲しい話になってしまいました。なんで、こんな文章を書いてしまったのか? 反省する今日この頃です。
しかし、令和世代の教師たちに、私は、言いたい。いや、叫びたい。
「それでも、教師は、良い商売だ!」と。
たしかに、昭和ほどの型破りな実践はできないかも知れません。
しかし、教師という商売は、実は、他と比べれば、自由度が高い。
「学級づくりは、こうしないといけない」という、きまりはありません。
「授業は、こうしないといけない」という、きまりはありません。
だから、自分のやりたいように学級づくりをすれば、いいのです。自分のやりたいように授業をすれば、いいのです。
我々昭和の教師のような大きな自由はないでしょう。
しかし、それでも、教師に自由は、ある。
フィギュアスケートで言えば、昭和の教育は、「フリー」の演技のようなものです。
それに比べて、令和の教育は「ショートプログラム」。圧倒的に自由度が低い。
あっ、私はスケートに詳しくなかった。たとえが合っているか、急に心配になってきました。大丈夫かな?
いずれにせよ、与えられた自由の中で、自分のやりたいことを思いっきりやってほしいと思っています。
1年目は、何も分からず、ただただ苦しい日々が続くかも知れません。
でも、厳しい1年目を乗り切れば、2年目は少し楽しくなります。1年間を見通せるようになりますしね。
2年目、3年目、……と年を重ねるごとに、ますます楽しくなっていきます。少しずつ自由度が上がって、やりたいことができるようになっていきますので。
10年過ぎると、やばいぐらい楽しいです。クラスだけでなく、学校全体を動かせるようになっていきますからね。
私も、やりたいように、やっています。
例えば、私の専門とする「お笑い」です。学級づくりに「お笑い」を取り入れています。授業にも「お笑い」を取り入れています。
崩壊学級では、クラス全員が一斉にドッと笑う瞬間がありません。あるのは、ただ、薄ら笑いだけ。
だから、学級を成り立たせようと思えば、「お笑い」が大事になります。
「お笑い」を取り入れて、クラス全員が一斉にドッと笑える瞬間をつくるのです。子どもたちに「安心感」を与えるのです。
こうやって、適当な理屈をつけて、やりたいことができるようになっていきます。
「学習指導要領」も、適当に解釈すれば、やりたいことをするための「味方」にもなり得ます。
やはり、教師は、良い商売です。
私は、学級も、授業も、自分の作品だと思っています。もちろん、著作も。
教師という商売は、「ものづくり」。映画や陶芸と同じ、創造的な仕事です。
しかも、教師は、公務員です。公務員という立場で、安定したお給料をいただきながら、「ものづくり」ができる。こんな商売、なかなかありません。
例えば、映画人なら、それだけで食べていけるのは、一流の映画監督、一流の役者さんだけでしょう。陶芸でも、食べていけるのは、才能のある一部の人だけ。多くの人は、辞めていきます。
しかし、教師は、違う。どんな実践をしても、食べるに困ることはありません。
それにプラスして、本を出すなんて、さらなる「ものづくり」も可能です。
だから、ぜひ、教師になってください。そして、教師になったら、絶対に辞めないでください。
若い教師が増えれば、我々年寄りが楽できます。
あっ、これは、いらない言葉だったか。私は、相変わらず、一言多い。今回も反省して、筆を置きます。

執筆者のプロフィール
なかむら・けんいち。1970年山口県生まれ。現在、山口県岩国市立御庄小学校勤務。お笑い教師同盟などに所属。日本一のお笑い教師として全国的に活躍中。著書に『策略―ブラックトーク術 子供を騙す話し方』『策略―ブラック授業技術 今さら聞けない基礎・基本』(ともに明治図書出版)、『学級づくりは、4月で決まる!』(黎明書房)ほか多数がある。
イラスト/明野みる
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※主催/研究集団ことのは