教頭が働きやすい環境をつくろう!~教頭の仕事をスムーズに進めるための校長との関わり方~

教頭(副校長)は学校運営の要であり、日々多岐にわたる業務を担っています。その中でも、校長との協力関係は「働きやすさ」を左右する大きな要素です。校長にもさまざまなリーダーシップのスタイルがあり、その行動傾向をある程度把握しておくと、連携がスムーズになる場合があります。
【連載】がんばれ教頭クラブ

目次
校長との相性は選べない
理想を言えば、「マッチングアプリ」のように校長と教頭を最適に組み合わせる仕組みがあればよいかもしれません。しかし現実には、配置は教育委員会の判断によって決まりますし、自分の好き嫌いよりも、児童たちや職場のみんなのことを優先し、なんとか自分はこの環境に最適化を…と考える方も多いのではないかと思います。
そこで、校長が、どんなスタイルの人なのかを見るところから、最適化を始めてみませんか?
校長のリーダーシップスタイルには、以下のようなタイプが見られることがあります。
●将軍型
●現場監督型
●放任型
●保育士型
だいたい、この4タイプに分けられるのではないかと思います。ここからは、タイプ別に具体的な対応のポイントを見ていきます。
将軍型:自分の方針を強く持つワンマンタイプ
特徴
・自分のビジョンが明確で、トップダウン型の指示を行う。
・「わたしが決める」「わたしの方針でやる」という言い切りが多い。
・反論や意見を聞き入れないことがある。
方向性がはっきりしており、それは長所ですが、反対意見を言うときなどは、気をつけないと感情的になったり、聞く耳を持たなくなってしまうことも…。
私が経験した校長の中には「キミは意見を言っていいが、決めるのはわたしだからね」と念を押す方もいらっしゃいました。
対応法
①「聞く力」を鍛える
このタイプの校長は、「自分の話をまずはしっかり聞いてほしい」と考えていることが多いです。反論から入るのではなく、相手の意見を十分に傾聴し、「なるほど、そういうお考えですね」と共感や理解を示すことが重要です。
② 意見は「質問」形式で伝える
正面から反論すると、校長の強引さがさらに強化されてしまう場合があります。そこで、たとえば「〇〇という方法はいかがでしょうか?」といった質問形式を用いると、相手も受け止めやすくなります。
③ 優先順位を明確にする
強いリーダーシップを発揮する校長は、多くの業務指示を出しがちです。しかし、すべてを完璧にこなそうとすると、教頭の負担は急増してしまいます。そこで、「これは最優先で進めます」「こちらは少し検討が必要です」といった具合に、優先順位をはっきりさせ、その旨を丁寧に伝えることが大切です。
現場監督型:指示が多く何でも関与したがる
特徴
・現場のあらゆることに目を届かせようとする。細かく指示し、確認も小まめ。
・自分のプランに逐一教頭を従わせようとするため、指示待ちや矢継ぎ早の指示が増える。
・教頭が自分で判断して行動できる業務が少ない。
わたしの経験では、会話のたびに「◯◯はどうなった?」とチェックされることが日常的にありました。色んなことに気が回るタイプであり、自分自身も優秀な現場リーダーとして活躍してきた自負や仕事への矜持があります。自分ができるから、相手にも同じ水準を求めるわけですね。この特性をうまく頼れば、業務が円滑に進みます。
対応法
①「校長の意向を先読み」する
基本的に指示を出す側なので、教頭としては「次に何を求められるか」を考えながら先回りして動くと、やりとりがスムーズになり、仕事の効率も上がります。
②「できません!」と言える関係性を作る
すべての業務を引き受けていては、負担が雪だるま式に増えてしまいます。無理難題を頼まれた際には、「現在の業務量だと難しいため、〇〇を優先させていただいてもよろしいでしょうか?」と、提案・確認をしながらお断りすることも必要です。
③ 校長の高い能力を利用する
また、このタイプの校長はもともと優秀な現場担当ですから、自分自身が最前線で業務する姿を見せて、部下に範を示したいという思いも持っています。そのような意図を汲む依頼をしてみてはどうでしょうか。例えば「教育委員会との調整をお願いできますか?」など、校長の力を積極的に活用するような分担を提案すれば、教頭自身の負担を軽減できると思います。
放任型:すべてを教頭に任せる
特徴
・「あなた(教頭)にすべて任せるから自由にやってくれ」というスタンス。
・教頭の裁量権が広く働きやすそうだが、結果的に責任が教頭に集中しがち。
・重要なことでも、校長が知らないまま進む恐れがある。
わたしの経験でも、「好きにやってくれていいよ」と言われたものの、校長から何も指示がないために、後で「実はこの部分は確認してほしかった」と言われることがありました。
対応法
① 定期的に校長に「確認」を取る
大きな決定の前には、「このように進めて大丈夫でしょうか?」と一言確認をもらい、記録に残すよう心がけましょう。後々のトラブルを防ぐだけでなく、自分の進め方を保証する意味でも役立ちます。
② 決裁権限を明確にする
どこまで教頭の判断で進めて良いのか、事前にすり合わせておきましょう。「この件は校長判断が必要ですか?」と率直に確認することで、お互いの役割分担が明確になり、スムーズに動けます。
保育士型:優しく労ってくれるが受動的
特徴
・教頭や職員の苦労を理解し、こまめにねぎらいの言葉をかけてくれる。
・コミュニケーションが好きで、教頭の意思を尊重してくれる。
・教頭の出方を待ったり、決断する場面で慎重になったりして、対応が遅れがちになる。
実際、わたしの場合も危機管理の場面で「もう少し早く決めないと」と感じたことがあり、急を要するときはわたしから提案してすり合わせることが多かったです。
対応法
① 決断を促す
「〇〇の件について、いつまでに決めたいのですが、いかがでしょうか?」と期日を提示すると、優しさゆえに迷いがちな校長も踏ん切りがつきやすくなります。
② 常にコミュニケーションを欠かさない
このタイプは、信頼感に感情が深く関連する傾向があります。業務的な情報のやり取りだけではなく、相手の気持ちに寄り添うような発言、笑顔や身振りを交えた非言語コミュニケーション、雑談や挨拶を欠かさないことなどを大事にしてください。必要な時に遠慮なく発言できるようになります。
校長との関係を円滑にするための共通原則
校長のタイプ(要素)がどうであれ、共通して役立つ立ち回り方として以下の3つを挙げられます。これらを意識することで、教頭の仕事がスムーズになるだけでなく、学校全体の運営にもいい影響を与えられます。
原則1 校長の意図を正しく理解する
教頭の役割は、単に「校長の補佐」をするだけではありません。現場や地域の声を取りまとめながら学校の方針を形にしていく重要なポジションです。もし校長の意図や考え方を誤解したまま動くと、学校運営全体に影響が及ぶ可能性があります。
【具体的な対応策】
① 教頭の質問力を高める
校長が何を重視しているのかを正しく理解するためには、指示が曖昧なときこそ積極的に質問しましょう。
「この方針の背景には、どのようなねらいがありますか?」
「どんな成果を期待されていますか?」
など、ピンポイントで質問することで、校長の真意が見えやすくなります。
② 校長の思考や哲学を把握する
過去の発言や行動から、校長の考え方や判断のパターンを探ることも役立ちます。わたしは記録用のノートを用意し、校長が大事にしているキーワードなどを書き留めていました。そうすると、「この件なら、おそらく校長はこういう判断をするだろう」と予想しやすくなります。
③ 職員に伝える際は言葉を整理する
校長の指示をそのまま職員に伝えるだけでは、意図が伝わりにくい場合があります。「なぜこの方針が必要なのか」を教頭自身の言葉で補足説明し、納得感を高めるよう心がけたいです。
原則2 冷静に対応し、感情的にならない
学校では、教職員・保護者・児童生徒など多くの人々が関わります。意見の食い違いは珍しくありませんが、そこで感情的になると関係が悪化してしまう可能性があります。
【具体的な対応策】
① 一度受け止める
たとえ賛同しがたい指示でも、「なるほど、そのようにお考えなのですね」とまずは受け止めます。その上で、冷静に「わたしの考えとしては…」と伝えると、対話がスムーズに進みます。
② 即答しないで、一呼吸おく
不意を突かれる指示や相談に対しては、すぐに答えを出さず「少し考えさせてください」と時間を取りましょう。感情を落ち着かせ、論理的に検討できるようにすることで、より適切な対応をしやすくなります。
③ ポジティブな表現を心がける
「それは難しいです」「無理です」と即否定するのではなく、「こうすれば実現可能かもしれません」と建設的な方向へ導く言い方を意識すると、対立を最小限にしながら話を進められます。
原則3 校長の強みを活かしていく
校長もすべてが得意というわけではありません。ビジョン提示が得意な人もいれば、事務処理やチームマネジメントが得意な方もいます。教頭としては、校長の強みを活かし、苦手分野をサポートする形で動くことが大切です。
【具体的な対応策】
① 校長の得意・不得意を分析する
たとえば、ビジョンや方針の打ち出しは得意だが細かい事務作業は苦手な校長なら、スケジュール管理や事務処理を教頭がしっかりフォローします。逆に細かい指示は得意だが組織の士気向上が苦手な校長なら、現場との橋渡しを教頭が担うなど、役割分担を上手に考えます。
② 校長が発揮したいリーダーシップを尊重する
「校長を立てる」イメージで、校長が情熱を注いでいる分野や得意な分野は積極的に任せ、教頭がサポート役に回ると、組織全体のモチベーションが上がりやすくなります。
③ 校長が外部対応に集中できる環境を整える
教育委員会や地域との調整、校長会への出席など、校長が外に向けて力を発揮できるよう、教頭が内部の運営を安定させることで、学校全体がスムーズに回りやすくなります。
◇
校長との関係づくりは、教頭としての仕事をより円滑にし、ひいては学校全体の運営を安定させます。理想的な相性の校長と組めればいいですが、そうでない場合、
「校長を変えよう」ではなく、「校長をどう活かすか」を考える
と、発想を転換してみましょう。
ぜひ、校長との協力関係を育み、充実した教頭生活を送ってください。
なお、主幹教諭や教務主任などは、あなたをどんなタイプの教頭なのかとじっくりみていますよ!
写真/写真AC
【参考図書】
・『教職研修 2014年9月号 特集「教頭」を救え!』(教育開発研究所)
・『教職研修 2024年12月号 特集「校長が変われば学校が変わる」でいいのか?』(教育開発研究所)
山田隆弘(ようだたかひろ)
1960年生まれ。姓は、珍しい読み方で「ようだ」と読みます。この呼び名は人名辞典などにもきちんと載っています。名前だけで目立ってしまいます。
公立小学校で37年間教職につき、管理職なども務め退職した後、再任用教職員として、教科指導、教育相談、初任者指導などにあたっています。
現職教員時代は、民間教育サークルでたくさんの人と出会い、様々な分野を学びました。
また、現職研修で大学院で教育経営学を学び、学級経営論や校内研究論などをまとめたり、教育月刊誌などで授業実践を発表したりしてきました。
『楽しく教員を続けていく』ということをライフワークにしています。
ここ数年ボランティアで、教員採用試験や管理職選考試験に挑む人たちを支援しています。興味のあるものが多岐にわたり、様々な資格にも挑戦しているところです。