幼稚園・保育園と小学校の連絡帳、全然違うのをご存知ですか? 新一年生の保護者の「連絡帳ギャップ」を意識しよう
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もうすぐ新年度。たくさんの新一年生たちが、あなたの学校にも入学してくるのではないかと思います。そこで是非気にかけていただきたいのが、保護者の「連絡帳」に関する意識です。幼稚園や保育園の頃に慣れ親しんだ連絡帳の感覚が小学校にそのまま持ち込まれ、一年生の担任が対応に苦慮するケースが増えています。教員と保護者の間に「連絡帳ギャップ」が生じている、と言えるのではないでしょうか? 新入学の時期こそ、保護者のみなさんに理解をしていただくことが重要です。
【連載】マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~
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目次
連絡帳が抱える課題、その背景
みなさんは、幼稚園や保育園では、どのように連絡帳が使われているか、ご存知ですか?
睡眠時間、食事量、排泄、機嫌、体温、遊んでいるときの様子など、園児の実態を記録して、家庭と園とを密につなぐためのコミュニケーション手段として機能しています。
一方、みなさんもご存じの通り、小学校の連絡帳は大きく異なります。
小学校生活においては、学習内容の管理が中心となり、担任と保護者のやりとりだけではなく、児童自身が自分で書き、学習予定や学習内容を把握するという役割も生じてきます。
ところが、1年生になりたての児童の保護者は、幼児施設時代の延長で児童の実態を連絡帳に記入しがちです。その結果、担任が必要以上に細かい情報をやり取りしようとしたり、「連絡帳は隅々まで読んで、丁寧に返事をしなければならない」という認識が強まってしまうのです。
わたしが接してきた1年生の担任の方々は、常に連絡帳を持ち歩いてスキマ時間を活用しながら丁寧に返信していました。そして、非常に苦慮していました。
給食を3分ほどで食べて、残り時間を連絡帳対応に充てる、というようなスーパーマン対応をしなければならず、過剰対応が起こり得ます。
小学校における連絡帳とは、あくまで児童の学習・生活・成長をサポートするツールであるべきです。保護者が「児童の生活の全て」を書き連ねるものではなく、担任が毎日全てをチェックして丁寧に返事をするものでもありません。
このギャップを解消するためには、保護者や児童に対して、幼児施設と小学校での連絡帳のあり方を明確に区別し、理解してもらう必要があります。
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連絡帳の目的と機能の違いとは?
⑴ 幼稚園・保育園・こども園の連絡帳
幼児施設の連絡帳では、家庭と園それぞれでの具体的な様子、連絡事項などが保護者・保育者間で日常的に共有されます。園児の成長や健康管理を第一に考え、詳細に記録することで、保護者が安心してわが子を預けられる状態をつくるのが大きな目的です。また、幼児期には自分で適切に伝達事項を書けることは難しいため、担任と保護者、つまり大人同士のコミュニケーションツールとしての比重が高まります。健康・安全確保の観点から、細やかな記録が歓迎されます。
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⑵ 小学校の連絡帳
これに対し、小学校の連絡帳は「今日の学習内容」「宿題」「持ち物」「学級からのお知らせ」などを児童が自分で整理し、必要に応じて保護者と共有することを基本とします。すなわち、児童の自立と責任感を育てるための道具です。担任と保護者のやり取りとしては「欠席連絡」や「学習面での相談」「生活上の心配事」「行事予定の確認」「突発的な事案への対応」「個人的な依頼」など、ポイントを押さえたコミュニケーションが期待されます。
つまり、小学校の連絡帳では、児童自身が自分のことを表現し、自分の行動を振り返り、さらに翌日の準備を行うという学習ツール的性格が強い、ということになります。
小学校の連絡帳のあり方 10のポイント
小学校での連絡帳は、児童の学習意欲や自立心を伸ばすツールとして機能すると同時に、担任の業務効率も考える必要があると言えます。個別指導のツールにならないように気をつけながら、必要な事項は欠かさぬよう、次のようなポイントを押さえておきたいですね。
原則1 児童自立の原則
児童自身が主体的に記入する
小学校の連絡帳は、まず児童が自分で宿題や持ち物、行事予定などを書き込むことが基本です。自分の言葉で整理・記録することで、責任感や自立心を育みます。保護者や担任が全てを代筆するのではなく、児童自身が把握しやすいように指導しながら、“自分で書く”意識を根付かせることが大切です。
原則2 省力化・必要最低限の原則
担任からのコメントは簡潔かつ必要十分に
連絡帳は、家庭と学校をつなぐ便利なツールですが、担任の業務負担が大きくなりすぎると本来の教育活動に支障が出てしまいます。そこで、必要以上の長文を避けたり、スタンプや短いフレーズで対応したりするなど、省力化を意識しましょう。また、内容の優先順位を考え、学習や生活上の悩み・体調不良・要望など緊急性や重要度が高いものを優先的に扱い、単なる報告や確認事項は簡潔に伝えるといった工夫をすると、担任の指導・支援の時間を確保できます。
原則3 事実の原則
主観を避け、具体的な学習面の確認・サポートの場として活用する
連絡帳で伝える内容は、できるだけ客観的かつ事実ベースで書くことが大切です。たとえば、「宿題に取り組む時間が短い!」など具体的な状況を共有し、家庭学習のサポート方法を相談交流するなど、学習習慣の定着を支える場として活用しましょう。主観的な評価や曖昧な表現は、誤解を招きやすいため注意が必要です。
原則4 別経路併用の原則
生活面での緊急事項は、別の経路での連絡を優先
体調不良や重大なトラブルなど、緊急性の高い連絡は、連絡帳だけに頼らず、電話やメール、一斉連絡システムなどを使って早急に対応します。連絡帳はどうしても確認が遅れる場合があるため、即時連絡が必要な内容は別のルートを使うのが鉄則です。
原則5 一斉システム併用の原則
クラス全体への連絡事項は学級通信や一斉連絡システムを活用
遠足や行事、持ち物など多くの児童に共通する連絡は、学級通信や一斉メール・メッセージなどを使って発信し、個別のやり取りが必要なものだけ連絡帳を利用します。そうすることで重複連絡や担任の負担を減らし、児童自身も必要な情報を整理しやすくなります。
原則6 共感の原則
保護者の気持ちに寄り添う
保護者からの書き込みや質問があった際には、共感やねぎらいの言葉を簡潔に添えましょう。とくに学習や生活面の悩み、家庭の事情などに触れられた場合は、一言でも温かいコメントがあると保護者も安心して協力してくれます。また、より詳しい相談が必要な場合は、面談や電話連絡など連絡帳以外の方法で対応すると、意思疎通がスムーズになります。
原則7 事務的連絡優先の原則
連絡帳は「学校と家庭の情報共有ツール」
連絡帳に期待する役割を明確にし、指導内容や家庭学習の詳細なコーチングなどは本来の授業や補習の時間、面談などで行うのが望ましいです。連絡帳だけで解決が難しい内容は、別の場で話し合う必要があることを保護者にも理解してもらうようにしましょう。スタンプや簡単なサインで受理の意思表示をするなど、業務を軽減する工夫も効果的です。
原則8 共有の原則
家庭での学習サポート状況の簡潔な共有
連絡帳では、必要に応じて「どの教科でどんな宿題があるのか」などを家庭と共有し、保護者が適切にサポートできるよう環境を整えます。とくに、学習面で気になる児童がいる場合は、無理をさせず見守りながらサポートする姿勢を保護者とすり合わせることが重要です。担任と保護者が同じ方向を向いて支援を行うことで、児童の学力や学習意欲の向上につながります。
原則9 温かみの原則
前向きな声かけを重視
連絡帳のやり取りを通じて、保護者だけでなく児童とも信頼関係を深めることができます。そのため、励ましや肯定的フィードバックを意識的に取り入れ、児童が自分の成長を感じられるようにしましょう。また、連絡帳を児童自身が見返すことも多いため、見やすい文字サイズや色使いを心がけ、必要以上にカラフルにしすぎないなど、読みやすさにも配慮すると良いでしょう。
原則10 定型化の原則
パターンやテンプレートを活用して時短を図る
毎回ゼロから文章を考えるのは大きな負担になります。あらかじめ定型文やスタンプなどを準備し、内容に応じて少しアレンジを加えて対応すると書く時間を大幅に短縮できます。これにより、担任はより本質的な教育活動や児童支援に時間を注げるようになり、保護者も連絡帳を分かりやすく受け取ることができます。
必要なことを簡潔かつ温かい言葉で伝え合いながら、児童の成長に寄り添っていきたいですね。
新一年生を担任するときに、改めて確認しておこう
小学校では、児童が自分の行動・学習を自分で把握することが求められます。幼児施設時代の情報量やチェック・返信を保護者が担任に求めることは、業務過多につながるということを強く認識していたいです。
そこで、次の3点に留意していきたいです。
⑴ 小学校連絡帳のあり方を見直す
児童が自分で管理する比率を高めていき、担任は必要最低限のコメントに留めたいです。
学級運営上の連絡には、学級通信や一斉連絡サービスを活用していきます。
⑵ 小学校連絡帳の移行期に必要なガイドラインをつくる
最初の1〜2か月は細かなやり取りを行い、徐々に児童が書く量・内容を増やし、保護者の記入量を減らしていきます。担任は必要最低限のコメントを入れつつ、重大な問題は別途保護者と直接やり取りします。
(3)学校全体での共通理解と周知を徹底する
学校全体の方針を明確にし、学年をまたいだブレを少なくしていきます。そして、入学説明会等で「小学校の連絡帳はこういうもの」というコンセンサスを保護者に伝えることも必要です。教員集団での情報交換を綿密にし、保護者の問い合わせに一貫した対応をとるようにします。
◇
幼児施設と小学校では、子どもの発達段階や求められる環境が大きく異なります。そのため、連絡帳の役割や記入内容に変化が生じるのは自然なことです。保護者が不安を感じた場合には、気兼ねなく担任に相談できるような体制づくりを心がけたいものです。そして担任は、過剰な対応に陥るのではなく、児童自身の力を伸ばす視点を大切にすることが求められます。
連絡帳は児童の成長を支えるためのツールであり、学校と家庭が連携して児童の未来を明るく切り拓くための“使い方”を、みんなで共に作り上げていくという姿勢を、関係者全員で共有していきたいです。
イラスト/イラストAC
山田隆弘(ようだたかひろ)
1960年生まれ。姓は、珍しい読み方で「ようだ」と読みます。この呼び名は人名辞典などにもきちんと載っています。名前だけで目立ってしまいます。
公立小学校で37年間教職につき、管理職なども務め退職した後、再任用教職員として、教科指導、教育相談、初任者指導などにあたっています。
現職教員時代は、民間教育サークルでたくさんの人と出会い、様々な分野を学びました。
また、現職研修で大学院で教育経営学を学び、学級経営論や校内研究論などをまとめたり、教育月刊誌などで授業実践を発表したりしてきました。
『楽しく教員を続けていく』ということをライフワークにしています。
ここ数年ボランティアで、教員採用試験や管理職選考試験に挑む人たちを支援しています。興味のあるものが多岐にわたり、様々な資格にも挑戦しているところです。