日本語指導【わかる!教育ニュース #63】

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中澤記者の「わかる!教育ニュース」
わかる!教育ニュース #63
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先生だったら知っておきたい、様々な教育ニュースについて解説します。連載第63回のテーマは「日本語指導」です。

日本語指導が必要な児童生徒の受け入れに関する取組事例を公開

外国にルーツをもつ子供がいる学校は、もう珍しくありません。とはいえ、必要な支援もできることも、子供、学校、地域によって異なります。日本語での会話や学習に支障がある子をどう受け入れるか。文部科学省が各地の取組をまとめた事例集の最新版を公開しました(参照データ①参照データ②)。

米軍基地があることで知られる神奈川県横須賀市は、米国以外に、フィリピンや中国、韓国などの住民も多い街。日本語に不安のある子のために「日本語支援ステーション」を開設しました。就学前に日本語の習得状況を確認した上で、必要に応じて集中指導や日本の学校制度を説明。何も分からず入学する子供の不安や、一から教える学校の負担の軽減を見込んでいます。

母語の基礎が確立せず、語彙が少ない状態で来日した子の場合、日本語への置き換えがうまくいかないものです。大分県別府市は、1人1台端末で動画や写真を使い、視覚的な指導で理解しやすくしました。端末のAI型ドリルを通じ、習得状況の把握や自主学習にも活用しています。

群馬県伊勢崎市は子供の日本語レベルの把握とふさわしい指導方法を決めるための、統一基準をつくりました。日本語教室の担当者や学級担任など、子供に関わる大人たちが、日本語の習得状況、指導計画、必要な支援について共通理解の上で対応できるのが利点。日本語の取り出し指導を受ける子が、在籍学級で授業を受ける機会を増やし、同級生と切り離さない効果もあるそうです。

孤立感の解消も見過ごせないテーマです。大阪府岸和田市は日本語指導を受けている小中学生を対象に、オンライン交流会を開催。がんばっていることや目標などを語り合い、仲間づくりやアイデンティティーの肯定につなげています。

母国を離れて暮らす子の課題の一つは、日本での生活や勉強に前向きになれないこと。広島県呉市は日本語教室の卒業生や海外出身の社会人といった「先輩」を招き、授業で経験を語ってもらうなどしています。同じ境遇の人の話は励みになり、学習意欲や生活態度にもいい影響を与えているようです。

事例集は小さな自治体や少人数の受け入れ例も取り上げています。なぜでしょうか。

それは、「日本語指導が必要な子」は外国籍に限らず、海外から帰国した日本人の子もいて、文科省によると、2023年は外国籍と日本国籍合わせて6万9123人(10年前の約2倍)に上り、特定の地域に多かった昔と比べ、近年は各地に散在している傾向にあるからです。さらに子供の母語も、ポルトガル語、中国語、フィリピノ語 ベトナム語などと多様化。学校だけで対処するのは、現実的ではありません。

言葉や文化の壁で日本社会からはじきだされる子が増えていくと、社会の分断につながるとの指摘もあります。事例集は自治体や教育委員会、住民など地域ぐるみで動いている例も多く紹介しています。地域に合う対策を考える糸口にしてはどうでしょうか。

【わかる! 教育ニュース】次回は、3月15日公開予定です。

執筆/東京新聞記者・中澤佳子

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