「面白い!」は最高の動機づけ ~自分の足で歩く子どもを育てるために~

連載
ストレスフリーの教室をめざして
ストレスフリーの教室をめざして
バナー

先生たちの子どもの頃を思い出してみてください。自発的な行動を起こす源は、「面白そう!」というワクワクした気持ちだったはずです。本章では、子どもの「面白い!」について、学級経営とのかかわりから考えていきます。

【連載】ストレスフリーの教室をめざして #20

執筆/埼玉県公立小学校教諭・春日智稀

「面白い」は最高の動機づけ

「もっと分かるようになりたい」、「詳しく知りたい」、「上手にできるようになりたい」という気持ちを、人は誰しももっています。こうした気持ちが原動力になり、人は努力をしたり、何かに没頭したりして、その活動の面白さを実感していきます。こうした気持ちは、よく「やる気」と言われ、心理学では「動機づけ」とも呼ばれます。教師が子どもの行動をどのように動機づけるか、つまりどうやって子どもの「やる気を導くか」は大きなポイントであると言えるでしょう。アメリカの心理学者であるデシとライアンは、動機づけ(モチベーション)に関する研究を行い、そこから導かれた理論を「自己決定理論」として発表しました。この理論では、人が動機のない状態から自発的な行動に至るまで、どのような道筋をたどるのかについて示しています。

3種類の動機づけ

自己決定理論によれば、動機づけを、「無動機づけ」、「外発的動機づけ」、「内発的動機づけ」の3種類に分けて整理しています。
まず無動機づけとは、「自分の意思がなく、やる気のない状態で活動している状態」のことを指しています。この状態では、自分の存在や価値をポジティブに捉えることはむずかしくなります。
次に外発的動機づけとは、「何か他からの報酬を得るための手段として、ある行動を動機づけられること」を指しています。アメとムチに例えられることが多いです。例えば、「今度のテストで100点を取ったら好きなものを買ってあげる」などのご褒美が与えられるタイプや、「先生に叱られるから学級のルールを守る」などの罰を回避するタイプなどが挙げられます。いずれの場合も、行動そのものが目的ではなく、手段であることが特徴です。
そして内発的動機づけとは、「他からの報酬や罰に依存せず、活動そのものが楽しい、面白いと感じることで生じる動機づけ」のことを指しています。例えば、「校庭で虫の観察をしているうちにもっと調べたいという意欲が湧き、図鑑で詳しく調べる」「算数の難しい問題を解くことにやりがいを感じ、自力で解けたときの達成感を楽しむ」などが挙げられます。
自己決定理論では、より良い成果と行動の継続は、内発的動機づけが導くとしており、内発的動機づけを導くためには、①自律性(自分の行動を自分で決めることができる)、②有能感(自分の能力を実感することができる)、③関係性(他者のために行動したい)という3つの心理的欲求を満たす必要があると言われています。

3つのアプローチ

そこで筆者は、この3つの心理的欲求を満たして内発的動機づけを導くために、「自己決定の原則」、「ピア・サポート」「ストーリー仕立ての振り返り」という3つの側面からアプローチができるのではないかと考えています。

1 自己決定の原則

1つ目の「自己決定の原則」は、「次の一歩を自分(自分たち)の決定で踏み出す」という信念に基づいた「自律性」の欲求を満たす試みです。例えば小学校における総合的な学習の時間において「探究活動」を行うとします。探究活動では、ある共通のテーマの中から自分の興味・関心のある課題を選び、自分のやり方で情報を集めて整理し、自分の決めた方法で表現をしていきます。こうした一連の過程では、「テーマは何にしよう」「どんな方法で情報を集めよう」「どうやって発表しよう」などと、何度も自己決定の場面が訪れます。つまり、次の一歩を自分の決定で踏み出す学びの連続体と捉えることができます。このように、自分で決めた内容を、自分の責任のもと学ぶデザインをしていくのです。気を付けなければならないのは、子どもは「はじめから自己決定できるわけではない」ということです。はじめにガイダンスとして、探究活動における学びの過程や共通のテーマを学ぶ意義、情報を集める手段、こうした学びによって何が身に付くのかなどを丁寧に説明する必要があります。つまり、「自己決定の仕方」を理解させる必要があるのです。これが適切でないと、子どもは暗闇の中に置かれた状態になってしまい、一歩を踏み出すことができません。「自己決定」の名のもとに「指導の放棄」をしてはいけないのです。
ここでは総合的な学習の時間を例に挙げましたが、もちろん他の時間でもこのようなデザインの学びを提供することは可能です。教師は、子どもが一歩踏み出す支援をしてあげましょう。

2 ピア・サポート

2つ目の「ピア・サポート」は、学級という集団の特性を生かした「有能感」の欲求を満たすアプローチです。ピア・サポートとは、対等な人同士の支え合いを表す言葉で、ここでは子ども同士の支え合いを指します。このアプローチにおける有能感は、「他者と比較した有能感」ではなく、「集団に貢献しているという有能感」を前提とします。理由は、前者の色が強すぎると、競争的な雰囲気や優劣が生まれてしまい、対等というピア・サポートのコンセプトから逸脱してしまうからです。
では、具体的なピア・サポートとはどのような活動でしょうか。ここでは、小学校におけるなわとび大会を例に挙げて考えてみます。
とあるクラスで「なわとび大会で優勝する」という目標を立てました。優勝するためには、練習を重ねたり、作戦を考えたりして、他のクラスよりも多い回数を跳ばなくてはなりません。しかし、練習をしても作戦を考えたりしてもなかなか回数は伸びません。そこで先生は週に1回、休み時間を活用して「クラス会議」の時間を設けました。先生が跳び方のコツや練習を教えるのではなく、自分たちで回数を伸ばすために必要なことを話し合う機会を設定したのです。子どもたちは自発的に「跳ぶ人」「観察する人」などの役割を決めたり、跳ぶ順番を変えたりするなど、いろいろなことを決めました。跳ぶのが苦手な子の後ろには得意な子が並び、背中を押すなどして、サポートしてあげることにしました。また、跳ぶのは苦手でも、助言が得意な子は練習の様子を動画で撮影して分析をしました。なわとび大会当日、残念ながらこのクラスは2位でした。しかし子どもたちはやりきった表情であふれ、クラスの仲も深まりました。
このように、活動に向けて自治的、自主的な態度を重んじ、子どもたちがそれぞれの立場で役割を果たして互いを支え合うのが、筆者の提案するピア・サポートです。他者と比較した有能感ではなく、集団に貢献しているという有能感を大切にします。教師は、目標をめざしながら一生懸命努力をしているその過程そのものを価値づけてあげることが大切です。

3 ストーリー仕立ての振り返り

そして3つ目の「ストーリー仕立ての振り返り」は、動機づけの変容を自覚させることを通した「関係性」の欲求を満たす試みです。先に挙げたなわとび大会の例で考えてみましょう。なわとび大会を終えた子どもたちが抱く感覚は、「このクラスでよかった」「負けたけど楽しかった」などという「なんとなくだけれど、確かな実感」でしょう。「動機づけが変わったんだよなあ」などと分析する子はいません。ですから、その活動を「振り返る」のです。
振り返りは、目標を達成することができたかどうかだけを振り返るのではありません。自分はどういう気持ちで練習に臨んでいたのか、どのように気持ちは変わっていったのか、なぜ気持ちは変化したのか、などの視点を与えて振り返りを行うのです。
この例で言えば、
「はじめは優勝したいという気持ちで練習していた。暑い中の練習は嫌だなと思うこともあったけれど、みんなが支えてくれたからがんばれた」
「自分も大きな声で回数を数えることができた。汗をかきながら友達と一緒に練習することが楽しくなっていった」
「優勝したい気持ちはもちろんあったけれど、それよりも練習している時間そのものを楽しんでいたと思う」
といった具合です。つまりその活動を自分のストーリーとして描き、自分が他者からしてもらったことや自分が他者にしてあげたことを振り返るのが、「ストーリー仕立ての振り返り」です。自分のストーリーを描いたら、グループや全体でシェアをします。同じ活動をしていても、人によってストーリーが異なることに気付くでしょう。自分の何気ない言動が、だれかの役に立っていたことに気付くでしょう。こうして一人のストーリーは紡がれていき、クラスのストーリーになります。教師は、他者のために行動することの素晴らしさを価値づけてあげましょう。

主人公は子どもたち

さて、自己決定理論をもとにして、やる気を導くためのアイディア3つ提案しました。これらに共通するのは、「主人公は子どもたち」ということです。自分の足で歩くから、人生は面白いのです。これは先生にとっても同じです。主体的に歩く子どもたちを育てる学級経営を、「面白く」進めてほしいと願っています。

【参考文献】
人を伸ばす力 内発と自律のすすめ/エドワード・L・デシ,リチャード・フラスト、桜井茂男(監訳)/新曜社

イラスト/坂齊諒一

<プロフィール>
春日智稀(かすが・ともき)
2015年より埼玉県公立小学校教諭。体育主任・生徒指導主任・研究主任・教務主任などを担当。
学校心理士/ケアストレスカウンセラー/青少年ケアストレスカウンセラー/アンガーマネジメントキッズインストラクター/アンガーマネジメントティーンインストラクター
日本生徒指導学会・日本学校教育相談学会・日本教育心理学会・NPO日本教育カウンセラー協会/所属

学校の先生に役立つ情報を毎日配信中!

クリックして最新記事をチェック!
連載
ストレスフリーの教室をめざして

学級経営の記事一覧

雑誌『教育技術』各誌は刊行終了しました