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笑顔あふれる1年間にするために押さえるべき2つのこと|俵原流!子供を笑顔にする学級づくり #1

連載
俵原流!子供を笑顔にする学級づくり

兵庫県公立小学校校長

俵原正仁
連載 俵原流!子供を笑顔にする学級づくり バナー

子供の笑顔を育てる「笑育」という実践のもと、安全で明るい学校、学級をつくってきた俵原正仁先生。これまで培ってきた学級づくりのアイデアやメソッドを、ユーモアを交えつつ、新任の先生にも分かりやすく解説します。月1回公開。第1回は、始業式から3日間に押さえるべき2つのポイントについて解説します。

執筆/兵庫県公立小学校校長・俵原正仁

始業式から3日間に何をすべきか

新学期が始まって最初の3日間のことを「黄金の3日間」と呼ぶことがあります。この時期の子供たちは「新しい学年だ。がんばろう!」と、前向きな気持ちで満ちあふれているので、素直に教師の話に耳を傾けます。つまり、この3日間は教師が無敵状態のスターマリオ(※)になっているようなものです。

※ゲーム「スーパーマリオブラザーズ」でマリオがスター(星型アイテム)を取ると、一定時間無敵になること。

ただ、ゲーム同様、この無敵状態もあくまでも期間限定。いつまでも続くものではありません。新学期当初の忙しさに身を任せていると、気付いた時にはこの状態は終わっています。「学級経営は最初の3日間で決まる」という言葉を聞いたことがある人も多いと思います。始業式が差し迫ったこの時期、始業式から3日間のプランを立てることは最優先事項になります。

今回は、その3日間でも特に私が意識している2つのことについてお話しします。この2つを押さえさえすれば、学級が崩れることはほぼありません。1年間、笑顔あふれる学級をつくることができるのです。

「悪い騒がしさ」を生まないための3つのルール

始業式、教師は自分の大切にすることを子供たちに伝える

騒がしさには、「よい騒がしさ」と「悪い騒がしさ」があります。学級のルールづくりに最適な最初の3日間というこの時期に、「悪い騒がしさ」をつくらないための指導を行うことで、「悪い騒がしさ」を未然に防ぎ、笑顔あふれる1年間を過ごすことができるようになります。

意識することはたった1つ。次の「3つのルール」を徹底させることにあります。

①発表する人は立つ
②誰かが立ったら、手を止めて立っている人を見る
③誰かが発表している
ときはしゃべらない

この3つの中で一番重要なルールは、「③誰かが発表しているときはしゃべらない」です。このルールを徹底させることさえできれば、教室に響くのは、発表している1人分の声だけになります。他の声は聞こえません。クラスが騒がしくなることはありえません。

前年度、友達が発表していてもおかまいなしに手遊びをしていたり、近くの友達と話していたりしていたクラスの子供たちでさえも、始業式の日に担任が毅然とした態度で、「君たちは今日から5年生です。高学年らしい話の聞き方ができなければいけません。まずは、聞き方名人への道ステップ1。誰かが発表をしているときは、しゃべらないでください」と話せば、ほとんどの子供たちの意識は変わります。子供たちは、新しい担任の言うことをとりあえず聞こうとします(担任が持ち上がりでもご心配なく。新学年というリセットボタンはある程度有効に作用します)。

次に、「誰が発表しているか分からないときがあるかもしれません。だから、発表をする人は必ず立ってください」と①のルールを説明します。そして、「誰かが立ったら、していることをやめて、発表者を見ることができれば完璧です」と②のルールをつけ加えます。

席を立って発言する子供とそれに注目する周囲の子供たち

後は、子供たちの意識を継続させる手立てを打っていくだけです。「さすが5年生です。中野さんをしっかり見て話が聞けていますね」と、ほめまくり、できていない子に対しては、「上谷さん、手を止めましょう」と、ていねいかつ簡潔な言葉で指導します。もちろん、3日間程度で定着することはありませんが、3日間が終わっても、淡々と声をかけ続けてください。繰り返し指導することで、子供たちに、「3つのルール」を徹底させるのです。

ここで気を付けてほしいことが1つあります。「徹底」という表現を使っていますが、これは「子供たちができるようになるまで、圧の強い指導を行ってください」という意味ではありません。声を荒らげることも怖い顔もNGです。「教師が、根負けしないようにがんばってください」ということです。

座ったまま意見を言っている子がいたら、にっこり笑顔で「発表するときは、立ってくださいね」と指導を繰り返してください。1度や2度の指導でクラスの全ての子ができるようになることは、レジェンドと言われている先生たちでも不可能です。レジェンドでもできないのですから、自分がすぐにできるはずがないと、いい意味で開き直ってください。そうすれば、精神的な余裕も出て、長いスパンで子供たちの成長を見ることができるようになるはずです。

長いスパンで見ることができるようになると、できないことに対してイライラすることがなくなり、指導の言葉も自然に穏やかなものになるはずです。このシンプルな「3つのルール」を穏やかな口調で何度も何度も繰り返してください。粘り強く取り組むことで、クラスの中にこのルールが少しずつ少しずつ浸透していきます。

ちなみに、「朝の会のメニュー」や「給食のお代わりの仕方」など、それ以外のルールについては、2日目や3日目、場合によってはそれ以降でも大丈夫です。始業式には、1年間を通して、学級づくりの軸になることのみ話します。

始業式に子供たちに話す内容は、1年間、教師が大切にしていこうとすることに絞ってください。「このことは、子供たちが何と言ってきても譲らないぞ」という厳選した内容のみを話します。私の場合「3つのルール」ともう一つ「『伸びたか、伸びていないか』を大切にする」の話を必ず行っています。教師の所信表明と言い換えることもできます。

子供の伸びていく力を育てるために押さえるべきこと

先生が、一番大切にしていることは、『できたか・できていないか』ではありません。『伸びたか・伸びていないか』ということです。テストで90点のAさんと60点のBさんでは普通Aさんの方がほめられます。でも、前のテストはAさんが95点、Bさんが20点だったとしたらどうでしょう。Bさんの方ががんばっていますよね。結果だけ見て、Bさんより上だからと安心してAさんが努力しなければ、いつかBさんに追い抜かれます。人生のピークが5年生でいいのなら、それでもいいんですけどね」

ただし、この所信表明も始業式の日に話して、その後、何の手立ても打たなければ、意味がありません。「3つのルール」同様、1年間を通じて、教師はこだわり続けてください。

例えば、国語の時間、授業のまとめを書いた際にこう聞きます。

昨日より、たくさん書けた人? 書く力が伸びています。すばらしい。

算数の時間、100マス計算をした後、こう聞きます。

昨日より、タイムが早くなった人? いいね。計算力が伸びています。

社会科のハテナ探しの後、こう聞きます。

いつもの5分間よりも時間が早く過ぎた気がした人? すごい。集中力が伸びている。

1日の間に何度も子供たちに「伸びたか・伸びていないか」を尋ね、評価していきます。このように先生が「伸びたか・伸びていないか」にこだわり続けていると、次第に子供たちも友達のことをこの観点で見るようになっていきます。漢字テストで90点だった子が、60点の子に対して、「飯田さんは、この前より40点もよくなっている。最近、がんばっていてすごい。自分もがんばらないといけない」と本気で思うようになるのです。   

また、教師自身も「できたか・できていないか」という目先の結果にこだわることなく、余裕をもって子供たちの成長を長いスパンで見守ることができるようになります。「何であの子はできないんだ」とイライラすることがなくなります。その結果、常に、上機嫌な教師でいることができるようになります。つまり、笑顔あふれる1年間を過ごすことができるということです。

次回予告

ちなみに、この「伸びたか・伸びていないか」は、野口芳宏先生の「叱る3原則」とセットにして子供たちに伝えることもあります。「叱る3原則」とは次のようなものです。

①命に関わる危険なことをしたとき
②他人の不幸の上に自分の幸福を築くこと
③3回注意されても直そうとしないとき

2つ目の「他人の不幸の上に自分の幸福を築くこと」とは、友達に意地悪をする・いじめをする、告げ口や悪口を言うなど、人を貶めて自分の立場をよくしようとする行為のことです。低学年に伝える場合は、シンプルに「いじめをしたとき」と限定することもあります。

この3原則に、「伸びたか・伸びていないか」をプラスして、子供たちに宣言します。子供たちに宣言することで、教師の叱る基準がぶれなくなります。子供たちも教師の叱る基準を知ることで、「なぜ自分が叱られているのか」という納得度が高まります。なぜ叱られているのかが分からないような叱り方はNG中のNGです。

ということで、次回は、クラスの雰囲気を悪くする「NGな叱り方」とクラスの雰囲気をよくする「VGなほめ方」のお話しです。お楽しみに……。


俵原正仁先生

俵原正仁(たわらはら・まさひと)●兵庫県公立小学校校長。座右の銘は、「ゴールはハッピーエンドに決まっている」。著書に『プロ教師のクラスがうまくいく「叱らない」指導術 』(学陽書房)、『なぜかクラスがうまくいく教師のちょっとした習慣』(学陽書房)、『スペシャリスト直伝! 全員をひきつける「話し方」の極意 』(明治図書出版)など多数。

俵原正仁先生執筆!校長におすすめの講話文例集↓

俵原正仁先生執筆!校長におすすめの学校経営術↓

【俵原正仁先生の著書】
プロ教師のクラスがうまくいく「叱らない」指導術(学陽書房)
スペシャリスト直伝! 全員をひきつける「話し方」の極意(明治図書出版)
若い教師のための1年生が絶対こっちを向く指導(学陽書房)

イラスト/イラストAC

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