【連載】令和型不登校の子どもたちに寄り添う トライアングル・アプローチ ♯3「思い込み」を捨て、「誰も責めない」と決めよう

連載
令和型不登校の子どもたちに寄り添う トライアングル・アプローチ

元北海道公立中学校教諭

千葉孝司
【連載】令和型不登校の子どもたちに寄り添う トライアングル・アプローチ バナー

不登校児童生徒数が増加を続ける背景には、「令和の子どもたちと、昭和型の学校システムとのミスマッチがある」と、不登校・いじめ対応の第一人者・千葉先生は言います。この連載では、そんな令和型不登校への対応を、「トライアングル・アプローチ」と名付け、三角形を組み合わせた模式図を用いて解説、提案していきます。今回は理論編の第3回です。

執筆/千葉孝司(元・北海道公立中学校教諭)

北風を生み出すもの

新年を迎えました。今年は巳年ですね、

ヘビと言えばこんなエピソードがあります。不登校の生徒が夜の学校にチャレンジすることになりました。その子の好きなものの一つに爬虫類がありましたので、担任の先生はその子が喜びそうな画像を検索しました。実は私は爬虫類が苦手なので、隣で「うえっ」とか「うぷっ」とか言いながらパソコンの画面を見ていました。すると担任と私がともに悲鳴をあげるような画像に出会いました。長いモノが大量にからみあっている画像です。ところが、それは連なったウインナーが鍋で茹でられている画像でした…。

私たちは、過去の経験をもとに現在を反射的にとらえます。

授業中に課題に取り組まず、机に伏せている生徒がいたら、「むむ、怠けている」と感じ、「ちゃんとやりなさい」と声をかけることでしょう。それは反射的な反応であり、積み重なると「伏せている」=「怠け」という思い込みが生じます。ちなみに生徒指導の巧みな先生ほど「体調が悪いのかい?」と優しく聞きながら、その子の抱えている困り感を探っていくことでしょう。

不登校に関しても同じようなことが言えます。病気でもないのに家で休んでいると聞くと、「むむ、怠けている」と反射的に教師は思ってしまいます。「怠け」や「甘え」から登校しない。そう捉えると、本人を諭し、行動を改めさせようとするでしょう。

他の子たちも頑張っているのだから、あなたも頑張りなさい。
休んでいると勉強も遅れるし、後で困るよ。

これらの言葉で行動が変わることはありません。実際、子どもはそう思って頑張ってきたのです。しかし、無理が重なって登校できなくなっている状態なのです。

厳しく言っても行動が変わらないと、教師はひどい「怠け」や「甘え」だと感じます。そこで家庭の協力のもと、さらにプッシュしようとするでしょう。
しかし、このアプローチでは行動に変化は見られず、むしろ悪化します。

北風ストローク

トライアングル・アプローチ 「思い込み」を捨て、「誰も責めない」と決めよう 北風ストローク


上手に休息をさせると、多くの不登校は回復します。教員の理解不足が不登校状態を長引かせる場合があることに、学校は謙虚さを持つ必要があります。残念ながら経験年数が長くなればなるほど「怠け」という思い込みが強くなり、そこから北風アプローチが生まれていくのです。

仮説をもとに観察する

では、どうすればよいのでしょう。いったん「怠け」という思い込みを捨てることです。この思い込みを持ったまま子どもを見ると、行動の全てが怠けに見えてきます。そこから効果的な手は打てません。

必要なのは思い込みではなく、仮説を立てることです。

この子は不安や負担が積み重なったから、心と身体がすくんでいるのではないだろうか。

このような仮説をもとに、これまでの行動を振り返り、本人の話を聞くと、回避しようとしているものが何なのかが見えてきます。

でも、あの子は元気いっぱいだったしなあ。不安だったとは思えないなあ。

そう思う人もいるでしょう。不安な子どもは、いつもビクビクしているとは限りません。不安で落ち着かず、ハイテンションになっていることもあります。

たしかに、友達と一度口喧嘩をしたけど、あれくらいならなあ。

そう思う人もいるでしょう。大人にとって、些細なことでも、子どもの受け止めは別です。
口喧嘩をしてひどい言葉を一度言われたとします。もし、その悔しさ、怒り、悲しみを吐き出す相手がいなければ、それは心の中で繰り返されます。自分自身で100回繰り返されたのなら、1回の悪口も100回言われたくらいのダメージを与えるのです。
そうすると、「また言われるかも」と不安を感じてしまいます。

教室で叱る場面はあったけど、本人は叱られることもなくいい子だったのになあ。

そう思う人もいるでしょう。繊細で優しいタイプの子どもは、他の子どもの感情も背負い込んでしまいます。毎日毎日誰かが叱られている場面を見ていると、毎日毎日自分が叱られているような感覚になるのです。朝から帰りまで叱責される毎日なら、身体もすくんでしまいます。

不安な様子はなく一生懸命勉強に取り組む子だったのになあ。

そう思う人もいるでしょう。良い子の息切れタイプと呼ばれる不登校もあります。燃え尽きるまでやらないと気が済まないというのは、根底に完璧主義や不安の問題を抱えていることもあります。

どうでしょうか。「怠けている」と決めつけてしまうと、責める思いになります。ところが不安や負担の蓄積だと考えると、教師自らのあり方や学級経営を振り返ることにつながるのではないでしょうか。
 
仮に不登校につながるような不安な状態が見つからないとしても、休むこと自体が不安につながります。

こんなに休んでいて大丈夫だろうか。
授業に出てないから勉強がわからなくなってしまった。
友達にサボりだと思われるんじゃないか。
みんなから置いていかれる。
将来どうなってしまうんだろう。


すると次の図のような悪循環に陥ります。
この悪循環を後押ししているものは、大人からの不安をあおる言葉です。いずれにせよ、不安にどう対処するかが不登校対応の要なのです。


不登校が持続する悪循環

トライアングル・アプローチ 「思い込み」を捨て、「誰も責めない」と決めよう 不登校が持続する悪循環

責めるのをやめる

人それぞれ、考え方や行動には癖や特徴があります。

困難な場面をいつも相手を攻撃することで克服してきたという人は、困った場面に出会うとすぐに喧嘩腰になるかもしれません。

物事を白か黒かで考えてきた人は、自分のことを少しでも否定されると、「私が悪いんですか」と相手に詰め寄るか、自分はダメな人間だと全否定するかもしれません。

学校の先生は、指導する癖、ダメ出しする癖を持ちやすい職業です。
相手を責めることも、自分を責めることも状態の改善には向かないものです。

人は責められるとどうなるでしょう。保身に走り、最低限のことだけやって、ミスのないようにという姿勢になってしまいます。そして責める相手との間に距離ができてしまいます。

子どもも、親も、同僚も、誰も責めない。

そう決めることが大切です。理解し合うことが無理でも、そうせざるを得ない相手の状況を自分だけでも理解しようとすることです。その状態で人と人が接すると、そこに温かさが生まれます。そこから生まれるかかわりが太陽ストローク(下図)です。

太陽ストローク

トライアングル・アプローチ 「思い込み」を捨て、「誰も責めない」と決めよう 太陽ストローク


学校に行けない子どもは、担任と会う際に不安を感じます。

会ったときに「今はゆっくり休もうか」と伝えれば、先生は誰も責める気がないんだとわかり、安心できます。とは言え、その言葉があまりにも普段の先生のキャラクターとかけ離れていたらどうでしょう。

今はそう言っているけど、そのうち叱られるのではないか。
無理に登校を約束させられるのではないか。

そう思ってしまいます。つまり普段からの先生のキャラクターが大切だということです。

「そんなことを言っても、私は生徒に対して厳しいキャラクターなので、今さら変えられません」と言う人もいるかもしれません。そうであれば厳しいままで良いのです。
ただし、「厳しいけど困っているときは親身になってくれるキャラクター」に更新していかなくてはなりません。

保健室によく行く子の中には、保健室の先生の顔を一目見て教室に行く場合もあります。ほっと一息ついて安心を得ているのです。まるで水の中にもぐっている人が水面に顔を出して息継ぎしているかのようです。そんな子に対して、「具合が悪くないのに保健室に行くな」といった対応をすると、不登校は増えていくということを知ってください。

不登校予防に必要なこと

ここまでくると不登校予防に何が必要かということが見えてきます。
教室に北風が吹き荒れているのなら、それを止めましょう。

そして子ども一人ひとりの不安に対して敏感になり、SOSをキャッチすることです。不安の対象には、クラスの人の目や先生の目も入ってきます。つねに友人や先生の厳しい言葉が飛び交う中では、安心することが出来ません。

安心は、のびのびとした行動を生みます。行動は自信を生みます。この3つが循環するときに居場所を実感することが出来ます。

不登校予防に必要なこと

トライアングル・アプローチ 「思い込み」を捨て、「誰も責めない」と決めよう 不登校予防に必要なこと


さて、目の前の子どもを見つめて、より良い手立てを考える必要があるのですが、それだけでは十分とは言えません。教師のあり方、やり方を再検討することが求められるのです。子どもを観察することと、学校自体を見直すことで、両者はフィットするのです。

これまでやっていたことは、令和の子どもにとってどうなのかというフィルターを通さなくてはなりません。

例えば、子どもの良いところを見つけて周囲に知らせることは、居場所をつくる上で大切なことです。しかし令和の子どもたちは学級の中で目立たないことを求めます。伝え方の工夫が必要です。
まずは、その子一人がいる場面でほめた上で、「周りにも知らせたいんだけど、こういう言い方はどうかな」と、あらかじめすり合わせることが求められます。その過程で、その子への理解が深まることもあるでしょう。

これまで当たり前のようにしていた指導の中には、時代適合性を失っているものもあります。
しかし、職員室の中だけで思考を練ると、それが見えなくなりがちです。これまでのやり方で子どもを変えようとしても限界があります。やり方そのもの、学校というシステムを見直す時期に来ています。不登校予防のためには、令和の子どもと昭和の学校というミスマッチを減らす努力が必要なのです。

トライアングル・アプローチ 「思い込み」を捨て、「誰も責めない」と決めよう 不登校予防に必要なこと 時代適合性


この連載は、原則として月に1回更新予定です。

<千葉孝司 プロフィール>
ちば・こうじ。1970年北海道生まれ。元・公立中学校教諭。ピンクシャツデーとかち発起人代表。いじめ防止や不登校対応に関する啓蒙活動に取り組み、カナダ発のいじめ防止運動ピンクシャツデーの普及にも努める。著書に「いじめと戦う!プロの対応術」(小学館)、「令和型不登校対応マップ」「WHYとHOWでよくわかる!いじめ 困ったときの指導法」「WHYとHOWでよくわかる!不登校 困ったときの対応術」(いずれも明治図書出版)等がある。

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