「指導と評価の一体化」とは?【知っておきたい教育用語】

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授業では子どもに身につけさせたい力を明確にして指導の目標を設定し、実現のための手立てを講じます。その結果、指導目標がどの程度実現したかを評価し、その状況に応じてまた指導を工夫します。つまり、指導→評価→指導→…を繰り返して、子どもの成長を促していきます。いま、子どもの発達状態に応じた指導を工夫することや、個別最適な学びおよび協働的な学びの実現が学校教育に求められています。そこで注目されているのが「指導と評価の一体化」です。

執筆/創価大学大学院教職研究科教授・渡辺秀貴

指導と評価の一体化とは

【指導と評価の一体化】
学習指導と学習評価を別々のものとして扱うのではなく、「指導した状況を評価し、その結果を次の指導に生かし、その成果を再度評価していく」というように、指導と評価が循環しているイメージで捉える考え方を指す。

学習指導は、目標→指導→評価→改善→新たな目標→…といった、いわゆるPDCAサイクルと同様の過程を経て、よりよいものになっていくと考えられています。現行の学習指導要領では、「知識・技能」、「思考力・判断力・表現力」、「主体的に学習に取り組む態度」の3つの資質・能力をバランスよく育成することの重要性を示しています。

各教科・領域の指導目標は、この3つの観点でそれぞれ設定されています。それらがどの程度実現されているかを評価するための拠り所として評価規準を設け、子どもの学習状況を3つの観点から把握し、十分な状態であるか、不足している状態でないかなどを教員が判断し、より高次な状態に導くために指導の工夫を講じます。

学習指導要領には、教科・領域ごとに目標と内容、指導の方法例などが「解説」として編集され、学校は、この「解説」を拠り所として指導を行うというしくみになっています。一方、評価規準の設定にあたっては、「『指導と評価の一体化』のための学習評価に関する参考資料」が国立教育政策研究所から教科・領域ごとに出されています。

学習評価の重要性

学習指導要領では学習評価の重要性を次のように示しています。

児童(生徒)のよい点や進歩の状況などを積極的に評価し、学習したことの意義や価値を実感できるようにすること。また、各教科(・科目)等の目標の実現に向けた学習状況を把握する観点から、単元や題材など内容や時間のまとまりを見通しながら評価の場面や方法を工夫して、学習の過程や成果を評価し、指導の改善や学習意欲の向上を図り、資質・能力の育成に生かすようにすること。

文部科学省(ウェブサイト)「4.教育課程の実施と学習評価

学校では日々の授業で子どもの学習状況を評価し、その結果を子どもの学習活動や教師自身の指導改善に生かしていくことが大切です。学校における教育活動は、学校組織として意図的・計画的に行い、その質の向上がそのまま子どものより望ましい成長へとつながります。

学校として評価活動を機能させること、つまり、「評価の結果によって次の指導を改善し、さらに新しい指導の成果を再度評価する」という、まさに「指導と評価の一体化」が日々実現している組織であることが求めれられているのです。

子どもは、評価によって学習の意義や、その結果として自己の成長を自覚することで次の学習意欲を高揚させます。指導と評価が一体的に行われることで、主体的・対話的で深い学びのある授業、教育活動が実現されるといえるのです。

学習評価の現状と課題

しかし、学校としての評価活動が必ずしもこのように、理想的に行われているとは言い切れません。「知識・技能」、「思考力・判断力・表現力」、「主体的に学習に取り組む態度」の3つの観点のうち、「知識・技能」に偏った評価が実施されていることへの指摘があります。つまり、何をどのくらい覚えているかを測ることが評価活動として重視されているということです。テストという名のもとに、「覚えた知識をどれだけ再生できるかを点数化すること」の教育的意味の薄さを、学校も教師もわかってはいながら変えられないジレンマを感じています。

先述したように、目標と指導、そして評価は一体化することに意味があるため、評価活動は「思考力・判断力・表現力」や「主体的に学習に取り組む態度」についても適切に行われる必要があります。しかし、思考力や表現力、まして、学びへの主体性を測ることは容易ではありません。知識再生型のテストでは、思考力や学びへの主体性を測ることはできないのです。

例えば、問題解決の過程から思考の様子を読み取り、学習の目標に照らして思考力や判断力がどのような状態かを判断するためには、評価者としての高いスキルが求められます。評価の手法としても、いわゆる、穴埋め方式や一問一答方式のテストでは十分な評価はできないでしょう。子ども一人一人の学習状況を把握し、子ども自身が成長の糧とできるような評価を行うためには相当の時間を要します。学年や教科の担当者間での合意形成も欠かせません。

評価改善の方向性

本来の評価活動の趣旨を実現するには、教師の評価観を変えていくことが不可欠です。「覚えた知識量を測ることが評価である」という考え方から、「評価は、その結果を伝えられた子ども自身が成長を自覚し、さらに、よさや可能性を伸ばしていこうという動機付けとなるものである」という考え方に正す必要があります。

100点満点のテストで「君は50点しか取れていない。したがって、5段階のうち『2』だ」という結果を示されて、「よし、5を取れるように頑張るぞ」と動き出せる人間がいるでしょうか。こうしたことは、ある基準が設定されていて、どこの段階に属しているかを評定された結果であり、子どもの学びの進捗状況、よさや可能性を評価しているものではないのです。

日本では長い間、こうした評定による学びの成果のフィードバックが重視され、現在もなお「受験学力」と呼ばれるものが評定を基本としており、子どもの学力を決定づけようとするものになっています。大学入試のあり方を変える動きも活性化しつつありますが、「受験学力」なるものが従来のままであるうちは、学校や教師の努力だけでは変わらないという声もあります。

学習指導要領等を通して、国としての学習評価の意義とその重要性が発信されているのですから、いまこそ、「指導と評価の一体化」を実効性のあるもの、つまり、予測困難な社会の作り手となる新しい価値を創造する力のある人材育成に貢献する評価活動を実践化したいものです。

中央教育審議会の「児童生徒学習評価の在り方について(報告)」によれば、学習指導要領の趣旨を実現するために、「学習評価の改善の基本的な方向性」を次のように示しています(一部抜粋して紹介します)。

①児童生徒の学習改善につながるものにしていくこと
②教師の指導改善につながるものにしていくこと
③これまで慣行として行われてきたことでも、必要性・妥当性が認められないものは見直していくこと

①と②は、評価の機能を明確にしているものであり、この視点から評価の実践を省察すると、真に子どもの成長に寄与しているか、教師としての役割を果たしているかどうかを判断できるでしょう。③は、通知票をはじめとした指導要録など、時代が大きく変わっているにも関わらず形式踏襲しているものについて、本質と実質を見極めて各学校等で更新することを促すものとして読み取れます。

「指導と評価の一体化」という視点から教育活動の在り方を見てみると、これからの学校づくりを進めるうえでの重要性を認識することができます。子どもの将来の幸せを見据えた、指導と評価の一体化を実践していく高い志を大切にしていきましょう。

▼参考資料
文部科学省(ウェブサイト)「4.教育課程の実施と学習評価
文部科学省(PDF)「児童生徒の学習評価の在り方について(報告)」中央教育審議会 初等中等教育分科会 教育課程部会、平成31年1月21日

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