逆向き設計で単元計画を作ると、授業が自転車操業ではなくなる 【全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す! 「高校につながる英・数・国」の授業づくり #16】

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全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す! 「高校につながる英・数・国」の授業づくり
【全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す! 「高校につながる英・数・国」の授業づくり #16】
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英語教育実施状況調査で、良好な成果を示している自治体の1つに福岡市があります。そこで、今回からは福岡市の中学校英語教育研究会で以前、研究部長も務め、同研究会の会長もその授業力を高く評価する、福岡市立下山門中学校の前田範幸教諭に、自分らしい単元・授業と、その単元・授業づくりの考え方について聞いていきます。

前田範幸教諭
福岡県福岡市立下山門中学校・前田範幸教諭

まず英語という教科でどんな力を育むのかを明確にすることが必要

初回となる今回は、まず前田教諭の単元・授業づくりの考え方を象徴する単元の具体について聞いていきたいと思います。単元づくりについて話を向けると、まず前田教諭はその前提について次のように説明してくれました。

「単元構成に取り組むに当たっては、学校教育目標とリンクさせて、まず英語という教科でどんな力を育むのかを明確にすることが必要です。そこから当該学年(今年度は3年生を担任)ではどんな力を育むのか、各学期末までにどんな力を付けるのかを整理し、各単元(Unit)でどんな力を付けるのかという目標を明確に示して年間計画を作成しています(資料1参照)。ちなみに、本校の学校教育目標は『校訓「英知・友愛・錬磨」の精神を身につけ、社会に貢献できる人間の育成』とされています。

【資料1】 年間計画・指導目標

年間計画・指導目標
学校教育目標に沿った英語の目標を最上部に置き、それを実現するための各学年の目標、それを実現するための各学期の目標、さらに各単元の目標が整理されている。

各単元では、それぞれゴール(単元終了時に付けたい力)を明確にしていますので、その力を付けるためには、(最終時の)前の時間には何をすればよいか、その前の時間には何をすればよいかと逆向きに考えて単元の指導と評価の計画を作成していくわけです(資料2参照)」

【資料2】 単元の指導計画

単元の指導計画-1
ゴールに向かって完全に逆向きに設計するため、最上部が最終時、その下が前の時間となっている。

では、各学年、各学期、各単元で育む力を明確にした上で、どのように単元構成をしているのでしょうか。前田教諭は自分自身の単元づくりを象徴するものとして、(先に単元の指導・評価計画を示した)3年生の単元、「AI Technology and Language」を例に上げ、次のように説明します。

「例えば、今回紹介をする単元『AI Technology and Language』の『思考・判断・表現』であれば、『(AI技術を活用した翻訳ソフトについて考えることを通して)外国語を学ぶ目的について、情報や表現を探し、抽出するなどして活用し、事実や考え、気持ちなどを整理して書くことができる』ということになります。しかし、それをいきなり書く(output)ことができるわけはありません。ですから、そのためにinputしていこうということで、この教材文を通して、賛成派、反対派の意見を読んで、情報を抽出して自分の考えを整理したり、考えを伝えるための表現も探したりしていきます。

その学習過程では、当然、自分の意見に必要な情報や表現をピックアップしていくことが必要です。ですから、『ああ、この考え方は共感できるな』『いや、これは違うだろう』と、生徒たちが書かれた意見を分類しながら読んでいけるよう、アイディアシートを用意しています(資料3参照)。このシートを使いながら、AI活用による翻訳ソフトに対する賛成意見(Part1)、反対意見(Part2)、賛成反対両面の意見(Part3)を読んでいって、それぞれ賛成できる部分、反対する部分を分類し、アイディアシートに記していくのです。それを記してストックさせながら、最終的に自分なりの考えを表現できるようにするというのが単元の大きな流れです。

このように逆向きに設計をしていくと、この時間につなげるために前時に何をするか、その前時には何をするかと考えられるため、必ず前の時間の最終時の次時の予告がスムーズに出てきます。このように単元計画を作る(あるいは頭の中で考えておく)と、各時間のつながりも明確になるため、その日その日の自転車操業の授業ではなくなるのです。この単元計画は、中嶋洋一先生(元関西外国語大学教授)から学ばせていただいたものです(詳しくお知りになりたい方は、中嶋先生のブログ “なかよう備忘録” をご参照ください)」

【資料3】 アイディアシート

アイディアシート

英語の苦手な生徒でも最終的に自分の考えを書ける

では、そのように逆向きに設計した単元を、実際の日々の授業ではどのように進めていくのでしょうか。前田教諭は次のように説明します(資料4)。

「この単元の最初の1/10時は、『そもそも(この単元に出てくる)AIって何なの?』という話から入っていきました。当然、生徒たちからも『AIって何に使われているんだろう?』という話が出てくるわけです。私が『いや、身近にたくさんあるよ』と言っても、最初は反応が今一つです。

そこで、『地元の花火大会で大量のドローンが飛んでいたけど、あれまさか1台ずつ1人の人が操作しているわけじゃないよね?』と言うと、『確かに』と子供たちも言い、そこから『AIのプログラムで動いているんだ』という話になります。それから身近なお掃除ロボットやネット検索エンジンの話になっていくのですが、そうやって身近にあることが分かると非常に興味をもつし、子供たちはAIについて考え出すわけです。

正直言って、この単元の内容の『AI技術と言語』は、単元計画を考えた当初は、『もしかしたら生徒たちには少しむずかしい内容かな』とも思いましたが、実際にやってみるとすごく食い付きがよかったですね。

そこから教材の内容に入り、AIを使った翻訳ソフトの活用に関する教材文の内容について、ドラマやアニメを通してざっくりとつかみ、生徒一人一人が賛成か反対かまず手を挙げてもらいます。もちろん、この考えは単元の最後に変わってもよいわけですが、その最初の考えをアイディアシートの最上部に記しておくのです。そして、『最初に出てきた登場人物のKotaは賛成だったかな、反対だったかな。詳しく読み深めていってみよう』と次時の学習につなげる予告をするのです。

そこから、翻訳ソフト活用に賛成の意見が書かれた1つ目のパート(2/10時)、翻訳ソフト反対の意見の2つ目のパート(4/10時)、両方の意見が書かれている3つ目のパート(6/10時)と読み進めて内容を理解しながら、それぞれに賛成か、反対かを考えていきます。そうした学習活動を通して、(もちろん指導事項などを押さえながら、3/10時や5/10時など)それぞれのパートでどちらの意見が書かれているか、自分はどう考えたかをアイディアシートに記していきます。ちなみに、単元最後の最終的な自分の意見は全員に英語で記してもらいますが、学習過程では生徒の実態も踏まえ、英語が苦手な子は書けなければ日本語で記しておいてもよいと話しています。

そのようにして学習を進めながら、単元の最後(9/10時)に自分の意見がどう変わっていったかを考えて、自身のアイディアシートも活用して最終的な意見をチェーンレターシートにまとめます。それも、端末を使ってタイプして送信して終わりにしてしまうのではなく、自分の手を使って書いた後、4人グループの別の3人に渡していき、コメントを書いて返してもらいます。

それもシンプルに自身の意見を書くのではなく、最初に渡された子には学んだことを生かして賛成意見を、2人目の子には反対意見を書いてくれるように指示しています。そして、3人目の子は賛成でも反対でも素直に自分の意見を書いてよいとしています。このように積み上げながら、修正をしていく過程を入れることで、英語の苦手な生徒でも最終的に自分の考えを書くことができました。

最終の10/10時は完全なオリジナル部分で、実際に翻訳アプリを使ってALTの先生とコミュニケーションを取ったり、アプリを使わずにコミュニケーションを取ったりすることを行ってみました。ちなみにその体験を通して、苦手な子でも『英語を使って直接話せたほうが楽しい』『英語を話せたほうが便利だ』『英語の学習をすることは必要だ』という意見が多数でした。ただし、必要に応じて間違えないように翻訳アプリを使ってもいいなという声も多く見られました」

【資料4】 単元「AI Technology and Language」の指導・評価計画

単元の指導計画-1
単元の指導計画-2
単元の指導計画-3

今回は、前田教諭の単元・授業づくりの考え方を象徴する「AI Technology and Language」の単元を紹介してもらいました。次回は、その背景となる前田教諭の単元・授業づくりの考え方や教育観について聞いていきます。

【全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す! 「高校につながる英・数・国」の授業づくり】次回は12月20日公開予定です。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之

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