栗山和大教育課程企画室長⑷|論点整理は先生方の日々の実践を深める上でも使ってほしい 【教育キーパーソンにインタビュー! 令和の教育課程「その課題と未来」#17】

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教育キーパーソンにインタビュー! 令和の教育課程「その課題と未来」
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これまで3回にわたり、今後の教育課程などの方向性を考える上で重要な資料となる、今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有識者検討会の論点整理について、文部科学省初等中等教育局教育課程課教育課程企画室の栗山和大室長に、概説していただきました。今回は、同論点整理の最終、6. 学習指導要領の趣旨の実現に向けた政策形成・展開についてお話しいただきます。

学習指導要領を使いやすくする上で「表形式」や「デジタル技術」の活用による工夫も重要

最終部となるでは、5までで議論された教育課程の在り方に加え、その「形式」の工夫も必要であり、さらに、中央教育審議会などでの議論などの改訂プロセスについても、教師や学校、教育委員会はもちろん、子供や保護者を含め、社会全体と共有されていくことが重要としています。こうしたことが、より質の高い教育の実現につながるといった視点での議論が整理されています。

「6. 学習指導要領の趣旨の実現に向けた政策形成・展開の⑴学習指導要領・解説等の形態では、現行の学習指導要領において、『用語が多義的に解釈され結果的に誤解を招くといった事例が見受けられる』、『用語の解説を設けるなど、用語間の関係や関連性など全体の構造を分かりやすくするにはどうすればよいか検討すべき』と指摘しています。

分かりやすく、活用しやすい学習指導要領を目指すには、第2回でご紹介した中核的な概念などによる構造化などに加え、用語の在り方にもていねいな目配せをすべきという指摘と受け止めています。

続けて、『学習指導要領及び同解説の形態の工夫』について、『他国でのカリキュラム・スタンダードの好事例を踏まえ、図表の形式を活用して示すことや、カリキュラム文書やその解説等を一体的に確認できるようデジタル技術を活用することなど…を検討すべき』とあります。

前々回、他国のカリキュラム改革の取組について若干ご紹介しましたが、例えば、カナダのブリティッシュ・コロンビア州や韓国では、表形式を活用して俯瞰しやすくしつつ、中核的な概念などによる構造化が行われています。このような事例も参考にしつつ、我が国の学校現場の先生方にとって学習指導要領を活用しやすくするにはどうすべきなのか、工夫を考えてほしい、という指摘と受け止めています(資料参照)。

また、デジタル技術の活用について、現行の学習指導要領や解説は、基本的にそのままPDFの形式で文部科学省ホームページで閲覧するようになっていますが、同じ文部科学省の資料でも、例えば、「全国の学校における働き方改革事例集」では、関係する部分にリンクが張られていたり、関係する動画へのQRコードも掲載されていたり、とても見やすく、使いやすいものになっています。こうした事例も参考に、学習指導要領や解説ではどのような工夫ができるのか考えて欲しい、ということと受け止めています」

【資料】ビッグアイデアで整理されたカリキュラム・スタンダードの例

資料
カナダのブリティッシュ・コロンビア州や韓国の事例。石井英真委員(京都大学)の発表資料で分かりやすく整理されたものを掲載。元となる国立教育政策研究所のより詳細な資料「諸外国の教育課程の動向」は下記、URLよりご覧ください。

https://www.mext.go.jp/content/231024-mxt_kyoiku01-000032399_02.pdf

改訂プロセス自体を通じて教師や学校、教育委員会はもちろん、保護者なども巻き込むことが必要

⑵学習指導要領の改訂プロセス、学校や教育委員会との共有・浸透の在り方では、まず『文部科学省⇒都道府県教育委員会⇒市町村教育委員会⇒学校という固定的な経路での情報伝達や、指導資料を中心とした情報発信のみでは学習指導要領の趣旨やねらいが必ずしも十分に伝わらないのではないか』と指摘し、趣旨やねらいを理解していただくための方法の工夫が求められています。

各都道府県や市区町村の教育委員会を通じた情報発信は、各自治体の創意工夫を引き出す上でも、引き続きその重要性は変わりませんが、文部科学省自身が広く先生方や社会全体に情報発信したり、民間の主体とも連携して様々なルートで情報発信に努めたりすることが重要という指摘と受け止めています。

また、第1回の冒頭でもご説明した通り、『中央教育審議会等における改訂の審議の最中においても、資料を学校や教育委員会にとって徹底的に分かりやすいものとしたり、審議状況をウェブサイト・動画等で積極的に発信したりするなど…浸透を図っていくことが重要』と指摘しています。

国の施策については、一般的には、審議会での議論を経た答申が示された後に本格的に周知が図られるという在り方が基本と思いますが、ここでは『審議の最中においても』発信を行っていくことが強調されており、『改訂プロセス自体を通じて子供や保護者等を含む多くの関係者を巻き込み、学校や教育委員会と趣旨や内容を共有しつつ』浸透を図ることが必要だとしています。

こうした点は、中央教育審議会の事務局である我々、文部科学省職員の努力にもかかっていますから、身が引き締まる思いです。

さらに、学習指導要領の『改訂後においても…趣旨の共有・浸透の方法にどのような工夫が可能か検討する必要』があるとし、例として、『教師一人一人が自らの課題に引きつけて当事者意識を持って理解できるよう、より対話的な関係の中で趣旨を伝えることができるような機会』を設けることを挙げています。 

先生方の日々の授業づくりを通じ、より質の高い、深い学びを実現するためには、学習指導要領の在り方だけではなく、改訂のプロセスも含めて、学校の先生方、教育委員会の指導主事の方々への共有や浸透の方法も一層の工夫が必要であるということと受け止めています。

視点を少し変えれば、こうしたことが文部科学省に求められるのは、教師という存在が、絶えず研究と修養が求められる学びの高度専門職であるからこそですが、そのような教師の在り方を持続的に実現するためには、勤務環境整備も極めて重要です。本論点整理においても、『学校における働き方改革の更なる加速化、学校の指導・運営体制の充実、教師の処遇改善を一体的・総合的に推進することが不可欠』とされています。

教育課程等の在り方について、初等中等教育行政システム全体の中で、こうした勤務環境整備の動きと整合性をもって考えていかなければならないことは、言うまでもないことで、前回ご紹介した『教育課程の実施に伴う負担への指摘に真摯に向き合う必要性』の関係部分について、改めてご覧いただければと思います。

最後に、⑶社会的ニーズとの整合性では、『新たな社会で求められる資質・能力やそれを育成する学びの在り方、それに対する支援について、学校関係者だけでなく、幅広く社会的合意を調達していくことが重要』と指摘しています。

現行の学習指導要領において、よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創るという目標を学校と社会とが共有することをはじめ、『社会に開かれた教育課程』が重要な理念となっていますが、現状、その具現化は道半ばでもあります。

そうした中、今後の教育課程などについて、その理念や趣旨が理解され、先生方が授業づくりなどを通じて具現化できるようにするためには、保護者や地域住民はもちろんのこと、産業界を含め広く社会全体の理解も得て、様々な形で応援いただけるよう、決して内向きにならず、そのための努力をしなければならないと思います。

そして、この有識者検討会の論点整理は、『教育課程の改善の検討を行っていく際の基礎的な資料として活用』するものですが、論点整理を読むことで、間違いなく現行の学習指導要領の理解が深まりますし、そのことは、先生方の日々の実践をさらに深める上でも、大いに役立ちます。そうした意味からも、ぜひ多くの先生方に論点整理を手に取っていただき、お読みいただきたいと考えています。

今回、貴重な機会をいただき、微力ながら私からいろいろご説明させていただきましたが、私が所属する教育課程課をはじめ文部科学省の関係部署には、現実や実態を踏まえつつも、今後の学校での学びをより質の高い、豊かなものとすることを通じ、子供たち、学校の先生方、教育委員会の方々、そして社会全体のお役に立ちたいと心の底から思っている、熱い思いをもつ職員が多く在籍しています。

これから、関係職員一同、子供たちや先生方が創るこれからの学びに貢献できるよう、もてる力の限り努力してまいりますので、多くの関係者の皆様とともに進んでいければと思っています」

今回、栗山室長に概説していただいた今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有識者検討会の論点整理は、本文も脚注なども可能な限りコンパクトに整理し、本文自体の量を実質的にA4判10数ページに抑えてあることも特徴の一つです。ごく短時間で読むことができるため、ぜひ多くの先生に直接読んでいただければと思います。

今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有識者検討会 論点整理

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之

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