栗山和大教育課程企画室長⑵|授業改善や教師の力量形成に直結する、理解しやすい学習指導要領に 【教育キーパーソンにインタビュー! 令和の教育課程「その課題と未来」#15】
前回から、今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有識者検討会の論点整理について、文部科学省事務局担当者である初等中等教育局教育課程課教育課程企画室の栗山和大室長に概説をしていただいています。今回は、前回の続きとなる論点整理の3について、話していただきます。
目次
生成AIの発展なども踏まえ、「深い意味理解」「学ぶ意味や社会とのつながり」が一層重要に
栗山室長は、3は各教科等の目標・内容、方法、評価について、2での資質・能力などに関する内容を踏まえつつ、さらに具体を指摘しているとしながら次のように概説します。
「3の⑴資質・能力の育成に向けた効果的な目標・内容の構成方法では、まず、『既存の情報から大量のアウトプットを出すことが得意な生成AIの出現なども踏まえ、単なる個別知識の集積ではない深い意味理解を促すことや、学ぶ意味や社会とのつながりの更なる明確化が求められる』と指摘しています。現在の生成AIは、その発展が著しい一方で、人間とは異なり、概念や意味を理解できるものではないという識者の意見もある中、これからの学びの在り方を考える上で非常に重要な指摘だと思います。
そして、全ての子供たちの学びにとって、『深い意味理解を促す』『学ぶ意味や社会とのつながりの更なる明確化』が一層重要となることからも、学習指導要領は、『平易かつ端的で、学年を超えた教科の系統性や単元の本質的な問い・探究課題などをイメージしやすい』ものであるべきと指摘しています。このような意味において、『日々の授業づくりや授業改善、教師の力量形成に直結する理解しやすい』学習指導要領にしていくということが論点整理で指摘されているのです。
こうしたことを踏まえ、『各教科等の本質的な内容についての深い理解を伴う資質・能力の育成を前提としつつ、子供たちが個性・特性を活かして多様な学び方ができるようなものとしていく必要性』、すなわち、すでに述べたような意味での『深い理解を伴う資質・能力の育成』と、『子供たちが個性・特性を活かして多様な学び方ができる』ことは、両者をよりよく実現するためにこそ両立させるべきものだ、という指摘になっていると思います。
学校を卒業し、入試が終わった後にも残るような中核的な概念などを中心に、より分かりやすく、使いやすく
では、『日々の授業づくりや授業改善、教師の力量形成に直結する理解しやすい』、『各教科等の本質的な内容についての深い理解を伴う資質・能力の育成』を一層可能とするような在り方のために、何が必要なのか。そのような文脈の中で、『各教科等における目標・内容を中核的な概念や方略を中心にして分かりやすく一層構造化することについて、その意義や具体的方法を検討するべき』との指摘がなされています。
この点について詳しいものとして、第12回の有識者検討会での石井英真委員提出資料では、『各教科等における重要な中核的な概念や方略』について、『永続的な理解等、入試等のあと、断片的な知識・技能が一定程度失われても残るもの』とし、『“ビッグアイデア” を中心にして、各教科の目標・内容を大ぐくりにして構造化し、メタな目標に重点化する』とされています。(詳細は、以下、石井委員の資料をご覧ください)
(https://www.mext.go.jp/content/20240610-mxt_kyoiku01-000036442_02.pdf)
また、同資料には、『小・中・高や各教科のそれぞれの課題の違いに応じて対応を考える必要性。例えば、内容知優先の教科は概念ベース(ビッグアイデア)で、方法知優先の教科は方略ベース(プロセス・スタンダード)で、メタな大きな内容や本質的な問いを指し示すようにするなど』ともされており、同趣旨を論点整理でも指摘しています(資料1参照)。
【資料1】中核的な概念などによるさらなる構造化(石井委員提出資料より抜粋)
論点整理が言っていることは、中核的な概念などというのは、学校を卒業したり、入試が終わったりした後、断片的な知識が一定程度失われた後にも残るようなもので、これを現在の学習指導要領から取り出し、中心にして構造化を図ることで、より分かりやすく、使いやすくできないかどうか、その意義や具体的な方法を考えてほしい、ということと理解しています。
例えば、歴史で鎌倉幕府について学ぶとき、何年に幕府が成立したとか、執権だとか個別の仕組みなども大事なのですが、『鎌倉幕府の下での政治を天皇や貴族の政治と比べたとき、古代から中世への転換として、どのような政治、経済、文化的な特徴があるのか?』といった問いに答えられるよう、知識を習得し、活用し、探究する学習プロセスをイメージしていただくと、中核的な概念などとの重なりを少しイメージできるかもしれません。
なお、第8回の有識者検討会での発表でも紹介がありましたが、中核的な概念などによる構造化については、諸外国でも取組が進められているところです(資料2参照)。
【資料2】諸外国の教育課程における学習内容の示し方
https://www.mext.go.jp/content/231024-mxt_kyoiku01-000032399_02.pdf
また、こうした構造化の検討に併せて、学習指導要領について、『図表の形式を活用して示す』、『カリキュラム文書やその解説等を一体的に確認できるようデジタル技術を活用する』といったことも指摘しています。すでに『日々の授業づくりや授業改善、教師の力量形成に直結する理解しやすい』学習指導要領にしていく、との指摘に触れましたが、そのためにも、こうした工夫の在り方を検討すべきという指摘だと理解しています。
このほか、教育方法の取扱いについては、『“主体的・対話的で深い学び” の基本的な考え方は維持』としつつ、『個々の指導方法に関する制約や留意点を増やすことは避け、教師に様々な裁量が生まれるよう』工夫すべきと指摘しています。
3の⑵学習評価の現状と育成すべき資質・能力を踏まえた今後の対応では、現行の観点別学習状況の評価は、教師の授業改善に重要な役割を果たすものである一方、子供の学習の改善に結び付きにくいなどの課題も指摘されており、教師の力量形成・授業改善に効果的で、子供の学習改善に資する学習評価の在り方を検討すべき旨が指摘されています。
具体には、『学習評価の観点や頻度の在り方、また形成的評価と総括的評価の効果的な使い分けの在り方』について指摘するとともに、『特に “主体的に学習に取り組む態度” の観点については、…子供がより主体性を発揮できるようにする観点から検討すべき』としています。
ここまでが主に、現行学習指導要領の枠組みを踏まえて課題を捉えつつ、学習指導要領をさらに深め、より良いものにしていくに当たっての論点について議論した内容ということと思います」
※
この後、4以降は「もちろん、学習指導要領を『さらに深め、より良いものにしていく』という方向感ではありつつも、『柔軟な教育課程』や『教育課程の実施に伴う負担への指摘』といった言葉に見られるように、近年の教育課題を正面から受け止めて、どうよりよく変えていくかという色彩が一層強い部分と言えるかもしれない」ということですので、次回、改めて栗山室長にお話を伺います。
執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之